近年、宇宙開発や素粒子実験、放射線医療の進展に伴い、高い放射線環境下でも長期間利用可能な高時間分解能、高空間分解能かつ高感度の検出器が求められています。本プロジェクトでは、10 MGyの放射線環境で1 psの時間分解能を持つ半導体検出器の開発に取り組んでいます。
放射線耐性デバイスの応用例
(回路:右下に行くほど良い、検出器:右上に行くほど良い)
電子線や陽子線照射時に生じる、はじき出し損傷(Displacement Damage Dose: DDD)効果は、原子間結合の強いワイドギャップ半導体を用いることで低減できると言われています。高精度の放射線検出には、信号強度が大きく、ノイズが小さいことが好まれます。ワイドギャップ半導体を用いれば室温動作が可能であり、その中でも原子番号の大きい元素を含む材料を用いれば、大きい信号を得ることができます。
私たちは、Ga元素を含む窒化ガリウム(GaN)を用いた、放射線検出器の作製を行っています。2023年に世界で初めて縦型GaN PNダイオードを用いたSingle Strip検出器によるα線および重粒子線の位置検出に、2024年にPixel検出器による位置検出に成功しました。現在、世界最高の時間分解能を持つ飛跡検出器の実現を目指して、GaN LGAD (Low gain avalanche detector)の作製に取り組んでいます。
陽子線照射によるGaN検出器のDDDの検証では、Si検出器よりも一桁程度高い、数 MGyの放射線耐性を持つことが分かりました。Xe照射によるSingle Event耐性やガンマ線照射によるTotal Ionizing Dose耐性の検証も行っています。
GaNやダイヤモンドを用いたとしても、数MGy程度の放射線照射で素子特性が劣化してしまいます。更なる高放射線環境での動作を目指して、ワイドギャップ半導体以外の材料にも着目しています。CIGS(Cu(In,Ga)Se)は、100℃程度の熱処理で特性回復が何度でも可能であり、10 MGy以上の高放射線環境でも動作させ続けることができます。イメージセンサ用材料としても優れており、次世代加速器用粒子検出器や原発廃炉ロボット用カメラに向けて開発しています。
これらの放射線照射には共用の加速器(RARiS:陽子線、RIBF:重粒子線、TIARA:γ線)を利用しています。特に、RARiSにおいて独自の設計で、70 MeVの陽子線を最大10 MGy照射しながら、素子の電流-電圧特性をリアルタイムで測定しているのが特徴です。どの程度のドーズ量で素子が故障するか、特性劣化推移を見ることができます。
ユーザー用:HIMAC利用手順
2024/7/17 TIA2024かけはし助成金「高放射線耐性半導体を用いたイメージセンサー実証に向けた調査研究 」
2023/6/30 "Degradation of vertical GaN diodes during proton and Xe-ion irradiation" JJAP 62, 064001 (2023).
2020/4/1 TIA2022かけはし助成金「高放射線耐性半導体を用いたピクセル検出器に向けた調査研究」
2020/10/8 JST新技術説明会「放射線耐性に優れた半導体素子の開発」
2020/6/16 公益財団法人村田学術振興財団「高放射線耐性GaN検出器の開発」
2020/4/1 TIA2020かけはし助成金「高放射線耐性半導体を用いた重粒子線検出器の調査研究」
2019/8/29 イノベーションJAPAN 2019「放射線に負けないデバイスを使ってみよう!」
2019/4/1 つくば産学連携強化プロジェクト「放射線耐性に優れた半導体素子の開発」
2018/4/1 TIA2018かけはし助成金「高放射線耐性半導体検出器実現のための調査研究」