14. 日本語のアクセントとイントネーション
日本語のアクセントとイントネーションについては,2009年度開講「音声学概論」第23・24回において,その概略を扱いました。(2009年度の資料はこちら。)今回は,そこで扱った現象を中心に,実際にPraatで分析をしてみます。
14.1. アクセントとおそ下がり
まず,サンプルファイルumiga.wavとnomiga.wavのF0を前回学習した方法で確認してみましょう。前者は「海が」(頭高型)と「膿が」(中高型),後者は「鑿が」(頭高型)と「蚤が」(中高型)の発音を含むファイルです。これらの発音において,F0はどこから下がり始めるでしょうか?
音韻論的にいえば一般に,頭高型の「海が」は「ウ’ミガ」(’ は下降の位置を示す)とみなされます。しかし,実際の下降の開始は,必ずしもそのような位置に現れるとは限らず,もっと遅れて現れることがあります。このように,F0の下がり目が遅れる現象を「おそ下がり」といいます。この現象はネウストゥプニー(1966)により発見され,杉藤美代子氏によりさらに詳しく明らかにされたものです(例えば,杉藤 1982)。
14.2. 句頭上昇
サンプルファイル kinoo-moratta.wavは「昨日もらったお金を使ってしまった」という文を二通りに発音してみたものです。両者は意味がどのように異なるでしょうか?また,F0にはどのような違いが観察されるでしょうか?
両者の違いには「句頭上昇」が関わっています。「句頭上昇」とは何かについては,「音声学概論第24回」を参考にしましょう。また,以下のファイルはこの回のハンドアウトp.4の音声です。これらの音声のF0も観察してみましょう。
- mamega.wav
- anomamega1.wav
- anomamega2.wav
- amaimamega1.wav
- amaimamega2.wav
14.3. 自然下降(declination)
サンプルファイルnanako.wavは「ナナコとナオコとマイコとマユコ」という発音です。四つの名前はいずれも頭高型ですが,F0の高さは同じでしょうか?
ここには自然下降(declination)という現象が関わっています。発話において,F0は時間軸にしたがって少しずつ下降する傾向にあります。この傾向を自然下降と呼びます。この現象は,日本語に限らず様々な言語に普遍的に観察されます。
14.4. ダウンステップ(downstep)
サンプルファイルamai-umai.wavは以下の二つの文の発音を含むものです。
- 「甘い豆をたくさん食べた。」(「甘い」は平板型)
- 「うまい豆をたくさん食べた。」(「うまい」は中高型
両者は,「豆を」の前にくる文節のアクセント型が異なっています。このアクセント型の違いは,「豆を」の部分のF0にどのような影響を与えているでしょうか?
ここには「ダウンステップ」という現象が関わっています。「ダウンステップ」とは,有核語に後続する単語のピッチのピークが著しく低められる現象のことです。
ただし,有核語の後で常にダウンステップが生じるというわけではありません。もう一つのサンプルファイルamai-umai2.wavも確認してみましょう。ここでダウンステップを妨げている要因は何でしょうか?
参考文献
ネウストゥプニー, I, 1966. 日本語のアクセントは高低アクセントか. 『音声学会会報』, 121, pp.1-7.
杉藤美代子, 1982. 『日本語アクセントの研究』, 三省堂.