Reinders, H., & White, C. (2016). 20 years of autonomy and technology: How far have we come and where to next?(オートノミーとテクノロジーの20年:我々はどこまで来ていて、次にどこへ向かうのか?. Language Learning & Technology, 20(2), 143-154.

テクノロジーの発達は、言語教育・言語学習のあり方を大きく変えてきました。この論文は、学習者オートノミー研究における5つのテーマごとに、テクノロジーの発達が与えてきた影響をまとめ、今後の研究と実践への展望を述べています。

【Reinders & White (2016)で取り上げられている5つのテーマ】

学習者オートノミー研究における5つのテーマとして、この論文は以下を取り上げています。

  1. 学習者トレーニングとストラテジー(Learner Training and Strategies)

  2. 教師オートノミー(Teacher Autonomy)

  3. セルフアクセスと言語学習アドバイジングにおけるテクノロジー(Technology in self-access and language advising)

  4. テレコラボレーション(Telecollaboration)

  5. 学習のためのソーシャル・テクノロジー(Social Technologies for Learning)

これらのうち、特に「3.セルフアクセスと言語学習アドバイジングにおけるテクノロジー」で言語学習アドバイジングとテクノロジーの関係が述べられているので、以下ではこの部分を紹介します。

【2つのオンラインアドバイジング・ソフトウェア】

この論文では、オンラインアドバイジングのために開発された2つのソフトウェアが紹介されています。

1つ目は、香港科技大学で開発されたVirtual English Language Advisor (VELA)です。VELAは学習者の強みと弱みを特定し、適切な学習ストラテジーを勧めることができるソフトウェアです。①オンラインリソースを見つける(Browse)、②個人化された計画を作る(Plan)、③学習を記録しモニターする(Diary)という3つのセクションから成っています。

2つ目は、ヘルシンキ大学のKaleidoscopeです。このソフトウェアでは、学習者が自身の言語学習歴、ニーズ、モチベーション、好みの学習、現在の能力を振りかえり、プロフィールを作成します。このプロフィールは他の学習者と共有され、さらに学習者が投稿したコメントやアドバイザーからの返事も互いに見ることができます。このように、学習者とアドバイザーの2者間で行われるアドバイジング・セッションで見逃されてきた社会的な側面を取り入れている点が、Kaleidoscopeの特徴です。Kaleidoscopeを使用したアドバイジングについてのアクション・リサーチ(Kidd & von Boehm, 2012)では、学習者達は他の学習者のコメントやアドバイザーの返信を肯定的に評価していることが明らかになりました。また、ほとんどの学習者はKaleidoscopeで満足しているため、さらなるアドバイザーとのセッションはあまり意味がないと感じていました。

テクノロジーの発達によって、これまで人が行ってきた仕事が変わっていくという話はよく聞きますが、言語学習アドバイジングにおいても、人間がアドバイジングをすることの意味が今後さらに問われていくのかもしれません。さらに言うと、誰でもデジタルリソースに容易にアクセスできるようになっている今、セルフアクセスセンターの役割も変わっていくのだろうと思います。