温度受容体の発見

2021年 ノーベル医学・生理学賞は

「温度と触覚の受容体」の発見

 温度センサータンパク質を発見したDavid Julius 博士が2021年のノーベル医学・生理学賞を受賞されました。温度センサーの動物種間の多様性や環境適応とのつながりに興味を持って研究を続けてきたので、そのタンパク質の発見者が受賞することになり、とても嬉しく思っています。

 動物は感覚を通して、外部の情報を取得して環境の変化に対応しています。環境の条件は変動するので、常に感覚受容により外界の情報を取得し、行動や生理的な応答を通して生命を維持しています。感覚には五感に代表されるように様々な種類がありますが、それぞれの感覚受容に関わる神経にはセンサーとしてはたらくタンパク質が存在しています。例えば、視覚においてはオプシンと呼ばれるタンパク質が光を受容する網膜に存在し、光の刺激を受け取り、神経に情報を伝える役割を担っています。こういった感覚受容においてセンサーとして働くタンパク質は受容体と呼ばれます。

 今年のノーベル医学・生理学賞は、「温度」のセンサー分子を発見したDavid Julius 博士と「触覚」のセンサー分子を発見したArdem Patapoutian 博士に贈られることが発表されました。

2019年の学会にてJulius 博士とお話する機会がありました第9回アジア・オセアニア生理学会連合大会「FAOPS2019」) 

温度を感じる仕組み

 温度は感覚神経で受容され、電気信号に変換された情報が脳に伝わり、温度感覚が生じます。感覚神経に存在する温度センサー分子が最初に温度刺激を受容し、感覚神経を活性化させる役割を担っています。最初の温度センサー分子は1997年にDavid Julius 博士の研究グループによって発見されました。

 彼らは、トウガラシに含まれる辛み成分であるカプサイシンの受容体をラットの感覚神経から探索し、カプサイシンに反応する一つのタンパク質を単離しました。私たちはトウガラシを食べた時に、辛さと同時に灼熱感も感じることから、単離したタンパク質が熱刺激にも反応するかを調べたところ、熱にも応答することが分かり、世界で初めて温度受容体が同定されました。このタンパク質はカプサイシンの化学構造に関連してバニロイド受容体と当初は名付けられました。しかし、タンパク質の構造的な特徴からTransient Receptor Potential(TRP、トリップ)チャネルと呼ばれる遺伝子のグループに含まれるため、現在ではTRP Vanilloid 1(TRPV1、トリップブイワン)と呼ばれています。