自動車走行環境認識研究

その1

生活道路での走路境界検出による横方向自己位置推定手法

 近年,自動車に関する様々な社会問題の解決策として自動運転技術の利用が注目されている.自動運転技術の実現にはデジタルマップの利用が不可欠なため,デジタルマップ上での車両の位置を推定する”自己位置推定”は重要な要素技術である.しかし,既存の自己位置推定手法は高機能なセンサや高精細な三次元地図情報が必要としており,一般車への適用を考えるとコストの面で課題を有する.そこで,先行研究において,比較的簡素なセンサ構成で自己位置推定を行う手法が提案された.この手法は,区画線や道路表示をカメラで認識することで自己位置推定を実現したが,区間線が存在しない生活道路のような環境における自己位置推定は不可能だった.以上の背景より,本研究では生活道路に存在する走路境界を検出し,横方向の自己位置推定を行う手法の開発に取り組んだ.ただし,横方向の自己位置推定とは,車両進行方向に対して左右方向の位置を推定する技術である.

 開発における課題は大きく2つ存在した.1つ目は,生活道路に存在する多様な走路境界の検出である.検出が難しい理由は,生活道路の走路境界は住宅地の壁面や駐車場の端など多様であり,既存の手法ではそれらを網羅的に検出することができないためである.本研究ではこの課題を解決する手法として,道路表面の勾配変化に注目した走路境界検出手法を提案した.一見,勾配変化が存在しないように見える水平な駐車場と道路の境界部においても,道路に存在する水捌け用の勾配のために勾配変化が存在する.この道路表面の横断勾配や高さの変化を,LIDARと呼ばれるレーザセンサによって検出することで走路境界の網羅的な検出を可能にした.

 2つ目の課題は簡素なセンサで走路境界を決定することである.一般車への普及の観点から簡素なレーザセンサ(LIDAR)を利用したが,センサ周期あたりの情報量が少ないため,部分的な走路境界の検出しか行うことができなかった.しかし,横方向の自己位置推定のためには白線のように左右の線として走路境界を認識する必要がある.この課題を解決するため,過去の認識結果を走行軌跡に応じて座標変換し,蓄積する手法を構築した.この認識結果の蓄積によって,情報量の少ない簡素なセンサでも左右の走路境界線を検出し,横方向の自己位置推定を行うことが可能になった.

 本研究で開発した横方向自己位置推定手法は,データを取得した生活道路の99%以上の領域で自律走行に必要な精度を満たし,実用可能性を示した.今後は,本研究で対象外とした道路曲線区間を含めた多様な生活道路環境で運用可能なシステムに拡張することが必要である.生活道路における自動運転技術実用化に向けた課題は依然として数多く存在するが,の研究成果が自動運転技術普及に寄与することを期待している.

住宅街での白線のない走路境界の一例

左側:住宅の壁面等が走路境界となっている.このケースについては既存研究でも検出に取り組んだ例がある.

右側:住宅の壁面等の立体構造物が存在しない走路境界の例.こちらについては既存研究で取り組んだ例はない.

実験車両.車両前方に四層LIDARを取り付けている.車両上部に取り付ける全周型多層LIDARとは異なり,既存車両と親和性が良い.

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左側:車両前方に取り付けたLIDARの観測情報

右側:時系列の観測情報を基に走路境界と走路中央線を推定している様子

関連論文

Wataru furuse, Takuma Ito, kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata. “Lateral Localization via LIDAR-Based Road Boundary Extraction on Community Roads.” International Journal of Automotive Engineering, doi:10.20485/jsaeijae.11.3_116 .