京都大学出身弁護士有志のアピール


私たちの緊急アピールの呼びかけ人のひとりである塩見卓也弁護士が参加する、京大出身者の弁護士有志による、立て看問題に関する法的見解の声明が発表されました。この場を借りて公表します。


京都大学の「立て看板」撤去問題に関するアピール


新聞報道等によれば、京都大学吉田キャンパスにある「立て看板」について、京都市が屋外広告物条例に違反するとして是正するよう指導してきたことをうけて、京都大学が本年5月1日から立て看板を設置した学生らに撤去を求めることを決め、門川京都市長がこうした大学当局の対応を評価して、学生は撤去に応じるべきだとの考えを示したと伝えられており、5月13日早朝に立て看板は全て撤去されたとのことである。

しかし、上記述べたような今回の京都大学の立て看板撤去をめぐる一連の動きは、憲法が保障する表現の自由という重要な基本的人権をおびやかす危険を多分にはらんでいるといわなければならない。

そこで、かつて京都大学に在籍し、現在、弁護士として全国各地で活動している私たちは、法律専門家の立場から今回の事態をこのまま見過ごすことができないと考え、ここに以下のとおり見解を表明して、京都市と京都大学に対して、今回の立て看板撤去に関する措置の見直しを強く求めるものである。

学生が設置する立て看板は、そのほとんどが、意見表明や学内団体の活動に関するものなどの学生の自主的な活動を対外的に表示するためのものであるから、言論表現の一形態として憲法上その自由が尊重されるべきものであることはいうまでもない。

そしてまた、表現の自由が民主主義社会を支える重要な基本的人権であることを考慮すると、その表現活動の自由に対する制限が許されるのは、

(1)明白かつ現在の危険が存在する場合に限定されるべきこと(明白かつ現在の危険の原則)

(2)その制限の程度・手段は、目的達成のために必要最小限のものでなければならないこと(必要最小限の原則)

(3)その制限を定める法令の規定は、いかなる表現行為を規制するか具体的で明確なものでなければならないこと(明確性の原則)

といった原則にもとづくことが必要であり、これらの原則の厳格な遵守が要求されているところである。

さらにまた、表現活動に対する事前の抑制は、検閲を禁止した憲法21条2項の趣旨に照らして、規制の範囲が広範で、濫用の危険が大きいことから、特別の場合を除き、原則として許されないものとされている(事前抑制禁止の法理)。

現行の京都市屋外広告物条例もまた、その広告物が営利を目的とするものと、非営利を目的とするものとを区別して、非営利を目的とするものについては、原則として、事前の許可を要しないものとしており(同条例第9条1項但書第5号)、不十分ながら表現の自由の保障に配慮した規定をおいている。

しかし、今回の立て看板の撤去を求める一連の措置は、営利目的か、非営利目的であるかを考慮することなく、一律に撤去を求めている点で、表現の自由に対する配慮を欠くものであって、その妥当性には疑問がもたれるところである。

また、今回の撤去の根拠としてあげられている倒壊等による公衆に危害を及ぼすおそれについても、そうであれば、その危険性を具体的に指摘して、個々の立て看板毎に個別に規制措置を講ずべきものであって、そのことを抜きにして一律に禁止することは、表現活動に対する過度の規制にあたるものと考えられる。

なおまた、今回の撤去に関する措置は、歴史景観に配慮したことによるともいわれているが、そこでいわれる歴史景観は何かが問われる必要があることは勿論のこと、表現活動の自由に対する配慮を抜きにして景観の配慮だけを優先させることは、屋外広告物法が「この法律及びこの法律の規定に基づく条例の適用に当たっては、国民の政治活動の自由その他国民の基本的人権を不当に侵害しないよう留意しなければならない」(第29条)と定めていることにも反するものであって、明らかにバランスを欠いた議論である。

以上述べたとおり、京都大学の立て看板撤去をめぐる今回の事態は、憲法が保障する表現の自由の尊重という視点が著しく稀薄であり、大学における学問研究の自由が表現の自由と密接不可分の関係にあることを考慮すると、このままでは大学における表現の自由は勿論のこと、学問の自由も含めて基本的人権の保障を危うくするのではないかとの危惧がもたれるところから、私たちはあえて、京都市と京都大学に対して、立て看板撤去に関する措置の見直しを求めて、このアピールを発表するものである。

2018年5月22日

京都大学出身弁護士有志一同

(京都) 新阜創太郎、荒川英幸、飯田 昭、井関佳法、岩橋多恵、大河原壽貴、大杉光子、川口直也、久米弘子、小松 琢、佐野就平、新谷正敏、住田浩史、高木野衣、塩見卓也、武田信裕、谷 文彰、塚本誠一、塚本英伸、辻 孝司、寺本憲治、遠山大輔、豊福誠二、中島 晃、中田政義、長野浩三、野々山宏、拝野厚志、尾藤廣喜、日野田彰子、藤原東子、船岡亮太、古川 拓、堀 悠子、増田朋記、三上侑貴、湖海信成、大脇美保、民谷 渉、村山 晃、毛利 崇、森田基彦、諸富 健、山口 智、吉田雄大、以上45名

(大阪) 青木佳史、安達友基子、荒木晋之介、飯島奈絵、池本順子、石田法子、石橋徹也、稲生貴子、岩城 穣、江村智禎、遠地靖志、大畑泰次郎、大森景一、奥井久美子、奥津 周、甲斐一真、甲斐みなみ、片田真志、加藤高志、金井塚康弘、川崎拓也、北本修二、木原万樹子、金喜朝、熊谷卓也、小久保哲郎、後藤壮一、島尾恵理、新宅正人、杉田峻介、杉本吉史、高江俊名、田中 厚、田中智晴、辻川圭乃、寺野朱美、中川 澄、中嶋 弘、中島清治、中島宏治、中西 基、西念京祐、西原和彦、西村 健、原野早知子、藤木達郎、堀川智子、正木みどり、増田 尚、松尾友寛、松尾洋輔、真継寛子、宮地光子、村松昭夫、室谷悠子、森 理俊、矢吹保博、山下 真、山田 徹、和田信也、以上60名

(兵庫) 伊藤明子、白子雅人、辰巳裕規、増田正幸、南野雄二、吉田哲也、以上6名

(東京) 伊東良徳、小川英郎、芝田佳宜、中西紀子、中村新造、原田學植、以上6名

(滋賀) 佐藤正子、玉木昌美、土井裕明、福馬 摂、以上4名

(愛知) 青木恭美、舟橋民江、堀 龍之、以上3名

(神奈川) 姜 文江、向川純平、鈴木啓示、以上3名

(新潟) 黒岩海映、平 哲也、ニ岸直子、以上3名

(三重) 伊藤誠基、福井正明、以上2名

(北海道) 加藤丈晴

(埼玉) 猪股正

(福井) 海道宏実

(和歌山) 堀江佳史

(大分) 中村多美子

(長崎) 古坂良文

以上、138名



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