研究

マラリア原虫の宿主細胞感染機構の解明

感染した蚊の吸血に伴いスポロゾイトが皮膚内に打ち込まれることで、ヒトへのマラリア伝搬がスタートする。スポロゾイトがどのようなメカニズムで肝細胞へと到達し、効率よく寄生するのか、また肝細胞内で宿主に見つかることなく活発に増殖し、次のステージへと分化できるのか分子レベルで解明しようとする。これまで、逆遺伝学のツールを駆使し、肝臓への到達、感染、肝細胞内での発育に関わる分子を11個同定し、肝臓感染機構の解明に貢献してきた。さらに、蚊の体内での受精、発育、感染に関わる分子も複数同定した。

今後は、得られた知見を生かして、相互作用する宿主細胞あるいは原虫分子を見つけることで、宿主と寄生体の相互作用の観点から感染機構の全貌の解明を目指していく。

ワクチン開発を目指した基礎研究

マラリアの最初のワクチンとして、RTS,Sと呼ばれるものが2021年にWHOに認められました。これは、蚊に吸血された時に皮膚内に打ち込まれるスポロゾイトを標的とし、感染を阻害することを目的に設計されたものです。開発に40年近くかかった本ワクチンの使用がアフリカの子供たちに推奨されることは、大きなニュースではありますが、実際に重症化抑制効果は30%程度にとどまるとも言われ、まだまだ改良が求められています。私たちは、基礎研究の結果に基づいた新規感染阻止ワクチンの開発を目指しています。ネズミマラリア原虫のスポロゾイトの中で、標的分子のみをヒトマラリア型に置換した「モデルスポロゾイト」の作出を通じて、簡便な効果評価系を確立します。

 また、蚊の中の原虫の受精や発育を阻害することで、蚊による伝搬を阻害しようとする「伝搬阻止ワクチン」の開発にも力を入れています。注いでいます。生殖体表面のタンパク質から標的抗原をスクリーニングし、その特異抗体により伝搬が阻害されるか検討します。東南アジアなどで流行する実験室三日熱マラリア原虫は、実験室内で培養ができないために、流行地の患者さんの血液を用いて伝搬阻止効果の測定を行います。このように、流行地の研究者たちと協調的に研究を推進していきます。

ゲノム編集技術を用いたマラリア原虫の遺伝子発現制御法の開発

マラリア原虫の遺伝子組換え技術は、1990年代に開発されて以来、数多くの遺伝子機能解析に用いられてきました。

住血吸虫の細胞外小胞を通した産卵誘導機構の解明

住血吸虫は他の吸虫とは異なり雌雄異体です。そのため、他の吸虫類とは異なる生殖様式、とりわけ、雌雄のコミュニケーションを必要としていると考えています。これまで当研究室で、住血吸虫の持つ”細胞外小胞”の研究を行なってきました。細胞外小胞は多くの生物に見られる細胞間コミュニケーション分子であり、多くのタンパク質、脂質、そして核酸を他の細胞、組織、個体に伝播しています。住血吸虫においては、雌雄のペアリングと赤血球の摂取という二つのイベントが、この細胞外小胞の分泌を強く誘導することが見つかりました。また、細胞外小胞の分泌に関わる分子の一つであるカルパインを阻害したところ、細胞外小胞の分泌と産卵誘導が強く抑制されました。このことから、カルパインを介した細胞外小胞での雌雄コミュニケーションは産卵に関係があることが示唆されています。

現在、細胞外小胞の分泌や産卵誘導に関与するカルパインファミリー遺伝子発現をRNA干渉法を用いてノックダウンすることで、担当分子の同定と、それに関わる機能について調べています。

住血吸虫感染リスクマップ作成のための分子診断法の開発

メコン住血吸虫の流行地であるラオス国において、フィールド研究として現地の住民や中間宿主貝を採取し、住血吸虫DNAを検出するLAMP法から診断を行い、流行地でのリスクマップを作成しました。特に、糞便を用いたLAMP法は、従来の糞便検査法であるKK法よりも高い感度でありました。また、中間宿主貝の感染を簡易DNA抽出を利用したLAMP法により、短時間での貝の陽性率の測定を行うことを可能にしました。今後は、感染がどのような環境要因で変化するかについてを調べるツールとして役立てていきます。