インテンシティ

これまでに長さとピッチ(高さ)に対応する物理的特徴として持続時間とF0をみてきました。今回は,大きさ(loudness)に対応する物理的特徴をみていきます。大きさに対応する物理的特徴は,物理的強度またはインテンシティー(intensity)と呼ばれます。

(1)Praatによるインテンシティーの分析

まず,以下のサイトから二つの音声ファイルをPraatで読み込んでおきましょう。これらのファイルはpermitという単語を,それぞれ第一音節,第二音節に強勢をおいて発音したものです。

Praatでインテンシティーを分析するには様々な方法があります。最も簡単な方法は,これまでにもよく使ったSoundEditorを用いるものです。先ほど読み込んだSoundオブジェクトについて,SoundEditorを開いてみましょう。インテンシティーは黄色の線で表示されます。もし黄色の線が表示されていなかったら,上部メニューからIntensityを選び,Show Intensityにチェックを入れます。

以下の図のように黄色い線が表示されたでしょうか?

インテンシティーの最高値を知ろうと思ったら,上の図のように黄色い線のピークにカーソルをあてましょう。カーソルをあてた位置のインテンシティーの値は,右側に緑色で表示されています。この場合,83.52dBです。

(2)強勢の分析

「強勢」(stress)というのは物理的な概念ではなく,言語学的な概念です。様々な言語に強勢があるとされますが,その物理的な実現の仕方は言語によって様々です。英語の強勢の場合,インテンシティーだけでなく,持続時間,F0,母音の音質も関わると言われています(Gussenhoven 2004 第2章参照)。上のサンプルファイルの持続時間,F0,母音のフォルマントも調べてみましょう。

英語における強勢とF0の関係に関していえば,イントネーションの問題も考慮する必要があります(Ladd 2008,Gussenhoven 2004,渡辺 1994 参照)。なお,英語のイントネーションの話の中で「アクセント」という用語が出てきたときは,イントネーションの構成要素の一つとしての,強勢に現れるピッチ変化を意味することが多いので,注意が必要です。(つまり,「日本語のアクセント」というときの「アクセント」とは用語の用いられ方が違うわけです。)

(3)Microprosody

持続時間やF0のところで述べたmicroprosody、つまり分節音による韻律への影響は、インテンシティ―に関しても存在します。特に重要なのが intrinsic vowel intensity です。同一条件下では、母音の開口度が広いほどインテンシティ―は強くなる傾向にあります(Lehiste 1970, Beckman 1986 参照)。このほか、子音も様々なかたちでインテンシティ―に影響することが知られています。分節音によるインテンシティ―への影響はかなり顕著なので、インテンシティ―を分析する際には特に慎重さが求められます。

参考文献

Beckman, Mary E. (1986) Stress and non-stress accent. Dordrecht: Foris.

Gussenhoven, Carlos (2004) The phonology of tone and intonation. Cambridge: Cambridge University Press.

Ladd, D. Robert (2008) Intonational phonology, second edition. Cambridge: Cambridge University Press.

Lehiste, Ilse (1970) Suprasegmentals. Cambridge, MA: MIT Press.

渡辺和幸 (1994) 『英語イントネーション論』 研究社.