これまでに、PG欠乏により葉緑体がほとんど発達しないことや、PGが光合成複合体の構成要素として光合成に必須であることなどが分かっていましたが、葉緑体形成におけるPGの具体的な機能や、光合成複合体ではなく脂質二重層に含まれるPG分子の機能などについては不明のままでした。我々は、光合成複合体をまだ持っていない「葉緑体の前駆体」の発達におけるPGの機能について解析を行い、脂質二重層に含まれるPGが葉緑体前駆体の発達に必須であることを見出しました。
暗所で形成される葉緑体の前駆体は、光照射に伴い、内膜系がチラコイド膜へと形態変化します。さらに、光合成色素や光合成タンパク質が蓄積することで、成熟した葉緑体が形成されます。その葉緑体形成を円滑に行うために必要とされる、前駆体の内膜系の形成や色素の合成が、PGのわずかな減少により阻害されたことから、植物は葉緑体をつくるために、光を浴びる前の準備段階の時点から、PGを欠かせないということが示唆されました。
PGは他のチラコイド膜脂質に比べ存在量が少ない一方で、わずかな減少でも膜タンパク質の介在する葉緑体形成プロセスに強い影響が及んだことから、PGは膜タンパク質の「足場」を形成するだけでなく、膜タンパク質との特異的な相互作用によりタンパク質の機能を左右することが示唆され、膜脂質の機能の新たな一面を提示しました。
今後さらに研究を進めることで、葉緑体形成における脂質の機能について理解を深めるだけでなく、膜脂質がもつ多面的な機能の解明に貢献したいです。