ほとんどのクリニックは海外からの輸入品の色素を使用しているのが現状と考えられる。そこには二つの大きな問題点がある。滅菌の問題と成分内容の問題である。
2018年に学術誌に報告された内容によれば、アメリカ合衆国で販売流通しているタトゥーおよびアートメイク用の色素の微生物汚染を調べたところ、85検体中42件で細菌・真菌の汚染が認められた。新品未開封の状態でである。そのうち34件では、人体に有害な病原菌であった(Microbiological survey of commercial tattoo and permanent makeup inks available in the United States J Appl Microbiol 2018 May;124(5):1294-1302.)。
同じ著者による2020年の再調査報告もある(Microbial contamination of tattoo and permanent makeup inks marketed in the US: a follow-up study Lett Appl Microbiol. 2020 Oct;71(4):351-358.)。前回の調査で細菌汚染されていた色素42種類から17個、前回汚染が認められなかった43種類から4個が再調査された。結果、前回陰性であった4個からは細菌を検出しなかったが、前回汚染されていた17個からは、11個で再び細菌汚染が確認された。
このように海外製の色素は新品未開封であったとしても無菌である保証はない。とりあえずの対処法としては、自分で再滅菌することである。
図4 市販の色素の再滅菌の方法の一例。シリンジで色素を吸い出しキャップをした上で高圧蒸気滅菌する。温度変化に伴う体積の変化は内筒が動くことによって対応できる。
滅菌の問題の次に、成分内容の問題がある。
世界的に見ると、成分内容の規制に関して2022年12月現在でもっとも厳しいのはEU加盟国である。2022年1月からEUが定めるREACHという規則(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals「化学物質の登録,評価,認可,制限」)が適用をアートメイク色素まで拡大された。全成分の表記の義務付けと、リスクの高い物質については使用の禁止、または濃度の上限が定められた。
アメリカではどうかというと、日本の厚生労働省に相当するFDA(Food and Drug Administration.アメリカ食品医薬品局)のHPに、以下のような記述がある。
(1)「いかなる色素添加物も、タトゥーやアートメイク用には認可していない」(No color additives are approved for tattoos, including those used in permanent makeup.)
また、
(2)「FDAはアートメイク色素をpharmaceuticals(医薬品)ではなくcosmetics(化粧品)と考えている」(FDA considers the inks used in intradermal tattoos, including permanent makeup, to be cosmetics.)
(3)「タトゥー用のインクに限らず、ある化粧品で安全性の問題が見つかった場合には、FDAは消費者の被害を食い止めるべく調査して適切に対処する」(When we identify a safety problem associated with a cosmetic, including a tattoo ink, we investigate and take action, as appropriate, to prevent consumer illness or injury.)
(4)「インクに含まれる色素成分は発売前に米国食品医薬品化粧品法にのっとって色素添加物としての承認を得なければならない」(The pigments used in the inks are color additives, which are subject to premarket approval under the Federal Food, Drug, and Cosmetic Act.)
(5)「公衆衛生上の優先順位とエビデンス欠如の観点から、FDAはタトゥー用インクに用いられる色素添加物の規制権限の行使を控えている」(Because of other competing public health priorities and a previous lack of evidence of safety problems specifically associated with these pigments, FDA traditionally has not exercised regulatory authority for color additives on the pigments used in tattoo inks.)
EUの規制に比べるとはるかに緩い。基本的に自己責任でありFDAによる介入は最小限にとどめようという姿勢が窺われる。
実際にFDAの活動を窺い知る資料がある。FDAは1988年から2003年までにアートメイクに関して5件の副作用報告を受けただけであったが、2003年になって150件以上と急増した。これに反応してFDAは原因と考えられる製品の公表を行って注意喚起している(Adverse reactions after permanent-makeup procedures N Engl J Med. 2007 Jun 28;356(26):2753.)。
図5 FDAの2007年の報告書で引用されている眉のアートメイク後のアレルギー性接触皮膚炎の症例(模写)
日本では、アートメイク色素は医薬品でも医療機器でも無い。筆者がPMDA(医薬品医療機器総合機構)に何に当たるかと問い合わせたところ「雑品」とのことであった。雑品というのは、例えばクリニックの洗面で手を洗ったあとで拭くペーパータオル、あれなどは雑品に当たる。要するにクリニックで使用はするが、医薬品でも医療機器でも無いもの、それらが全て雑品である。筆者がPMDAに問い合わせたのは、アートメイク色素というのは体内に入るものであるので、何らかの規制対象になるのではないかと考えたのだが、どうもそういう訳では無さそうだ。化粧品ですら無いので、アメリカよりもさらに規制が緩いと言える。
この規制の緩さは、本邦ではアートメイク施術が医行為であるとされていることと関係があるかもしれない。施術する医師が色素についての全責任を負うのであって、厚労省やPMDAは関与しない、そういう意味合いにも取れる。
EU加盟国域内で使用されているアートメイク色素であれば、安全であると言えるだろうか?ここに興味深い報告がある。EUの新しい規則で濃度に上限が設けられた保存料が、実際のところどの程度製品に含まれているのかを、イタリアの公的機関が検証した結果である(Quantification of preservatives in tattoo and permanent make-up inks in the frame of the new requirements under the REACH Regulation Contact Dermatitis. 2022 Sep;87(3):233-240.)。
40.6%の色素において、REACH規制の上限を超える保存料が添加されていた。タトゥー用の色素では49.5%、アートメイク用色素では17.9と、アートメイク用色素の方が少なかった。生産国別では、アメリカ、イタリア、台湾製のものが濃度上限を超えており、ドイツ製のものは大丈夫であった。
以上のような現状からアートメイク色素の真の安全性を考えたとき、私たちは何を使用すれば良いのだろうか?もしも市販のものを購入するとすれば、2023年1月の時点では、ドイツ製のものが良いということになる。
筆者の場合は安全性の担保された材料を自ら入手して自作するしかないと考えた。市販もしており巻末に広告があるので参照されたい。
参考までに海外製のアートメイク色素の成分がEUで認可されたものであるのかを確認する具体的な方法を記しておく。
例えば成分として「成分:レッド254、グリセリン、イソプロピルアルコール」と書かれたアメリカ製の赤色の口唇用のアートメイク色素があったとする(実際に存在する)。
「レッド254」はGoogleで検索して「pigment red 254」のことだろうと推定できる。
アートメイク関連のEU規則は、(EU) No 2020 2081, (EC)No 1223 2009, (EC) No 1272 2008であるので、ネットで検索してまずはPDF文書としてPCにダウンロードする。Acrobatで開いて検索機能を利用するためである。
ちなみに(EC) No 1272 2008には一般的な危険物質のリストがあり、(EU) No 2020 2081にはその許容濃度が記されている。(EC)No 1223 2009には「化粧品に使用してはならない物質のリスト」と「化粧品に使用して良い物質のリスト」があり、(EU) No 2020 2081にはこのリストをアートメイク色素としても適用するという趣旨が書かれている。(EU) No 2020 2081はさらに特別な物質についての許容濃度をも定めている。例えば水銀については0.00005重量%を上限と定めているので、従来赤色色素によるアレルギーの原因の代表として報告されてきた水銀化合物はEUでは今後使用することが出来ない。
Acrobatで各文書を開いてCtrl+Fで検索窓を表示し「pigment red 254」と入力すると、文書中にこの色素についての記述があれば強調表示されるのでそこを読めばよい。念のためにpigment red 254のCAS RN(Chemical Abstracts Service Registry Number)、すなわち84632-65-5を調べて同様に検索しておく。3文書とも「Adobe acrobatによる文書の検索が終了しました。一致するものがありません」と表示されるので記載が無いことが判る。
すなわちpigment red 254はEUではpositive listにもnegative listにも収載されていない色素である。積極的に危険性が喚起されてはいないが、認可もされていない色素ということである。
アメリカで化粧品に使用することが認められている色素は、FDAの「Color Additives Permitted for Use in Cosmetics」というサイトで確認できる。ここにもpigment red 254は収載されていない。FDAは「アートメイク色素を医薬品では無く化粧品と考えている」のだが、このような製品が堂々と販売されていることから考えて、この問題に積極的に介入する気は無さそうである。
前述したように日本ではアートメイク色素は「化粧品」ですら無い。「雑品」として扱われており、輸入販売も自由だし、いかなる規制にもかからない。アートメイクが医行為とされ、安全性の担保は医療者の判断に委ねられているからである。私たちは「成分が開示されている」というだけで安心して、それがどんな化学物質なのかを調べること無く施術すべきではない。
他の情報源としては、Contact Dermatitis instituteが提供するアレルゲンデータベース(https://www.contactdermatitisinstitute.com/database.php)がある。感作性が臨床的に問題となった物質であれば収載されているだろう。また医学文献の検索サイトであるPubmed(National Center for Biotechnology Information (nih.gov))で「pigment red 254」を入力して調べるのも良い。