クイズ大会「1・2・3」は2022年の初開催から「短文標準」という問題傾向を掲げており、当日使用する筆記問題や早押し問題は、この問題傾向に従って出題されます。
2022年、「1・2・3」を初開催するに際して、「短文標準」を定義するためのnoteを書きましたが、当時の私の中で「短文標準」観が十分に固まっていなかったこともあり、「短文標準」を文章で言語化するのではなく、特徴を列挙するという形に逃げていたかと思います。しかし、それから企画を打ったり様々な問題に触れたりする中で、ある程度私の中で「短文標準」観が固まったので、今回、改めて「短文標準」を定義するということになりました。
「短文標準」とは、「半径3mに広がる好奇心と探究心」です。順を追って説明します。
1.半径3m
アニメ監督の宮崎駿の言葉に、「半径3m以内に大切なものはぜんぶある。」というものがあります。『千と千尋の神隠し』で千尋が幼少期に靴を川に落としてしまったというエピソードがありますが、これは本作のプロデューサーの娘の実話に基づいています。このように、彼は身近なものをヒントに想像力を膨らませることで、物語を生み出しています。「短文標準」では、私の半径3m、日常生活で出会うものを出題することを心がけています。また、題材との出会う経緯を素直に成分化することが多いです(例題のページを参照)。
ここでいう半径3mとは、狭いようでいて実に広い世界です。私という存在に半径3mの円を重ねると、私の行動範囲にしか世界は広がりませんが、家族や友人との会話、街の雑踏で聞こえる音など、五感を駆使することで観測することができる世界はまだまだあります。また、人によっては本やSNS、新聞やテレビなどのメディアから観測する世界もあるでしょう。そうした半径3mの世界から、私はクイズを作ろうと思います。
2.好奇心と探究心
「好奇心」は「知らないものに対する学びを深める姿勢」、「探究心」は「知っているものに対する学びを深める姿勢」という意味で使っています。どちらも千反田えるよろしく、「わたし、気になります」という姿勢で題材にぶつかるという点で同じですが、「知らないものに対する学び」と「知っているものに対する学び」に出会う時の感情の動きは別物であると考えています。また、「好奇心」と「探究心」のどちらに比重を傾けるかによって、問題群全体の難易度が大きく変化するので、あえて区別しています。「好奇心」に比重を傾ける問題群を用意することもありますが、「1・2・3」においては、やや「探究心」に比重を傾ける方向性で問題群を用意します。
3.改めて「短文標準」とは
ここまでで「半径3mに広がる好奇心と探究心」についての説明はしましたが、「短文標準」という言葉については説明をしていませんでした。文章が「短文」で難易度が「標準」な傾向であるという解釈はもちろん正解で、そのまま受け取ってもらっても問題ないのですが、ここで補足的な説明をします。
クイズ大会・abcにおける「短文」は概ね60文字ですが、私のいう「短文」は2文になったり100文字を超えたりすることもあります。早押しクイズの問題文は機能美を追求するべきという考えがあることも理解していますが、機能美を追求するあまり、題材に対する説明が不十分になり、問題の意図や意味が伝わらなくなることは、機能美の追求の代償として大きすぎるものではないかと考えています。そのため、「短文標準」では必要に応じて問題文に修飾を加えたり、意図的に修飾を引き延ばしたりしている問題文があります(例題のページを参照)。もちろん早押しという要素に支障がない程度の修飾には留めますが、「短文標準」が単なる機能美の追求だけを目指した問題群ではないことをご理解ください。
「短文標準」という言葉には、明確に「短文基本」との差別化があります。初開催の際のnoteでも説明しましたが、私が普段作るクイズは短文基本と隔たりがあります。そのため、「短文基本」を銘打つことは最初から考えていませんでした。とはいえ、私が「短文基本」と大きく隔たりのある難易度のクイズに触れることを好んでいるかというと、そのようなことはありません。「短文基本」の難易度帯に加えて、少し手を伸ばすことで届きそうな難易度帯の問題。そうした難易度帯の問題群に触れることを楽しんでいます。こうしたことを考えながら、私の問題群を表現する言葉を探し求めていた際にふと頭に浮かんだのは、旺文社の標準問題精講という参考書の「標準」という言葉でした。標準問題精講という参考書は簡単な問題から、少し難しい問題までバランスよく収録されています。そのため、「標準」という言葉で問題群を表現しようと考えました。また、「標準」という言葉を付与することで、「半径3m」から何でもかんでも出題するわけでなく、ある程度の上限と下限を設定して出題するということも示しています。このように説明すると、難問は一切出題しないと思われてしまいそうですが、旺文社には「英文標準問題精講」という尋常ではない難易度の参考書もあります。「標準」だからといって、難問を一切出題しないというスタンスは取りません。問題群の全体のバランスを見ながら、好奇心と探究心に基づいた問題を出題しようと思います。
「短文標準」の説明については以上です。