眼球への針刺し
図14はアイラインの施術の際に眼球に針を刺してしまった症例である。深さが結膜を超えて強膜に達するとこのように結膜浮腫に加えて血管拡張が見られる。抗生剤とステロイドの点眼で約6週間後には治まったが白目への色素沈着は残った。
図14 Full-thickness eyelid penetration during cosmetic blepharopigmentation causing eye injury. J Cosmet Dermatol. 2008 Mar;7(1):35-8の症例写真の模写
図15も同じく白目を誤針して色素が沈着してしまった症例で、整容的な観点から眼科にてダイヤモンドバーを用いて削り取ったとのことである。施術直後に疼痛などの症状はまったく無く、色素沈着だけが気になったとあるので、比較的浅い層で色素がとどまったケースであろう。
図15 Inadvertent pigmentation of the limbus during cosmetic blepharopigmentation. Cornea. 2009 Jul;28(6):712-3の症例写真の模写
針が強膜を貫通してしまうと、裏側の網膜を傷つけてそこから網膜剥離が生じうるし、硝子体全体に炎症が及んで全眼球炎を引き起こす。そうなると失明のリスクが高いので、万が一針刺し事故が生じた場合には速やかに眼科を受診させなければならないし、日頃から眼科医と連携を取っておくのが望ましい。
マイボーム腺の閉塞
睫毛の内側にはマイボーム腺があり、アイラインを綺麗に仕上げようとする余りこの部位にアートメイクを施すと、腺の開口部を損傷して閉塞を来たし、ドライアイの原因となることがある。図16は残存する黒色色素と、開口部が閉塞して拡張したマイボーム腺(黄色い小腫瘤)である。
図16 A Case of Meibomian Gland Dysfunction after Cosmetic Eyelid Tattooing Procedure. J Korean Ophthalmol Soc. 2013 Jan; 54(8):1309-13の症例写真の模写
ファンニング
ファン(fan)=扇であり、下眼瞼縁のアイラインの施術をした後に、色素が扇状に流れて広がってしまう現象をいう。色素が真皮乳頭層を超えて深く(約1.5mmと言われる)入ってリンパ行性に流れることで生じると言われている。図17は右側のみでファニングが生じてしまった例。この症例はQスイッチアレキサンドライトレーザー(7.5J/cm2)を8回繰り返して治療された。色素沈着した皮膚を切除し植皮することで治療された例もある(Extensive lower eyelid pigment spread after blepharopigmentation. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 1999 Nov;15(6):445-7.)。
図17 Complications of eyelash and eyebrow tattooing: reports of 2 cases of pigment fanning. Cutis. 2001 Jul;68(1):53-5の症例写真の模写
感染症
本邦での2021年の報告で、眉1188例とアイライン243例の合併症を集計したところ、眉で7例(0.6%)の感染症が生じていた(Complications of permanent makeup procedures for the eyebrow and eyeline. Medicine (Baltimore). 2021 May 7;100(18):e25755.)。論文中での言及は無いが、海外製の色素を再滅菌することなく使用している施設が多いのが一因であろう。前述したような小分けして再滅菌してから使用するという過程を経れば、さらに発症率は下がるはずである。
通常の抗生物質で効かない感染症の一つに非定型抗酸菌症がある。タトゥーにおける非定型抗酸菌症の症例報告は多い。感染源はインクあるいは希釈に用いた水であり、未開封のインクから原因菌が同定されたという報告も存在する(Outbreak of Tattoo-associated Nontuberculous Mycobacterial Skin Infections Clin Infect Dis. 2019 Aug 30;69(6):949-955., Tattoo-Associated Nontuberculous Mycobacterial Skin Infections—Multiple States, 2011-2012. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2012;61:653-6)。
これは製造段階でインクが汚染されていたということを意味する。アメリカのFDAはタトゥーやアートメイクの色素の滅菌を義務付けてはいない。繰り返しになるが、アメリカなど海外製の色素を使用する際には前述したような方法で医師が責任を持って滅菌すべきであろう。
図18 アートメイク後に生じた非定型抗酸菌感染症。A Chinese tattoo paint as a vector of atypical mycobacteria-outbreak in 7 patients in Germany. Acta Derm Venereol. 2011 Jan;91(1):63-4.の症例写真の模写。
アレルギー
パッチテストの陽性率は非常に低い。それは色素がハプテンとして皮内の蛋白質と結合したり、光化学反応や酵素によって変化した後の物質がアレルゲンとなったりするためと考えられる(Patch test study of 90 patients with tattoo reactions: negative outcome of allergy patch test to baseline batteries and culprit inks suggests allergen(s) are generated in the skin through haptenization. Contact Dermatitis. 2014 Nov;71(5):255-63.)
アレルギー反応の臨床像・組織像としては、肉芽腫(Granulomatous reaction)、苔癬型反応(lichenoid reaction)、偽性リンパ腫(Pseudolymphomatous reaction)、蕁麻疹(Hypersensitvity reaction)がある(Cutaneous allergic reactions to tattoo ink J Cosmet Dermatol. 2009 Dec;8(4):295-300.)。前3つは臨床像からは判別しにくい。
アートメイクの合併症としてのアレルギー反応は、通常の化粧品による接触皮膚炎とはまったく異なる様相を呈する。皮膚に接触して洗い流すことの出来る化粧品と、皮内に長期間存在する色素との違いによる。
アレルギーに関してはもう一つ見落としやすい問題がある。それは後日レーザーで色素を除去しようとしたときに現れるもので、色素が分解されて粒子が細かくなることが関係している。
分解されて細かくなった粒子は所属リンパ節へと流れる。タトゥーをQスイッチレーザーで除去したのち所属リンパ節の腫脹を来すことがあり(Transient immunoreactivity after laser tattoo removal: report of two cases Lasers Surg Med. 2008 Apr;40(4):231-2.)、さらには遅延型あるいは即時型のアレルギー症状が全身に現れることがある(Immediate cutaneous hypersensitivity after treatment of tattoo with Nd:YAG laser: a case report and review of the literature Ann Allergy Asthma Immunol. 2002 Aug;89(2):215-7., Allergic reactions to tattoo pigment after laser treatment Dermatol Surg. 1995 Apr;21(4):291-4.)。
アートメイクやタトゥーにQスイッチレーザー照射することで色素は決して消滅してしまうわけではない。破壊されてより小さな粒子となり、あるいはレーザー光のエネルギーによって別の化学物質に変化した後に、リンパ行性に全身を巡る。最終的に排泄されるものもあるだろうが、リンパ節その他の組織に沈着して留まるものもある。
従って、とくにアレルギーが疑われる症例において、アートメイクの色素をとりあえず消そうとQスイッチレーザーを照射することは、かえって全身性のアレルギーを誘起して問題をややこしくする可能性がある。
アレルギー治療の原則はアレルゲンの除去であり、色素を体外に排出させようという発想は正しいのだが、方法としてはQスイッチレーザーではなく、外科的切除やCO2レーザーによる蒸散、フラクセルレーザーによる排出促進(Treatment of tattoo allergy with ablative fractional resurfacing: a novel paradigm for tattoo removal J Am Acad Dermatol. 2011 Jun;64(6):1111-4.)といった方法が望ましい。
また、口唇のアートメイクのアレルギーを疑われる患者が、3回コロナワクチンを接種したのだが、そのたびに皮疹が悪化したという症例報告がある(Allergic reaction to red cosmetic lip tattoo with possible exacerbations after SARS-CoV-2 vaccination. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Sep;36(9):e672-e673.)免疫反応の増強がアレルギー反応にも影響を及ぼしたのかもしれない。
サルコイドーシス
アートメイク部位にサルコイドーシスまたはサルコイド反応を生じてくることがあり、理由は不明だが日本での臨床報告が多い。典型的な皮疹は肥厚性瘢痕様に平坦に隆起してくるというものだが、施術部位以外にも病変が広がることもある。
鑑別すべきは、色素によるアレルギー反応、偽性リンパ腫、抗酸菌や真菌の感染症であり、皮膚生検によって非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を確認して、培養や分子生物学的手法で感染症を除外することで診断される。
諸臓器に同様の肉芽腫が生じてくる全身性サルコイドーシスという病態があるので精査が必要となるが、アートメイク部位の皮疹が初発で、後に全身性サルコイドーシスへと進展する場合もあるので(Intermediate Uveitis Associated with Tattooing of Eyebrows as a Manifestation of Systemic Sarcoidosis: Report of Two Cases. Ocul Immunol Inflamm. 2021 Jul 4;29(5):902-905.)、諸臓器に病変が確認されなかった場合でも十分な経過観察が必要である。
「ケブネル現象」という皮膚科用語がある。外的な刺激によって皮疹が誘発される現象を言い、サルコイドーシスにはケブネル現象がある。アートメイクという針を刺す施術部位に一致して皮疹が生じることは、まさにこのケブネル現象の結果である可能性がある。
その一方で、サルコイドーシスの患者にアートメイクは禁忌であるかというと、必ずしもそうでもない。2018年に様々な皮膚疾患や全身疾患のある人にタトゥーを施すリスクについてまとめられた論文が発表された(A Practical Guide About Tattooing in Patients with Chronic Skin Disorders and Other Medical Conditions Am J Clin Dermatol. 2018 Apr;19(2):167-180.)が、サルコイドーシスは禁忌とはされていない(Sarcoidosis is not a strict contraindication for tattooing.)。ケブネル現象というリスクがあるとは言え、必ず皮疹が誘発されるわけではないからと考えられるが、十分な説明と同意が必要だろう。サルコイドーシスの患者は自身の診断名を知ってはいても、ケブネル現象について必ずしも知ってはいないからである。
ケブネル現象を示す皮膚疾患としては他に乾癬などがある。
図19 サルコイドーシスまたは皮膚サルコイド反応の様々な皮疹。左:「アートメイクにより皮膚サルコイド反応が多発してみられ肺門リンパ節が腫脹した1例」臨床皮膚科 71 (4), 307-312, 2017、中:「アートメイクによって形成された皮膚サルコイド反応」皮膚病診療 35 (2), 193-196, 2013、右:「アートメイクによる皮膚サルコイド反応と考えられた例皮膚病診療」 35 (2), 193-196, 2013各論文中の写真の模写。
アートメイクのあとで生じてきた皮疹がアレルギーなのか感染症なのかサルコイドーシスなのかリンパ腫なのかは、皮膚科医であっても臨床像だけからは鑑別しにくい。施術をする医師や看護師は必ずしも皮膚科が専門では無いので、疑わしいケースに出会った場合には、専門医あるいは大学病院などに紹介状を書けば済む話ではあるのだが、診断と治療がどのような流れで行われるのかの概略は把握しておくべきであろう。アルゴリズムをまとめた論文があるので紹介したい(Diagnostic Approach for Suspected Allergic Cutaneous Reaction to a Permanent Tattoo J Investig Allergol Clin Immunol. 2019;29(6):405-413.)。ただしあくまで一つの考え方であってもちろんこのアルゴリズムが絶対というわけではない。
図20 タトゥーに皮膚病変が生じた場合の対処のアルゴリズム
施術から発症までが一か月以内と短い場合はまずアレルギーまたは感染症を疑う。膿疱の形成など感染症の兆候があれば抗生剤投与、痒みなど接触皮膚炎様であればステロイド外用剤で様子を見る。奏功しない場合には皮膚生検を行う。
発症までに一か月以上を経ている場合は、まずは生検を行う。痒みや湿疹様の外観など、アレルギーを疑う場合には陽性率は低いものの一応パッチテストも試みる。
組織検査で肉芽腫様であった場合には、抗酸菌や真菌の可能性を考えて特殊染色にて確認する。同時にサルコイドーシスの可能性を考えて全身検索を行う。
このように進めても肉芽腫形成の原因が不明なことは珍しくない。「アートメイク(またはタトゥー)後の肉芽腫反応」として時々症例報告される。
図21 肉芽腫反応の一例(Granulomatous tissue reaction following cosmetic eyebrow tattooing J Dermatol. 1991 Jun;18(6):352-5中の症例写真の模写)
単純ヘルペス
口唇のアートメイクが単純ヘルペスの再発の誘因となった可能性を指摘する症例報告がある(Activation of Herpes Simplex Infection after Tattoo. Acta Dermatovenerol Croat. 2018 Apr;26(1):75-76.)。
皮膚癌
アートメイク色素は前述のようにPAHといった発癌物質を不純物として含んでいることがあり、またアゾ色素の一部のように体内で発癌物質に変化することもある。実際にアートメイク部位に皮膚癌は生じやすいのだろうか?
タトゥー部位に皮膚癌を生じたという症例報告は多い。2012年に過去の文献から50症例をまとめた総説(Tattoos, inks, and cancer. Lancet Oncol. 2012 Apr;13(4):e161-8.)によれば50症例のうち23例が有棘細胞癌とケラトアカントーマ、16例が悪性黒色腫、11例が基底細胞腫であった。しかしこれらはあくまで症例報告であり本当にリスクが高いかどうかは分からない。
2020年にアメリカのニューハンプシャーでなされた疫学研究によれば、タトゥーを施された部位では基底細胞癌の発症リスクが高いことが示された(Cosmetic Tattooing and Early Onset Basal Cell Carcinoma: A Population-based Case-Control Study from New Hampshire. Epidemiology. 2020 May;31(3):448-450.)。黄色や緑の色素で発癌リスクが高く、黒色では比較対象との差は無かったようである。
タトゥーやアートメイクの部位に皮膚癌が生じやすいという臨床的実感は無い。しかしながら厳密に対照を設定した疫学研究においてはリスクが浮かび上がるということなのかもしれない。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックは決してアートメイクに限らず、薬剤を用いる施術においては頻度は多くは無いものの生じうるものであり、ここで特記する話でもないのだが、再確認と注意喚起のために付記しておく。症例報告は多くは無いが、それは医学的記録として残すほど新しい内容では無いという判断によるのかもしれない。一応引用しておくと“Anaphylactic reaction to permanent tattoo ink. Ann Allergy Asthma Immunol. 2009 Jul;103(1):88-9”“From the Tattoo Studio to the Emergency Room. Dtsch Arztebl Int. 2016 Oct 7;113(40):672-675”などがある。
アナフィラキシーショックの診断と治療については、日本アレルギー学会の「アナフィラキシーガイドライン2022」を参照されたい。
https://anaphylaxis-guideline.jp/wp-content/uploads/2022/12/anaphylaxis_guideline2022.pdf
要点は二つあって、迷走神経反射との鑑別と、アドレナリンの常備である。
前者については脈拍数を確認すると良い。迷走神経反射であれば徐脈であるので、頭側を下げたトレンデレンブルク体位にして、安心させるように話しかけるなどして対応する。このために施術台は頭側が下がるものが望ましい(必須では無い)。
頻脈であれば、アナフィラキシーの可能性を考えて、迷わずアドレナリンを体重kg当たり0.01mg(体重50㎏の人で0.5㎎)筋注する。アドレナリンについてはシリンジにプレフィルドされた製剤であっても1本数百円と安価にも関わらず、常備していないクリニックが多いのではないだろうか?使用せずに期限切れになることも多いだろうが、薬剤を用いる施術を行う限りは必需品である。