England4-1

四度目のイギリス (1) 計画編


海外で初めて自力で生活した懐かしい場所として San Diego は今でも私の「心のふるさと」の一つだと感じているが,イギリスはやはり強烈なカルチャーショックを伴う幼児体験がからんだ場所であっただけに,より深層心理の中に生きている「ふるさと」の一つである.どんよりと曇った空と,雨に濡れた芝生の匂い…,この二つが非常に強烈な印象をもって心の中に棲みついているのである.

新婚旅行先としてイギリスを選んだ理由の一つは,そういう場所を家内にも見て知っておいてほしいと思ったからであった.ただ,San Diego のMacLeod 教授夫妻も,かつて非常に暖かく私を迎えてくれたこともあり,今回ぜひ足を伸ばし,やはり家内に見て知っておいてほしい,という要望がふつふつと沸き上がってきた.結局,成田→ Amsterdam → Manchester → Lake district → Oxford → London → Amsterdam → San Diego → 成田という約2週間の旅を計画することになった.


準備

私は基本的に既製のツアーや旅行プランが大嫌いである.これは,基本的にお仕着せのモノが嫌いだというせいもある.これまでも,留学の前後や学会などで何度か自力で海外を行き来している経験があるし,なんとかなるだろう,という持ち前の長男的ワガママと楽天思考に基づいて,すべては自前でプランを組み上げることにした.

イギリスに訪れる以上は,せめて気候が最もよい夏にしようという話になり,結婚から5ヶ月を待ってイギリスに行くことにした.今回のターゲットは,前回 Manchester に訪れたときに excursion で行きそびれた湖水地方(lake district)であった.イギリスは郊外の小都市はcozy で非常にいいのだが,私も一度訪れてみたいという希望があった.ひょっとするとイギリスで一番イギリスらしい所ではないかという期待を抱いていたからであった.

湖水地方には直近の空港がない.車か電車で行くしかないのだ.ヨーロッパの公共交通は階段が多く,大きな荷物を持っての移動が大変だという先行知識があったため,比較的近くにある大規模な空港であるManchesterからレンタカーを借りる,ということになった.イギリスは自動車生活に関しては,自動車嫌いの父をして,アメリカに負けず劣らず快適な地であると言わしめたほど,車での行動がしやすい国である.幸い,前回のイギリス行で買い求めた RAC road atlas (私は地図キチガイでもある) があったので,これを参考にすると,湖水地方の中心の街である Windermere までは Manchester から motorway を通って1時間ほどであることが分かった.車はすでに何度も学会の時に利用している web予約で,Ford Mondeo を予約した. 

次は宿である.湖水地方の宿の宿泊料金は高い.特に,日本語のガイドブックに載っている宿は高い.いわゆる観光地だから,現地に行けば B&B は何軒もあるだろうし,何軒か回れば何とかなる可能性は高いし,これこそ英国的旅行ではないかと思うのである(実際,そういう旅行記も多い).ただ,日本からはるばる飛んで初日から泊まるところが決まっていないというのは恐い.新婚旅行だし,少しは張り込もうという話になったのだが,どうやって決めるかが次の問題であった.

たまたま神保町の書店で Michelin の英国版を発見した.ネット情報がまだ少なかった時代にあっては大変貴重な情報源で,これで宿の選定に当たって十分な情報をえることができた.一泊の値段や smoking/No-smoking の別,Parking の有無,朝食の値段,を吟味した上で,希望的観測に基づくディスカウントを期待した2軒と,予算的にほぼ本命の3軒ほどに的を絞った.これらの宿に,我々の予算と希望に合う部屋があったら返事を下さい,と書いてfaxを打った.はたして3軒から返事が来た.うち1軒はレストランとしても独立でMichelinに載っていた宿なので食事のqualityは折り紙付きであった.幼少時にイギリスの学校給食で「汚染」された味覚を持つ私はともかく,家内にとってこれは非常に重要なポイントだったことが後で判明した.宿泊費用も予算に合っていたので,結局ここに予約を依頼した.

せっかくイギリスに行くのに,旧知の Oxford,London を訪れないで帰るのは惜しい.特に Oxford は Costswolds にも程近く,Costswolds 観光の base とするにはもってこいではないか.モータリゼーション大国におけるプランとしては,湖水地方から車で南下し,Oxford,Londonを経てイギリスを出るのが順当ではないかという妄想にとりつかれることになった.どうせ車で南下するのだから,途中で寄り道もいいね,という話になり,家内の希望で Wedgewood の工場のある,Birmingham 郊外の Stoke-on-trent に立ち寄って,その日のうちに Oxford に向かうことになった.結局,Oxford で2泊,London で2泊することになるのだが,Oxford の宿については,私の英国的旅行志向のため,現地でB&Bを決定ということになった.こいつは後で冷や汗をかくことになる.

結局,イギリス国内でのプランは,Manchester → Windermere → Stoke-on-Trent →Oxford→ Londonという道順になった.

part4-2へつづく)