第四分科会

タイトル

「液相における電子励起状態の基礎と光機能性分子系への展開」

  • 講師:五月女 光 先生 ( 大阪大学 助教: 研究室HP)

  • 担当:原田 美緒 (大阪公立大学(大阪市立大学) 八ツ橋研 D2)

  • 担当連絡先:sec4_at_ymsa.jp



紹介文

 光照射により生成した電子励起状態は、光エネルギー変換や物質変換過程などの光機能発現において重要な役割を担っています。こうした分子系は、一般に数十個の原子から構成される多原子分子であり、多様な電子状態と広大な構造自由度を背景に、秀逸な光機能を実現しています。これらの機能発現メカニズムを明らかにするためには、上記の両側面から多角的な分光計測を行うことが肝心であり、本分科会では、このうち電子励起状態に重点をおき、その基礎と計測方法論について解説していきます。

 具体的には、まず化学における基本的な反応場である液相を対象として、電子励起状態の基礎を学びます。光照射により励起状態に遷移した分子では、有限の寿命の間に電子状態の変化や周囲溶媒との相互作用を伴いながら、極めて短い時間領域でダイナミクスが進行していきます。さらに、分子によっては、異性化、電子移動、プロトン移動といった化学反応を起こすものもあります。古典的な分子を例として、励起状態において分子が経験する種々の素過程や化学反応を解説します。こうした基本的な分子の素過程は、より複雑で実践的な分子系の分光データを読み解くうえで必要となる時間スケールの相場や化学反応に対するセンスを与えてくれます。

 また、上記の電子励起状態の動的挙動と並行して、それらを可視化するための時間分解分光の原理や応用、適用限界についても学びます。とくに、電子励起状態ダイナミクスの研究において中心的な役割を果たしている紫外可視域の過渡吸収分光を解説します。これらの分光手法は20世紀に発展してきたものであり、現在では物理化学者だけの専売特許ではなくなっている一方、得られたスペクトルからダイナミクスを解釈することは初学者にはなかなか難しい問題です。本講義では、いくつかの例を題材にして、スペクトルを読み解きその背後にある励起状態ダイナミクスを把握する技術を習得することもめざします。

 本分科会の後半では、より実践的な系として光機能性分子系にも展開したいと考えています。光がキーワードとなる関連分野は裾野がとても広く、具体例をあげると、太陽電池、発光デバイス、光レドックス触媒、天然・人工光合成、光スイッチ分子など、多岐にわたっています。この夏の学校に参加する方や同世代の友人の中には、これらの分子・材料を合成する研究を行っている方も多いかと思います。前半パートで習得した技術をもとに、より実践的な光機能性分子系のメカニズム解明について取り扱います。これらのケーススタディを通して、電子励起状態をいかに計測・理解するかだけでなく、いかに利用するかという観点からも分光計測の役割を俯瞰できればと考えています。



分科会担当者コメント

担当 : 原田美緒 (大阪公立大学(大阪市立大学) 八ッ橋研究室D2)


第四分科会では大阪大学の五月女光先生を講師としてお招きいたします.五月女先生は光化学分野で活躍されており,超高速レーザー分光を手法とした電子励起状態の解明やその制御にも取り組まれております.

 分光計測によって「化学反応が起きるメカニズム」を明らかにするためには,その基本的な理解と計測によって得られたスペクトルからそのダイナミクスを読み解く力が必要です.しかし,理論的な部分を根本的に理解してそれを自分の研究に活かすまでの道のりはかなり険しい,と思う方もいるのではないでしょうか.(少なくとも私はその一人です.)

本分科会では,基本的な化学反応場である液相を対象とし,電子励起状態を軸に,基礎的な理論から計測方法論までを解説していただきます.基礎から学びたい方,分光計測の手法や化学反応に少しでも興味がある方はぜひご参加ください.一緒に学んでいきましょう.皆様のご参加を心よりお待ちしております!