現場を観察するだけではわからないこともたくさんあります。
石以外ほとんど見つからない旧石器時代の遺跡は、まさにその典型です。
それでは、石器の出土状況からどのように旧石器人の暮らしが復元できるのでしょうか?

現場で集めた情報を分析することでわかる事実。
最後に、現場から離れたあとに明らかになる「現場のミカタ」をご紹介します。

旧石器遺跡の調査方法と記録

旧石器時代の遺跡は、一般に赤土と呼ばれる関東ローム層の中から見つかります。

長年の風化か、それとも当時の生活様式か、ローム層の中には住居跡などの遺構がほとんど残されていません。
そのため旧石器遺跡の調査では、モノが出土した層や場所の情報を現場で詳しく記録し、そしてそれらの情報を持ち帰って分析することで、当時の人びとの動きを復元しているのです。

ステップ① 部分的に掘って遺跡を探す

ステップ① 部分的に掘って遺跡を探す

ステップ② 遺跡の土層を捉える

ステップ② 遺跡の土層を捉える

ステップ③ 石器を掘り出す

ステップ③ 石器を掘り出す

ステップ④ 石器の出土場所を記録する

ステップ④ 石器の出土場所を記録する

を解くために

現場で記録した情報をもとに石器を分析すると、いろいろな事実が浮かび上がってきます。

例えば、出土した層ごとに石器を比較すると、時期によってその形や種類に違いがあることがわかります。
また石器の出土位置と石器同士の接合関係を組み合わせることで、石器作りの様子や当時の人びとの動きが見えてきます。

ローム層のミカタ

ローム層は含まれる火山噴出物(火山灰やスコリア※)の違いによって細かく分けられ、地表から深くなるにつれて年代が古くなっていきます。
層を分ける決め手となる構成粒子や色、硬さなどの土層の特徴は、写真だけでなく、所見として文字でも記録します。

※スコリア・・・ 多孔質の火山噴出物で暗色、黒色~暗灰色のもの。明色・淡色のものは軽石。

VS層

10YR 5/6(黄褐色)※ 硬質。粘性は強い。大粒赤褐色スコリアの最密集部分。「青柳ローム層」に対比。武蔵野台地標準土層Ⅲ層相当。

ⅤH①層

10YR 5/8(黄褐色) ⅤS層より相対的に硬質。赤褐色スコリアの他、赤橙色スコリアを多量に含む。黒色スコリアも認められる。武蔵野台地標準土層Ⅳa層相当。

ⅤH①~②層

7.5YR 4/6(褐色) 小粒の赤橙色スコリア、黒色スコリア(径0.5~2㎝)を含む。硬質、粘性強い。武蔵野台地標準土層Ⅳa~Ⅳb層相当。

ⅤH②層

7.5YR 4/4(褐色) 黒色スコリア(径0.5~2㎝)を多く含む。硬質、粘性強い。武蔵野台地標準土層Ⅳb層相当。

※土の色をマンセル表色系に従い、色相(色み)・明度(色の明るさ)・彩度(色の鮮やかさ)の3属性で表している。「色相 明度/彩度」という表記になっており、括弧内に相当する色名(標準土色帖による)を記している。明度・彩度は数字がそれぞれ大きい方が明るく、鮮やかである。

旧石器と層位

「現場」で記録した情報をもとに石器を分析すると、いろいろな事実が浮かび上がってきます。

例えば下に挙げたのは、多摩ニュータウン遺跡群で出土した旧石器を出土した層ごとに並べたものです。
これをみると、層ごとに石器の形や種類が少し違います。
それぞれの層は年代の違いを示しており、旧石器時代の中でも時期によって異なった石器や石器づくりの技術があったことがわかります。

ⅤS層

尖頭器

後期旧石器時代末~縄文時代草創期 TN No.426遺跡(八王子市堀之内)

a. 細石刃 b. 細石刃核 c. 掻器

後期旧石器時代末 TN No.301遺跡(八王子市鑓水)

ⅤH①層

a. 石核 b. 加工痕のある剥片 c. 尖頭器 d. 掻器 e. 削器

後期旧石器時代後半 TN No.496遺跡(八王子市下柚木)

ⅤH①~②層

a. 石核 b. 石刃 c. ナイフ型石器 d. 彫掻器 e. 掻器

後期旧石器時代後半 TN No.512遺跡(八王子市松木

石器の接合からわかること

石器や剥片をくっつける作業を接合といいます。
接合の過程を観察すると、石を打ち割った順番などの石器作りの技術がわかります。
また接合した資料を現場で得た情報と照らし合わせることで、当時の人々が素材となる石をどんな状態で運び込み、どこで石器を作り、そしてどこに持ち去ったのか、という遺跡を越えた活動をも垣間見ることができるのです。

接合資料1

後期旧石器時代後半 TN No.512遺跡(八王子市松木)

一つの石核に12点の石器などが接合しました。
抜け落ちた部分は利用され、持ち出されたようです。

※図の番号は石を打ち割った順案を示します。

【動画】 接合資料のミカタ(※音声はありません)

接合資料2

後期旧石器時代後半 TN No.512遺跡(八王子市松木)

石核と剥片が接合していますが、部分的に抜け落ちています。
道具の素材として用いられたのでしょうか。

接合資料3

後期旧石器時代後半 TN No.512遺跡(八王子市松木)

打ち割られた石刃などが接合した資料。
石核はなく、別の地点へと持っていったものと考えられます。

石器作りの場を追跡する

石器や剥片がまとまって出土する場所を石器集中部と呼びます。
TN №388遺跡で見つかった石器集中部の一つ、石器集中部29(S-29)では、A・B・Cの3点の接合資料が確認されました。
これら3つの接合資料の広がりから、S-29が石器作りの場であったことがうかがえます。

しかし他方で、接合資料Aには隣接する石器集中部30(S-30)で見つかった剥片も接合しています。
S-29とS-30の間でカケラが動いた要因は何だったのでしょうか?

接合線図とは

現場で記録した石器一点一点の出土位置、そして石器同士の接合関係、この二つの情報を1枚の図面で表したのが接合線図です。
点と点を線で結んだこの図面から、打ち割られた石器の散らばり方が見えてきます。

S-29 接合資料A・B・C

後期旧石器時代後半 TN No.388遺跡(八王子市松木)

このように、一つ一つの「現場のミカタ」が積み重なり「歴史のミカタ」はより深まっていきます。
そうした営みを支えるため、今日も発掘調査の現場では観察と記録が行われているのです。