歴史的ピアノの調査

当研究室では、愛知県立芸術大学、静岡文化芸術大学、尚絅大学、東京音楽大学、東京藝術大学の研究者とともに、20世紀序盤の本邦・東アジアに存在した/存在しえたピアノの調査に携わっています。

20世紀序盤の東アジアにおけるピアノ産業と文化(学術研究助成基金助成金 24K00018

20世紀序盤の東アジアにおける東洋・西洋の共鳴: 楽器の響きから考えるピアノ文化(科学研究費補助金 18H00623

20世紀序盤の本邦における和洋の共鳴: 楽器の響きから考えるピアノ文化科学研究費補助金 15K02100)

【お知らせ 2022.12】

このプロジェクトが調査に加わっている東京都港区教育委員会所有「日本楽器製造株式会社製初期グランドピアノ」が本年度同区指定文化財となりました。

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「赤坂子ども中高生プラザにあるこのグランドピアノは日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)製で、幅145センチメートル、奥行185センチメートル、高さ98センチメートル(屋根を閉じた状態)、85鍵盤の、標準的なサイズです。全体を黒漆塗りとし、側板には金平蒔絵(きんひらまきえ)で有職(ゆうそく)模様を、金属フレームには漆焼付で菊唐草模様を表す、といった日本の伝統的技法を用い、曲線的な譜面台や脚部等、豊かな装飾性が特徴です。旧氷川小学校が昭和5(1930)年の校舎建て替えの際に、同校の向かいにあった九条家から「皇大后使用のピアノ」として寄贈を受けました。

 同社がグランドピアノを完成させたのは明治35(1902)年で、以後国内外の博覧会に漆塗蒔絵や梨子地七宝(なしじしっぽう)等の装飾を施したグランドピアノを出品し、宮内省や文部省等官公庁への納入を行っています。このピアノも博覧会出品用として製造された可能性が考えられ、同36年第5回内国勧業博覧会出品の同社グランドピアノはこのピアノに類似しています。博覧会や皇室との関わりが考えられる最初期の国産グランドピアノと推測され、側板やフレームにみられる装飾は現存唯一のものと考えられます。日本におけるピアノ産業史の一幕を今日に伝える貴重な資料であるとともに、旧氷川小学校で長らく使われていたこと等、港区の歴史を知る上でも貴重な文化財といえます。」

『広報みなと』2022年11月 より

【お知らせ 2022.11.28】

日本音楽学会全国大会第73回全国大会(11月26日、福岡市・西南学院大学)にて、この研究の成果を発表しました。

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発表題目:ピアノ製作家、大橋幡岩(1896~1980)をめぐって:浜松市博物館所蔵「大橋資料」から見えてくる日本のピアノ製造史 

司会:小岩信治

パネリスト:井上さつき、奥中康人、三浦広彦(河合楽器製作所)、礒部弘司(ヤマハ)(登壇順)

コメンテーター:武石みどり、神村かおり

要旨:現在も名ピアノとして高く評価されているDIAPASON(現在は河合楽器)を設計・製造した大橋幡岩は、日本のピアノ製造史において最も重要な技術者の一人である。大橋は1909年に日本楽器製造(現在のヤマハ)に入社。山葉直吉・河合小市のもとで研鑽を積み、優秀な天才技術者として頭角をあらわした。日楽を退社した後は、小野ピアノ(HORUGEL)や浜松ピアノ工業を経て、1958年に大橋ピアノ研究所(OHHASHI)を創設。1980年に幡岩が、1995年に息子の巌が亡くなったことにより、大橋ピアノ研究所は自主廃業したが、2012年に遺族から浜松市博物館に寄贈された2台のピアノと1台のリードオルガン、工具類、そして段ボール16箱(約1400点)の文書が残った(「大橋資料」)。とりわけ貴重なのは、戦前の文書類である。空襲や艦砲射撃のターゲットになった日楽は、文書類の多くを焼失し、現在のヤマハに当時の記録はほとんど残っていないからである。科研費「20世紀序盤の本邦における和洋の共鳴:楽器の響きから考えるピアノ文化」(代表小岩信治)のプロジェクトチームは、2021年秋からこの「大橋資料」の紙資料(書類、手書き原稿、手紙、設計図、カタログ等)の整理にかかわっており、作業は現在も進行中で、いまだその全貌はつかめていないものの、これが大正~昭和期の楽器製造の歴史を解明するうえで第一級の史料群であることを確認している(ヤマハ、河合、両社の関係者からも注目をあつめている)。パネル企画では、それぞれの見地から「大橋資料」がどのような意味を持っているのか、それによって何が明らかになるのかについて報告した。* 浜松市博物館所蔵「大橋資料」は現在も整理中で非公開、一般公開される時期も未定です。

【お知らせ 2022.3.9】

ミニコンサート「博物館でピアノを聴こう!~大橋幡岩が設計したヤマハピアノ~」のアーカイブ動画が公開されました!

演奏会の動画こちら

静岡県浜松市・袋井市・湖西市をサービス提供エリアとするケーブルテレビ局、ウィンディ(浜松ケーブルテレビ株式会社)による撮影です。動画は公式YouTubeチャンネル、「チャンネル・ウィンディ」で公開され、上記リンクからどなたでもご覧いただけます。

※よろしければぜひ「チャンネル・ウィンディ」のYouTubeチャンネル登録をお願いいたします!

【催事のご案内 2022.2.14更新

大橋幡岩資料を調査するプロジェクトの一環として、浜松市博物館が所蔵するヤマハ製ピアノ(1935)を使ったミニコンサートを開催します。

博物館でピアノを聴こう! ~大橋幡岩が設計したヤマハピアノ~ ※コンサートは終了しました

浜松市博物館に展示されている、とても小柄な奥行約120cmのヤマハ製グランドピアノ。「現代の名工」と謳われるピアノ製作者・大橋幡岩による設計で、浜松が“楽器のまち”として世界中に知られる前の1935年に作られました。浜松市博物館としては初めての、本ピアノを使用したミニコンサートを開催します。ピアノ作りに情熱をかけ、日本のピアノ産業の礎を築いた職人たちに思いを馳せながら、珠玉の名曲をお送りします。

大橋幡岩(1896~1980)

ピアノ調律師・製作者。1909年に日本楽器製造株式会社現ヤマハ株式会社に見習生として入社し、ピアノの設計・製作に携わる。1937年に日本楽器製造退社後、小野ピアノ製造株式会社(東京)の「ホルーゲル」、浜松楽器工業株式会社(浜松)の「ディアパソン」といったピアノを設計。1958年に「大橋ピアノ研究所」を設立し、“幻の名器”と評される「OHHASHI」ブランドを製作。日本のピアノ産業において、多大な功績を残した。

プログラム(予定)

シューマン《子供の情景》より

セヴラック《シーマンへの祈り》《日向で水浴びをする女たち》 ほか

ピアノ 平井千絵(フォルテピアノ奏者)

桐朋学園大学ピアノ科卒業後、オランダ王立音楽院修士課程を首席卒業。ブルージュ国際古楽コンクール3位等、国内外のコンクールに多数入賞。ウィーン・コンツェルトハウスでの演奏は、「この楽器のスペシャリスト(ウィーン新聞)」等、高く評価された。オランダを中心に、欧州各地の国際音楽祭に出演。母校をはじめ、フォンティス大学、アムステルダム音楽院に招かれ後進の指導にもあたった。14年間の欧州生活を終えて帰国後は、10年近くあえて遠ざかっていた現代ピアノでの演奏を開始。フランス近代音楽、特に大地の作曲家・ セヴラックを中心に、新しいレパートリーを拡げている。これまでに国内外で15枚のアルバムをリリース。NHKクラシックTV、BSクラシック倶楽部などに出演。国立音楽大学、東海大学非常勤講師。


アクセス

自家用車:東名浜松インターから……国道152号を西へ行き、市街地経由直進約30分

東名浜松西インターから……環状線南へ舘山寺街道左折、富塚経由約20分

※蜆塚公園側の第2駐車場をご利用ください。

バス:浜松駅バスターミナル2番のりば「蜆塚・佐鳴台」方面行(約15分)

「博物館」下車1分


申し込み期間:2022年2月16日(水)9:00開始/2月28日(月)17:00締切(抽選)

※抽選結果は、3月1日(火)14:00~15:00にフォームに記入いただきましたメールアドレスへお送りいたします。

◆新型コロナウイルス感染拡大防止のため、手のアルコール消毒、検温、マスク着用にご協力をお願いいたします。

◆会場内では、主催者および取材メディアによる写真・動画撮影を予定しております。その際に会場内のお客様が映り込む場合があります。それらはライブ配信・放送、またイベント終了後の主催者による広告や、取材メディアによるテレビ・新聞・雑誌・WEBなどに露出・掲載される場合がございます。お申し込みの際に、「当日の撮影について」の項目のチェックをお願いいたします。

◆プログラムは変更となる場合があります。

◆新型コロナウイルス感染症の拡大により浜松市博物館が臨時休館する場合は中止いたします。


主催:大橋幡岩資料調査プロジェクト/共催:浜松市

2019年3月13日のシンポジウムは終了しました。報告をこちらのFacebookページ(ログイン不要)でご覧いただけます。(19.3.22)

https://www.facebook.com/musicology.koiwa/posts/1097023423811372

シンポジウム「歴史的ピアノと音楽文化 – 第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールをふりかえる」一橋大学国内交流セミナー

2018年9月2~14日にワルシャワで開催された「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」(主催:ポーランド国立ショパン研究所)は、ショパン時代のピアノによる豊かな表現の魅力を、それにとりくむ優れた若手奏者とともに明らかにした。「クラシック音楽」、とくにピアノの世界で一つの権威であるショパンコンクールとしてこのような催しが行われた意味は大きく、この動きが今後他の国際コンクールに波及する可能性もあろう。主催国ポーランドに次いで多くのピアニストが出場した日本では、とりわけ川口成彦さんの第2位入賞によって、この分野への関心が高まる絶好の機会を迎えている。今回のコンクールを契機に「クラシック音楽」はどう変わるのか、ピアノコンクール、ピアノ教育のありかたは変化するのか、日本はこの分野で世界の拠点地域の一つになるのか。川口さんをゲストに迎え、歴史的ピアノの実演とともに、この催しを体感した専門家たちが、日本-ポーランド国交100年にあたる2019年、この催しをふりかえる。

日 時 : 2019年3月13日(水) 14:00-16:30

会 場 : 一橋大学インテリジェントホール(国立西キャンパス、JR国立駅から徒歩約10分)

パネリスト: 小倉貴久子(フォルテピアノ奏者)

太田垣至(鍵盤楽器製作)

松尾梨沙(音楽学)

ゲ ス ト: 川口成彦(フォルテピアノ奏者、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位)

司会:小岩信治(音楽学)

小倉貴久子・川口成彦によるプレイエル・ピアノ(1848年)の演奏があります。 

主催:一橋大学言語社会研究科小岩信治研究室

後援:如水会、国立音楽大学楽器学資料館、浜松市楽器博物館、ポーランド広報文化センター、武蔵野音楽大学楽器博物館

「20世紀序盤の東アジアにおける東洋・西洋の共鳴: 楽器の響きから考えるピアノ文化」(科研費18H00623) による研究成果公開事業