知能化自動車による制御介入の受容性に関する研究
高齢ドライバの制御介入に対する受容性評価の研究
高齢化の進行に伴って,高齢ドライバが原因となって発生する交通事故が社会問題の一つとなっている.近年の交通事故防止技術の進歩や法改正等によって,日本の交通事故件数は年々減少しているものの,高齢ドライバが関与する交通事故は依然として多い状況にある.既存の交通事故防止技術としてドライバに事故が起きる前に危険を通知する技術が実用化されているが,知覚・認識・判断・操作の各能力の低下が起きている高齢ドライバについては,この様な技術が効果を発揮しない場合がある事が指摘されている.そのため,高齢ドライバの運転技能に寄らずに交通事故を防止するために,自動車自体を知能化し,自動車がドライバの運転に介入して車両制御を行う技術の研究を行っている.
近年の自動運転技術の進展により,自動車が自律的に走行環境を認識し,必要に応じて車両を制御する技術自体は開発されている.しかし,本研究が目指す姿は単なる完全自動運転ではなく,ドライバの主体性を維持したまま必要に応じて制御介入を実行するシステムとなる.そのため,望ましい制御介入の在り方を議論する必要があるが,この様な点に関して過去にあまり知見が存在していなかった.そのため,本研究ではまずはドライビングシミュレータにシンプルな制御介入システムを再現し,高齢ドライバが参加する評価実験を実施した.全体的な傾向としては,制動に関する制御介入は比較的受容性の評価が良かったものの,操舵に関する制御介入については低い評価が目立つものとなっていた.受容性の低い評価の原因として,自動車側がどの様な意図でどの様な制御を実現しようとしているかが不明であるという事が指摘された.この様な課題を解決するためには,自動車側の判断基準の説明や制御介入に関する情報を共有するHMIの開発が有効と考えられる.また,操舵に関してはハプティックガイダンスによる人間機械協調系の構築も有用と考えられる.
関連論文
Takuma Ito, Tatsuya Shino, and Minoru Kamata, "Initial Investigation of Elderly Drivers' Acceptability for Proactive Intervention by Intelligent Vehicle", International Journal of Intelligent Transportation Systems Research, 16(1), pp.51-65, doi:10.1007/s13177-017-0137-3.
Takuma Ito, Hiroki Takei, and Minoru Kamata, "Reaction Tendencies of Elderly Drivers to Various Target Paths of Proactive Steering Intervention System in Human-Machine Shared Framework", International Journal of Automotive Engineering, 10(1), pp.6-13, doi: 10.20485/jsaeijae.10.1_6.
制御介入に対する受容性を改善するための情報共有HMIの研究
自動運転や高度運転支援システムの様に,知能化自動車がドライバの意思とは独立して車両の操舵や制動の制御に介入してくるシステムが登場してきている.この様な場合に,ドライバがその意図や将来の動作を理解出来ていない場合には,受容性の低下が発生し,システムの利用を中止してしまう事が懸念される.そのため,ドライバに制御介入システムの意図や将来の動作に関する情報を共有する仕組みが必要となる.そこで,我々はHUDを想定した情報共有システムの研究に取り組んだ.
本研究では高齢ドライバの利用を想定しているため,HUDで情報を共有する際に,情報を詰め込みすぎるとユーザが情報過多に陥り,かえって混乱する事が懸念される.一方で,情報を減らしすぎた場合には本来の目的を達成出来ず,制御介入システムに対する受容性の低下が解消できない場合が存在する.そのため本研究では,時間軸にそって情報提示コンテンツをうまく組み合わせる事で,少数のコンテンツ提示でユーザに十分な情報を伝える事に取り組んだ.具体的には,研究初期段階ではドライビングシミュレータを活用して情報コンテンツを構成する基礎要素の個別評価と組み合わせた場合の評価を行った.また,シミュレータ実験で得られた指針を基に,制御介入が可能な実験車両に試作システムを搭載し,テストコースでの評価を行った.その結果,情報共有システムによって制御介入に対する受容性を改善できる事を確認した.
予見的な制動介入に関する情報共有コンテンツの提案(シミュレータ実験)
予見的な操舵介入に関する情報共有コンテンツの提案(シミュレータ実験)
関連論文
Takuma Ito, Tatsuya Shino, and Minoru Kamata, "Information Sharing to Improve Understanding of Proactive Braking Intervention for Elderly Drivers", International Journal of Intelligent Transportation Systems Research, 16(3), pp. 173-186, doi: 10.1007/s13177-017-0147-1.
Takuma Ito, Tatsuya Shino, and Minoru Kamata, "Information Sharing to Improve Understanding of Proactive Steering Intervention for Elderly Drivers", International Journal of Intelligent Transportation Systems Research, 17(1), pp. 18-31, doi: 10.1007/s13177-018-0153-y.
Takuma Ito, Tatsuya Shino, and Minoru Kamata, "Effectiveness of Information Sharing to Improve Elderly Drivers' Acceptability for Proactive Intervention Systems", International Journal of Automotive Engineering , 10(1), pp. 55-64, doi: 10.20485/jsaeijae.10.1_55.
Takuma Ito, Masatsugu Soya, Satoshi Nakamura, So Saito, Nobuyuki Uchida, and Minoru Kamata, "Acceptability of a Proactive Braking Intervention System by Elderly Drivers Using an Actual Vehicle", International Journal of Automotive Engineering, 9(4), pp. 186-194, doi: 10.20485/jsaeijae.9.4_186.