葉緑体膜の特殊な脂質組成
真核生物の一般的な生体膜(われわれ動物の膜や、植物細胞の葉緑体以外の膜など)は、主にリン脂質でできているのですが、例外的に葉緑体のチラコイド膜は、大部分が糖脂質から成ります。リン脂質ではなく、光合成により合成できる糖脂質をチラコイド膜に用い、貴重な栄養源であるリンを節約するという点では合理的な脂質組成です。しかし実際には、チラコイド膜の脂質は全て糖脂質で構成されているわけではなく、ホスファチジルグリセロール(PG)というリン脂質が、チラコイド膜脂質の約10%を占めています。
唯一、シアノバクテリアは葉緑体とよく似た脂質組成を示します。シアノバクテリアもチラコイド膜で酸素発生型の光合成を行うことから、糖脂質の獲得とチラコイド膜の起源との関連性が想起されます。PGの欠損は、植物とシアノバクテリアのどちらにおいても致命的であり、酸素発生型の光合成を行う生物にとってPGは不可欠な脂質です。
ホウレンソウから単離された葉緑体のチラコイド膜(Dorne et al., 1990),カリフラワー花芽から単離された色素体包膜(Alban et al., 1998),シロイヌナズナから単離されたミトコンドリア膜(Jouhet et al., 2004)および細胞膜(Uemura et al., 1995),シアノバクテリアのSynechocystis sp. PCC 6803の膜(Wada et al., 1989)の脂質組成を示す。PA; ホスファチジン酸,CL; カルジオリピン,PC; ホスファチジルコリン,PE; ホスファチジルエタノールアミン,PI; ホスファチジルイノシトール,PG; ホスファチジルグリセロール,SQDG; スルホキノボシルジアシルグリセロール,DGDG; ジガラクトシルジアシルグリセロール,MGDG; モノガラクトシルジアシルグリセロール