植物特有の膜脂質が駆動する葉緑体形成
吉原晶子, 小林康一.
生物物理. 64巻6号(通巻376号)トピックス 2024年
https://www.biophys.jp/journal/journal_dl.php?fnm=64-6
植物のもやしが緑化するとき,子葉細胞内ではエチオプラストという色素体から葉緑体への分化が起こり,その際,エチオプラスト内部の格子膜構造が層状のチラコイド膜へと劇的に変化します。これらの色素体の内部膜を構成する,3種の糖脂質と1種のリン脂質からなる植物特有の脂質組成の重要性について紹介します。
エチオプラスト内膜系における酸性脂質の役割
吉原晶子, 小林啓子, 永田典子, 藤井祥, 和田元, 小林康一.
光合成研究. 第34巻第1号(通巻98号), 31-37, 2024.
https://photosyn.jp/journal/kaiho98.pdf
チラコイド膜には、リン脂質のホスファチジルグリセロール(PG)と、硫黄を含む糖脂質のスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)が含まれ、どちらも負電荷をもつ酸性脂質です。これらの酸性脂質に関して、光化学系複合体における PG の機能は明らかとなってきたものの、それ以外の役割はよくわかっていませんでした。最近著者らは、葉緑体前駆体のエチオプラストに着目したシロイヌナズナの変異体解析から、PG がエチオプラストの内膜系の形成やクロロフィル中間体の合成に不可欠であり、SQDG は PG の機能を補うことを示しました。さらに、酸性脂質が膜タンパク質の挙動にも密接に関わることを見出したことを踏まえ、酸性脂質の多面的な機能について議論しました。
脂質代謝が印す葉緑体の進化と多様性
小林康一、吉原晶子
BSJ-Review 12, 23-37, 2021
https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review_12A_23-37.pdf
葉緑体の起源はシアノバクテリアであるとする細胞内共生説が主流であり、その根拠の例として、葉緑体とシアノバクテリアの膜を構成する脂質の非常に特徴的な組成の共通性や、光合成電子伝達系複合体の構成成分としての脂質分子の機能の高い保存性が挙げられます。
しかしながら、MGDGの合成経路が両者で異なる点や、植物のDGDGやSQDGの合成酵素はシアノバクテリアの一次共生由来ではないと推測されている点から、植物がシアノバクテリアと同じ脂質組成を遺伝子レベルでどのように獲得したのかは未だに不明です。
本総説論文では、シアノバクテリアと葉緑体の膜脂質の合成経路やそれに関わる酵素遺伝子を比較し、また、葉緑体の進化の過程で脂質が果たしてきた普遍的な役割や独自に獲得された多様な機能についての最新の見解を紹介します。さらに、糖脂質合成系をシアノバクテリアの一次共生で獲得してから糖脂質を葉緑体の機能以外に使うように進化したとは限らず、植物の祖先の細胞が、一次共生前からすでに糖脂質合成系を持ち、糖脂質を利用していたと考える仮説についても紹介します。
プレスリリース
光合成にかかわる脂質の機能解明が大きく前進! モヤシが葉緑体をつくるためのカギは『酸性リン脂質』
大阪公立大学プレスリリース、2024年1月9日掲載