13. 基本周波数(F0)

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ピッチに関わる諸現象(たとえば,日本語のアクセントやイントネーション)を音響音声学的に調べるときには,たいてい基本周波数(fundamental frequency; F0)をみます。F0とは何かについては,すでに5月24日の授業において扱いました(Moodle上に資料があるので,忘れてしまった場合はそれを見て思い出しましょう)。今回から数回にわたってF0の分析の仕方を扱います。

13.1. PraatでF0を測定する

PraatでF0を測定するための方法はいろいろあります。最も簡単な方法は,SoundEditorを用いるというものです。

サンプルファイル ame.wav を読み込み,Editを押してSoundEditorを開いてみましょう。

SoundEditor上で青い線で示されているのがF0です。もし青い線が表示されていなかったら,上部メニューのPitchにおいてShow Pitchにチェックを入れましょう。

さて,このサンプルファイルは頭高型の「雨」と平板型の「飴」を発音したものです。F0にどのような違いがあるでしょうか?

13.2. 子音の影響

F0を分析する上で特に注意しなければいけないのは,F0が子音の影響を受けやすいということです。例えば,サンプルファイル ame_take_kaze.wav のF0をSoundEditorで確認してみましょう。

上の図は,1番目の単語が「飴」,2番目が「竹」,3番目が「風」です。いずれも平板型で発音されており,また第1モーラの母音が/a/,第2モーラが/e/という点も共通しています。それにも関わらず,三つの発話のF0にはかなり違いがあることが見てとれると思います。具体的に,どこがどう違っているでしょうか?

子音の中には,F0に影響を与えやすいものと与えにくいものがあります。一般には,阻害音(たとえば,破裂音,破擦音,摩擦音)はF0に影響を与えやすく,共鳴音(たとえば,鼻音,接近音)は影響を与えにくい傾向にあります。

言語学的においてF0をするのはたいてい,アクセントやイントネーションを調べるような場合です。そのような場合,子音の影響というのは,本来注目したいアクセントやイントネーションを反映したF0パターンを歪めているものと位置づけられます。アクセントやイントネーションを分析する上では,子音の影響は最小限に抑えたいわけであり,したがって,F0に影響を与えやすい子音を含まないような単語や文を用いて分析した方が,分析がしやすいということになります。

13.3. 母音のintrinsic F0

持続時間の測定の際に,intrinsic vowel duration という現象を扱いました。これと同様に,母音のintrinsic F0というものも知られています。一般に,同一条件下では,母音の開口度が狭い/舌が高いほどF0が高くなる傾向にあることが知られています。この傾向はこれまでに様々な言語で確認されています。たとえば,以下の論文は世界の31言語の取り上げてこの現象を論じたものです。その中の一つ,日本語でも,この傾向は確かに認められるようです。

D.H. Whalen & A.G. Levitt (1995) The universality of intrinsic F0 of vowels. Journal of Phonetics 23, 349-366. [Link]

この現象もF0を分析する上で気をつけなければいけないものです。

なお,13.2や13.3で取り上げた現象は,持続時間のところでも述べたmicroprosodyと呼ばれるものの一種です。