O-6
臨床工学技士として令和6年能登半島地震日本DMAT活動を経験して
長崎大学病院ME機器センター
○髙橋 諒充
【はじめに】
令和6年1月1日に発生した、能登半島地震に対して、発災以降継続的な災害医療派遣チーム(DMAT)の派遣が行われていた。被災地内では医療機関等の支援、必要な患者の搬送等の需要への継続的対応が必要な状況が続き、今後も継続的なDMAT派遣が必要と判断がなされた。
【背景】
DMAT事務局より九州・沖縄ブロックに所属するDMATに対して1月17日~2月4日までの継続的な穴水町保健医療福祉調整本部への支援要請があり、長崎大学病院の第一陣として1月17日~1月20日まで日本DMAT業務調整員として4日間の活動を経験したため、報告する。
【活動内容】
派遣された穴水町の需要は、発災後亜急性期の医療提供・維持であり、同地区に一つしかない総合病院である穴水総合病院の支援に加え、避難所および施設支援が重要な任務であった。当チームは主に、避難所支援・施設支援を実施し、2箇所の避難所を巡回、避難者の医療相談・診察、感染管理、道路状況、電気・ガス・水道のインフラの確¬¬¬¬認を行い、本部避難所班へ報告した。
加えて、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)、災害派遣精神医療チーム(DPAT)なども介入しており、避難所の感染管理や精神的事項のフォローについて、他の支援チームと共有しながら、避難所の需要の把握・対応を行った。軽症感染者の一部は、倒壊リスクもある自宅にて生活されていたため、情報を収集し自宅への訪問フォローも行った。また、本部の指示で分隊を取り、穴水町の老人施設から金沢市の老人施設に高齢者夫婦2名を搬送する活動も実施した。
【結語】
令和6年能登半島地震への日本DMAT派遣を経験した。インフラ状況が悪い中で、被災地の需要の把握、医師・看護師との連携、他の支援チームとの情報共有の重要性を再認識することが出来た。また、災害亜急性期には、行政・福祉と共同して支援を行う重要性も感じた。
O-7
仙骨神経刺激療法業務の立ち上げ
特定医療法人光晴会病院臨床工学科
○城谷絵里香
【はじめに】
本邦には便失禁で悩む方がおよそ500万人いるといわれている。便失禁はいのちに関わる病気ではないが生活の質を損なう場合がある。生活習慣の改善や骨盤底筋訓練、薬剤により症状の緩和がある程度期待できるが、改善しない場合には外科的治療の仙骨神経刺激療法(Sacral Neuro Moderation:SNM)を行う。当院では、2023年4月より便失禁外来を開設し9月よりSNM手術が開始され臨床工学技士(CE)が参入することとなった。当院でのSNM業務立ち上げと現状について報告する。
【経過】
実施するにあたり当科のほかに外科医師、手術室看護師、病棟看護師、診療放射線技師によるSNMチームが結成された。便失禁患者に女性の割合が高いことや心情的理由を考慮し女性臨床工学技士もチームに参加することとした。2023年6月には熊本県の医療法人社団高野会大腸肛門病センター高野病院(以下、高野病院)に見学へ行き、具体的なSNM業務の流れ、必要物品の確認、手術見学を行った。その後は医師、看護師、診療放射線技師、CEにてSNMに関する手術の流れの確認や院内研修を実施した。術中の刺激装置の操作、母趾の運動反応の確認と記録をCEが行い、治療における不明点はメーカーへ確認、業務における不明点は高野病院と情報交換を行うことで解決していった。植込み術から外来チェックへ移行するまでの一連の流れをCE内で共有した。当院での症例は1例のみであり、定期的に外来チェックを実施している。症例数が1例だけであるため、現在はメンバーを固定しスタッフ教育とスキルアップに取り組んでいる。
【考察】
SNMの効果を最大限に発揮させるには、患者の症状把握や刺激位置と刺激電流の調節が非常に重要である。術前の情報収集や排便日誌の確認から症状を把握し、患者と密にコミュニケーションを取っていく必要がある。またSNMはペースメーカ等のデバイス業務と異なり、患者自身で刺激電流の調節を行うことができるため、よりわかりやすい操作指導が求められると考える。
【結語】
今後症例を重ね、SNM業務を創造していく。
O-8
初めてのda Vinci業務
〜初回ローテート期間を振り返って〜
長崎大学病院 ME機器センター
○福﨑 瑚瑛
【はじめに】
当院では、入職1年目は3ヶ月単位で各部門に配属されるローテート制を採用しており、手術室配属時はda Vinci業務も担当する。今回、初回ローテート期間である3カ月間を振り返り、自身で感じた問題点を報告する。
【現状】
当院のda Vinci業務は主に、術前のda Vinciシステムのセッティング、ロールインおよびドッキング後のチェックとロールアウトである。術前のセッティングに関しては、基本的に前日もしくは夜勤帯に実施している。ロールインは臨床工学技士(以下CE)が行うが、ドッキングは医師が行い、担当CEと医師にてドッキング後のチェックを行う。これらの業務を3カ月という限られた期間内に1人で業務を行えるようにならなければならない。そのための取り組みとして、マニュアルの活用およびOn the Job Training(以下OJT)による技術習得を行なっている。またローテート期間終了後に、業務到達度評価表にて上級CEより評価を受ける。
【問題点】
ロールインは、体格やアプローチの仕方によってポートの位置が変化する。また、ドッキング後のチェック項目の1つにアームと患者の距離があるが、術中の操作によってはアームの角度が変わり患者に危害をくわえてしまう可能性がある。現在、当院で使用しているマニュアルには、ロールインの手技の詳細については記されていなかった。よってマニュアルの不足分は、大きくOJTで補う必要があった。また技術習得には個人差はあるが、指導者側の負担も大きかったのではないかと考えられる。
【考察】
症例ごとに変わるロールインの仕方に対応できるようになったのは、配属から2ケ月経過してからであった、これは配属直後から上級CEの指導のもと、経験を積んだことが非常に有効であったことが考えられる。しかし、ロールインについての詳細や術野とのコミュニケーションの取り方に難渋した。よってこのような内容が記載されたマニュアルがあれば、より早期に技術の習得も出来たのではないかと考えられる。
【結語】
今回、初回ローテート期間である3カ月間を振り返ることで自身の感じた問題点を抽出することが出来た。OJTは有効であったが、マニュアルを改善することでda Vinci業務の早期技術習得や安全に運用することへ貢献できると考えられる。
O-9
当院の初期研修プログラムを経験して
地方独立行政法人佐世保市総合医療センター 医療技術部臨床工学室
○神宮 裕樹
【はじめに】
初期研修プログラムは、臨床研修医の初期研修過程にて導入されているプログラムの一種であるが、看護師や医療技術職においては統一されたプログラムは存在せず、施設ごとに策定されているものに準じて実施されている。そこで当院は業務の習熟にかかる研修プログラムとは別に本年度「臨床工学技士 初期研修プログラム」を作成した。今年度新規採用にて入職した2名(うち1名は当人)の職員が、同プログラムに沿った教育を受けての考察を行ったので、ここに報告する。
【研修内容】
本初期研修プログラムは、臨床工学技士の国家資格に定められている業務内容の習熟を目標に実施することよりも、社会人または医療人としての言動を教育の主目的として作成し、基本的に習熟期間を経過することによって目標は達成されると推測して制定した。定期的な期間の経過後に、研修対象者と指導者の双方の評価を行い、半年経過時に所属長との面談を実施するなどの定期的なコミュニケーションの場を設けることも特徴の一つである。配属先業務ごとに、「業務目標」「行動目標」の2区分にて項目が定められており、1年間を通しての人材育成目標が掲げられている。
【研修結果】
研修対象者2名ともに、自己評価では設定期間内に定められた目標は達成でき、指導者・所属長からの他者評価においてもおおむね達成できているとの評価であった。2名の「業務目標」「行動目標」の達成時期に関しても大差なく進行しており、当初想定していたとされるプログラムとしての目標は達成されていた。
【考察】
行動目標が職場のルールを理解する・多職種との協調・協働といった明確かつ比較的達成しやすいものであったことが、研修内容を計画通り進行できた要因であると考える。また、新たな試みとして実施されたプログラムであったが、教育課程としての問題点や混乱の発生がほとんどなかったのは、進捗状況の差が生まれなかったことから見ても、設定された目標水準の理解のしやすさにあると考えられた。
【結語】
今回、新たに作成された人材育成に関する初期研修プログラムを2名の新規採用職員に実施した。本プログラムを受けた職員として、今後の継続したプログラム実施に向けた意見のまとめを行い、今後の当院における人材育成へ少しでも貢献できるよう努めたい。
O-10
産休育休明けの働き方
長崎みなとメディカルセンター 臨床工学部
○佐藤 結衣
【はじめに】
2012年以降、日本臨床工学技士会では男女共同参画委員会が設置され、長崎県臨床工学技士会では2016年より女性部会(じゃおどり会)が発足し、女性の出産や育児などのライフイベントに適した働き方が注目されている。このような中、私は当院で初めて産前産後休業および育児休業(以下、「産休育休」と称する)を経て、現在復職している。今回、当院での産休育休後の臨床工学技士の働き方について報告する。
【現状】
2022年4月から約1年2カ月の産休育休を取得し、2023年6月から職場に復帰をした。復職後は、カテーテル業務、医療機器管理業務、手術室業務、CIEDs(植込み型心臓電気デバイス)業務、集中治療業務を主に担当している。周囲の理解と助力に恵まれ、業務の中で時間内に終わらない場合は他のスタッフがサポートしてもらい、家事・育児に支障なく働くことができている。
【課題】
産休育休前の業務と同じ業務を再開する中で、いくつかの課題が浮かび上がった。復職後の業務に関する明確なトレーニングプログラムが整備されていなかったため、全ての業務において自己判断が難しかったことが挙げられる。これが原因で、復帰後1ヶ月目の初期段階では、カルテの記入漏れなど小さなミスが相次ぎ発生した。特に、妊娠中から放射線被爆の問題でカテーテル業務に従事していなかったため、以前のように医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションを通じたIVUS(血管内超音波)装置の機器操作が出来るようになるまでには時間を要した。
【結語】
産休育休明けは自分が予想していた以上に多くの業務やスキルが記憶から抜け落ちていることに気づき、家事・育児との両立が大きな課題であった。このため、復職後の明確なガイドラインや長期休暇復帰プログラムの整備が重要であると感じる。これにより、復職を迎える技士が安心して業務に従事できる環境が整えられるべきだと考える。また、女性の産休育休だけではなく、男性の育児休業の取得や、何らかの理由で臨床を離れていた技士に対しても適応でき、ライフイベントに合わせた働き方の実現が期待できるのではないかと考える。
O-11
臨床実習カリキュラム内容の改正を受けての当院の臨床実習の在り方
地方独立行政法人佐世保市総合医療センター 医療技術部臨床工学室
○矢谷 慎吾
【緒言】
令和4年3月31日に『臨床工学技士学校養成所指定規則の一部を改正する省令の公布について』が出されたことにより、臨床実習単位の増加や実習必須項目の追加など、臨床実習受入れ施設が留意しなければならない事項が明確となった。今後の臨床実習カリキュラムに対応するためには、同内容に準じた指導要領の作成や学生目線での指導方針へのシフトが必須であり、当院でもその取り組みを行った。
今回新たに作成した要綱をもとに臨床実習を実施し、臨床実習修了時に学生にアンケートを実施した。その結果から臨床実習に関する指導者側の課題について検討したので報告する。
【臨床実習要綱の内容】
臨床実習全体の概要、各業務の理解度に関する評価シート、臨床実習期間である全30日分のタイムスケジュールの合計46ページで構成されている。日々の臨床実習は、当日のタイムスケジュールに沿って実施され、指導担当技士による指導内容の個人差が生じないよう計画的に遂行した。
【アンケート内容】
アンケートは臨床実習を修了する最終日に実施し、①業務実習の満足度とそれに対する感想、②時間外実習時間(帰宅後のレポート作成など)に関するもの、③臨床実習担当者に関する気付きや思い、④当院での臨床実習を行った感想の大きく4項目に分かれた全20項目の内容に対し記載いただいた。
【結果】
①では、臨床実習全体としての満足度は高く、特に他医療職種を交えた実習内容に関する意見が多かった。②では、レポート作成に加え、予習・復習に時間を要したため長時間となっていた。③では、学生を放置しない工夫に関して評価が高かった。④では、早出業務などの内容も体験したかったとの意見があった。
【考察】
タイムスケジュールに沿った実習内容であることから、学生を孤立させる時間がないことと、実習時間中のレポート作成時間の確保がされていることが満足度に関与していると考えられた。また、学生の時間外実習時間が長いことが課題であることから、指導者からの“宿題”などを適切な量で与えるなどの配慮が必要であると考えられた。
【結語】
今回作成した要綱に沿った実習実施は、学生の満足度も高いものであった。しかし、実習施設への往復にかかる時間や実習中の緊張によるストレス緩和のためには、十分な休息を取得することも重要であり、時間外実習時間の管理を指導者側が行う必要性が課題として挙げられた。今回のアンケート結果を踏まえ、当院での臨床実習が学生の意見を反映した「持続可能な臨床実習」となるよう努めたい。