Research Interests & Projects

Research interests:

Languages under study

Approaches

研究上の関心

研究対象の言語

アプローチ

これまでの研究の歩み

私は学部の頃から言語学コースに所属して言語学を学んできましたが、そのうちでも音声学・音韻論(とりわけ音声学と音韻論の中間的な分野)に早いうちから関心を持ってきました。大学院での研究テーマは朝鮮・韓国語(特に標準的な変種として位置づけられるソウル方言)の韻律・イントネーションでした。

博士論文取得後は研究対象を他の方言に拡大し、慶尚北道と慶尚南道の方言を扱うようになりました。ソウル方言の韻律が語レベルで弁別性を持たない(いわゆる「無アクセント方言」)であるのに対し、慶尚道方言には語レベルのトーン(これを「アクセント」と呼ぶかどうかは立場によります)があります。このことをふまえ,慶尚道の諸方言における語レベルと文レベルの韻律現象の相互作用に注目しました。

その後,ポスドクを転々としたり,様々な共同研究プロジェクトに参加したり,学生の研究指導をすることで,研究の幅を広げながら今日に至っています。名古屋大学やその他の大学での朝鮮・韓国語教育の経験がきっかけとなって,朝鮮・韓国語教育にかかわる研究も最近は行っています。

Projects

Prosodic subordination

日本語(東京方言)におけるディフレージング(たとえば,「宮島のおみやげ」といったときに2モーラ目の「ヤ」から最終モーラまでが高平のピッチになる現象」やダウンステップ(たとえば,「うまい豆だ」といったときに「豆」の「メ」のアクセント核が低めに実現される現象」はともに,後部要素を前部要素に対して韻律的に従属させる現象の一種とみなすことができます。こういった,いわゆるprosodic subordinationに関わる現象に一貫して関心を持っています。

Prosodic subordinationに関わる諸現象は,理論的には様々な韻律句の定義と関わることが多く,韻律句や韻律構造の議論と深く関係しているといえます。

私の博士論文では,朝鮮語(韓国語)ソウル方言を対象としてprosodic subordinationに関わる現象(ディフレージングに加えて,私が論文中で「半独立型連結」と呼んだ現象)を扱いました。ポスドク時代に行った慶尚南道馬山・昌原方言の研究においても,類似の現象が重要な論点となっています。

茨城方言の科研費プロジェクト(2012年度~2014年度)においてもこの問題を扱おうとしましたが,データの分析が十分に進んでいません。F0低下現象の科研費プロジェクト(2015年度~2018年度)でも扱いましたが,成果をまとめるのにはまだ時間がかかりそうです。

L2学習者のハングル読み書きの習得

朝鮮・韓国語の教員としての経験上、学習者にとって朝鮮・韓国語の文字(ハングル)の習得には個人差がかなりあります。簡単に習得できる学習者もいれば、いつまでたっても非常に困難を伴う学習者もいます。しかし、そうした個人差の実態は、これまで十分に明らかにされていません。実態を明らかにすることがこのプロジェクトの第一の目的です。

その次のステップが、個人差の要因を探ることです。この問題へのヒントになると考えているのが、ディスレクシア(読字障害)です。Wydell & Butterworth (1999) は、日英バイリンガルにおいて日本語では高い読み書き能力を有するが英語ではディスレクシアの兆候を呈するという症例を報告しています。この論文ではここから「粒性と透明性の仮説」を提唱し、言語の表記体系における粒性(綴り字の単位の細かさ)と透明度(文字と音が一対一対応するか)が影響しているとしています。つまり,ある種の認知能力が低い個人において、粒性が細かく透明性が低い表記体系(例えば英語の綴り)の学習に困難を伴うが、そうでない表記体系(例えば日本語の仮名・漢字)の学習には問題がないというケースがありうるということです。

このようなディスレクシア研究は,ハングルの読み書きの問題に対して二つの点で示唆的です。第一に,読み書きの困難さは言語の表記体系によって異なりうるということです。ハングルという文字は,音節単位で書かれるとともに,それが子音・母音に分解しうるという特徴を持っています。つまり,ハングルは日本語の仮名・漢字と比べて粒性が細かく,そのため一部の人にとって学びにくい表記体系である可能性があるということです。ディスレクシア研究が示唆する第二の点は,表記体系の学習の困難さが一部の学習者に限って認められうるということです。ディスレクシア研究の知見にもとづけば,これは音韻処理といった認知能力の個人差に起因すると考えられます。ハングルの学習においても,何らかの認知能力の個人差に伴い,習得の個人差が生じている可能性があります。

ただし、ここではハングルの習得に困難を感じる人=ディスレクシアと言っているわけではありません。習得の困難度にはグラデーションがあり、その極においてはディスレクシアとみなしうるケースもあるかもしれませんが(そのこともわかりませんが)、ディスレクシア研究の知見と方法論を参考にしつつ、グラデーション全体に目を向けようというのが、このプロジェクトんの目指すところです。それにより、、朝鮮・韓国語教育、とりわけ文字と表記体系の教育のための研究に新たな視点が得られるのではないかと考えています。

このプロジェクトは、科研費を得て共同研究として現在進めています。

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方言音声の変異と変化(特にVOTと韻律に関して)

※佐々木冠氏(立命館大学)、五十嵐陽介氏(国立国語研究所)との共同研究

「茨城方言記述プロジェクト」という名のもと、茨城県の方言の調査としてスタートし、のちに千葉県に対象を拡大しました。

主としてVOT、韻律、分節音レベルの音韻現象について、2012年から2014年にかけて調査をしました。

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アニメ声の声質

太田一郎氏(鹿児島大学)らとの共同研究

詳しくはこちら

ICPhS 2019での発表: A voice quality analysis of Japanese anime 


発達心理学的観点からの音声の獲得と発達に関する研究

馬塚れい子氏(理化学研究所)らとの共同研究


保育士の音声に関する研究

児玉珠美氏(愛知学泉短期大学)らとの共同研究


その他

私の主たる専門分野からは外れますが、社会心理学・文化心理学に関するいくつかの国際共同研究(コロナ禍に関係するものも含む)に協力しています。それらのうちのいくつかでは、論文の共著者として名前を連ねています。