研究テーマ

研究テーマの特徴

①W-BOS法に超解像技術を用いた空間解像度の向上:5M前田

 まず,研究背景として,流れの可視化について説明します.流れの可視化とは,目には見えない気体や液体の流れを直接目視できるようにする技術のことをいいます.流れの可視化により,流れ場の速度や圧力,温度,密度などを直感的に理解することができます.1つの可視化方法で得られる情報は限られているため,様々な方法が提案されています.

本研究では,Background Oriented Schlieren(BOS)法という可視化手法を用いています.BOS法では,流れ場の後ろに周期性を持つ背景画像を配置し,流れ場による密度勾配で生じる光の屈折を利用します.この屈折した光をハイスピードカメラで捉えることで歪みの発生した計測画像が得られます.衝撃波を起こす前の密度変化のない参照画像と光の屈折により密度変化がある計測画像を比較することでこのような密度変化の可視化画像を出力できます.BOS法により撮影した画像の行う画像処理の方法として連続ウェーブレット変換を用いた画像処理があります.この方法をWavelet-based BOS (W-BOS)法と言います.撮影画像の右に示す画像が,W-BOS法に出力した超音速流れの密度勾配の可視化画像です.可視化画像の先頭にある円弧状の密度勾配が衝撃波,その後追ってきている密度勾配が噴流です.BOS法の特徴として,参照画像と比較するため,密度勾配の定量的な評価ができるということと背景画像,光源,カメラという単純な撮影系で行えることがあげられます.このような特徴からBOS法は注目されている可視化手法です.

W-BOS法における問題点として,ハイスピードカメラで高速撮影を行うと,撮影画像の空間解像度が低下してしまうということがあります.

本研究の目的は,問題の改善のために,W-BOS法による衝撃波の可視化画像の空間解像度を向上させることです.そこで,解像度の低い粗い画像の解像度を上げることで滑らかな画像を生成する技術である超解像技術に注目しました.本研究では,W-BOS法に超解像技術を用いることで空間解像度を向上できるかを調べます.

左に示すのが低解像度画像の輝度分布です.超解像によりPixel数が増加し,プロット数が増えていることがわかります.超解像を行った輝度分布から密度勾配の可視化画像を出力し,元の画像との違いについて調べます.

②噴流先頭における噴流誘起衝撃波の反射に関する数値解析:5M坂倉

 衝撃波とは,超音速現象中において発生する圧力波となっています.衝撃波の特性として通過後に圧力,温度,密度を上昇させるため非常に高エネルギーな現象となっています.そのため衝撃波は様々な応用がなされ,さらなる技術の進歩が期待されています.

 本研究では衝撃波の応用先として衝撃波閉じ込め現象というものを提案します.衝撃波閉じ込め現象とは衝撃波管より衝撃波および噴流を発生させ,対向する壁面と後方からの噴流の間で衝撃波を複数回反射させる現象になります.そして衝撃波の閉じ込めにより居所的に高エネルギーの領域を生成させることができます.さらに衝撃波管では噴流によって高エネルギーの領域を圧縮しながら閉じ込めを行うことができる.

本研究の問題点として,衝撃波閉じ込め現象の物理的な発生条件が不明である点です.その中でも特に噴流先頭での衝撃波の反射条件が解明されていません.

そこで本研究では二次元の数値解析を用いて衝撃波および噴流,さらに壁面までの距離をパラメータとして衝撃波および噴流の挙動について確認していきます.

③小容積衝撃波管を用いた衝撃波閉じ込め現象に関する研究:2AM出山

 衝撃波は超音速現象に誘起される圧力波であり,通過した領域の温度,圧力および密度を急激に上昇させます.また,波の性質を有しているため,物体,壁面および噴流で反射します.これらの性質が航空宇宙産業を筆頭に医療や生物などの様々な分野で応用されています.そこで私たちは衝撃波の新たな応用として,衝撃波閉じ込め現象を提唱しました.衝撃波閉じ込め現象とは,衝撃波通過背後のエネルギーが上昇することに着目した現象です.噴流-壁面間において衝撃波を複数回反射させ,反射領域を噴流によって圧縮することで局所的な高エネルギー場を生成できることが期待できます.この衝撃波閉じ込めが制御可能となれば,燃焼技術への応用,核融合の着火効率向上および新材料の創出に応用できる可能性を秘めています.

④超音速ジェットと対向衝撃波の衝突過程に関する研究:2AM宇野

 高強度のパルスレーザーを固体ターゲットの表面に照射すると,表面の蒸発により高温高圧のジェットが放出されます.この現象はパルスレーザーアブレーション(PLA)と呼ばれます.雰囲気ガス中におけるPLAでは,超音速で膨張するジェットによって衝撃波が形成されます.ジェットは時間とともに蒸気の状態から液滴へと成長し,最終的に雰囲気ガス中でナノ粒子が生成されます.


 ダブルパルスレーザーアブレーション(DPLA)は,向かい合わせた二つのターゲットに対してPLAを行い,2つのジェットの混合により複合ナノ粒子を生成する方法です.DPLAは,ナノ粒子の新規な生成方法として期待されています.DPLAでは,それぞれのジェットの前方に形成された衝撃波が,対向するジェットに衝突します.対向衝撃波の衝突は,ジェットの時間的,空間的な膨張に影響を与えるため,ナノ粒子の成長過程を決定する重要な要因です.そのため,複合ナノ粒子の構造を制御するにあたり,ジェットと対向衝撃波の衝突過程を解明する必要があります.


 衝突過程を解明するうえで,対向衝撃波とジェットが衝突した位置における密度や圧力など物理量の分布が重要な手掛かりとなります.しかし,衝突過程における物理量の分布を実験で調べることは困難です.そこで本研究はDPLAにおける衝突過程を明らかにすることを目的として,数値解析を行います.実験から見積もることの難しい密度や圧力の分布をもとに衝突過程を調べます.

⑤開放型楕円容器の形状が衝撃波集束時の圧力勾配に与える影響:1AM谷口

 近年,光遺伝学という技術が注目されています.光遺伝学とは脳細胞に直接光を照射し,部分的に活性化させ,制御する技術のことを言います.この技術を利用して,脳の仕組みの解明等,様々な研究への応用が期待されています.

しかし,光遺伝学には霊長類のような脳の大きい照射対象に対して,光を届ける深度に限界があるという問題点があります.光が脳内を通過するとき,光の散乱や吸収が起こってしまい,興味のある細胞に到達するまでに光量が減少してしまいます.これを解決するためには低侵襲(生体が傷つきにくい)な方法で光を深部にまで届けるアプリケーションが必要です.

そこで本研究では,衝撃波によって誘起される高圧力領域を仮想的な光ファイバとして用いることを提案しました.衝撃波は通過した領域の圧力を高める特性があります.衝撃波を集束させることで,その特性を高めることができます.衝撃波によって圧力を上昇させると,密度が上昇し,屈折率が変化します.この屈折率の変化を利用して光を全反射させ光を遠くにまで届けることが可能であると考えられます.

衝撃波の集束には開放型楕円容器と呼ばれる,一方をカットした楕円容器を使用することを想定していますが,この開放型楕円容器がどんな形状で最適な光ファイバが形成されるのか分かっていません.本研究では,2次元の数値解析を実行し,どんな形状の開放型楕円容器が適切な光ファイバを形成できるか,調査しています.また,開放型楕円容器によって衝撃波がどのように集束されるのか,物理的な考察も行っています.

⑥開放型楕円体を用いた水中衝撃波の3次元数値解析:2AM新田

 光遺伝学(Optogenetics)は,光によって生体内の細胞の機能を操作することができる技術です.特定の細胞内に光によって活性化するたんぱく質(光活性化たんぱく質)を発生させ,その細胞内に光照射することで細胞の機能を操作します.この技術は脳・神経系の難病の解明に期待されており,マウスなどの生物で実証実験が行われています.

 しかし,ヒトなどの霊長類が保有する大型の脳では,生体内の光散乱体の影響により,光の到達深度に制限があります.そのため,光を照射したい細胞まで届けることができないという問題点があります.

そこで,水中衝撃波の集束現象を用いて生体内仮想光ファイバを生成する手法を提案します.水中衝撃波が集束すると非常に高圧・高密度な領域が形成されます.さらにその領域内外の大きな密度勾配により光の屈折率の差が発生します.その屈折率の差により高圧高密度領域内に光を閉じ込めることができます.生体内仮想的光ファイバは,このような手法を用いて生体内深部へ光を低侵襲的に届けることが可能であると考えられます.

水中衝撃波は楕円体の幾何学的形状を用いて集束させ,高圧高密度領域を形成します.楕円体の第一焦点に圧力上昇を発生させ,球状の衝撃波を形成させます.衝撃波は球状に伝播し楕円体内壁で反射し,第二焦点で集束します.

 本研究では,3次元数値解析により水中衝撃波集束箇所の圧力・密度勾配について調査し,光導波路形成に最適な楕円体形状について研究を行います.

⑦AIと赤外線サーモグラフィを用いた植物の樹液流量の算出:5M小山

 近年,農業従事者の減少が問題となっています.そのため,樹液流量の測定により植物の育成状況を数値化し,育成管理を簡易化することで農業従事者を支援する取り組みが行われています.樹液流量の測定手法には茎熱収支法が挙げられます.茎熱収支法は植物の茎にヒータを巻き付けて加熱し,測定した茎表面の温度から熱収支式を解くことで樹液流量を算出します.先行研究では赤外線サーモグラフィを用いた温度測定が提案されました.このとき,茎表面の温度分布と樹液流量には相関関係がみられました.そのため,温度分布から樹液流量を直接求められることが示唆されました.

 しかし,温度分布は植物の個体差や気温などによっても変化するため無限のパターンがあり,人間が全てのパターンの温度分布から樹液流量を求めることは難しいです.そこで,本研究では大量の温度分布をAIに学習させて,温度分布から樹液流量を予測します.

 本研究はSDGsの目標第2番,12番および15番の3つに貢献します.

⑧赤外線サーモグラフィを用いたトマトの樹液流量算出結果:1AM西前

 今日の日本における農業人口は年々減少おり,その原因に農業従事者の高齢化や新規就農者の離農率の高さなどが挙げられます.その対策として育成状況を数値化することで植物育成を支援する例がありますが,本研究では植物体内の樹液流量に着目しました.樹液流量にはいくつかの測定手法がありますが,茎熱収支法は茎表面の温度を用いて樹液流量を測定する非破壊検査法です.従来の茎熱収支法は温度測定に熱電対を用いますが,先行研究では温度測定に赤外線サーモグラフィを用いた改良案を提案しました.しかし先行研究では植物の茎を模擬したモデル装置のみにしか実験を行っていないため,実際の植物に対する有用性は未確認です.そこで本研究では赤外線サーモグラフィを用いた茎熱収支法の植物に対する適用を目的としています.

⑨熱伝導率が大きい多層基板へのスリーブはんだ付けの応用:5M坂上

現在世界的に進められている自動車の電動化自動化に伴って,より大きい電力負荷に耐えられるように高品質かつ信頼性の高いはんだ付けが求められています.

そして信頼性の高いはんだ付けが得られる手法としてスリーブはんだ付けが注目されています.

この手法ではスリーブと呼ばれる円筒内ではんだ片を溶かし,基板と電子部品を接合します.

しかしながら問題点として,基板の主流が構造が簡単な単層基板から複雑な多層基板へと移り変わるも,多層基板へのはんだ付けについて研究が進んでおらずはんだ付けの品質が低下していることが挙げられます.

そこで私たちは基板断面の温度分布から熱特性を推定することで多層基板への良好なはんだ付け条件を解明することで問題を解決しようとかんがえています.

実験では赤外線サーモグラフィとハイスピードカメラを使用してはんだ付けの挙動を観察します.

⑩ 学生が楽しく学ぶことのできるRCカーを対象としたデジタルツイン実験の開発:5M金光

近年デジタルモノづくりに時代に見合った人材を育成するが必要である.学生に意欲的に取り組んでもらうためには親しみやすさが必要であると考えた.

そこで本研究では、この技術を使って学生が楽しく学ぶことのできる授業を開発します.

デジタルツインの対象にはラジコンカー(RCカー)を対象に選びました.

授業ではRCカーのウィング角度の変化によるダウンフォースの変化を学生に実験してもらう.

デジタルツインとは

現実空間で回っている風車周りの流れを調べたいとします.

ですが現実では風の流れを目視で確認することはできません。そこで風車に速度センサーや位置センサーを取り付けることで風車の周りを流れる風の速度や風車の羽の位置などのデータを取得します.

その後取得したデータを使用し、現実空間における風車周りの流れを仮想空間、つまりコンピューター上で再現します.

仮想空間において数値解析やシミュレーションを行うことで実験のみでは明らかにできない風車周りの流れを詳細に調査することができます.

右の写真が実際に行うデジタルツイン実験の様子です.左が現実空間での実験右が仮想空間での実験の様子です.

⑪押出金型形状最適化のための数値解析【共同研究withアスカ工業】:AM2新田

 福岡研究室では,企業との共同研究を通して,社会貢献に取り組んでおります.ペレット製造で使用される押出金型において,金型から流出するポリマーの速度は,ポリマーの品質を左右します.そして,アスカ工業が開発を進めている金型においても,押出金型から流出するポリマー速度は流出口によって速度が違うという課題をかかえていました.そこで,この課題を解決すべく,流出するポリマー速度を均等にできる押出金型の設計を目的とした共同研究が始まりました.我々はこの問題を解決するために,流路面積を広げるなど押出金型形状の改良をおこない,数値解析することで,流出するポリマー速度が均等になる最適な金型形状の研究を進めております.また,実際にポリマー速度を実験で測り,数値との比較も行っています.本研究はSDGsの「9. 産業と技術革新の基盤を作ろう」に貢献するとともに,奈良県の企業を発展させることにつながり,奈良県の地方創成に貢献します.