北海道からケニア、

  そして柏の葉キャンパスへ?!

     紆余曲折を経て菌根菌の研究者

取材先:環境学研究系 自然環境学専攻 自然環境評価学分野 修士課程1年(取材時) 藤井恵理奈さん(以下、「」)

インタビュアー: 小林 柚子さん(基盤科学研究系 物質系専攻、竹谷研) (以下、「」)

研究というと、研究室に閉じこもってひたすら真理を追求する姿を思い浮かべている方はいませんか。でも、研究者の姿はとても多様です。今回は、北海道→ケニア→柏と、世界をダイナミックに動きながら、研究の道を突き進んでいる藤井さんのお話です。素晴らしい写真も出てきますよ。

【前編】JICA海外協力隊でケニアへ。災難の中で見たものは?

柚:研究内容を教えてください!

恵:菌根菌という、樹の根っこに共生している菌の研究をしています。

柚:菌根菌…菌が二回も出てくる。

恵:ちょっと珍しいですよね。実は、私が研究する外生菌根菌は、樹と共生する菌の中でも珍しいものなんです。多くの場合、樹には内生菌根菌という樹の根っこの表皮にある細胞に侵入する菌だけが付いているのですが、外生菌根菌というのは菌糸が根の外部を覆う菌なんです。これと共生する樹の種類は少なくて、珍しいんですよ。ちなみに、菌根菌に感染していると、より遠くから水分や栄養を取ってきてくれます。お礼に樹は光合成で作った炭水化物を菌根に与えているという共生関係なんです。

(菌根菌の写真。かわいらしい見た目!)

柚:「樹の根っこに付く菌」というだけで化学系の私には目新しいですが、その中でも珍しい菌を研究してるんですね。

恵:たしかになじみは薄いかもしれませんが、マツタケとかトリュフとか、あれは外生菌根菌なんですよ~

柚:そうなんだ!知らなかった。

恵:生きている樹にしか生えないから養殖が難しくて、高級なんだそうですよ。

柚:菌、たしかに身近な存在かも。(いや、マツタケやトリュフは身近じゃないけど…)詳しい研究内容よりに先に気になってしまうのは、なぜ菌根菌の研究をするに至ったのかです。もともと菌に興味があったんですか?

恵:そうではなくて、就職したり、JICA海外協力隊でケニアに行ったり…紆余曲折があって辿り着いた感じです。

柚:実は藤井さんが海外協力隊に行っていたと聞いて、じっくり話を聞いてみたいと思っていました!それが菌にどうつながるのか、気になります。

恵:小さい頃に興味があったのは野生動物でした。漠然とその保全に関わりたいという気持ちがあったのですが、進路を決めるとき、だからといって動物を学ぶのは違う気がするとか、就職のことも考えたりとかして、結局、北海道の畜産大学で農業を学びました。

柚:興味があったのは動物だけど、農業に行ったんですね。

恵:そうなんです。でも、だんだん植物に興味が移りました。森林セラピーにつながるような心理学寄りの研究や、副専攻の授業では国際協力の勉強の一環で途上国の農業について学びました。

柚:なるほど。農業と言っても結構社会的な側面から学んでたんですね。もしかして、その国際協力に興味がでて、JICAへ?

恵:いや、そこから一度農協に就職して、6年勤めてました。それを辞めて、JICA海外協力隊に参加したんです。

柚:長い間社会人をされていたんですね。6年ともなると、そこから腰を上げるのは結構覚悟が必要だったのでは…?

恵:そうですね。仕事にもだいぶ慣れてこなせるようになっていたのですが、もうすぐ30歳というところで、自分はこのままでいいのか?!と見つめなおしたんです。

柚:あ~わかる気がする。私も1年ちょっとですが働いてから進学していて、人生でやりたいことってこれだっけ?という疑問がむくむくと出てきちゃう感じわかる…。でもそのタイミングで、大学院に進学しよう!とはならなかったんですね。

恵:たしかに、その頃くらいから山に登るが好きで、樹とかきのこを観察して面白いなぁとは思っていました。ただ、大学院のハードルは高い気がしていました。

山登りのときの写真。めっちゃ本格的な登山!すごい景色。

柚:そうなんですね。私がいた環境では大学院進学率が高かったので、JICAで海外へ渡る方がハードル高い感覚です。

恵:もちろん、そっちも相当なハードルでしたけどね(笑)でも、高校の恩師が昔JICAでケニアに行ったという話を聞いたことがあったし、大学の先生からもJICAの話を聞いていて、漠然と「いつか行ってみたいなぁ」とは思ってたんです。会社を辞めるときは相当悩んで、今、恩師が働いているベトナムまで会いに行って背中を押してもらって、やっと決断しました。

柚:ベトナムまで!やっぱり行動力すごいです。JICAで行ったケニアでは、どんな活動をしていたんですか?

恵:現地の環境系NPOへ派遣され、サファリで環境教育を受けられる特典が付いた会員募集をしたり、ごみ拾いや学校や地域に植樹をしたりする活動をしていました。

(ケニアの街とキリン。驚きの光景!)

柚:ちょっと動物に関わる仕事…?あと植物もですね!藤井さんの興味に合ってたのかなと思いますが、ケニアでの活動は楽しかったですか?

恵:トータルでは、楽しかったですね!

柚:きついこともあったんですか?

恵:はい…まず、現地で空き巣に遭って。

柚:空き巣!海外でそれは怖すぎる!

恵:そうなんです。しかもそれがひと段落したあとは謎の高熱が続いたんです!なかなか薬を出してもらえなかったりしたのと、空き巣のこともあって段々現地の人を信用できなくなってしまった時期でした。

柚:災難つづきじゃないですか。それは日本に帰りたくなるかもしれない。

恵:そこでコロナがやってきたんですけど…

柚:あの時期に海外にいたんですね。海外では、アジア人というだけでつらい思いをした人もいたと聞きますが…

恵:はい。ひどいときは道端で子供に指をさされたりしました。でも、逆に私はコロナのときに、ケニアの人たちの温かさを感じました。

柚:どうしてですか?

恵:たしかに見た目で判断されてしまうこともあったんですが、「私はここに住んでる」と説明したらわかってくれたし、現地の知り合いの方がかばってくれて、ちゃんとわかってくれている感じがとても心強かったんです。

柚:なるほど~。世界全体の危機的な状況下で出てくるやさしさって本物ですね。

恵:結局、隊員全員緊急帰国という形で日本に戻ってきたのですが、たまにケニアに戻りたいなぁと思ったりもします。