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主要論文
Fermi's Golden Rule for Heating in Strongly Driven Floquet Systems
Tatsuhiko N. Ikeda and Anatoli Polkovnikov, Phys. Rev. B 104, 134308 (2021).
周期駆動によって有用な性質を物理系に発現させるいわゆるフロケ・エンジニアリングは、(孤立系では)時間が経つと駆動による加熱によって破壊されると考えられている。この研究で、加熱のスピードを正確に計算する手法を見出したほか、加熱途中の量子状態の記述を発見した。これによると、フロケ・エンジニアリングは加熱で急に破壊されるわけではなく、加熱中も生き残っていることが分かった。
共著者のPolkovnikov先生(ボストン大学)は、池田が大学院生のときに研究留学させてもらったときの受け入れ教員。当時は自分の力不足(と遊び過ぎ)で成果があまり出せなかったが、時を経てこうして良い仕事を形にして恩返しができたと勝手に思っている。
High-order nonlinear optical response of a twisted bilayer graphene
Tatsuhiko N. Ikeda, Phys. Rev. Research 2, 032015(R) (2020).
人工的に相対的なねじれ角を与えて貼り合わせた2枚のグラフェン(ねじれ2層グラフェン)における、高次高調波発生(周波数ωの強いレーザーを照射すると, 整数倍の周波数 nωの光が発生する現象)を調べた研究。ねじれ角の存在によって、普通は出てこない次数 n の高調波が発生することをフロケ理論と対称性の議論によって統一的に解釈した。
自身3作目の単著の原著論文。昔は単著で論文を掲載できたことに自分の成長を感じて嬉しくなったものですが、むしろ共著者と苦楽をともにできない寂しさのほうが勝ってきたこのごろ。日本物理学会誌の「最近の研究から」に取り上げてもらうなど、反響は結構ありました。
General description for nonequilibrium steady states in periodically driven dissipative quantum systems
Tatsuhiko N. Ikeda and Masahiro Sato, Science Advances 6, eabb4019 (2020).
周期駆動(レーザーなど)によるエネルギー注入と外部環境へのエネルギー散逸がバランスした非平衡定常状態をLindblad型量子マスター方程式で調べ、周期駆動の周波数が高い状況で解析的に解いた研究。散逸の効果によって普通は出ない物理量が出るなど、散逸があって初めて可能になる物性制御の可能性も論じた。
共著者の佐藤さん(茨城大)は、池田が大学院生だったころからの知り合いだったが、共同研究をしたのは意外にも2019年ごろから。出版社の推奨に従って慣れないWordで論文原稿を書いたら大変で半泣きで作業をしていたが、幸運にもアクセプトされたのでいい思い出になっている。
Floquet-theoretical formulation and analysis of high-order harmonic generation in solids
Tatsuhiko N. Ikeda, Koki Chinzei, and Hirokazu Tsunetsugu, Phys. Rev. A 98, 063426 (2018).
固体からの高次高調波発生(固体に周波数ωの強いレーザーを照射すると, 整数倍の周波数 nωの光が発生する現象)の理論。フロケ(Floquet)理論がこの現象と本質的に相性が良い点に注目して、この理論の枠組みを援用して半解析的な理論を組み立てた。カットオフ次数(どの次数nまで強い光が発生するか)についてのスケーリング則の予言を与えた。
共著者の常次先生は池田助教の上司で、鎮西君は常次研の当時修士課程の院生。細かいことを気にしない池田助教だが、注意深い共著者のおかげで、この論文はとても高精度に書かれている。
The second law of thermodynamics under unitary evolution and external operations
Tatsuhiko N. Ikeda, Naoyuki Sakumichi, Anatoli Polkovnikov, and Masahito Ueda, Annals of Physics (N.Y.) 354, 338 (2015).
孤立量子系(ミクロ可逆性)から熱力学第2法則(マクロ不可逆性, 時間の矢)が創発するメカニズムを提唱した意欲作。主結果は数学的定理にまとめたのでこれ自体は正しいが、時間の矢の解釈は研究者それぞれで、色んな議論を巻き起こした(D1の終わりに投稿した論文が最終的に別の雑誌に受理されたのがD論公聴会の直前だった)
D1の秋にボストン大学のPolkovnikov教授の研究室に滞在してスタートした研究が、帰国後に作道先輩と上田先生の指導によりパワーアップ。費やした長い時間の分だけ思い入れの強い作品で、とことん付き合って指導してくれた共著者に深く深く感謝している。
Testing whether all eigenstates obey the eigenstate thermalization hypothesis
Hyungwon Kim, Tatsuhiko N. Ikeda, and David A. Huse, Phys. Rev. E 90, 052105 (2014).
孤立量子多体系の熱平衡化メカニズムとして有力視されていた「固有状態熱平衡化仮説」(Eigenstate Thermalization Hypothesis, ETH) が強い意味で成り立つことを数値的に示した研究。
筆頭著者のHyungwonとは2013年のBoulder summer school(アメリカ・コロラド州)で知り合い、意気投合。議論するうちに、実は同じ問題を別のモデルで研究していることが分かり、2つのモデルの研究結果をくっつけて共同発表しました。Huse教授(プリンストン大)は当時、Hyungwonの博士課程指導教員。
Finite-size scaling analysis of the eigenstate thermalization hypothesis in a one-dimensional interacting Bose gas
Tatsuhiko N. Ikeda, Yu Watanabe, and Masahito Ueda, Phys. Rev. E 87, 012125 (2013).
「固有状態熱平衡化仮説」(Eigenstate Thermalization Hypothesis, ETH) を可積分モデル(Lieb-Liniger model)で検証した論文。可積分モデルでは、ETHは強い意味では成り立たないものの、弱い意味では成り立つという少し意外な結果を得た。
あまりに物を知らないM2の池田は、とある研究会で可積分系なるものの存在を知って「ETHの研究に使えそう」と嬉しくなり猛スピードで勉強して実際に使ってみた。この研究とその前の1つを合わせて修士論文をまとめた。共著者の上田先生は池田大学院生の指導教員、渡辺さんは上田研の3学年上の先輩(Macの初期設定やC言語の使い方から手取り足取り教わった)。