透析患者の皆様、こんにちは。
「透析中に大きな地震が起きたら…」この不安は、透析を受けられている皆様にとって最も深刻な心配の一つでしょう。
特に、南海トラフ地震の発生率が30年以内に70〜80%と言われるなか、備えは命を守るための絶対条件です。
この記事では、透析中に地震が発生した瞬間に、皆様ご自身の命と安全を守るために取るべき行動について、シンプルにご説明します。
地震が発生したら、まずはご自身の身の安全を確保することが最優先です。慌ててベッドから降りたり、体を動かしたりすることは絶対に避けてください。
行動のポイント
① 頭部を守る
布団やクッションを頭までかぶり、落下物や照明器具の破片から身を守りましょう。
② 回路を握る
血液回路を握れる方は、しっかりと握って抜針(針が抜けること)を防ぎましょう。自己判断で針を抜くのは厳禁です。
③ 揺れが収まるまで待機
ベッドのしがみつける場所を見つけて、揺れが収まるまで静かに待ちましょう。スタッフの指示があるまで、ベッドの上で動かないでください。
【重要】スタッフの指示があるまで、絶対に自己判断で動かないでください。
揺れが収まった後、スタッフが透析室全体の状況を確認し、避難が必要だと判断された場合は、患者様の安全を確保しながら順次、透析からの離脱(抜針)を行います。
緊急離脱の基本は「抜針」
基本の離脱: 緊急離脱は、基本的に抜針(針を抜くこと)による対応です。スタッフが迅速かつ安全に処理します。
一刻を争う場合: 建物が倒壊する恐れがあるなど、一刻を争う危険な場合は、回路切断による迅速な離脱を行うことがあります。
避難は「自立できる方」から行います
避難指示が出た場合、スタッフの誘導のもと、安全を最優先に以下の順番で避難を行います。
自立できる患者様: スタッフの誘導のもと、ご自身で歩行し避難していただきます。
自立困難な患者様: 自立できる方の避難完了後、護送(車椅子など)、担送(ストレッチャーなど)の順でスタッフが避難をサポートします。
皆様の安全と健康を守るため、日頃から避難経路と、揺れを感じた時の行動について心構えをしておきましょう。
(2025/10/31)
もし、ご自宅や外出中に被災し、避難所生活を余儀なくされたらどうなるでしょうか?透析治療が通常通り受けられなくなる可能性が高い被災後、あなたの「備え」と「自己管理」が命を守る鍵となります。
この記事では、透析患者さんが災害時に最低限持っていくべきものと、命を守る食事の鉄則をまとめました。
災害時にまず持ち出すべき非常用持ち出し袋に、透析患者さん特有の「命に関わる重要物品」を忘れずに入れましょう。
重要物品 7品
① 常備薬(最低3日分)
降圧剤、リン吸着薬など、最低でも3日分の薬は必ず用意しましょう。
② お薬手帳
処方内容を他院に伝えるために必須です。
③ 透析状況カード、記録
施設から配布された透析状況カードや透析記録のコピーは、支援透析を受ける際の命綱です。当センターでは現在作成中です。ご希望者には適宜配布できるように順次体制を整えていく予定です。
④ 健康保険証
医療を受けるために最も基本的で重要な証明書です。
⑤ 身体障害者手帳
避難所でのサポートを受ける際に提示できるよう、コピーでも構いません。
⑥ 現金
災害時はキャッシュレス決済やクレジットカードが使えないことがあります。
⑦ 止血ベルト
万が一の場合の緊急止血に使います。
これらの重要物品は、すぐに持ち出せる場所にまとめておきましょう。
被災後は、通常通りの透析治療が受けられるとは限りません。透析時間の短縮や条件の変更が起きるかもしれません。だからこそ、ご自身の食事管理がいつも以上に大切になります。
⚠️ 透析患者向け「非常食」を最低3日分備蓄!
避難所で配られる一般の非常食は、塩分やカリウムが多く含まれているものがほとんどで、透析患者さんには不向きです。
透析患者向けのレトルト食品などを、最低3日分はご自身で準備しましょう。
備蓄品の管理には、普段から食べて補充するローリングストック法が有効です。
災害時の食事4つの「鉄則」
透析が不十分になる可能性があるため、日頃以上に水分、塩分、カリウムの摂取量に注意が必要です。
注意すべき重要事項
① 水分を厳しく控える
摂取した水分を体から除去できないため。
飲水量はいつも以上に(目安:500ml/DAY以下)控えましょう。熱中症の恐れがある夏場でも、医師の指示に従い、厳重に管理が必要です。
② カリウムの多い食品は避ける
高カリウム血症は、不整脈を引き起こし命に関わります。
果物、牛乳、野菜ジュース、芋類などは避けてください。
③ 塩分を極力カット
体内の水分量増加につながり、心臓に負担をかけます。
即席めんのスープは残す、漬物は控えるなど、徹底した減塩対策を。
④ エネルギー不足に注意
エネルギー不足は体調不良につながります。
ご飯やパンなど、効率よくエネルギー補給ができる食品は適度に食べましょう。
在宅や外出時に被災した場合、近隣の避難所のスタッフ(医師や看護師)に、自身が透析患者であることと次回透析の予定を必ず伝えましょう。
また、透析施設との連絡は、電話だけでなく、当院が活用している災害伝言171やSNS(X、Facebook、tiktok)、ホームページなどを事前に確認し、安否確認がスムーズにできるようにご家族とも話し合っておきましょう。
(2025/11/3)
透析患者の皆様、こんにちは。
地震への備えはもちろん大切ですが、透析中に停電や火災、さらには有毒なガスの発生など、予期せぬ緊急事態が起こる可能性もゼロではありません。
この記事では、地震以外の緊急事態が発生した際に、皆様の命を守るための具体的な行動と避難の知識を、シンプルな3つのステップで解説します。
透析中に突然電気が消え、機械の音が止まると、非常に不安になると思います。
行動のポイント
① 落ち着いて待機
患者様は絶対に自己判断で動かず、その場で待機してください。
② 機械の状態を知る
ベッドサイドの患者監視装置(コンソール)はバッテリーで動きます。すぐに停止することはありませんのでご安心ください。
③ 治療は停止中と理解する
ただし、バッテリー運転中は治療は行われません。血液が固まらないように最低限のポンプ駆動のみとなります。スタッフが原因と復旧の目処を確認するまでお待ちください。
【重要】 停電中は、スタッフが原因調査と避難の必要性の判断を最優先で行います。指示があるまでお待ちください。
火災発生時は、一刻を争う避難行動が必要になることがあります。
火災時の避難行動
スタッフの指示に従い離脱
火災が延焼する恐れや倒壊の危険がある場合は、回路切断による迅速な離脱を行うことがあります。スタッフの指示に沿って行動してください。
避難時の「姿勢」
煙は上方に溜まります。避難時は姿勢を低くし、濡れタオルなどで口や鼻を覆いながら避難してください。
透析施設では、稀に配管の破損などから有毒な塩素ガスが発生する危険性があります。塩素ガスは命に関わるため、特に避難方法を覚えておく必要があります。
有毒ガス(塩素ガス)時の避難行動
スタッフの指示に従う
火災時と同じく、スタッフの誘導に沿って迅速に離脱・避難を行います。
避難時の「姿勢」
口元を覆い、高い姿勢で避難する人のイラスト
塩素ガスは空気よりも重い性質があります。床や低い場所に溜まるため、避難時は姿勢を低くせず、口や鼻を布などで覆って高い姿勢で避難してください。
皆様の安全と健康を守るため、日頃からクリニックの設備や、緊急時の行動について心構えをしておきましょう。(2025/11/5)
もし、ご自身のクリニックが被災して透析治療が受けられなくなった場合、他院で支援透析を受ける必要があります。その時、あなたの命運を分けるのが、「患者カード」と「自助(自分で備える力)」です。
この記事では、災害時にスムーズに透析治療を再開するために、今すぐ準備すべき最も重要なアイテムと、被災時の心構えについて解説します。
災害時、支援透析を受け入れる側の施設は、患者さんのこれまでの治療内容や身体情報を把握する必要があります。情報がないと、安全な透析治療を提供できません。
この時、ご自身の情報を迅速に伝えるための最も重要なツールが「患者カード」です。
患者カードの役割:スムーズな透析開始
記載内容
血液型、感染症の有無、ドライウェイト、治療条件(透析時間、ダイアライザーの種類など)他院での支援透析を迅速かつ安全に開始するために不可欠です。
医療的な意義:医療者への情報提供
既往歴、現在の内服薬、血管アクセス(シャント)の場所
混乱した状況で、ご自身の医療情報を正確に伝えることができます。
【重要】
患者カードは、常に持ち歩くか、非常用持ち出し袋の最も取り出しやすい場所に入れておきましょう。
カードを紛失・破損した場合に備え、スマートフォンで写真を撮って保存しておくことも有効です。
災害対策には「自助」「共助」「公助」の3つの考え方があります。
自助: 「自分の身は自分で守る」
共助: 「被災者同士で助け合う」
公助: 「行政による支援を受ける」
大災害が発生した直後は、行政による公助が始まるまでに時間がかかります。また、近隣住民による共助も、まずは自分と家族の安全確保が優先されます。
つまり、発災直後の生存率を上げるには、まず「自助」が最も重要です。
自助のポイント(平時の備えと初動)
平時の備え: 災害食や水、薬の備蓄、そして患者カードの準備を徹底すること。
初動の行動: 透析中に揺れを感じた際、これまでのブログで学んだ「頭を守る、回路を握る、待機する」という行動(ブログNo.29)を、誰の指示を待たずとも即座に実行できること。
「準備と初動で運命が決まる」という認識を持ち、ご自身の命を守るための行動を今一度確認しましょう。
当院で透析治療が利用不可となった場合は、近隣施設へ支援透析を依頼します。
遠方になる可能性: 受け入れ可能施設は、被災状況によって遠方になることがあります。
送迎は原則困難: 当院から遠隔地への送迎はできない可能性が高いため、ご自身またはご家族で移動手段を確保する心構えが必要です。
治療条件が変わる可能性: 支援先施設の設備や状況により、透析時間や条件が普段と変わる可能性があることを理解しておきましょう。
(2025/11/7)
透析患者の皆様、こんにちは。
地震などの大災害が発生した後、あなたは「避難所へ行くべきか?」「自宅に残るべきか?」という重要な選択を迫られます。また、その後の避難生活で最もストレスとなるのが、トイレの問題です。
この記事では、透析患者さんが安全に過ごすための「在宅避難の判断基準」と、災害後に水洗トイレを壊さないための正しい知識を解説します。
避難所は安心できる場所ですが、集団生活による感染症や、透析患者さん向けの食事がないといった課題もあります。そのため、自宅で生活できる安全性が確保できているなら、「在宅避難」が推奨されます。
しかし、以下の「危険な条件」に当てはまる場合は、迷わず避難所へ向かいましょう。
⚠️ 在宅避難が困難な「危険な条件」リスト
家屋の危険性
自宅の家屋に倒壊の被害や危険性がある。隣家の倒壊や火災の影響が考えられる。
生活の維持が困難
水害や土砂災害で生活ができない。生活必需品(特に透析用非常食)が確保できていない。
サポート不足
家族のサポートや自立が困難で、他人のサポートが必要。
インフラ停止
長期の停電、断水対策ができていない。
公的判断
自治体から避難指示が出た。または応急危険度判定で「危険」と判断された。
【重要】 自宅の耐震基準が1981年以前の「旧耐震基準」である場合、震度5程度までしか想定されておらず非常に危険です。市区町村の窓口で耐震診断の相談をしましょう。
在宅避難を選ぶ場合、外部からの支援を待つ間、自分たちで生活を維持する必要があります。
水・食料: 最低3日分。できれば7日分を用意しましょう。水は一人1日3リットルが目安です。
透析用非常食: ブログNo.30で紹介した透析患者さん向けの非常食は、自宅に必ず備蓄しておきましょう。
生活用品: 懐中電灯、ランタン型ライト、電池、バッテリー、カセットコンロとガスボンベなど。
災害後の避難生活で最も厄介な問題の一つがトイレです。特に地震などの大規模災害発生後、間違った行動で排水設備を破損させ、集合住宅で汚水を溢れさせてしまうトラブルが多発しています。
⚠️ 配管の安全が確認できるまで「水を流さない」
配管が破損している場合、汚水が逆流し、マンションなどの下層階のトイレから汚水が溢れる原因となります。
断水時でも、配管の安全が確認できるまで、バケツによる洗浄(排水)は絶対に行わないでください。
【確認方法】
ご自宅の配管の安全を確認するには、キッチン、トイレ、浴室の汚水桝(おすいます)を全て確認し、水が問題なく流れていくか確認する必要があります。
水洗トイレが使えない場合は、災害用トイレキット(凝固剤付きの簡易トイレ)を利用しましょう。
(2025/11/10)
地震への備えと並行して、日本は津波、台風、そして近年増加している線状降水帯による土砂災害など、水に関連する脅威にも常にさらされています。特に沿岸部や山間部に住む患者さんにとっては、これらの情報が命に直結します。
この記事では、透析患者さんが命の危険を正しく理解し、早期に避難するための知識を解説します。
地震が発生した後、特に沿岸部にお住まいの方は、津波の危険性を正確に把握しておく必要があります。
津波の真実:20cmでも危険
気象庁の津波注意報は20cmから発令されますが、20cmを超えると大人でも身動きがとりにくくなり、30cmで生命の危機に陥ると言われています。漂流物や土砂が混ざるため、威力は想像以上です。
東日本大震災の教訓
東日本大震災(M9.0)で最も甚大な被害をもたらしたのは、巨大な津波でした。警報が発令されたら、すぐに海から離れ、今いる場所より高い場所へ避難しましょう。
【津波警報時の行動】
警報が出たら、ただちに避難! 高い建物、または指定された避難所(高台)へ向かいましょう。
津波は繰り返し襲ってきます。警報が解除されるまで、決して安全な場所から離れないでください。
近年、線状降水帯による集中豪雨が増加し、風水害や土砂災害の脅威が高まっています。
① 線状降水帯とは?
次々と発生する発達した雨雲が列をなして、同じ場所に数時間にわたって停滞することで、非常に強い降水をもたらす現象です。これが発生すると、短時間で河川の氾濫や土砂災害につながります。
② 土砂災害の3つの種類と備え
大雨や地震がきっかけで発生する土砂災害には、「土石流」「がけ崩れ」「地すべり」があります。
土石流
渓流沿いや扇状地
川の異常な音や急な水位の減少があればすぐに避難。
がけ崩れ
急傾斜の崖付近
崖からの水の湧き出し、小石が落ちてくるなどのサインに注意。
【重要】 自治体が発行しているハザードマップで、ご自宅や職場周辺が土砂災害警戒区域に指定されていないかを確認し、避難場所と安全な経路を把握しておきましょう。
早期避難のためには、正確な情報を迅速に入手することが大切です。
キキクル(危険度分布):気象庁が発信するサイトです。土砂災害や洪水など、今いる場所の災害の危険度を色分けして示しています。スマートフォンで簡単に確認できます。
ハザードマップ:自治体のウェブサイトなどで確認できます。災害時に危険な場所や避難所を把握するのに役立ちます。
「自分は大丈夫」と思わず、これらの情報を活用して、早め早めの行動を心がけましょう。
(2025/11/14)
災害が発生したとき、家族やクリニックと連絡が取れないことは、計り知れない不安につながります。特に透析患者さんにとって、「次の透析がいつ、どこで受けられるか」という情報は、命の行方を左右します。
この記事では、大規模災害時に電話が不通になった場合の安否確認手段と、クリニックからの情報発信方法を具体的に解説します。
大規模災害発生時、安否確認の電話が殺到すると、一般の電話回線はパンクしてつながりにくくなります。そのため、電話以外の手段を事前に決めておくことが重要です。
① LINE安否確認(震度6弱以上で自動表示)
LINEを普段利用されている方は、この機能が最も実用的です。
LINE安否確認のポイント
震度6弱以上などの大規模災害が発生すると、トークリストの画面上部に赤いタブが自動で表示されます。
使い方
タブを押して、「無事」「被害あり」「避難中」などのステータスと、短いコメントを入力して家族や友人に知らせることができます。
【事前準備】 家族間で、災害時はこの機能で安否確認を行うことを取り決めておきましょう。
② 災害用伝言ダイヤル「171」
電話回線を利用した安否確認サービスです。
利用方法: 「171」に電話をかけ、ガイダンスに従って自分の電話番号(自宅や携帯)をキーに、安否情報(声のメッセージ)を録音したり、再生したりできます。
特徴: 自分の声でメッセージを残せるため、状況を伝えやすいのが特徴です。
③ 災害用伝言板(Web171)
「171」のインターネット版です。携帯電話やパソコンから利用でき、テキストで安否情報を登録・確認できます。電話が使えなくても、インターネット回線が生きていれば利用可能です。
当院の被災情報、透析利用の可否、再開の目処など、生命に関わる重要な情報については、以下の手段で発信を行います。
災害伝言171
安否確認の電話が集中するのを避けるため、当院からの発信にも利用します。
SNS
X(旧Twitter)、Facebook、tiktokなど、当院が有するアカウントを利用して、リアルタイムな情報を発信します。
ホームページ
復旧の目処や、今後の透析受け入れ方針など、詳細な情報を掲載します。
施設周辺の患者様向けに、復旧後に掲示板での情報提供も行います。
【重要】 電話は被災直後には繋がりにくいことを念頭に置き、日頃から当院のSNSアカウントをフォローし、情報源として確保しておきましょう。
毎年8月30日から9月5日までは防災週間です。この機会に、防災意識を高め、準備を充実させましょう。
備蓄の確認:ブログNo.30で紹介した透析用非常食の消費期限や、水、薬の残量を確認しましょう。
家族会議: LINE安否確認の使い方や、災害時の集合場所、当院からの情報収集の方法について、家族で話し合い、災害時の行動計画を立てておきましょう。
(2025/11/17)