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──台湾茶の風味を育む自然と人の知恵
台湾茶の風味を語るうえで欠かせないのが「産地特性」です。茶の味を決めるのは、単に品種や製法だけではありません。土壌の性質、日照の強さ、降水量、昼夜の気温差、そして農家による管理方法など、さまざまな要素が複雑に絡み合って、茶の個性が生まれます。
同じ産地の中でも、茶畑ごとに微気候や土質が異なり、ひとくくりにすることはできません。したがって、産地を理解するためには、各地域の条件を細かく観察し、土地の声に耳を傾けることが必要です。
消費者がお茶を選ぶ際、「産地」は最も注目される要素のひとつです。特に台湾では、海抜の高さが価格と品質を左右する重要な指標となっています。阿里山、杉林渓、梨山、大禹嶺などの高山茶産地は、それぞれ独自の気候と風味を持ちますが、「どの山の茶が最も良いか」という単純な比較はできません。
台湾は南北約400kmにわたる山岳の国であり、地域によって気温・湿度・日照が微妙に異なります。たとえば、標高900mの東部・赤柯山と、緯度が近い標高1400mの嘉義梅山が同様の気候を持つように、標高だけでなく地域の地理・気候の組み合わせが風味を決定づけているのです。
陸羽の『茶経』には「上者生爛石、中者礫壤、下者生黄土」と記されています。これは、排水性・通気性・養分吸着力といった土壌の物理性が茶の品質に大きく影響することを意味しています。
たとえば、礫質土壌は排水と通気がよく、根の発達に適しており、ミネラルが豊富なため風味の強い茶になります。奇来山がその代表です。赤土(紅土)はミネラルと有機質のバランスが取れており、味の調和が良く、名間郷や魚池郷がその例です。黒土は有機質が多く、風味が濃厚で柔らかく、凍頂の茶がこれに該当します。泥土は繊細でしなやかな風味を持ちますが、水はけに注意が必要で、木柵が代表的な産地です。
また、土壌のpHは茶樹の栄養吸収に直接関わり、4.0〜5.5の酸性環境が理想的とされています。有機質が多く、微生物が豊かな土地では根が健康に育ち、結果として香味が立体的な茶になります。逆に、農薬や化学肥料の過剰使用は微生物バランスを壊し、茶の生命力を弱めてしまいます。
茶樹の成長力は、芽と葉の状態に表れます。茶樹には喬木型・半喬木型・灌木型の三種があり、芽は「定芽」と「不定芽」に分かれます。健康な茶樹は芽吹きが旺盛で、葉数も多く、結果的に生産量と品質が上がります。
葉は光合成によって栄養を生み出す工場であり、葉の成熟度と健康状態が茶の香味物質(カフェイン・ポリフェノール・アミノ酸など)を決めるのです。花や実は繁殖のための器官ですが、開花が多すぎると栄養が分散し、葉の生産力が落ちるため、茶園では意図的に花芽を抑制します。
日照は茶葉の成分形成に直接関わります。強すぎる日差しはアミノ酸含有量を減らすため、高山茶園では霧や雲が自然の遮光となり、アミノ酸が豊富で柔らかい味の茶ができます。日照が弱すぎても光合成が減少するため、「適度な光」と「柔らかな散光」の環境が最良です。
昼夜の気温差が大きいほど、昼の光合成で蓄積した栄養が夜間に消耗されず、葉に残ります。その結果、香り高く甘味のある茶が生まれます。高山産地が珍重される理由の一つがこの温度差です。ただし、過剰な雨や乾燥は根の機能を損なうため、適度な水分バランスが重要です。
どんなに優れた土や標高条件があっても、茶園管理が適切でなければ良い茶は生まれません。自然の循環を重視し、有機質を補い、微生物と昆虫の力を活かす管理が理想です。
たとえば、野放は自然任せで、風味は独特だが収量は少なくなります。永続農法は落葉や雨水を肥料に循環させ、土地の生命力を保ちます。有機農法は化学肥料を使わず、国際認証規範(JAS・USDA・IMO)に準拠した方法です。経済慣行農法は安定した生産を重視する一般的な手法です。
土地を人の「胃腸」にたとえるなら、健康な胃腸が栄養を吸収して体を作るように、健全な土壌があってこそ、香味豊かな茶が生まれるのです。
茶樹は、人間と同じように環境によって成長や特徴が変わります。人間が気候に合わせて暮らすように、茶樹も気温、日照、湿度、風などの環境条件によって独自の成長を遂げます。茶に現れるその土地ならではの性質は「山頭気」と呼ばれます。
風土は土壌や栽培管理とも密接に関わっており、地域ごとに適した品種や栽培方法があります。異なる産地や品種の違いを理解することが、茶の風味を深く味わうために重要です。
台湾茶の品質は、気候や品種だけでなく、土壌の健全さによって支えられています。過剰な施肥は短期的には成長を促すように見えても、長期的には土を弱らせ、結果的に香りや味の低下を招きます。
「良い茶は、良い土から」
そのためには、肥料の量とタイミングを見直し、自然と調和する茶園管理を続けることが、何よりの秘訣なのです。
温度は、茶樹が生きていくうえで欠かせない重要な条件です。茶樹の生理活動や化学反応の速さは、温度によって大きく左右されます。
茶樹が最もよく育つのは、20~25℃の温度帯です。
温度が上がると、炭素代謝が活発になり、糖の合成や移動、ポリフェノールの蓄積が進みます。
逆に温度が下がると、窒素代謝が盛んになり、タンパク質やアミノ酸といったうま味成分が多く作られます。
標高が100メートル上がるごとに、気温はおよそ0.6℃下がります。高すぎる場所では気温が低くなりすぎ、茶樹の生長期が短くなったり、凍害が起きたりして、収量や品質に悪影響を及ぼします。
茶園の傾斜の向きは、日光の量や地表の温度変化に大きく関わります。日当たりの良い斜面では太陽光を多く受け、温度が高く乾燥しやすい環境になります。
一方、日陰の斜面では気温が低く、湿度が高くなります。
そのため、
日向の茶園では春・冬の茶の生育が良く、
日陰の茶園では夏・秋の生育が優れます。
また、傾斜が急すぎると(約28度以上)、雨水による土壌流出が起きやすくなるため、茶園の造成が制限されます。
茶は春・夏・秋・冬の気候によって生育速度が異なり、それに伴い香り・味・成分にも違いが生まれます。
以下では、代表的な高温地と低温地の例を紹介します。
高温地域 ― 満州郷の「港口茶」:満洲郷の「茶山」地区は標高約300メートルと低く、熱帯気候に属しています。
四季を通じて暖かく、平均気温は中海抜地域より3~4℃高いため、日照を十分に受けて葉が厚く、養分をたっぷり蓄えます。この地域では、強烈な日差しと海風が吹き、茶樹は厳しい環境に耐えるために多くの栄養を蓄積します。
そのため、港口茶の葉は厚く、水分が少なく、味が濃いのが特徴です。淹れるときは熱い湯を使い、5秒ほどで一煎目を出すのがポイント。
苦みと甘みが共存する独特の風味があり、五、六煎しても香りが続く力強いお茶です。
低温地域 ― 大禹嶺:大禹嶺は、標高2,200~2,700メートルという台湾でも最も高い場所にあります。
周囲を原始林に囲まれ、1年中雲霧に包まれる環境で、冬には霜や雪も降ります。昼夜の温度差が非常に大きく、春茶の気温は7~15℃、冬茶は-2~13℃ほどです。この厳しい環境では茶樹の生長が遅くなりますが、その分葉が厚くなり、香り高く甘みのある高品質な茶ができます。大禹嶺の茶園では主に青心烏龍を栽培し、年2回(春と冬)だけ収穫します。
茶水は金色がかった透明な緑色で、澄んだ花の香りと清らかな甘みをもち、「人間極品」と呼ばれるほどです。
海抜が高く気温が低いほど、茶葉の中のポリフェノールやカテキン(渋み成分)は減り、アミノ酸や香気成分(うま味や香り)は増えます。
これが「高山茶は香りが良くてまろやか」と言われる理由です。
香気成分の中には、
ベンゼンエタノール(バラ香)
ジャスミンケトン(ジャスミン香)
沈香アルコール(玉蘭香)
ベンゼンプロピル(水仙香)
などがあり、高山の気候によってこれらの香りがより豊かに形成されます。
春茶は低地から高地へ、冬茶は高地から低地へと順に収穫が進みます。
茶樹はおよそ13℃を下回ると成長を止めるため、高地の茶(福寿山・大禹嶺など)は夏に育った葉を秋に収穫し、その後休眠に入ります。
大葉種:葉温20~35℃で光合成が最も活発。35℃を超えると急激に低下。
中・小葉種:10~35℃で光合成が可能で、20~35℃が最適。
実験では、日中33℃・夜27℃の条件で茶芽の生長が最も早く、25℃前後の根温で発芽・成長が最も良好でした。
30℃以上では生長が遅れ、萌芽まで2週間以上遅れることがわかっています。
また、灌漑(かんがい)を行うと土壌温度の変動が小さく安定し、茶樹の生育が安定します。
中国科学院の研究によると、夏・秋に日よけネット(遮光率37〜80%)を使うと、茶園の気温や土壌水分が安定し、茶樹の光合成環境が改善されます。
露地(遮光なし)の茶園では、日中に葉温が40℃を超えて光合成が止まりやすくなりますが、遮光を行うと葉温や土壌温度が下がり、高温・乾燥ストレスを防ぐことができます。
さらに、遮光処理を行うと茶葉の葉緑素が増え、色が鮮やかで品質の高い緑茶ができます。
特に遮光率80%の条件では、ポリフェノールとアミノ酸のバランスが良く、「上級緑茶」に適した原料が得られました。
茶樹の生育や茶の品質は、温度・日照・湿度・標高・傾斜など多くの環境要因が関わっています。
温度が高い地域では力強い味の茶ができ、涼しい高山では香り高くまろやかな茶が育ちます。
自然条件の違いこそが、台湾各地の茶の個性を生み出しているのです。
― 春茶・夏茶・秋茶・冬茶・冬片とは ―
台湾では、茶葉の収穫時期をもとに「春茶」「夏茶」「秋茶」「冬茶」「冬片(とうへん)」などに分けています。けれども「春茶はいつ?」「冬茶って冬に採るの?」と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
実は、茶の収穫時期は単にカレンダーで決まるものではなく、「茶園の標高」と「気候」によって大きく変わります。
台湾は島の中に3,000メートル級の高山がそびえるため、同じ季節でも平地と山地ではまるで別の国のように気候が違うのです。
海抜200〜400メートルほどの平地や丘陵地では、なんと一年に6回も茶葉を摘むことができます。
順に「春」「夏」「秋」「冬」「冬片(冬至の前後)」「不知春(ふちしゅん・春節の頃)」の6季です。
「不知春(春知らず)」とは、春にはまだ早く冬茶には遅い、ちょうどその中間に収穫されるお茶のこと。名前の通り「春を知らないお茶」です。
一般的に、温暖な地域では一度摘んでから次の収穫まで約60日ほど。暑いほど成長が早く、寒いほどゆっくり育ちます。
そのため、標高の高い梨山(りさん)や合歓山(ごうかんざん)などの高山茶区では、収穫時期が平地とはまったく異なります。
茶樹が元気に育つのは18〜25℃の気温です。10℃を下回ると中生種の茶樹は冬眠を始め、8℃以下になると早生種も休眠します。標高が100メートル上がるごとに気温は約0.6℃下がるため、平地が20℃のとき、標高2,000メートルの茶園では約8℃という計算になります。
このため、高山の茶樹は冬になるとすぐに休眠準備に入り、茶葉は老化して摘めなくなります。そこで、冬茶の収穫は「最初の寒気(東北季節風)」が吹くころ、高い畑から順に行われます。早い年は9月末には高山茶の摘み取りが始まることもあります。
一方、春茶はその逆で、低地から順に暖かくなり、最後に高山で収穫されます。梨山や合歓山では、5月中旬〜6月初めが春茶のシーズンです。つまり、同じ「春茶」でも標高によって時期が大きくずれるのです。
一年は「二十四節気」に分かれています。これは茶づくりにとっても大切な暦です。
自然の移ろいを感じ取り、天候に合わせて収穫や製茶の時期を見極めることこそ、良いお茶を生む秘訣です。
春茶はその年の最初に摘まれるお茶です。立春から立夏の間、つまり2月初め〜5月初めごろ。
一般的に、4月上旬の「清明」ごろからが最盛期になります。
台湾では清明以後、芽がふくらみ二枚葉になるころがちょうど摘み頃。南投県名間や竹山のような温暖な地域では「四季春」という品種を使い、春茶が早めに出回ります。最も珍重されるのは「清明」から「立夏」までに摘まれた「正春茶」で、台湾烏龍茶の代表格です。
夏茶は立夏から立秋まで、5月〜8月の間に摘まれます。気温が高く日が長いこの季節は、お茶の成長も早く、2回の収穫が可能です。5月〜6月初めの「頭水夏(とうすいなつ)」、6月下旬〜7月下旬の「二水夏(にすいなつ)」があります。この時期に「小緑葉蝉(ウンカ)」が茶葉を噛むことで、甘く蜜のような香りをもつ「東方美人茶」が生まれます。
一年のうちで最も特別で高価なお茶ができる季節です。
秋茶は立秋から立冬の間、8月初め〜11月初めに収穫されます。
台風が多く、昼夜の温度差が大きい時期で、茶の香りがより高くなります。特に9月の「白露」ごろは芽が太くなり、客家では「白露筍(はくろじゅん)」と呼ばれます。気温が下がるほど風味はよくなり、10月末には高山茶区で最後の収穫が行われます。
冬茶は、11月の「立冬」以降に収穫されるお茶です。
寒気団が南下して、東北風が吹くころに摘まれた茶葉は厚く成分が濃く、清らかな香りが特徴です。
この「冬の味(冬仔気)」が出るのは、だいたい11月下旬〜12月上旬。
さらに寒い年には「冬片(とうへん)」と呼ばれる貴重な新芽が冬至の前後に摘まれることもあります。
多くの人が「春茶」「冬茶」と聞くと、カレンダー上の春や冬を想像しますが、実際の茶摘みは土地の気候次第。
春夏秋冬は人が時間を区切るためのものにすぎず、茶は自然のリズムに従って育ちます。
そのため、お茶を選ぶときは「時期」より「どの茶区で、どんな気候のもとに育ったか」を意識するのが大切です。これを知ると、台湾茶の奥深さがぐっと身近に感じられるでしょう。
お茶の世界では「一芯二葉(いっしんによう)」という言葉をよく耳にします。
これは「新芽の先端(芯)とその下の二枚の若葉」を指し、緑茶・紅茶・烏龍茶などあらゆる茶に“理想的な摘み方”として宣伝されがちです。
しかし、実際にはお茶の種類によって、求められる茶葉の成熟度はまったく異なります。
緑茶は「できるだけ若い芽」が理想です。芽が小さいほど高級とされ、まだ葉が開ききらない柔らかな新芽を摘みます。
紅茶の場合は、芽が大きい「大葉種」を使うため、やや育った若葉を摘み取ります。
一方で、烏龍茶や包種茶などの半発酵茶は、これとは逆で、「ある程度成長して成熟した葉」が求められます。つまり、一芯二葉は必ずしも正解ではないのです。
半発酵茶をつくる際は、「開面摘み(かいめんづみ)」と呼ばれる成熟した新梢を選ぶのが基本です。
小開面:一枚目の葉が二枚目の半分ほど開いた状態
中開面:一枚目が二枚目の3分の2ほど開いた状態
大開面:一枚目と二枚目が同じくらいに開いた状態
このとき、芽の成長が止まり、葉がしっかりしてきた「駐芽(ちゅうが)」を持つ茶葉が理想です。
葉肉が厚く、香りや甘みのもととなる成分が多く含まれており、萎凋(いちょう)や発酵などの工程にも耐えられます。
これに対して、若すぎる芽(柔らかい一芯二葉)は半発酵茶には不向きです。発酵がうまく進まず、香りも味も乏しい茶になってしまいます。
若い芽ばかりを摘むと、見た目は美しくても味は苦く渋くなります。
未成熟な葉は糖分が少なく、ポリフェノールが多いため、発酵不足になりがちです。
また、茶水(抽出液)は一煎目だけ甘く、すぐに苦味だけが残る傾向があります。
さらに問題なのは茶樹への負担です。
柔らかい芽を頻繁に摘み取ると、葉(栄養器官)が足りずに茶樹の生育力が弱まり、寿命が短くなります。
その結果、茶農家は生産量を保つために肥料や成長ホルモンを過剰に使い、環境にも悪影響を及ぼすのです。
昔の台湾では、肥料が少なく自然に育つ茶園が多く、葉が硬くなってから摘むしかありませんでした。
そのため、昔の粗悪茶の印象から「硬い葉=悪い茶」と思われがちですが、現在の管理された茶園では事情が違います。
成熟して柔らかい葉こそ、香りと味の深い半発酵茶を作る最適な原料なのです。
若摘み茶は例えるなら、まだ青い状態で収穫して追熟させたバナナのようなもの。見た目はきれいでも、甘みも香りも足りません。
「歩留まり」とは、摘んだ生葉(茶菁)からどれだけの製茶ができるかを示す指標です。
昔は「生葉4斤で毛茶(製茶)1斤」が標準とされ、それより少ない量で仕上がれば「歩留まりが良い」と言われました。歩留まりが良いお茶は、葉がしっかり成熟し、水分が少なく、晴天の昼に摘まれた茶です。香り・味ともに豊かで、熟した花や果実のような香りを持ちます。
反対に、柔らかすぎる若葉を摘むと、水分が多くて歩留まりが悪く、5〜6斤の生葉が必要になります。
できあがった茶は黒く締まり、見た目は立派でも香りが弱く、青草っぽい苦味が残ります。
台湾の半発酵茶では、「成熟した開面の茶葉」こそが高級茶の原料です。
若い芽を摘めば一見美しくても、茶樹も味も弱ってしまいます。見た目や宣伝文句に惑わされず、「歩留まりがよく、成熟した葉で作られた茶」を選ぶことで、香り高くまろやかな本来の台湾茶を味わうことができます。
― 葉の構造・品種の違い・茎の役割 ―
お茶の風味をつくる成分(香りやうま味、渋みなど)は、ほとんどが茶葉の**葉肉(ようにく)**の中にあります。
つまり、茶葉の構造を知ることは、味を理解するための第一歩です。
茶の葉は、他の植物と同じように「表」と「裏」で働きが異なります。表面はツヤのある角質層で覆われ、日光を受けて光合成を行います。裏面はやや白っぽく、たくさんの気孔があり、呼吸や水分の蒸散を担います。その中の「葉肉層」は、
上の層:柵状組織(さくじょうそしき) … 細胞が整然と並び、葉緑体を多く含む部分。
下の層:海綿組織(かいめんそしき) … 不規則に並ぶ細胞で、隙間が多く、物質を蓄える部分。
この海綿組織の細胞の中には液胞と呼ばれる小さな袋があり、ここにポリフェノール、カフェイン、テアニン、香気成分、カロチン、酵素など、お茶の味と香りのもとがぎっしり詰まっています。
茶樹の品種は大きく「大葉種」と「小葉種」に分かれます。これは葉の大きさだけでなく、葉肉の構造にも違いがあります。
大葉種(例:プーアル茶、紅玉紅茶など)は、柵状組織が1層で、海綿組織が厚く豊か。
→ 海綿組織が多いため、液胞にたくさんの味成分が蓄えられ、ボディが強く、苦味や渋みがしっかりした味になります。
小葉種(例:台湾烏龍茶など)は、柵状組織が2~3層と厚く、海綿組織が比較的薄い。
→ テアニン由来の新鮮な甘みと柔らかさが感じられます。
つまり、大葉種は「雄渾で重厚」、小葉種は「繊細でまろやか」。
構造の違いが、そのまま味わいの違いにつながっています。
茶樹のどの部分にどんな成分が多いかを見ると、味の理由がさらに明確になります。
渋みのもと ― ポリフェノール
ポリフェノールは、若い芽ほど多く、成長した葉や茎には少なくなります。
順に:茶芽 > 一葉目 > 二葉目 > 老葉・茎。
苦みのもと ― カフェイン
カフェインもポリフェノールと同様に、若芽に多く、茎にはほとんど含まれません。
茎のカフェイン量は葉の半分から1/10ほどしかないことが分かっています。
甘みのもと ― テアニン
驚くことに、テアニンは芽よりも茎に多く含まれています。特に「第一節」の茎には、芽の5倍ものテアニンが含まれ、最も古い茎でも芽の約2倍です。
このため、台湾茶では茎をあえて残す製法が多く見られます。茎に含まれるテアニンが製茶中に茶葉へ移り、甘みとまろやかさを生み出しているのです。
もし茶園を訪れる機会があれば、「一芯三葉」を摘んで、茶芽・若葉・茎をそれぞれ少しずつ噛んでみてください。
芽:柔らかいが渋く、刺激が強い。
一葉:やや苦みが出る。
二葉:苦渋みがやわらぐ。
茎:渋みが弱く、ほんのり甘く爽やか。
この体験で、科学データが実感として理解できるはずです。茎がもたらす「清らかな甘さ」は、台湾茶特有のやさしい風味の源なのです。
研究によれば、茶葉が成熟するにつれて、香気成分や塩類、糖分の含有量が増えていくことも分かっています。そのため、成熟葉を使うことで、甘みや香り、茶水のバランスが整います。
つまり、若い芽だけを摘むよりも、成熟した葉や茎を適度に含む茶葉こそ、豊かな香りと深みを持つ台湾茶の本質なのです。
茶の味は「葉肉の構造」と「どの部位を使うか」で決まる。
大葉種は厚い海綿組織で重厚、小葉種は柵状組織が多く繊細。
茎にはテアニンが豊富で、甘みと爽やかさを補う。
成熟した葉を使うほど、香り・甘み・まろやかさが増す。
お茶の味は、単に「品種」や「製法」だけでなく、葉の構造と生理が織りなす自然の科学から生まれているのです。
― 手摘みと機械摘み、それぞれの真価 ―
お茶の品質を決めるのは、摘み方よりも「摘む時間帯」です。とくに正午前後に摘む「午時菜(ごじさい)」と午後の「二午菜(にごさい)」は、茶葉の水分が少なく、最も品質が高い時間帯に収穫されます。
実は、機械摘みの方がこの「時間のコントロール」が容易なため、必ずしも手摘みより劣るとは言えません。
茶荘などで「手摘み限定」「極品手摘み茶」といった言葉を見かけますが、“手摘み=良い茶”ではないのです。逆に、機械摘みだからといって必ず品質が劣るというわけでもありません。
かつて台湾の茶園では、すべて人の手で摘まれていました。しかし1970年代に入ると、労働力不足を背景に、桃竹苗地区を中心に機械摘みが導入されます。1980年代には名間地区でも機械摘みが一般化しました。
手摘み時代の名間茶は「凍頂烏龍茶」と肩を並べるほどの品質でしたが、機械摘みが始まった当初は品質が安定せず、価格も下落しました。
手摘みの方法
人差し指に半分に割ったカミソリ片を固定し、親指と指の腹で芽の下0.5cmほどを折るように摘み取ります。葉を傷めずに柔らかく摘むのが職人技です。
昔の機械摘みは、葉の成熟度がバラつき、不揃いの原料が多く、確かに品質面で劣っていました。
しかし、茶樹の剪定法・選別機構の進歩により、現在では枝の除去や葉の選別も精密化され、機械摘みでも高品質茶が作れる時代になりました。
名間ではすでに、手摘みを上回る品質の機械摘み茶も生まれています。
坪林地区では生産量の約80%が機械摘みで、コストは手摘みの約1/5。
たとえば、毛茶1斤(約600g)の茶摘みコストは
手摘み:約170元
機械摘み:約35元(枝取りなどを含む)
手摘み茶は高価ですが、労働条件は厳しく、事故リスクもあります。加えて、現在の農村では人手不足が深刻で、最適な時間に摘めないことも多く、結果的に品質低下を招くことがあります。
茶樹の水分が最も少ないのは、午前11時から午後3時。この時間帯に摘んだ茶葉は、香りが高く、品質も最上級です。
午時菜(11時~13時):日照が強く、萎凋(いちょう)工程の管理が難しい
二午菜(13時~15時):やや気温が落ち着き、作業しやすいが、高山では霧が発生しやすく、萎凋不足のリスクもある
「日光萎凋(にっこういちょう)」は看菁曬菁(材料を見て乾かし、天気を見て乾かす)といわれるほど、気候と葉の状態を見極める熟練の技が必要です。
ところが、労働力不足で手摘みを維持することが難しく、雨天でも無理に摘む場面が増えています。
このため、春茶の発芽時期が重なり、成熟度が不十分なまま摘まれることも多く、結果的に香りの立たない苦い茶が増えているのが現状です。
一方、機械摘みはスピードが圧倒的です。
最適な時間帯に大量に摘めるため、発酵度の安定や品質管理がしやすく、結果的に高級茶を作りやすくなります。
また、悪天候のときは作業を避けることもでき、品質と収益の両立が可能になります。
ここまで聞くと「機械摘みの方が完璧なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、手摘みには香りと仕上がりの美しさという、機械ではまだ再現できない強みがあります。
烏龍茶の製造では、撹拌と静置の工程で茎から水分を吸い上げながら香気物質を生成します。
手摘み茶には茎が適度に残っているため、この「水分補給」が行われ、香りがより華やかに仕上がるのです。
一方、機械摘みは茎が切断されやすく、香気成分の生成が途中で止まってしまう、いわば“ガス欠”状態になります。
さらに、山岳地の高山茶園では傾斜が急で、機械を安定して動かすことが難しいという物理的な問題もあります。現在の小型摘採機では試験段階を出ておらず、高山茶の完全機械化には技術革新が不可欠です。
手摘み:香りと色が美しく、茎の作用で風味が豊か。ただし人手とコストが必要。
機械摘み:時間を選べて大量生産が可能。近年は品質も向上し、高コスパ。
今後は、機械摘みの利点を生かしつつ、香気を保つ新しい製茶技術や設備の開発が求められます。
「無理に摘んだ果実は甘くない」――この言葉が示すように、時代に合わせた“無理のない茶づくり”が、台湾茶の未来を支えていくのです。