研究内容

レーザ材料の光学特性評価

非線形光学効果を用いたレーザ光の波長変換は,レーザの動作波長域を拡大するためにいまや必須の技術となっている.所望の波長で直接動作するレーザが存在しない場合,波長変換を用いればその波長でのレーザ光を得ることができる.波長変換はレーザーの可能性を大きく広げる技術であり,高性能な波長変換デバイスの実現を目指した研究が精力的に行われている.その成否を握るのは,適切な波長変換材料の選択とデバイス化技術である.

このうち,波長変換材料を選択するうえで,高効率波長変換に不可欠の位相整合条件を決定する 屈折率と,変換効率を決定づける非線形光学定数は,物質固有の物理量であり,正確な値を求めることが デバイスの設計および評価にとって極めて重要である.本研究室では独自の手法も駆使しながら,様々な新規波長変換材料に対してこれら光学特性の精密測定を行っている.

(左図:屈折率精密測定装置,右図:第2高調波パワーの試料厚さ依存性測定データ)

高性能新規レーザの開発

固体レーザの分野では,励起用半導体レーザの高出力化にともない,小型・高出力・高効率・高ビーム品質を同時に満たすデバイスの開発が精力的に進められている.また,レーザ発振で直接得るのが困難な波長に対しては,非線形光学効果を用いた波長変換により,紫外から赤外までさまざまな波長を高効率で発生すべく研究が行われている.

従来よりも高性能なデバイスを開発するアプローチとしては,新たに創製された材料を用いることがまず考えられるが,望ましいすべての条件を満たした最適な材料が現れることは稀である.そこで,既存の材料に手を加えたり複数の材料を組み合わせたりすることで,高性能化を図ることも重要な手法となる.固体レーザや波長変換デバイスにおいても,単体のバルク結晶から複合構造を持つデバイスを作製することにより,パフォーマンスの格段の向上を実現することが可能である.

その際,複合構造の作製方法,すなわち,材料同士をいかにして貼り合わせるかは本質的な問題となる.なぜなら,複合構造を持つレーザデバイスの多くでは,接合界面をレーザ光が透過する必要があり,そこで散乱や吸収が起こると特性が大きく低下するからである.

本研究室では世界に先駆け,複合構造の作製に常温接合を用い,高出力複合構造レーザ,ウォークオフ補償高効率波長変換デバイス,擬似位相整合波長変換デバイスなど,従来にない様々な高性能レーザデバイスを実現している(下図).

(右上図:常温接合プロセス,右下図:常温接合装置)

レーザの新規応用分野開拓

レーザの医療応用

本研究室では現在,東京女子医科大学と共同で,水頭症治療用シャント内を流れる脳脊髄液流速計測システムの開発を行っている.

水頭症とは脳脊髄液(髄液)の生成・吸収・循環などの異常により頭蓋内の髄液量が過剰になり脳を圧迫して様々な症状を引き起こす病気である.水頭症の治療として,体内に細いチューブを挿入し,髄液を脳から胃などに流して脳圧を下げるというシャント術が行われているが,チューブ内を流れる髄液量をモニタする手段が存在せず,流量は医師が経験を頼りに調整しているのが現状である.

本研究室では,レーザ光を用いてチューブ内の髄液の流量を非接触かつ正確に測定するための手法を考案した.レーザ光の散乱体としてチューブ内に空気塊を挿入すると,空気塊は髄液と同じ速度で移動するため,レーザ光が髄液に当たるときと空気塊に当たるときとの反射率の違いを検出することで流速を求めることができる.

現在,臨床実験へ向けた測定システムの小型化を行っている.

(右上図:シャント内脳脊髄液流速測定系,右下図:測定データ)


レーザを用いたプラスチックごみ処理の検討

現在,日本のプラスチックごみのリサイクルは,単に燃やして熱エネルギーとして回収するサーマルリサイクルが5割以上を占める.本来のリサイクルであるマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルの割合を増やすためには,プラスチックごみの材質ごとに効率よく分類する必要がある.もし波長の異なる複数のレーザを用いて材質ごとに別々に裁断等の加工ができれば,分類作業の自動化によってリサイクル率の向上につながる可能性がある.そこで本研究では,プラスチックごみの透過スペクトルを測定することにより,ごみの種類ごとに特徴的な吸収波長を明らかにし,加工するのに適切なレーザの組み合わせについて検討している.

これまで食品の包装やペットボトル,トレー,フィルム,各種容器等のプラスチック500種類以上について赤外波長域での測定を行うとともに,透明なもの50種類については可視光領域でも測定を行った.ここではその結果をデータベースとして公開する.

Data_Plastic_Wastes.xlsx