第62回 夏の学校のホームページは
写真:札幌市教育文化会館
講師:倉持 光 先生 (分子科学研究所 准教授: 研究室HP)
担当:笠 僚宏 (九大 恩田研 D1)
担当連絡先:sec5_at_ymsa.jp
Norrish、Porterらによる閃光分光法の開発に端を発して化学反応の時間分解計測という分野が生まれました。その後のフェムト秒パルス光源の登場とそれに伴い生まれた技術であるポンプ-プローブ法によってその時間分解能は飛躍的な進歩を遂げ、これによりフェムト〜ナノ秒の時間領域で起こるさまざまな化学反応素過程の研究が可能になりました。光源技術の発展も相まって、現代においては極めて高速なコヒーレント現象までもが時間分解分光により観測され、その起源や化学反応に果たす役割が盛んに研究されています。こうしたフェムト秒パルスを用いた時間分解分光、いわゆる“超高速分光”は、有機・無機分子材料の光物性だけではなく、視覚や光合成の初期過程に代表されるような生体中の光反応の機構を調べるためにも用いられるなど、現代においては基礎・応用を問わず幅広い学問分野で欠かすことができない実験手法となっています。一方で、実際の研究では試料の準備や計測、データの解析と解釈に時間が費やされ、(なんとなくなにかしらのデータが得られることも多いため、)実験の各要素技術の原理や関連する量子力学、光学の基礎理論の習得が疎かになりがちです。こうした知識は得られたデータを正しく理解するために必要なだけではなく、正しく実験系をデザインし、正しい計測を行い、さらに新しい方法論を自ら開発するためには欠かすことができません。そこで、本講義では超高速分光・非線形分光で用いられる実験技術や観測される信号がそれぞれどのような原理・理論的背景に基づいているのかを実験家目線で解説し、少しでも実験とデータへの理解が深まるような時間にしたいと思います。具体的には、さまざまな超高速分光・非線形分光法を統一的に扱うための密度演算子法や非線形光学の基礎、超短パルス光の発生法・計測法などについて取り上げます。また、最先端の実験手法・光技術などについても解説し、超高速分光・非線形分光法を用いることで化学反応ダイナミクスに関して今何が観えるのか、どんなことが分かるのか、紹介したいと思います。分光実験に携わっている方を主な対象としていますが、これから自身の研究に超高速分光・非線形分光法を新たに取り入れてみたいと考えている方や、単に異なる分野を覗いてみたい方も歓迎です。
第五分科会担当者コメント
担当:笠 僚宏 (九大 恩田研 D1)
第五分科会は、分子科学研究所の倉持光先生を講師にお招きします。倉持先生は極短パルスを用いた様々な超高速分光法・非線形分光法を開発し、主に凝縮相の化学反応ダイナミクスを研究されています。
「化学反応の過程を理解する」ことは、分子の基礎及び応用の観点から重要な課題です。フェムト秒からナノ秒の極めて短い時間領域で起こる反応過程を追跡できる非常に強力な測定手法として、超高速分光法が挙げられます。測定対象に適した分光装置を自在に構築することによって、様々な系の反応過程を観測することができます。一方で、適切な装置を構築するためには分光装置を扱うための技術はもちろん、非線形光学や光と分子の相互作用といった基礎理論に対する深い理解が必要です。
本分科会では、超高速分光の理論から応用例まで幅広く講義していただき、分光に対するさらなる理解を促します。超高速分光を極めたい方も、超高速分光の世界を垣間見たい方も、幅広く参加していただければ幸いです。ぜひ皆さんで盛り上げていきましょう!