音響音声学の基礎

ここでは音響音声学の基礎に関する講義の補足として,Praatを使ってちょっとしたデモンストレーションを行ってみます。

(1) 純音

Praatでは,数式を入力することでSoundオブジェクトをつくることができます。オブジェクトウィンドウの上部メニューからNew -> Sound -> Create Sound from formula...を選んでください。以下のウィンドウが現れるはずです。

ここでFormulaの箇所に新たに作りたいSoundオブジェクトの数式を入力すればよいのです。では,周波数100Hz,最大振幅1/2の純音はどのような数式で表せるでしょうか?

たとえば以下の数式で表すことができます。

1/2 * sin(2*pi*100*x)

赤で示した部分が最大振幅,紫で示した部分が周波数です。piは円周率πのことですが,Praatで数式を入力する際にはpiとします。

では,このように入力してみましょう。また,Nameをここではsine100に変更することにしましょう。つまり,以下のように設定してください。

これでOKを押せば,sine100というSoundオブジェクトがオブジェクトリストに追加されます。Playを押して音を聞いてみましょう。また,Editを押して,音声波形を見てみましょう(下図)。

左下のinというボタンを押すとズームインします。何度か押してみましょう。以下のようなきれいなサインカーブが見られるはずです。

同様の手順で,周波数200Hz,最大振幅1/4の純音をつくってみましょう。(名前はsine200としておきましょう。)

(2) 複合音

今度は,これら二つの純音をあわせた複合音をつくってみましょう。最も単純な方法は,先ほどと同様に数式を指定するというものです。先ほどの二つの純音の数式を,単純に足し合わせた数式を書けばよいのです。つまり,

1/2 * sin(2*pi*100*x) + 1/4 * sin(2*pi*200*x)

としましょう。名前はたとえば,sine100+200としておきましょう。

どんなSoundオブジェクトが出来上がったでしょうか?聞いたり波形を見たりしてみましょう。

(3) 音のスペクトル

音を構成する周波数成分は,スペクトルに表すことができます。これもPraatで確認できます。

先ほど作ったsine100+200というオブジェクトを選択し,右側のボタンからAnalyse spectrumを押し,To Spectrum...を選択してください。小さいウィンドウが現れたら,そこのFastのチェックを外してください。(通常の分析ではFastのチェックを入れておくのですが,ここでは特別にチェックを外すことにします。)OKを押すと,新たにSpectrum sine100+200というオブジェクトが出来るはずです。このオブジェクトを選択し,右側のボタンからEditを押してください。以下の図が表示されるはずです。

これがsine100+200のスペクトルです。横軸が周波数,縦軸は振幅を示します。100Hzと200Hzのところに縦棒が立っているのがわかると思います。つまり,sine100+200は100Hzの成分と200Hzの成分に分解できるということです。

(4) サウンド・スペクトログラム

次に,sine100+200のサウンド・スペクトログラム(以下では単に「スペクトログラム」と呼ぶことにします)を見てみましょう。Sound sine100+200を選択し,View & Editを押してみてください。以前にも説明しましたが,下半分がスペクトログラムです。

たいていはデフォルトの設定でいいのですが,今回は特別にスペクトログラムの設定を変更しましょう。SoundEditor(波形とスペクトログラムが表示されているウィンドウ)の上部メニューからSpectrum -> Spectrogram settingsを選び,設定を以下のようにしてください。

これでOKを押すと,以下のようなスペクトログラムが確認できるはずです。

このスペクトログラムには,2本の横棒が確認できます。この2本の横棒が何を意味するかわかりますか?

さて,ここでのスペクトログラムはちょっと特殊なものです。次回に音声の分析をする際に設定がこのままになっていると戸惑うかもしれないので,デフォルトの設定に戻しておきましょう。先ほどと同様,Spectrum -> Spectrogram settingsを選び,設定の画面で下方のStandardsというボタンを押してください。デフォルトに戻るはずです。その上でOKを押しましょう。このように,Praatでは,Standardsというボタンを押すことで,設定をいつでもデフォルトに戻すことが出来ます。