当研究室及び学部共通ゼミに所属する学生たちで構成された「四十雀賞選考委員会」では、毎年、本邦の音楽文化に広く貢献した個人・団体を選定し、「四十雀賞」をお贈りしています。
賞の名前は、一橋大学の所在地、国立市の鳥で、美しい鳴き声を持つ「シジュウカラ」に由来します。
第14回四十雀賞受賞者を決定しました。授賞式・受賞記念講演会については追ってご案内申し上げます。(2026年8月)
■2026年度四十雀賞事由書 沢知恵氏
「私は通いつづけます。あなたがたの島へ。あなたがたがいなくなっても、いつまでも。」(2025)
歌手・沢知恵氏は、ハンセン病療養所の歴史と真摯に向き合い続けている。2001年よりコロナ禍の時を除いて毎年、大島青松園(香川県)でのボランティア・コンサートを開き、またほかの療養所をたびたび訪れ演奏するなど、ハンセン病療養所の入所者と長年交流を続けてきた。
こうした活動の学術成果である著書『うたに刻まれたハンセン病隔離の歴史:園歌はうたう』(岩波書店、2022)は、沢氏が岡山大学大学院教育学研究科在籍時に執筆した修士論文に基づく。沢氏は全国13カ所の国立ハンセン病療養所を精緻に調査し、療養所の機関誌や記念誌の分析、さらに入所者へのインタビューを通じ、療養所で歌い継がれてきた「園歌」の実態を明らかにした。
沢氏は、音楽が人々の心と思考を支配する恐ろしさを指摘する一方で、隔離環境で過ごすハンセン病回復者が、仲間とともに園歌を肯定的に歌うことで互いを慰め合い、懸命に生きようとしたのではないかと問いかける。長年にわたる沢氏の活動は、「隔離の歴史」の検証を通じて音楽の持つ多面性を浮き彫りにした。2024年には、韓国のソロクト(小鹿島)のハンセン病療養所を訪れるなど、近年その研究の射程はさらに広がっている。
ハンセン病療養所の園歌研究を全国的・横断的な調査に基づいてまとめた先駆的な学術成果、および音楽を通じて今なお「終わっていない」ハンセン病の歴史に寄り添い、人々の尊厳を訴え続けてきた活動への貢献から、2026年度四十雀賞を授与したい。
2026年6月
一橋大学小岩信治研究室
「第14回四十雀賞」受賞者選考委員会
【歴代受賞者の方々(敬称略)】 → 各受賞者の紹介はこちら
第1回(2013年度)岡田暁生(著作『恋愛哲学者モーツァルト』に対して)
第2回(2014年度)宗次ホール/宗次德二(小規模コンサートホールの開設・運営に対して)
第3回(2015年度)村上輝久(長年にわたる調律師としての活動に対して)
第4回(2016年度)大友良英(著作『学校で教えてくれない音楽』をめぐる活動に対して)
第5回(2017年度)「ヒロシマと音楽」委員会/能登原由美(「ヒロシマ」に関わる音楽のアーカイブ化とその普及活動に対して)
第6回(2018年度)高橋管楽器(サクソフォーンを中心とする「楽器修理」に対して)
第7回(2019年度)大澤徹訓(漫画『のだめカンタービレ』における音楽監修に対して)
第8回(2020年度)映画『LISTEN』(聾者による「音楽」の表現に対して)
第9回(2021年度)デリバリー古楽/柴田俊幸(コロナ禍における古楽器による生演奏を届ける活動に対して)
第10回(2022年度)音遊びの会(マジョリティの発想を超えた自由な音楽表現の創出に対して)
第11回(2023年度)スリーシェルズ/西耕一(日本の音楽家による作品の発信、埋もれた名作の発掘と資料の保存、広報、啓蒙活動に対して)
第12回(2024年度)関口時正ら「『ショパン全書簡』翻訳チーム」(日本におけるショパン研究・19世紀前半を中心とする音楽文化研究に対して)
第13回(2025年度)菅原正二/ジャズ喫茶ベイシー(ジャズ喫茶とアナログ・レコード文化の発展への貢献に対して)