研究テーマ2021年度

研究テーマの特徴

①小容積衝撃波管を用いた衝撃波閉じ込め現象に関する研究:AM1松川

 本研究で取り扱う「衝撃波」は音速を超えた速度をもつ現象です.衝撃波は流体中を伝播するに伴い,急激な圧力・温度・密度の変化を発生させるなど高エネルギーな現象として知られています.衝撃波の有するエネルギーは非常に魅力的であり,広い分野で盛んに研究が行われています.

 例えば,航空宇宙分野においては衝撃波を伴い激しく燃焼する現象を利用したデトネーションエンジン,医学分野においては衝撃波による体内結石の破砕技術,材料分野では,薄膜生成法であるDPLA法などがあげられます.このように様々な分野で応用される衝撃波の研究を進めることは社会への大きな貢献といえます.

 私たちは,高エネルギーな衝撃波を閉じ込めてそのエネルギーを集中させるとさらに大きなエネルギーを得ることが出来るのではないかと考えました.これを衝撃波の閉じ込め現象といいます.しかし,この現象に関する研究は極めて少ないため,現象の発生条件がわかっていません.そこで本研究では,衝撃波管を応用することで衝撃波の閉じ込めを人為的に発生させ,現象に伴う影響や現象そのものの原理を明らかにしようとしています.衝撃波の閉じ込め現象を解明し,制御できるようなれば,今後の技術発展の支えとなる革新的エネルギーとなるかもしれません.

②小容積衝撃波管を用いた衝撃波閉じ込め現象に関する研究:5M出山

衝撃波は超音速現象に誘起される圧力波です.これは流体中を伝播すると,通過した領域の温度,圧力,密度を急激に上昇させます.この性質を用いて航空宇宙産業を筆頭に医療や生物の分野でも利用されています.そこで,私たちは衝撃波がもつエネルギーに着目し,このエネルギーを閉じ込めることでさらに大きなエネルギーを得られるのではないかと考えました.この衝撃波閉じ込めが制御可能となれば,核融合の着火効率向上や新材料の創出に応用できる可能性を秘めています.

③楕円体空洞から放出された衝撃波誘起渦輪の循環が非定常超音速ジェットに与える影響:AM1坊村

渦輪とは中心から外側に向かって巻き上がりが生じているリング状の流れのことをいいます.一般的によく知られている渦輪は左上の画像のような,低速な流れの中で発生するものがほとんどです.これに対し,本研究では超音速の流れの中で発生する渦輪に注目します.

本研究ではこれまで,超音速の流れの中で発生する渦輪およびジェットの干渉について研究してきました.渦輪およびジェットの干渉は,左下に示す装置によって再現可能となります.この装置では,衝撃波によって生成される渦輪(衝撃波誘起渦輪)およびジェットの干渉を確認できます.さらにこの干渉を解析した結果,ジェットが衝撃波誘起渦輪との干渉によって加速されることが明らかになりました.

しかし,ジェットを加速させる要因である衝撃波誘起渦輪の定量的(数値的)な評価がされていないため,ジェットの速度と衝撃波誘起渦輪との間の数値的な関係を調べることができず,関係式なども立てることもできていません.

そこで,衝撃波誘起渦輪の定量的な評価に「循環」という指標を用います.循環とは,渦輪の規模,台風でわかりやすく例えると,回転の速さ(渦度)と台風そのものの大きさ(面積)をかけた値を示すため,渦輪の定量的な評価に適しています.ジェットの速度と衝撃波誘起渦輪との間の関係を解明できれば,渦輪を調整することでジェットを任意のタイミングで欲しい速度まで加速(ジェット速度を制御)できるようになり,新技術開発のための基礎となることに期待できます.

④対向する非定常超音速噴流および衝撃波の衝突過程に関する研究:5M宇野

 ナノ粒子の特性には,水分解光触媒や太陽電池などへの様々な応用が期待されている.DPLA(Double Pulsed Laser Ablation)法は,ターゲット材料の溶融により噴出する高温の蒸気群(プルーム)を混合させ,ナノ粒子からなるナノ結晶薄膜を生成する方法である.

 DPLA法においてナノ結晶薄膜を生成する手順は以下の通りである.①②③対面して設置した2種類のターゲット材料にレーザーを照射すると,材料表面が瞬時に溶融する.溶融によりプルームと呼ばれる高温の蒸気群が噴出する.超音速で進展するプルームにより,プルームの前方に衝撃波が形成される.④対向して進展したプルームおよび衝撃波は互いに衝突する.その後プルーム同士が混合する.混合したプルームは次第に冷却され,ナノ粒子となる.⑤⑥混合したプルームが堆積基板に付着することで,堆積基板上にナノ結晶薄膜を生成する.

 プルームおよび衝撃波の衝突挙動は,実験条件により変化する.また,衝撃波の挙動によりプルームの状態(温度,密度,圧力など)が変化する.そのためナノ粒子構造が変化すると考えられる.以上より,プルームと衝撃波の衝突過程を解明することによるナノ粒子構造の作り分けが期待されている.しかし,プルームと衝撃波の衝突過程が解明されておらず,ナノ粒子構造の作り分けに必要な条件が明らかでない.そこで流体力学の観点から数値計算を行い,DPLA法におけるプルームと衝撃波の衝突過程を解明する.

 本研究はSDGsの「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に該当する.本研究の最終的な目標は,ナノ粒子構造を作り分けることである.ナノ粒子構造の1つに,コアシェル構造がある.これは,ある粒子(コア)を別の粒子(シェル)で覆う構造を持つ粒子のことである.コアシェル粒子として,Ni/TiO2水分解光触媒が挙げられる.粉末状の水分解光触媒を水中に添加し太陽光を照射すると,水の還元により水素が生成される.この方法は,化石燃料に頼らないクリーンな水素エネルギー生成方法として注目を集めている.

 本研究テーマは,甲南大学との共同研究を行っています.また,本研究の一部はJSPS科研費19K03815の助成を受けています.

⑤生体内仮想光ファイバの開発-レーザ誘起水中衝撃波の集束挙動-:5M冨岡

 近年,光はバイオ・医療に利用されています.その例として,光遺伝子学(Optogenetics)や光線力学療法(Photodynamic Therapy),蛍光イメージング(Imaging)が挙げられます.光線力学療法は,腫瘍に滞留する光感受性物質を投与した後,腫瘍組織にレーザ光を照射することにより光化学反応を引き起こし,腫瘍組織を変性壊死させる療法です.蛍光イメージングは,細胞や身体の組織などを蛍光で標識し,細胞を生きたままリアルタイムで観察できる技術です.光遺伝子学は,遺伝子導入によって光応答たんぱく質を発現させ,細胞を光制御できるようにする学問です.このように,光はバイオ・医療に利用されています.

 しかし,問題は光吸収と光散乱の影響により,生体の深い領域まで光が届かないことです.したがって,生体内に光を届けるシステムを作製する必要があります.

 これに対し,我々は衝撃波集束現象を用いてアプローチします.衝撃波集束箇所は高密度領域になります.この密度上昇に伴い,屈折率も上昇し,領域内外で屈折率勾配が生まれます.この屈折率勾配を利用して光を届けます.この研究が脳科学および脳医療の発展に寄与し,従来の技術では救えなかった命を守ることができれば,技術者冥利に尽きます.

⑥茎熱収支法に用いる温度測定位置の改善を目的とした3次元数値計算:AM1榊

現在日本の農業は,深刻な労働者不足が問題となっています.植物のデータを活用することで新規就農者のノウハウ不足を解消できることが証明されているものの,実際に植物のデータはほとんど活用されていません.

樹液流量のデータは灌漑における水量管理等に用いることができます.樹液流量の測定手法である茎熱収支法は,植物を傷つけることなく流量を測定できますが,現状のままでは測定精度が不十分です.

そこで本研究は,茎熱収支法を用いた樹液流量測定装置の温度分布を調べるために数値計算を行っています.実験では測定が難しい装置内部の温度なども数値計算を用いれば知ることができるため,工学研究には欠かせない要素となっています.

本研究はSDGsの目標第2番,12番および15番の3つに貢献します.

⑦赤外線サーモグラフィを用いた茎熱収支法の研究 :5M井村

植物の樹液流量は植物の育成管理の指標として有用であることが知られています.例えば,樹液流量を測定することで水やりの量および頻度を管理することができます.樹液流量の測定手法として茎熱収支法があげられます.茎熱収支法はまず,茎にヒータを巻きつけて加熱し茎の表面温度を測定します.加熱した茎の表面温度から熱収支を求め樹液流量を算出します.そのため,茎熱収支法は茎を傷つけることなく測定できる手法として着目されています.

しかし,茎にとりつける温度測定センサの位置が明らかになっていません.そこで,我々は植物を模擬した実験装置および赤外線サーモグラフィを用いて再現性の高い実験装置を行い,温度測定センサの取り付け位置に及ぼす流量の変化を明らかにすることを目的とします.

⑧スリーブはんだ付けにおける不良はんだ発生条件の解明:AM1中道

脱炭素化に伴い,安全性を必要とする自動運転や電気自動車が注目されています.これらの車載機器には,高品質かつ信頼性の高いはんだ付けが必要とされています.

信頼性の高いはんだ付けとして新たにスリーブはんだ付けが開発されました.スリーブはんだ付けとは,カットされたはんだ片を加熱されたスリーブと呼ばれる筒内で溶融し,ピンおよび基板を接合する方法です.特徴して,はんだの供給量や加熱時間の調整が容易です.また,閉鎖空間内で安定したはんだ付けを行えるため,信頼性の高いはんだ付けが可能です.

しかし,このスリーブはんだ付けにも問題点があります.スリーブはんだ付けは,開発されて間もないため不良はんだの発生条件がわかっていません.

そこで,本研究では赤外線カメラを用いて熱の影響を定量的に明らかにし,不良はんだの発生条件を解明する.

⑨押出金型形状最適化のための数値解析【共同研究withアスカ工業】:AM2池山

福岡研究室では,企業との共同研究を通して,社会貢献に取り組んでおります.ペレット製造で使用される押出金型において,金型から流出するポリマーの速度は,ポリマーの品質を左右します.そして,アスカ工業が開発を進めている金型においても,押出金型から流出するポリマー速度は流出口によって速度が違うという課題をかかえておりました.そこで,この課題を解決すべく,流出するポリマー速度を均等にできる押出金型の設計を目的とした共同研究が始まりました.我々はこの問題を解決するために,流路面積を広げるなど押出金型形状の改良をおこない,数値解析することで,流出するポリマー速度が均等になる最適な金型形状の研究を進めております.本研究はSDGsの「9. 産業と技術革新の基盤を作ろう」に貢献するとともに,奈良県の企業を発展させることにつながり,奈良県の地方創成に貢献します.

⑩香りカートリッジ内の流体挙動に関する研究:AM2末永

近年,「香りを自動制御する」というニーズは,ますます増加しています.

香りの自動制御が可能になった場合,例えば映像と同時に,映像に合わせた香りを楽しむことが可能になると期待できます.

香り自動制御装置は,株式外社アロマジョインによってすでに製品化されています.

当該装置は,周囲の空気を内部に取り込み,香り粒子を含ませたうえで大気へと放出することで香りを届けます.

香りを含んだ流体の挙動は,装置の形状などにより大きく変化すると予想されます.

しかし,当該装置を用いた香り噴出時の流体挙動は明らかにされていません.

また,装置内の流体の挙動についても解明されていないのが現状です.

そこで本研究は,香り自動制御装置の3Dモデルを用いた3次元数値解析をおこない,装置の改良指針を得ることを目的としています.

特に現在は,香り出口形状などの条件を変え,流体挙動に及ぼす影響を調べています.