1.行動生物学的検討
人の痛みは、痛みを感じているかを言葉を使って評価することができます。動物は言葉を発することができないので、痛みを感じているときに見せる行動の変化を指標として評価します。特に、痛みを与えて、その刺激から逃避する行動を指標として、痛みの評価をします。(臨床で痛みの感受性を確認するフィラメントを使った痛み感受性の試験)
2.免疫組織化学
脳や脊髄などの組織を取り出して、薄切りの切片を作成します。この切片に対して、特定の生体内物質に結合できる抗体を用いて、その物質の組織の中での局在を調べます。特に、脳や脊髄にある神経細胞やグリア細胞の形について解析を行ったり、特定の物質(タンパク質)の組織内での局在について、蛍光顕微鏡を用いて検出します。(脊髄後角におけるグリア細胞の局在を観察した図)
3.分子生物学的検討
細胞には、遺伝子が存在して、生きるための様々な物質を作り出しています。生体の情報はDNAと呼ばれる物質に保存され、その情報がコピーされて、生存に必要な物質が作り出されます。病気の時には遺伝子の活動が変わってしまい、生体内の物質が少なくなったり、過剰になったりします。この遺伝子のコピーの量を測定したり、遺伝子の発現に影響を与える生体内因子の機能を測定します。(脊髄に乳酸を処置した後に、細胞骨格を形成するタンパク質の機能が変化していることを示す図)
4.大規模広範囲脳活動記録
脳の活動は、神経細胞のオンオフによって生み出される電気信号により観察することができます。特に、わたしたちの脳では、神経活動の興奮の状態で、さまざまな周波数の電気信号として記録されます。例えば、眠いときにはα波が、覚醒しているときにはβ波が観察されます。この脳の活動を網羅的に記録して、たくさんの脳領域の活動の関係性を探索することで、痛みを感じているときに必要な脳の活動を抽出します。(合計64個の脳領域から同時に電気信号を記録した際のデータ)
5.リアルタイム蛍光イメージング
神経細胞が興奮すると細胞内へカルシウムイオンが流入します。細胞内に流入したカルシウムイオンと結合して、蛍光を発するたんぱく質(カルシウム蛍光指示たんぱく質)が開発されています。また、特定の生体内物質(神経伝達物質など)と結合すると蛍光を発するたんぱく質(センサータンパク質)も開発されてます。この蛍光を発するたんぱく質の蛍光強度を観察できれば、神経細胞の興奮や神経伝達物質の遊離を測定できます。この観察を自由に行動している動物でリアルタイムで行います。(神経細胞が興奮すると蛍光を発するようにした動物の解析結果。白色フラッシュは神経細胞の興奮を示す)
6.アデノ随伴ウィルスベクターの構築
特定の細胞機能(たとえば、ドパミン神経やセロトニン神経、アストロサイトなど)を人為的に調節するためのタンパク質(人工受容体やチャネルロドプシン)を特定の細胞に発現させるため、アデノ随伴ウィルスベクター(AAV)を用いることが多くあります。特定の細胞(神経細胞、アストロサイト、ミクログリア)へ希望する遺伝子を導入するためのAAVを構築し、特定の脳領域への遺伝子導入を行っています[図は、透明化技術を使って、特定の領域(延髄上部)の特定の細胞(アストロサイト)へ緑色蛍光タンパク質を発現させた結果です]