・Phitsシミュレーションにおける中性子線量の絶対値導出
・放射線がグルコース測定器に与える影響
・放射線によるCRT-Dショック治療誤作動研究
・Elekta社リニアックの中性子線量絶対値導出
・植込み型心臓デバイスの耐用放射線量研究
2024年度の抄録
・Phitsシミュレーションにおける中性子線量の絶対値導出
【目的】放射線治療におけるペースメーカー等のCIEDs 誤作動要因の1 つとして中性子が挙げられる。しかしリニアックのみの単純なジオメトリでは中性子線量の絶対値を求めることはできない。本研究では10、15、18X ビームでの実測値とシミュレーションのphits 計算値が一致しない原因を解明し、シミュレーションのみでの絶対値導出を目的とする。【方法】米国医学物理学会の照射野外線量レポート(TG158)での経験的な測定値を基に実測値を導出した。リニアック単体の単純なジオメトリにカウチや壁を追加し治療室全体を模擬、さらに電子線から光子線発生のプロセスを含め、X線エネルギー毎に6 種類(計18種類)のジオメトリで実測値との比較を行った。【結果】実測値に対し、シミュレーションで得られたリニアック単体での値は約1/10、治療室の模擬での値は約1/5となり、この差はジオメトリの改善では届きえない。【結論】本研究の実測値とシミュレーションの差の原因にはジオメトリ以外の可能性が示唆される。
・放射線がグルコース測定器に与える影響
【目的】日本糖尿病協会では、X線を伴う検査を行う際グルコース測定器のセンサーを取り外すように注意喚起がされているが、どのくらいの線量で不具合が生じるのか示されていない。よって放射線がグルコース測定器に与える影響について実際に放射線照射して調査した。【方法】過酸化水素水を用いることによってグルコース測定器(商品名:リブレ)で血中グルコース濃度を疑似的に測定し、温度との相関を調べた。リブレ4つに対して、2個は1.0Gy照射(0.18Gy/min)、残り2個は5.0Gy(0.22Gy/min)と50Gy(5.0Gy/min)照射した。【結果】疑似測定におけるグルコース値は、温度変化と相関した。一方リブレ自身は、照射中も照射後も健全な値を示し続けた。全てのリブレで最大測定可能期間である14日間の通信はできたが、50Gy照射後は通信エラーが何度か出てしまうことがあった。【結語】グルコース測定器は、放射線治療並みの線量を直接照射すると影響が出る可能性はあるが、一般撮影やCT撮影での影響は無視できると考えられた。
・放射線によるCRT-Dショック治療誤作動研究
【目的】放射線による両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(以下CRT-D)の除細動ショック治療の誤作動の詳細は解明されていない。誤作動には中性子、積算線量、線量率が関与すると仮定し、本研究では線量率に着目しCRT-D除細動ショック治療の誤作動誘発条件について検討する。先行研究ではCTにおける安全性が示唆されたが、誤作動は5秒以上の照射で起きる可能性があることから、本研究では5秒間以上照射可能な透視装置を用いて調査することにした。【方法】線量計により実際の透視装置の線量率を測定した。CRT-Dに照射し、心内心電図を監視して除細動ショック治療の誤作動の有無を確認した。またCRT-Dの設定は除細動治療の感度閾値を典型的な値と最高感度でそれぞれ3回ずつ照射した。【結果】透視装置の線量率は3~32cGy/minであった。また、CRT-Dへの照射結果は、最高感度(0.15mV)で約13%の確率で心房細動の誤検知をしたが、臨床的な指標である連続24回検知には至らなかったためショック治療の誤作動は起きなかった。【結論】CT、透視装置ではショック治療の誤作動は誘発されない。
・Elekta社リニアックの中性子線量絶対値導出
【目的】放射線治療におけるペースメーカー等のCIEDs誤作動原因の1つとして中性子が挙げられる。しかしリニアックのみの単純なジオメトリでは中性子線量の絶対値を求めることはできない。本研究では、Elekta社リニアックでの実測値とシミュレーション値のphits計算値が一致しない原因を解明し、シミュレーションのみでの絶対値導出を目的とする。【方法】米国医学物理学会(TG-158)での経験的な測定値を基に実測値とした。10 MV, 15 MV, 18 MVの3種類のエネルギーで、光子線を出力した場合と、電子線を出力しターゲットより光子線に変換した場合のそれぞれ6パターン計算を行った。【結果】経験的な実測値と比較して、出力光子線では約1/20倍、出力電子線では約1/10倍の小さな値しシミュレーションでは算出できなかった。また、異なるエネルギー・異なる製造会社で中性子線量の比較を行っても、実測値との不一致の程度はほとんど同じだった。【結論】本研究の実測値とシミュレーション値の差の原因は、エネルギー・製造会社の違い以外の可能性が示唆される。
・植込み型心臓デバイスの耐用放射線量研究
【目的】植込み型心臓デバイス装着患者に対する放射線治療のガイドラインでは積算線量2Gy以下を低リスクとしているが、0.1Gyにおいても不具合が発生したと報告されている。これらの不具合の発生原因を中性子線量、線量率、積算線量によるものであると仮定し、本研究においては積算線量のみに焦点を当て、不具合の発生を調査した。【方法】phitsシミュレーションを用いてデバイス内部における吸収線量の算出を行った後、ペースメーカー4台を藤田医科大学病院のリニアックを用いて6-MVX線かつ100cGy/minの低線量率で8000MUの照射を行った。【結果】phitsシミュレーションにおいてデバイス内部に65Gy相当が照射されることが明らかになり、実際の照射ではいずれのデバイスにおいても不具合は確認されなかった。【結論】6-MVX線による100cGy/minの低線量率では65Gyまでは積算線量による不具合は発生しないと考えられる。
・植込み型除細動器のCTによる除細動ショック治療の誤作動に対する安全性
・CT撮影がグルコース測定器に与える影響について
・phitsシミュレーションにおける中性子線量の絶対値導出
・MRIリニアックの7-MVビーム中性子線量分布
2023年度の抄録
・植込み型除細動器のCTによる除細動ショック治療の誤作動に対する安全性
[目的]被ばくによる両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(以下CRT-D)の除細動ショック治療の誤作動に対する原因など解明されていないことが多い。誤作動には中性子、積算線量、線量率などが関与しているといわれているが、本研究では、CRT-D の除細動治療のショック治療のCT 撮影に起因する誤作動誘発について線量率の観点から検討する。 [方法]CT 装置の線量率を求めるためにシンチレータと線量計へ照射し、画像解析によって線量率を導出した。臨床と同じに照射条件にするため胸部ファントムを用いてCRT-Dを照射し、心内心電図を監視して除細動ショック治療の誤作動の有無を調査した。また、CRT-D の設定は除細動治療の感度閾値を典型的な値と最高感度でそれぞれ5 回ずつ照射した。[結果]導出されたCT の線量率は約30 cGy/min であった。また、CRT-D への照射結果は、典型的な(最高感度の)閾値では誤検知は平均0.2(2.4)回あったが、臨床的な指標である連続24 回検知には至らなかったため誤作動は起こらなかった。[結論]CRT-D のCT撮影の安全性について示唆された。
・CT撮影がグルコース測定器に与える影響について
[目的]日本糖尿病協会では、X線を伴う検査を行う際グルコース測定器のセンサーを取り外すよう注意喚起がされているが、どの程度の線量で不具合が生じるのか示されていないことから、CT 撮影が測定器に与える影響について検討した。 [方法]過酸化水素水を用いることによってリブレ(グルコース測定器)で血内グルコース濃度を擬似的に測定することとし、放射線を照射しなかった測定器S と180mGyの放射線を照射した測定器A、349mGyの放射線を照射した測定器Bにてグルコース値の遷移と測定器に及ぼす影響を調べた。これらの線量はそれぞれ通常の胸部撮影の23,50回分の線量に相当する。 [結果]測定器S は、読み値が一定に定まらなかった。リブレは2週間継続測定可能であるが、測定器A は2週間測定できた一方、測定器Bは測定開始から6日(照射から5日後)でセンサーが停止した。本研究では放射線被曝がリブレのグルコース値に影響を与えるかは確認できなかった。 [結語]リブレは350mGyほどの大線量により測定不能となる可能性があるが、通常のCT撮影(7~8mGy)では影響は無視できると考えられた。
・phitsシミュレーションにおける中性子線量の絶対値導出
【目的】放射線治療におけるペースメーカー等のCIEDs 誤作動要因の1 つとして中性子が挙げられる。しかしリニアックのみの単純なジオメトリでは中性子線量の絶対値を求めることはできない。本研究では10X ビームでの実測値とシミュレーションのphits 計算値が一致しない原因を解明し、シミュレーションのみでの絶対値導出を目的とする。【方法】米国医学物理学会の照射野外線量レポート(TG158)での経験的な測定値を基に実測値を導出した。リニアック単体の単純なジオメトリに追加して治療室全体を模擬、さらに電子線から光子線発生のプロセスを含めた計5 種類のジオメトリを用いて、実測値との比較を行った。【結果】実測値700 nSv/MU に対し、シミュレーションで得られた値はそれぞれ、130 ~ 600 nSv/MU であった。部屋の模擬よりも電子線出力にする方が絶対値導出に有効であることが分かった。【結論】10-MV ビームにおいて規格化定数を必要としない中性子シミュレーションがほぼ可能となった。
・MRIリニアックの7-MVビーム中性子線量分布
【目的】放射線治療における埋め込み型心臓デバイス等の精密機器が誤作動を起こす要因の一つとして中性子線量が関係することが知られているが、MRIリニアックで使用されている7-MV ビームから発生する中性子線量は知られていない。よってこれを解明することを目的としている。【方法】千葉大学医学部附属病院にて7-MV ビームを出力するMRIリニアックの中性子線量を実測した。またphitsによるシミュレーションを用いて実測に近いジオメトリを作成し、シミュレーション値を実測値に変換する規格化定数を導出した。57x 22 と10 x 10 cm2の2 つの条件の照射野でシミュレーションを行った。【結果】照射野中心における実測値は10.9±1.7 nSv/MU、その計算値は57 x 22で23.0±3.3nSv/MU、10 x 10で20.1±3.0nSv / MU となり、照射野による違いはほぼ見られなかった。またphits で計算した中性子線量の方が大きくなった。【結論】MRIリニアックから出力される7-MV ビームで発生する中性子の線量分布を得た。