O-12
人工呼吸器におけるネブライザ使用に関する事例検証と対策
社会医療法人財団 白十字会 佐世保中央病院 臨床工学部
○山川 大貴
【背景】
人工呼吸器使用中にネブライザ(Aeogen®Solo)を使用する際、吸気側回路に装着し、人工鼻との併用は禁忌としている。しかし、当院にて人工呼吸器使用中の患者に対し、ネブライザと人工鼻を併用するという事例が発生した。そこで、ネブライザと人工鼻の併用及び、呼気回路への誤装着による影響について検証を行ったので報告する。
【実験方法】
本実験では人工鼻とネブライザの併用と、呼気側回路へのネブライザ誤装着を想定して実験を行った。薬液の代替として着色水を使用した。その際、呼吸器回路の患者側に不織布ガーゼを敷き、ネブライザから噴霧された着色水の付着の有無を確認した。また、時間経過による波形の変化を観察した。
【結果】
当院では、ネブライザ使用時、吸気側と呼気側の両方に防塵フィルタを装着している。実験では、人工鼻との併用の場合、ネブライザ開始から2分で人工鼻のYピース側に水分が貯留。呼気フィルタはネブライザ開始から6分で着色が確認された。15分経過時、人工鼻に貯留した着色水が患者側へ滲出しているのが確認し、波形、実測値の変化が確認できた。呼気側回路への誤装着では、ネブライザ開始直後から呼気フィルタへの着色が確認された。呼気側回路に水分が貯留し、呼気時間延長波形などが確認できた。
【考察】
呼気側回路に誤装着した場合、回路内に貯留した薬液を誤嚥する可能性が考えられた。ネブライザの誤使用は、患者に薬剤が投与されないだけでなく、発見が遅れることで人工呼吸器による換気、酸素化の維持、呼吸仕事量の軽減などが維持できない。そのため各々が業務の中で回路の外観だけでなく、波形や実測値の変化を察知できるよう正しい知識を備える必要である。
【結語】
人工呼吸器の使用は、集中治療室のみならず、一般病棟、在宅まで多岐にわたっている。また、多職種が携わるため、今後は院内のe-ラーニングシステムにて、本実験の写真や動画を定期勉強会や新人教育に活用し、視覚的要素も踏まえながら、人工呼吸器の管理体制の改善に努めていきたい。
O-13
人工心肺終了後の返血操作の取り組みについて
長崎みなとメディカルセンター 臨床工学部
○松本 光太郎
【背景】
以前の人工心肺回路血返血方法は、脱血回路内の血液回収後、ヘモコンセントレーターで濃縮し、リザーバーレベルが0になるまで送血をしていた。しかし、この方法では濃縮血が回路内に多く残ってしまうと考えた。そこで、返血効率の良い方法を検討したところ、脱血回収後、ヘモコンセントレーターでリザーバーレベルが0になるまで濃縮した後にリザーバーへ生理食塩水を投与し、生理食塩水にて濃縮血を押し出すことで返血効率が良くなるのではないかと考えた。
【方法】
使用している人工心肺回路(テルモ社製キャピオックスカスタムパック)のリザーバーから送血カニューレまでの容量を計測し、当院で使用している人工肺(EUROSETS社製スキッパー・GETINGE社製QUADOROX-i・テルモ社製FX-15およびFX-25)と組み合わせた容量をそれぞれ算出した。次に心臓血管外科医と麻酔科医に新たな回路血返血方法について有効性を含む説明会を開いた。医師より臨床使用の許可を得る事ができたため臨床での回路内返血を実施した。
【結果】
人工心肺の回路血返血方法を取り入れる事が出来た。
【考察】
今回の新たな回路血返血方法を取り入れたことで、回路血を早く患者へ返す事ができるため、凝固因子の損失を軽減することが出来るのではないかと考えられる。返血後も回路内は生理食塩水で満たされていることから体外循環の再開もすぐに対応することが出来る。また、人工心肺停止から時間が経っても回路が固まるのを防ぐ事が出来る。他にも最後にセルセーバーで処理する際に生理食塩水で洗い流す事で、回路内残血も減らす事が出来ると考えられる。
【今後の展望】当院では遠心ポンプを使用しているため、濃縮血と生理食塩水が混合される箇所が出来る。液体がどの程度、混合されるのかも今後検討したい。また、液体の粘性度の違いで返血効率に差が生じるのかも今後検討したい。
【結語】今回、新たな回路血返血方法を考案し、回路容積の測定から医師への説明会を行った事で、より効率の良い返血方法を実施する事が出来た。
O-14
再狭窄病変治療にIVUS/OCTが有用であった症例
長崎医療センター 臨床工学室
○川満 守
【背景】
昨今の経皮的冠動脈インターベンション(以下PCI)では治療の質を上げるために、治療前の血管内性状、経皮的バルーン血管形成術(以下POBA)やステント留置後の評価に血管内超音波法(以下IVUS)/光干渉断層法(以下OCT)などのイメージングデバイスを用いることが多い。今回他院より、再狭窄病変に対してPCI施行するもバルーン不通過のため当院に紹介となった患者にIVUS/OCTを施行し、血管内腔にステント変形を認めた症例を経験したので報告する。
【症例】
79歳男性2021年に急性心筋梗塞(以下AMI)にて他院搬送。左回旋枝(以下LCX)内の血栓性閉塞に血栓吸引、POBA、大動脈内バルーンパンピング(IABP)挿入。(以前よりLCX#13にステントあり)2023年フォローアップ心臓カテーテル検査(CAG)にて、#13にステント内再狭窄(ISR)認め、PCI施行するもバルーンカテーテル不通過にて当院へ紹介となる。
当院にて、IVUS、OCTを施行したところLCX#13のステントの一部にステント変形を認めた。変形部の中枢側にステントのマルアポジションがあり、AMI時にガイドワイヤーがステント内で一部ステントの外を通り、POBAによるステント変形・破損をきたしたと考えられた。変形したステント内へガイドワイヤーを挿入し治療も検討したが、手技的困難と合併症予防を考えバルーンによる高圧拡張で変形部のステントクラッシュを確認後、薬剤コーティングバルーン(DCB)を施行した。
【結果】
今回、稀な画像および症例を経験した。IVUS、OCTによるイメージングガイドは治療成績向上の為に有用な治療ツールデバイスであることを再確認した。
O-15
洞停止かつピルシカイニド中毒に対しVA-ECMOを導入し離脱に成功した1症例
長崎みなとメディカルセンター 臨床工学部
○河村 優風
【諸語】
洞停止となった患者さんに対し体外式ペースメーカーの留置目的で心臓カテーテル室に入室したがペーシング不全をきたした。その後に無脈性電気活動(PEA)となり体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を導入し離脱に成功した症例を報告する。
【症例】
80代女性、他院で徐脈性不整脈による高度徐脈と診断され当院に救急搬送された。来院時洞停止、血圧130/90mmHg、SpO2:97%、心拍数:20bpmであった。検査データはBNP:12599、K:7.5、PH:7.148、Lac:89、Cr:3.41、BUN:64.6となっており腎不全急性増悪、心不全による循環不全、高カリウム血症、アシドーシスとなっていた。
来院から約35分後、心臓カテーテル室に搬送され、体外式ペーシングの準備が行われた。右内頸静脈よりアプローチし、ペーシングカテーテルを心室中隔付近に留置した。留置後、VVI:60bpm、出力5Vでペーシングを開始したがペーシングフェイラーの状態が続いた。出力を5Vから12Vに変化させたがペーシングフェイラーであった。留置位置の再確認、機器の異常やリードの異常を疑い、それぞれ交換を行ったが、ペーシングフェイラーは改善されなかった。手技開始から約20分後、患者さんが意識消失、PEAとなったため心肺蘇生法(CPR)を施行した。2分間のCPRを施行しアドレナリンが投与されたが心拍再開(ROSC)しなかったため、VA-ECMO確立となった。その後VVI:70bpm、出力8Vにてペーシングに反応することが確認でき、鎮静下にて全身CTを撮り、集中治療室に入室した。入室後はCHDFやGI療法などを施行し、循環動態が安定したため入室後7日目にVA-ECMO離脱となった。
【考察】
今回の症例ではペーシングフェイラーが遷延したことで心停止となった。ペーシングフェイラーの原因としてはかかりつけ医にて処方されていたピルシカイニドの内服と腎不全急性増悪により腎臓にて排泄されにくくなくなったピルシカイニドによる血中濃度が高まった影響によりNaチャネル抑制作用が考えられる。また循環不全によるアシドーシスと高カリウム血症がかさなったことも一因として考えられる。
【結語】
ピルシカイニド中毒及び高カリウム血症により高度徐脈を呈している場合はペーシング不全に対し細心の注意を払うべきである。
O-16
完全断線によりペーシングフェイラーを経験した一例
特定医療法人光晴会病院 臨床工学科
○塩賀 健
【はじめに】
ペースメーカのリード断線は様々な要因により引き起こされる。当院でも不完全断線の症例は何度か経験したことがあるが、今回は完全断線によるペーシング不全を経験したため、その状況と経過を報告する。
【症例】
80代男性。完全房室ブロックにて2015年2月にペースメーカ植込み術を施行。モードはDDD、レート70/120bpm。
【経過】
2013年12月に息苦しさ、胸部不快感、意識が朦朧とすると電話連絡があった。外来診察にて胸写、心電図、バイタルともに変わりがなかったためホルター心電計を装着し帰宅となった。本来、患者からの訴えがあった場合はデバイスチェックの依頼が当科へあるのが通例だが、当患者は約1ケ月前に外来にてデバイスチェックを実施しており、その際リード抵抗値、ペーシング閾値、胸写・心電図共に著変がなかったため依頼がなかった。ホルタ―心電計の結果、夜間に最大9秒間のlong pauseが確認され、断続的なペーシング不全が見られたため緊急入院となった。
モードをDDDからVOOへ変更し、V出力を8V/1.2msに上げ様子観察していたが、再度10秒以上のlong pauseがあったためテンポラリー挿入となった。テンポラリー手技中にリード極性をユニポーラに変更しリードインピーダンスを測定すると400Ω時はペーシングできており、ペーシングフェイラー時に測定すると、3000Ω以上であった。電池残量も残り1年であり、ジェネレータ交換も兼ねて新規リードを追加挿入予定となった。
ペースメーカ交換術を実施し、透視下でVリードを牽引してみると固定用スリーブの付近で+極、-極いずれも断線していることが判明した。リード抜去を検討したが、鎖骨下静脈進入部だけでなく上大静脈血管壁およびAリードとも癒着しており牽引してもリード先端に力が伝わらなかったため、リード抜去はせず絶縁処理を行い新規リード追加となった。
【まとめ】
今回の症例は、定期外来チェックのデータのみではリード断線の前兆が見られず、患者の自覚症状からしか発見することができなかった。そのため、プログラマのデータから得られる情報だけでなく、患者とのコミュニケーションにより得られる情報を傾聴することも重要であると思われる。リード断線は必ずしも緩やかにデータが悪化するわけではなく、今回の様に突然起こり得る場合があることを経験した。
O-17
S-ICDの不適切作動にてリード調整を経験した一例
長崎大学病院 ME機器センター
○池田 翼
【はじめに】
皮下植込み型除細動(以下、S-ICD)とは、腋下部に植込まれた本体と、皮下に留置された1本のリードを使って、電気ショックによる救命治療を行うものである。経静脈除細動と比べて、本体とリードが心臓や血管に触れないため、植込みによる合併症の発生率が低いという利点がある。今回我々は、S-ICDにおける不適切作動が原因でS-ICDのリード調整を行った症例を経験したため報告する。
【対象】
40歳代男性。既往歴は腰椎椎間板ヘルニアと左眼白内障術後。検診時心電図異常を指摘されていた。その後、心室細動蘇生後にて入院検査加療しBrugada症候群と診断されS-ICD植込みを行った。
【結果】
S-ICD植込み1カ月後のチェックにて不適切作動が4件。農作業中(洞性頻脈)に前屈みの姿勢になり、T波のオーバーセンスによって不適切作動が生じた。その際にベクトルは変更せず、コンディショナルゾーンを200→250bpmに変更。その10日後に心室細動に対して適切作動。その1か月後も同様に心室細動に対して適切作動。その5ヶ月後には不適切作動が2件。ウォーキング後の休憩時(洞性頻脈)にT波のオーバーセンスが原因で不適切作動が生じた。その後、オーバーセンシングによる不適切作動を繰り返したためS-ICDのリード調整を行った。
【考察】
1回目の不適切作動では、農作業中に前屈みの姿勢になったことによりR波波高が低下しR/T波比率が低下したことによりT波のオーバーセンシングが生じ、不適切作動を生じたと考察する。2回目の不適切作動はウォーキング後の休憩時(洞性頻脈時)に前屈みの状態となり全体的に波高が低下しT波のダブルカウントが生じ不適切作動を生じたと考察した。
【結語】
S-ICDはR波波高が低下しT波のオーバセンシングを生じるリスクがある。さらにスクリーニングの際に年齢や生活習慣などをもとに体位変換テストの実施についての必要性を感じた。今回S-ICDの不適切作動回避に難渋し、リード調整の症例を経験したため報告する。