中級コースでは、実用的な栽培規模で栽培を試みます。初級コースと比べ、施肥バランスを整えるなど、変更点がいくつかあります。
耕水工程
魚粉を耕水工程の段階から添加します。リンを補い、栽培期間中の施肥バランスを改善するためです。ただし、耕水工程では「魚粉を分解する微生物を培養する」ことが主目的で、この時点ではNPKのバランスは考慮しません。ソリュブル:魚粉=9:1の重量比でソリュブルと魚粉を同時に添加し、ソリュブルと魚粉を分解する微生物を培養します。
栽培装置
栽培装置は、NFT(薄層水耕)が適しています。有機質肥料活用型養液栽培では溶存酸素の要求量が大きく(根が要求する以外に、微生物の呼吸分も必要なため)、DFT(湛液水耕)だと酸素不足になるからです。トマトの場合は幅広の栽培装置を用います。栽培終盤に根が発達しすぎ、培養液がオーバーフローすることを防ぐためです。
配管
栽培装置の配管は、13mmの塩ビ管より細い流路がないように注意します。バイオフィルム(微生物群集構造)が形成されるため、細い流路があると目詰まりする恐れがあります。
施肥バランスを整える
耕水工程が終了したら、ソリュブルでは不足しがちなリン、カリウムを補強します。NPK(窒素、リン酸、カリウム)のバランスは園試処方と呼ばれる養液栽培の施肥基準に準拠します(おおよそ、N:P2O5:K2O =5:2:8のバランスになるように)。窒素肥料はソリュブルを主体として、リンの補強に魚粉(N:P2O5:K2O=8.6:9.0:0.5)を、カリウムの補強には天然有機カリ(35% K2O)を用います。ソリュブル、魚粉、天然有機カリ懸濁液(100g/L)をそれぞれ0.7 g、0.19 g、0.5 mlの比率で混合したものを1単位とすると、60mgのN、24mgのP2O5、96mgのK2Oを加えることになり、NPKのバランスが整います(以下、1単位=0.7gソリュブル+0.19g魚粉+0.5ml天然有機カリ懸濁液(100g/L))。栽培初期は魚粉の分解が進みにくいため、半腐敗液として添加すると効果的です。培養液の一部をバケツなどに採取して魚粉と混合し、2,3日放置した半腐敗液を培養液に戻します。この操作を約2週間続けると、培養液に魚粉を直接添加しても問題なく速やかに分解されるようになります。
有機石灰の添加方法
初級コースのように有機石灰を培養液に直接添加すると沈殿が配管の目詰まりの原因になるので、添加方法を工夫します。有機石灰の懸濁液を作成し、その上清を添加します。
有機石灰の懸濁液は有機石灰の2倍容の水に懸濁し、一晩静置したものを使用します。上清の全量を毎日、培養液に添加します。残りの有機石灰の沈殿には新しく水を添加して2倍容とし、よく懸濁して一日静置し、翌日、上清全量を培養液に添加する、という操作を繰り返します。
葉菜とトマトでは、有機石灰の添加量が違います。葉菜では、栽培装置の培養液1Lあたり10gの有機石灰(粒状セルカ9g、ネオライム1g)を計り取り(栽培装置の培養液総量が200リットルの場合、2kg)、2倍容の水に懸濁します。トマトの場合、苗1株あたり100gの有機石灰を計り取り、2倍容の水に懸濁します。
有機石灰の更新は、沈殿に貝殻の破片が目立つようになり、懸濁液上清の褐色が薄くなったときに行います。あるいは成長点の葉色が薄くなってきた場合などにも更新して下さい。
なお、有機石灰はNPK以外の微量要素(Ca,Mg,Zn,Mn,B,Mo,Fe)を補う目的で添加するもので、NPKの供給を目的とする有機質肥料(ソリュブルや魚粉、天然有機カリ)とは区別した施肥基準となります。
施肥管理
量的管理(作物が1日に吸い切る量の肥料を毎日添加する方法)を行います。従来の養液栽培で主流の濃度管理(培養液中のイオン濃度を一定に保つ方法)は不適切なので、注意して下さい(理由は、培養液の肥料成分(硝酸態窒素やリン酸イオン)は栽培開始から約2週間で検出されなくなるためです。以後、肥料をどれだけ大量に添加しても硝酸イオンなどは検出されなくなります)。
施肥量は生育ステージによって変えます。
葉菜の場合、葉長が3cm以下の時は30株あたり1単位、葉長が3cm以上になれば倍の2単位を毎日与えます。
トマトの場合、栽培初期は1株あたり0.5単位、第一果房の果実が3cm大になったら0.75単位、第二果房の果実が3cm大になったら1単位を毎日与えます。ソリュブル、魚粉、天然有機カリ浸漬液の添加量は上述のバランスを保つように注意します。
施肥量の管理は培養液の濁度で行います。肥料添加直前の培養液の濁度(600nm)を分光光度計で測定し、0.05以下であれば問題ありません。0.05を超えるときは施肥量が過剰ですので、翌日の施肥量を減らして下さい。
(注1)耕水工程では有機石灰や天然有機カリを加えないようにして下さい。アルカリ性が強くなり、硝化がうまく進まなくなる恐れがあります。有機石灰や天然有機カリの添加は栽培を開始してから行います。
(注2)培養液の濁度は肥料添加後、大きく変動します。添加後1~3時間で濁度はピークを迎え、その後、徐々に濁度が低下し、培養液は透明に戻ります。施肥量が植物の要求する以上であった場合、肥料添加直前の濁度は前日よりも高くなります。施肥量が植物の吸収できる量以下であれば、肥料添加直前の濁度は 0.05以下のほぼ一定の値を示します。
(注3)培養液の濁度が0.1を超える異常値を示す場合は、次のいずれかの問題が生じている可能性があります。
1.施肥量が多すぎる(気温が低くて作物の肥料の要求量が低下しているなど)
2.曝気量が低下している(水流ポンプの停止や、栽培装置のどこかに淀みが生じて局部的に酸素不足になるなど)
問題を解決し、濁度が0.1以下に低下するのを確かめて下さい。
(注4)培養液タンクは小さくて構いません(100リットル程度)。施肥管理が量的管理に基づくからです(培養液タンクが大きくなるのは濃度管理の場合ですが、有機質肥料活用型養液栽培では濃度管理は不適切)。栽培装置から培養液タンクに培養液が戻るとき、滝のように落水させて曝気が充分行われるようにして下さい。
(注5)培養液は必ず循環させて下さい。かけ流し式だと微生物が失われてしまい、有機質肥料が分解できなくなります。
(注6)水流ポンプを間欠運転(1時間に10分程度しか流水しないなど)にする場合は、培養液タンクにエアーポンプを設置し、培養液を曝気して下さい。
(注7)栽培を長期間連続して行う場合、培養液は1ヶ月に一回半分量を廃棄し、新しい水を添加して希釈して下さい。ソリュブルにわずかに含まれる塩分(ナトリウムと塩素)を除去するためです。廃棄する培養液には肥料成分(硝酸イオンやリン酸イオン)はほとんど含まれないので、環境に負荷を与える心配はありません。
(注8)ソリュブルや魚粉のかわりにコーンスティープリカー(CSL)を用いることができます。CSLの場合は窒素・リンのバランスがよい(N:P2O5:K2O =3:3:2)ので、カリウムだけ補強します。上記1単位に相当する添加量は、CSLを2ml、天然有機カリ溶液2mlです(60mgのN、60mgの P2O5、96mgのK2O)。