千の旅鳥亭で最近勢力をつよめてきた
冒険者パーティ。
ベテラン並みの実力はある。
少数メンバーで活動していたのが、
利害の一致でひとつのパーティとして成った。
その駆け出しの頃に受けた依頼にちなみ、
帆を冠して名前をつけた経緯がある。
Sail(帆)+vogel(鳥)-ing・nox(夜)-Lx
おそらくあまり協調性というものはなく
各々が自由に活動している。
各メンバーを分割して
個別の依頼を受けることも少なくない。
調査・探索系依頼を主に請けもつ。
――前へ前へと、帆を青き空へ掲げて
そうして、我々は自由な風とうたおう
■メンバー紹介
♀/若者/勇将型
_猪突猛進
霧中の燈火
夢:敵討ち
『代々伝わる剣と技を携え、
かつての日々を奪った者へと至る』
リケラ・オルストイ。
ノルテカの帆羽のリーダー。
ある目的のために冒険者として活動中。
カリスマ性はあるが、形容するなら団長。
何者にも臆さず常通りに接する姿勢の為
ブレないところがよい側面ともいう。
「お前がついてくるなら、止めないぞ」
♂/大人/標準型
_過激
銃剣使い
公国貴族救出
『横目に眺め、微笑み
聖なる銃剣を後ろ手に隠した』
ミハール・ラトン=メラルフィエ。
ノルテカの帆羽のメンバー・参謀代理。
表向きは聖北関係者で通しているが、
実際は不浄専門のハンターであり、狩人。
リケラの付き人であり、理解者。
でも気付いたらお守りみたいになっていた。
「何処へ向かおうとも、共にいますよ」
▼リケラ/more
ノルトゲートの地位ある――オルストイ家の生まれ。
交易商人らのパトロンみたいな立ち位置の家である。
きょうだいはおらず、一人娘なのであるが、
父の仕事を見つつ育っているため、あまり女らしい感覚はない。
秘書兼世話役のような存在であったハールトンと共に
とある人物の足取りを追うために、家を出た。
実は父に対して予告なしの家出(夜逃げかもしれない)であったため
しばらくは父からむちゃくちゃ心配と捜索の手がかかっていたが
(戻ってこいと言われ続けたり)、
最近はなんとなく和解し、そっと応援しているような気配がする。
------------------------------------------------------------
▼ハールトン/more
育ちはノルトゲートではあるが、生まれそのものは北国らしい。
オルストイ家とは兼ねてより家族ぐるみでの交流があり、
秘書をしていたり、面倒を見ていたりの雑務を手伝っている。
現在の当主とは幼馴染のようなもので、
今でも彼にとっては気に置けない存在。
リケラのことは生まれた当初から知っており、
自身にも同世代の息子がいたため、
揃って我が子のようにかわいがっていたらしい。
ある事件により、妻は喪われ、息子は呪いを受け、
リケラの言と共にオルストイ家から飛び出すのだった。
------------------------------------------------------------
♂/若者/万能型
_ひねくれ者
顔泥棒と紛いのサーカス
リューンを騒がせた怪盗団
『好奇心の腐れ縁より、
ながき冒険の旅路に巻き込まれた盗賊』
シギ、或いはシーラ。
ノルテカの帆羽の盗賊・探索役。
盗賊ギルドに所属。手癖が悪く、皮肉屋。
なんだかんだ言いつつメンバーの面倒を見る。
シスとは腐れ縁で、振り回されているが
放っておけない程の情と因縁がある。
「またろくでもないこと考えてる……」
♂※?/若者/策士型
_好奇心旺盛
帳の魔女と墜つる星
還りついた場所
『傍若無人で本の虫、
はた迷惑な知識欲の魔術師』
クロモシス・ノクチルセム。
ノルテカの帆羽の参謀。
魔術師学連に所属していたが追放されたらしい
研究費や書籍代を稼ぐために依頼をこなす日々
……というのは確かだが、
暴かれないほうがいい過去もある。ねえ?シギ
「いいことを思いつきました」
▼シギ/more
親は不明。
幼少期から様々なところに潜り込んで物盗りなどして過ごしていたら
盗賊ギルドに絡まれたりしょっ引かれたり、管轄下におかれたりした。
生きるために技術を手につけたタイプ。元から器用とは言えない。
周辺環境は常に最悪だが、なんだかんだ、取りまく人間には恵まれており
ギルドには師のような存在がいたらしい。
盗賊稼業ばかりを主にやっていたのが、ひょんなことから
冒険者稼業も手を出すようになる。しばらくはソロで活動していた。
おそらく、何かしてないと落ち着かないのだろう。貪欲である。
メンバーの中では冒険者歴はそこそこ長め。
------------------------------------------------------------
▼シス/more
ここではないどこか ふるき叡智、古紙のにおい
学連にいた いまはなき、男の気配がする
修道院にいた うまれておちる、こどもたち
精神隔離病棟、 ふだんとかわらない、なにかがかわった
階段をのぼった だいいっぽ、かげはのびて
月 下 うつしだすのは、ふたりのけもの
僕らは出会った はじめまして あいするひと。
------------------------------------------------------------
♀/若者/標準型
_誠実
夢:未知への旅
イーリルの名を呼ぶ者
『とおき精霊を親とし、
まだ見ぬ世界をこの目でひらく者』
ヨノメルフィ・ミネット。
ノルテカの帆羽のメンバー・交渉/渉外担当。
ハーフのダークエルフという珍しい出自。
世間を知る為に都市部で勉強していた。
精霊・霊魂への感応が高い。
パーティーの中心人物になったりする。
「ええ、ですがあたしは諦めていません」
♂/子供/豪傑型
_楽観的
海の盗人
老飛竜の声に耳を傾けた者
『自らの出自を辿る為、
身の丈合わずの大剣を構えた子』
ケテ。
ノルテカの帆羽の先鋒・マスコット。
経歴不明のこども。重く大きな剣技を扱う。
パーティの癒し。最年少なりに頑張っている。
背格好から想像もつかないほどの力を持つ。
最近はヨノメと共に行動することが多い。
「みんなだけずるいんだー! オレもやる!」
▼ヨノメ/more
近くに湖や川が流れている、水源豊かな地の生まれ。
水葬での弔い様式が古いものとしてある。
父がダークエルフ、母が人間。母と暮らしていた。
父は冒険者らしく、物心ついた頃以降は家に戻ってきていないため、
ヨノメは顔を知らない。
しばらく仕送りが届いていたが、ある時ぱったりと途切れてしまった。
存命かもわからない。
ヨノメ自身、エルフ種としてはまだ幼く、
まだ人間の若者程度の年齢であるらしい。
しばらく魔術の勉強をしたりなんだりと、町に出ることはあったが
もとより身体が強くない母を心配して、
あまり遠くの地に行くことはなかった。
その母が今際の時、外界に興味を持っていたヨノメを見ていた母が、
自分のことは気にせず、好きなように生きなさい、
父もそうだったから、とヨノメの背中を押している。
あなたの人生はこの先きっとまだながいから。
母を看取った。水源なる依りへとかえして祈った。
ならば好きなように生きましょう。
ひととひととの間を縫って、喧騒の中へ。
環境のおかげか、エルフらしい性質はあまり持ち合わせておらず、
身体特徴のみに現れている。
どちらかというと感性はともに過ごす時間が長いだろう人間に近い。
それでも人間以上は長命種ではあり、本人にまだ自覚はない。
------------------------------------------------------------
▼ケテ/more
出自不明。いちばん古い記憶は、燃える炎と風、咆哮のような声。
とある山間の孤児院で、穏やかに過ごしていた。
ある時孤児院のこどもたちと森に遊びに行ったときに、
狼に襲われそうになっており
それを人間離れの力でねじ伏せたことがある。
周りの反応から、これは普通ではないのだと悟った。
さらに、「自分が見つかった時に、ひとふりの大剣を抱えていた」ことを
孤児院の人間がこっそり話しているのを耳にする。
少年心で興味を抱いたケテは、それが保管されている場所に
意気揚々と潜り込み、自分が持っていたという大剣を手にすれば、
ふしぎと心は沸き立った。
この剣は、自分のルーツになるかもしれない、と察する。
……すぐに見つかり怒られたが、剣に触れたときの感覚が忘れられず、
孤児院に頼み込んで、剣の修行をさせてもらうことになる。
そんな中、二人の旅人がこの地を訪れる。
帯刀している外界からの来訪者に、ケテは興味を抱き、
彼らの動向を追い始める。それがリケラとハールトンであった。
彼らと接触したり話を聞いたりしているうちに、
"この地全体が幽玄で出来ている"ことを知る。
要は、幽霊に面倒を見られていたということだ。
二人は、彼らを解放するために依頼を受けて
ここまでやってきたのだという。
そうして、ケテのさいしょの冒険がはじまった。
------------------------------------------------------------
♀/子供/策士型
_勤勉
夢:道を極める
妖精竜
『蒼き帆羽より産声あげて、
竜子は頁を捲り、物語りえる』
メルヴェリコ。
ノルテカの帆羽の準メンバー。参謀の卵?
妖精竜の子供。孵らずの卵から生まれ、
リケラを親として慕っている。
シスを師としながら日々勉強中。
物語に興味を持ち、色んな逸話を集めている。
「ボクを騙そうたって、そうはいかないよ」
『きゅーん』
シギ・シス/リケラ・ハールトン/ヨノメ・ケテ
の組み合わせでよく別々の依頼を受けている。
#月煌(ゲッコウ)
#狩銃(シュジュウ)
#花竜(カリュウ)
リーダーであるリケラよりは、
なぜかヨノメがメンバー間のバランスを
取り持っている感じもする。
個々の能力が高いため
パーティー全体で警戒する場面以外は
各々が好き勝手にやっていくスタイル。
全体的に考え方がパワーである。
_猪突猛進 _過激 _混沌派 _楽観的
主にシギやヨノメが渋面をしている。
記述にはないのでこちらで補足しておくが
リモという名の三毛猫も同行しており、
ケテが面倒を見ている。
勝手に荷物袋に入ったりするため、
このパーティーは猫も含めて自由である。
余談だが、
"現代日本"で半年以上を過ごした経験がある為
異世界知識にも詳しい。なんてことだ。
考察メモ
元気な環境です
他ノルテカに関わる連れ込みとして
ラーヴル、ミカ、ロバート、ロビン、ライラ
が在籍。
ほとんどがヨノメとの縁が深い。
また、ニナ、ルカといった
冒険者見習いのようなこどもたちの姿も
時折見かけるだろう。
〇一言紹介
ミカはヨノメの親友
ラーヴルはヨノメの後輩
ロバートはヨノメとつよい信頼で結ばれている
ロビンはケテと戦友
ライラはリケラのことを慕っている
また、様々な世界との縁がある …… ?
■要特記経過 ※メンバーの根幹に関わりそうな出来事のピックアップ・シナリオバレ有 未整理状態/リプレイに近くなっているものも有
「25時94分」 /ふゆこ様
……シス(・シギ) ※ノルテカ結成以前、GC「都市の輪郭」より一年後
今は閉鎖されたエスペランサ精神隔離病棟に収容されていたクロモシスは、
ふとしたきっかけでひとり、病棟から脱走することとなる。
収容以前の記憶が欠落しており、行く場所のないまま深夜の町をさ迷っていたところをシギが発見。
彼は、冒険者になって間もない人間であった。
"ある依頼"を失敗し、遠い都市から着の身着のまま逃げ帰ってきたシギは、
その姿と様子を見て、なんとなしに助けることに。
記憶もなく、帰る場所がない、ということだったので、とりあえず冒険者の宿につれていった。
これが、二人で冒険者を組む切っ掛けの出来事である。
「サルワーティオ旧修道院」 /ふゆこ様
……シス・シギ ※ノルテカ結成以前、「25時94分」より半年後
ゲッコーという男から、サルワーティオ旧修道院の探索の依頼を受けることとなる。
荷物はすべて預かられ、代わりに託されたのは不思議な形の懐中電灯と、三発の弾が入った銃。
旧修道院へ向かう二人だが、床が抜けて落ちたシギと離れ離れになるクロモシス。
外に出ることもかなわず、彼との合流をはかるために暗がりを照らしながら進む。
しかしそこで待ち受けていたのは不条理な出来事ばかり。
死と狂気にのまれそうになりながらも、なんとか最深部へたどり着き、シギと合流する。
急いで脱出しようと、クロモシスは銃を握って二発、怪異へと撃ち込んでいく。
入口まで戻ってきた二人だったが、シギの様子はどこかおかしかった。
不穏な彼に連れられ、互いを見失わないよう手をつなぎながら、屋上へ向かう。
そこでクロモシスは月光の下、"迷い子"と邂逅する。
神の成りそこない。生み出された後に捨てられた哀れな子供。
彼らは、クロモシスを自らの回帰場所と定め、それに同化した。
……シスは、純粋な人間ではない。
意識を取り戻したシギは、穴から落ちたあとの記憶を失っていた。
しかし、なにか異様なことが起きたことは悟ってしまう。
今まで通りと変わらず、それでも二人は共にいる。
***
「あ、ぁぁ――」
「……な、にが」
「何が建造物の破壊禁止だ何が自殺用の武器だ武器っていうのは、ねぇ」
「こういう時の為にあるんですよッ!!」
「"来たれ永遠の神 未知なる虚"」
「上へ行けばわかるよ」「上、へ行こう」
「シス、光はこわいよ」「見えなくていいものを 見なくていいものを 全て照らしてしまうから」
「あの、シギ」
「……なんだ?」
「月の光はおそろしいですね」「何もかも映し出してしまうから」
……でも、
「今はその光に、紛れましょう」
「アケロンの渡し」 /Niwatorry様
……全員
利害の一致で、6人パーティーを結成しはじめて受けた依頼。
とにかく不慣れな足場のなか、亡霊とかくれんぼをしつつ、ひたすら船の上を駆けまわる一行。
不浄との因縁、船への憧憬。
『イーリルの天秤』/「銀天秤に座す魔物」 /カブ様
……全員
ノルテカのもうひとつの根幹。
――思えば、協調性など、あってないようなものだった。
仲間たちがてんでに依頼を持ち帰ってきたこの状況を、いまから整理しなければならない。
「協調性はどこにいったんだ。ふつう一日で三つも依頼がブッキングするか……?」
「(するんだよなあ、これが)」※ノルテカである
「いいえ、他人でしょうね。金に釣られてよその宿の依頼を請けてくるようなのは」
「勝手な妄想はあんたの頭の中か、社説でくだをまくぐらいで完結させてくれないか」
「身の危険のない仕事と思えば、割のいい仕事ではありましたね」
「冒険者のする仕事かどうかはさておいて」
「駆け出しが仕事を選ぶなと親父さんも行っていましたしね」
「駆け出しこそリスクを鑑みて仕事をよく選べって言ったのも親父さんなんだけどな」
「同行します。人手が必要なのでしょう」
「『ネタ』としても十分だろうしな。頭数が揃っているだけ報酬も出るとあれば一層」
「ああ、疑っている」
「(真正面からいきましたね、リーダー……)」
「だからこっちも、依頼を三つ持ち帰るようなポカをやらかしたわけだろ」
「それ持ち出すかあ?」
「死にたがるなら、今度はもっとうまくやれ」「人の死は、生きる人間に押し付けていい荷物じゃない」
「後者は副次的なものだ。乳母さんを探すついででしかない」シギが呟けば
「あとはほんの少しの好奇心」付け足すように、シスは笑う。
「それで、帰り道はどうする?」「結局馬車も減便中らしいぞ。このまま陸路か、それとも水路か」
「イーリルに倣って、多数決でもしてみる?」
「三対三になるのがオチでしょう」
それよりも、と。ヨノメが懐からつまみ出したのは、見慣れた1sp銀貨だ。
「あたしたちのような者は、こちらのほうが手っ取り早いのでは?」
「はは、同感」
軽やかな笑い声を背中に、なじみの銀貨を弾き上げる。
りいんと硬質な音を響かせ、銀色は天高くにひらめいて――
……この先、のちの冒険者稼業にて、
彼らにとって、銀貨は馴染みのある、特別な意味を持つことになる。
……ヨノメ
ノルテカのもうひとつの根幹。或いはヨノメの戦いのはじまりともいう。
***
落としてきたのは記憶、名前、それとも銀貨が一枚。
義務感であったかもしれない。
危機感であったかもしれない。
あるいはただの、好奇心であったかもしれない。
疑うべき記憶がどちらのものであろうと――
確かめねばと逸る、この心だけは本物だ。
「きみ、『別世界』というのは信じる性質かい?」
「きみのことはいまいち信用なりませんが、」
「別に請けた天秤の調査を前に進めたいのも事実です」
きみは今、本来いるべき『可能性』からずれた地点に来てしまっている。
こうあってほしい、ああなってほしい―― 天秤への願いが積み重ねた並行世界を俯瞰する立場にね。
だからきみはそれらを渡りさえすれば、同じ一日を何度だってやり直すことができるけれど
その弊害でイーリルの街には、きみが同時に二人存在してしまうことになる。
――きみと、もう一人だ。
***
まなうらに、ひらめく銀貨を幻視した。
そうしてふたたび、あたしはここにいる。
長い、長い一日が、ようやく始まろうとしていた。
***
いまはひとり、誰かが代わりに調べてくれるわけでもない。
ひとつずつ、確かめていくしか。
「なかなかうまくいきませんね」
「大丈夫ですよ。そうそう折れたりはしません」
もちろん仲間のところには帰らなければなりませんが、と前置いて。
「依頼を放り投げたら、自分にしこりが残るでしょうから」
「……ちょっと諦めが悪いんです」「付き合ってもらえますか、イーリル」
***
「別の可能性に跳ぶたびに銀貨を弾く音が聞こえるのですが、あれはきみが?」
「ん?どういうこと」
「どういうことって……」「たとえば、そう、天秤に銀貨を投げ込むから、とか」
「特にそんな演出はしていないけど――」そうだなあ、と猫は唸る。
「きみにとって銀貨の裏表が、『未知なる可能性』を示すものなんじゃないかな」
「イーリルに関わることで、コイントスでもしたとか?」
「思い当たる節はありませんが……」
「なら、過去のきみじゃないのかもね」
「未来の――元の可能性が、連続していった先にあるきみが、聞いた音なのかもしれない」
本来の居場所に通じる音と言ってしまってもいいかな、と続ける。
「それが聞こえるうちは大丈夫だ」「どんな可能性の世界に跳んでも、必ず帰ってこられるよ」
むう、とヨノメは唸った。
「気になる言い方ですね。帰ってこられないことがある?」
「見失ってしまえばね。可能性のはざまにはそういうのがたくさんいる」
ヨノメは黒猫の方へ視線を遣っていた。
***
「それを選びました」
きっとあたしは知っていた。その意味を。
「はあ、だから私からはなにも与えないでいたんだ」「あるべきものが、あるべきところに収まるように」
「なのに、きみが勝手に新しい名前なんかつけてしまうから」
拠り所の代名詞。そこにきみが名前を渡したから、新しい命の芯ができてしまった。
宙ぶらりんの命のまま――
「他でもないきみが気にかけたんだ」
「ありがとうね、冒険者。可能性のはざまを渡るひと」
「この先のきみの旅路に、選択に、いっとうの幸いがありますように」
頭の中に詰め込まれたままでいた
記憶が、可能性の束が、
すべてほどけて消えてゆく。
「……さようなら、イーリル」
「征けよ旅人、口笛と共に」 /mahipipa様
……ヨノメ、全員
「それでも。みんなを放っておくことはできません」
「これが、ヨノメの仲間か?」
「ええ。いつも鍵開けてもらったり、情報収集してくれたり……」「頼りになる人ですよ」
「寸前に買ったペンダントで命拾いしたのですね……あたし」
「……飛び越えるぞ!」
「――!!」
ヨノメの跳躍はわずかに足りず、身体が滑落しかける。
「させるか!」
とっさにシギがその手を掴んだ。
近くにいたラーヴルも一緒にヨノメの腕を掴む。
「くっ……!」
「離すなよ!」
シギが声をあげ、せーの、とふたり分の腕がヨノメを引っ張り上げる。
「これで半分。頭数が揃ってきたし、移動しながら喋るか」
「(やっと半分ですか……。しかし、あと、半分です)」
「(こういう時、人の声が多いというのは、少し冷静になれますね……)」
ガラスの中は、心細くないのでしょうか。
「そういうのは使うじゃなくて、頼るって言うんですよ」
シギが思わずど突く。いいところだったのに、と呟くケテ。
「って、なになに?」「みんな、すごい顔してるよ」
きょとんとした表情のまま問うケテに、ハールトンが盛大にため息をつく。
「だいぶ雰囲気戻ってきましたね……」
苦笑しつつ、ヨノメは心の中で安堵した。
「絆されてないかって話だよ」「失ったとき、対立した時に傷つくのは、ヨノメだよ」
「どうした、今日はやけに殊勝だな」
「んー、気まぐれだよ」
ケテはガラスの枝をゆるく振り回して遊んでいた。
「リケラ、走れる?」
「大丈夫。事情は後ででいい……!」
「あとはシスだね!」
「一番面倒臭いのが残ったな!」
「怒られますよ!」
「なんか活き活きしてきたな! ヨノメの仲間!」
笑い飛ばしながら、駆ける。
そして「死も私を変えることはできない」と、冷たき胎の底より叫ぶものである。
「ラーヴルは……アルシナシオンに敗れていった冒険者たちの名残なのですね」
「……俺って、冒険者たちが最後まで諦めなかった証なんだろ?」「誰かや何かと触れ合うのを……」
ラーヴルは――月桂樹の名を持つものは、ヨノメをしっかりと見た。
「だったら……。悪くないよ」「ショックじゃないって言うと、それは嘘になるけどさ」
「ラーヴル……」
「そうだ、ヨノメ。ひとつ思い出したことがあるんだ」
やってみていいか? と彼は拳を握ると、小指だけ立てて、ヨノメの前に差し出した。
「これは……約束のおまじないですか?」
「そうそう、なんか願を掛けたりする時の、おまじないだよな、これ」
「それで、ラーヴルはどういう願掛けをしたいんです?」
「あ、それ考えてなかった」
少し逡巡し、そうだな、と続ける。
「お互い無事に脱出できますようにでどうだ?」
向けられた笑顔につられて頷く。
それが心からの願いであれ、気まぐれであれ。
ヨノメはラーヴルと指切りの真似事をした。
「……なんで、起こすの」
「もう苦しむことなんてなかったのに。どうして――」
「……、」
そう呟く彼に、シギは影の輪郭を捉えていた。
「こっちで合っていますか?」
合ってる、と答えたシギは、続けて言葉をヨノメに投げかける。
「別に後列にいても大丈夫だ。少し休むといいんじゃないか」
「聞くに一人で働き詰めだったみたいですしね」
シスの言葉に、ヨノメはそうですね……と苦笑する。
「じゃあ、お言葉に甘えてですね……」
ヨノメが後列、ラーヴルの傍に寄るとその代わりというように、シスが前に躍り出た。
「シスの知りたがりがまた元気になってきましたね」
「出遅れた分は取り戻さないといけませんから」
シギが口笛を吹き始める。ラーヴルも一緒に吹いている。
「嫌です。ここまで来て……取り落としたくないんですよ!」
「我ら、胎に還るものなり。
恐れと孤独の此岸より
逃れることを望むものなり」
「助けたい誰かがいる。理由なんて、それでいいのです」
決着をつけにいきましょう。
「行くんだな、ヨノメ」
「ええ。……急ぎましょう」
ヨノメの中に損なわれず、輝くものがある。
未知への旅に焦がれること。
知らないことに手を伸ばし、見知らぬ世界に触れる勇気が。
***
馬車とハールトン……
「くろがねのファンタズマ」 /吹雪様
……ヨノメ、全員
「……古代王国で作られた、旅の記念品を販売する機械みたいですね」
箱の中に、きらきらと輝くサイコロ大の立方体が回転しているのが見える。
『貴方の旅の記憶を 現像魔術の作用でキューブの中に封じ込め
旅のメモリ・キューブを作成します』
「旅の記憶、か……」
自分たちの冒険を彩るのは何だろう?
仲間たちは顔を見合わせた。
「……ん?」「キューブの中に、鳥が飛んでいます」
――それは、果てしない旅路の、空の色をしている。
冒険者の覗き込む立方体の中の世界に、何かが飛んでいた。
翼を羽ばたかせ、見えない風に乗って――
小さな空を行くそれを、仲間たちは、小鳥だ、いや竜だと言いながら
しばし見つめた。
「旅をしている時、空を行く翼が羨ましい時はありますね……」
やがて、飛ぶ影は流れる雲と、空の青に飲まれ見えなくなった。
その青は、名もなき空の色。
それは、冒険者たちの、終わりのない旅路と共にある、永遠の自由の色だった。
***
古くから、世界と世界を渡り歩いてきた、"プレーンズウォーカー"
彼らが異世界から、命がけで伝えた技術
***
「幽霊を追い払うなら、魔法の助けがいるのですが……」
「うちの仲間は、得り好みばっかりしていて」
良かったら一緒に、依頼を受けないか、と。
その冒険者は言った。
「あたしはヨノメ」「では、この仕事、上手く行ったら」
明日はもっと、おいしいものを食べましょうか。
「魔術師に必要なのは、観察力と言葉です」
「時には対話を試みることもあるでしょう」
「その相手は人間であったり、依頼人であったり、敵であったり」
「亡霊であったとしても、同じこと」
「彼らの言葉に耳を傾ければ、すべきことが見えてくるものです」
***
いつだって、自分たちの賭けた方へ天秤を傾けるのに冒険してきたのではないですか。
ああ、自分たちはいつも可能性に賭けてきた。
***
ヨノメはあからさまに渋面を浮かべた。
「シス。毎回、ひとをダシにして敵の手札を切らせるの、やめたほうがいいです……」
「ひどいですね。これでも、誰も死なせないために命を削って考えているのに……」
***
「ここで諦めることなんて出来ません!」
諦めきれず、もがく故に。傷が深くなることもある。
より多くの血が、流れることも。
それでも、と。ヨノメは考える。
神話でも。お伽噺でも。価値ある宝を見つけ出すのは、いつも純粋な者たちだ。
自分がそんな、大げさなものではなくても、
消えゆくミカの命を。たった一つの宝を。
見つけることを、諦めるわけにはいかない。
暗い機関室に、一瞬、明るい青色の光がこぼれた。
中から明るい空色の光が解き放たれ、部屋中を駆け巡った。
光は冒険者の髪を揺らし、心を揺さぶり、
過去を、想い出を、忘れえぬ記憶を きらめきの中に呼び覚ました。
そして、くろがねの魔列車の深い暗闇を、自由なる旅の記憶、
青く気高い光が、埋め尽くした。
「空、すごくきれいですよ」
「虹――、虹がかかっています。雨もすっかり上がりましたね」
「そうだ。聞いたことあります?」
「虹の下には――宝物が埋まっているそうです」
「いつか――でっかい宝物。見つけてみたいですよね!」
「旗を掲げよ風は碧なり」 /ふゆこ様
……全員
船旅をした! パワーはいいぞ
***
「まってーーー!!!!!」
とびのるケテ。
少女が手を振ってきたので、ヨノメは手を振り返した。
***
シスの足元には、古びた紙が大量に広げられている。
床に直に座り込んでそれらを読んでいるらしかった。
コンパスやら謎の器具やらを取り出して海図とにらめっこを始めた。
床に座っているせいで服が汚れているが、気にしていないようだ。
「ここからだったら海がよく見えるんじゃないかって思ってさ」
「……あ、ほら。不老不死になれる泉ですって。」「本当かどうかわからないけど」
ふ、とわらって その文字列を眺めていた。
***
「……いや、見られたら少し困るな、と思って」
……。
足元には、骨のような形をした肉が大量に落ちていた。
「……ふ」
少し満足そうに腹を撫でると
ぐちゃり、と肉の塊をひとつ踏んだ。
***
「次はもっといい社交界に誘ってくれよ」
***
「だとしたら海賊の礼儀よろしく船ごとふっとばす」
パワーだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
***
「一か八かの大博打。成功すれば生き残るけれど、失敗すれば一瞬で死にます」
「……恐れはないですね? 船長」
敵船の方へ向きあう。
彼らの悪あがきに等しい海賊としての矜持に正面から挑む。
***
「海に漂流していた商人を、助けたことを覚えているかね」
「自由に生きていたあんたを知っていたからこそ、陸の上で朽ちて欲しくはなかった」
「……もう二度と陸に上がってくるな! 盗人め!!」
フェリシア号に向かって叫ぶリードリッチ。
その老いた顔には少しだけ似合わない、少年のような輝きを灯した目をして。
「海の盗人」 /AM4様
……ケテ、全員
謳歌の都ジーレカルドは、この商会にとって新天地であるのは間違いない。
しかしそれはノルテカの帆羽にも言えることだった。
冒険者たるもの、新しい土地に何かを感じるなというのが無粋というものだ。
たとえそれが、危険を伴うものであったとしても。
「でかい」「グロい」「きもいな~」
ケテにより致命傷を受けた化け物は、泥か何か判別のつかない体液をまき散らしながら
ぐずぐずに溶けていった。
「おい、一人で何個食べるつもりだ」
「ええ? そんなに食べてないよ」
「皿を見ろよ皿を。荒地の如き惨事じゃないか」「こっちはまだ数切れも食ってないんだぞ」
「えっ……」「ああほら、あげじゃがならまだたくさんあるよ!」
気持ちのいい音を立てて、シギのデコピンがヒットした。
「うん? ああ。貝柱夫人の依頼のこと?」
「……。は?」
頓狂な声をあげるリケラを横に、思わずハールトンが噴き出す。
「なんですかそれ。あだ名のつもりです?」
「そそ。貝柱が好きだから、貝柱夫人。覚えやすいでしょ?」
「ケテ……そんなこと言ってると、そのうち本人の前で言ってしまいますよ」
シスの指摘が更なるツボに入ったのか、ハールトンはますます笑いをこらえる羽目になった。
「言うわけないじゃん、ヘーキヘーキ。……んで? なんだっけ」
ため息ひとつ、リケラは続けた。
「いいか、貝柱夫人の……」
「ふっくくく……!」
つられて口に出てしまった言葉に、ハールトンが耐えきれないといった風に笑い出した。
みんな酔いが回っているのだろうか、おかしな空気に流されてしまいそうだ。
リケラは大きく咳払いすると、極めて真面目な表情を作った。
「んー。受けるかどうかのその前に」
シスがフォークをくるりと回した。
「うん。……そうと決まれば、カツレツのおかわり――」
「まだ食うんかい!」
***
気が付けば、仲間たちは席を離れようとしている。
自分に内緒で決めないでほしい! ケテは声をあげた。
確かに、リスクを考えるのは大事なことだ。
でも、昨日のみんななら……普段のみんななら、放っておかない話だったと思う。
変だ。むずかしく考えることができなくとも、ケテはそう思う。
まるでこの一晩で、何かが変わってしまったような……。
みんながオレに内緒で物事を決めちゃうんだったら、
オレだってみんなに内緒で動いたっていいよね?
いたずらを思いついたこどものように、ケテはニヤリと笑った。
かくして――海鳴りのような予感と矜持を胸に、ケテの長い一日が始まった。
***
「実はオレ、今から会うお客さんに腕輪を盗られたってこと、まだ話してないんだよ」
「……それヤバイやつじゃん!」「なんでもっと早くに話さなかったの?」
「……」「だからって黙っているのは最悪でしょ」
「もうさ、こうなったら誠心誠意謝るしかないんじゃない?」
「ははは……だよな……許してくれるかな?」
「いや無理でしょ」
「ぐおおおおおお!!!」
それでは、よい旅を。
あなたの旅路が明るく照らされていますように。
***
男は頭を下げた。
誇り高い海の男の行為を、ケテは黙って見ていた。
「奴がビテールの名を騙る偽物なら……ぶっ飛ばしてくれ」
「本物なら……ぶっ飛ばして成仏させてやってくれ」
「どっちにせよ、ぶっ飛ばしていいんだね……わかった。善処するよ」
***
「あ、居た! 昨日の猫!」
なんでこんなところに?と呟くケテの足の周りを、三毛猫はぐるぐる回る。
そうやってから、遺跡の入口まで歩いていき、こちらを伺うように振り返った。
「君も行くの?」「……まあ、いいけど」
その向こうに、幻のように大きな帆船が停泊しているのだった。
猫は船を前にじっと座っている。
こちらの接近に気付くと視線を向け、しっぽをぱたりと大きく動かした。
「君は、いったい……?」
猫は何も答えず行儀よく座っていたが、突然尻を上げて立ちあがった。
船の前の空間が急にほろこび歪んでいったかと思うと
岸壁に巨大な魔法陣が出現した。結界、だろうか。
「ここから中に入れ、と?」
問うケテに、猫はじっと座ったままでいる。
「……。君は行かないんだ」
その様子を一瞥し、改めて魔法陣に向き直る。
これは、門だ。どこか別の空間に繋がっているのだろう。
「行ってくるね」
決意を固めた冒険者は、空間の裂け目に進入した。
視界が一瞬、攪拌される。
「波の音と、木の軋む音が聞こえる」
耳にしたことがある。過ごしたことがある。……ここは船内?
その場で二、三度足踏みをする。足場は確かなようだ。
花の向こうから、誰かの会話が聞こえる。
「これ……ひょっとして、この船の船員の声なのかな?」
「レッドスプライト号の……」「おそらく、過去の出来事の話だよ。一体何が……」
狭い室内の中に、金属でできた管が迷路の如く張り巡らされている。
他にも大小さまざまな箱や、古代文明の遺跡に多くみられるという操作盤もあるようだ。
以前あの海賊船に乗った時には、見られなかったものだ。機構だ。
「動いているんだ。どういう装置なのかわからないけど、壮観だなあ……」
ケテはそれを見上げ、眺めやった。
「(か……かっこいい……)」
童心をくすぐられる。しばし、その遺構に目を奪われていた。
今までの影とどこか違う。襲い掛かってこない……?
「はいはい、怪我かな、それとも体調が悪いのかな?」
「君は……?」
穏やかな、それでいてどこか呆れた様子の影に、ケテは問う。
「ここに来たってことはどっか悪いんでしょ。君も強がるね」
聞こえているのかいないのか、影は続ける。
「皆そうだ。海の男は弱いとこ見せちゃいけないなんて言う。まったく、けしからんよ」
「……」
「我慢したって傷の治りが早くなるわけじゃないんだよ。さあさ、早くこっち来て」
こどもを宥めるような声色。ケテはしばしそれを観察してから、そちらへ近づいた。
「……魔法?」
船医だったであろうその影に、手当を施される。本当に回復しているようだ。
「先生を疑うもんじゃないって、誰かに教わらなかったかい?」
「まあいいや、また怪我したら来るといいよ」
船員と思われているのだろうか。それでも、
ありがとう、とその癒し手に感謝を告げた。
***
「この世の宝とは何であるか」
「富か、名誉か、仲間か……否、そのどれでもない」
「それは血の絆よりも濃く、友情よりも深きもの――愛だ」
***
「お前は何者? 答えて」
「……さもなくば、道端のクローバーの肥やしにしてやる」
※言い回しがかわいい、よくよく気付いたけど、この街によく生えているんだね
「でも……どうしてか、オレにだけは心変わりの魔法が効かなかった」
「ああそうさ。本当に想定外もいいところだよ。君は一体何者なんだい?」
「私と同じ魔なる者――あの狂える沼の大妖魔の血を浴びたってだけじゃ説明が付かないよ」
「何か他の力に守られていたか……さては――」
「君、単純バカだな?」
一撃はケテを捉えることはなかった。
それどころか、素早く身を躱した際に報復の一撃を食らわせたのだ。
ケテは得物を構え、稲妻のような眼光をとばす。
その眼差しに射抜かれたかのように影が揺らめくと、真の姿を現した。
三対の目、異様に盛り上がった背とあばら骨、そして巨大な口と牙――
「遅い。」「遅すぎて話にならない。やる気あるの? ラットのほうがまだマシな攻撃をするよ」
下水道からやり直してきたら?とケテは吐き捨てる。
「なぜだ――なぜ結界内で動ける!? ここは悪魔の結界だぞ!?」
「結界の一つや二つでオレを止められると思ったの?」
残念だったね、と大剣を握りしめた。
「その油断が命取りだよ!」
ケテはほんの少し不敵に微笑む。
「――冒険者、なめないでよねッ!」
「お前の助けなんていらないよ。望む未来は、自分の手でつかみとってみせるんだから」
「その為に! まずはお前を倒すことからだよ!」
***
「結果的には大団円。よくやった、と言いたいところですが……」
シスの言葉に、ハールトンが最年少であるケテをよくよく見やって、ため息をついた。
「無茶されて、なんといいますか」
「複雑な気分です……」
「……そこは、素直に『ありがとう』でいいじゃん?」
***
人間たちの会話などお構いなしに、かの三毛猫が突然テーブルの上に飛び乗ってきた。
「あっ! また出た!」
「リモ? ……ああ、君の飼い猫だったの?」
「いや……」
「猫は霊感があるなんていいますが、不思議ですね」
「……これは関係のない話だが。多くの船がそうだったように、レッドスプライト号にも猫がいた」
「リモは、他の街猫の縄張りから追い出されてしまっていてね。君と一緒にいたほうが幸せかも――」
「じゃあ、いっしょにくる?」
「えっ」
ふともらしたのは彼だったが、言い出したのも彼である。
ケテはリモを真っ直ぐ見つめた。
「冒険者だよ。色んなところに行くんだよ。大丈夫?」
「まあ、猫は船の上でも生きていけるくらい適応力は高いですし、大丈夫ですかね」
シスもそんなことを言って返す。
「いざとなったら荷物袋に入ってもらえばいいですよね」
「そうだね!」「親父さんに怒られないといいけど」
「じゃあリモ、よろしくね」
***
今後のことだけど、もうしばらくジーレカルドに滞在する予定だよ。
守備隊が周辺の妖魔退治に駆り出されてる影響で、こっちに仕事が回ってくるんだよ。
ありがたいやら、休ませてほしいやら……。
そうそう。もうすぐこの街では『聖テルドリウの祝祭』っていうお祭りがあるんだって。
こっちの人にも、それまで滞在したらどうかって言われたんだ。
だから、帰るのはもうしばらく先になりそうかな。
P.S.
小さな仲間が増えました。
宿に連れて帰るから 今の内に寝床とご飯の用意をよろしくね。
「カンザカイ魔境伝」 /mahipipa様
……ヨノメ、ケテ、全員
「もうどうにでもなれですよ……」
甘い物はいつでも脳を活性化させてくれる。
そういうわけで山のように甘味が入っている。
ヨノメはそれらをそっとしまった。頭を使うときにでも食べよう。
冒険者なら誰でも持っている荷物袋だ。
整理するように、もうすこしあさってみると、リューンの案内チラシが入っていた。
思えば、交易都市リューン近郊の依頼から遠く離れたところまで来たものだ。
懐かしんで、そのくしゃくしゃの紙を畳んだ。
「うーん、ヨッドのお土産か」「あ、そうだ! これです!」
ハールトンが選んだのは『人を呪う道具』!藁人形に五寸釘がセットでお得。
「やばい」
「壁に飾りましょう」
「お客さんも来なくなるよ」
シギ「天地のもの全部乗せ定食で」
シス「天地のもの全部乗せ定食で」
※ここ揃うの大分すき テンポもいい
「あ。お饅頭もいいですけど、百花蜜ドリンクがそそられますね」
「ヨノメはそれを選ぶと思った」
「ヨッドの甘い物も食べてみたいですからね」
「じゃあ私は川魚定食ひとつ。あとヨッド米酒まず一瓶」
「『まず』が不穏すぎる」
「今日はガンガン飲むぞ!」
「程よくしてくださいね、リケラ……」
「じゃあオレ、ヨッド美食フルコースで!」
「出た大食い」
「上品なヨッドを楽しむしあわせヨッド定食ひとつ」
「ハールトンが良心的に見える」
「まあまあ。それでは、食べながらまとめましょう」
「シス、それ取って」
シギは調味料の瓶を指差し、手をひらひら動かした。
「はいはい」
シスは調味料の瓶をシギに渡す。
「完璧。ありがとう」
渡された調味料の瓶をシギは料理に振りかける。日常的な風景だ。
「いつ、何時、あたしたちだってそういうのに巻き込まれるかもしれませんからね」
「そうだな…… 人の災難というのは、妖魔や戦争だけじゃない」
「流行病の跡や、災害の爪痕を、きちんとあたしの目に焼き付けておきたいんです」
続けて語るヨノメの顔つきは、真剣なものだった。
「そこにある何か大事なものを、見落としていたくありませんから」
「……」「ま、本当にそんなものがあるかはさておき……」
「ここにいるメンバーはきっとヨノメのそういうところを買ってるよ」
「だから、今回もやりたいようにやればいい」
「元々そういう方針ですからね。各々が自由にやると」
「さすがに方向性バラバラを放置はまずくないか?」
「ははは」
ヨノメは彼らの言葉に微笑み、みんなの食事風景を眺めた。
***
「これ報酬どこから取ればいい?」
「とても聞ける状況じゃないぞ」
冗談のように言うシギに、リケラは至極真面目に返す。
「だよなぁー」
***
「正式依頼でも説明不足だ。……退くのは、アリだぞ」
「……あたしは、行きますよ」
「正気か? 相手は100年級の魔法現象だぞ」
暫しの沈黙。しかし、ヨノメは迷いなく言葉を続けた。
「今投げ出すと、多分、これからずっと後悔します。今日の日に逃げ出したことを」
「だから、行きます。」「どんな結末になろうとも、後悔はしたくありません」
「ヨノメ……」
ケテは、そんなヨノメの肩を叩いた。
「ま、そう言うと思ったよ。もう短い付き合いじゃないし」
それを見て、リケラも頷く。
「なんだかんだ、そうやって来たからな。ノルテカの帆羽は」
「もう毒はかじったのです。皿まで食べてしまいましょう」
せっかくですしね、とシス。ハールトンもうんうんと同意していた。
シギだけは、最後まで渋面ではあったが……やがて息を吐いた。
ヨノメがそう言うことを、わかっていたのだろう。
「……ありがとうございます」
「ヨノメ、あと少し、奮い立とう。糸口はきっと先にある」
ケテの言葉に、リケラが立ち上がる。
「よし。ではノルテカの帆羽、仕事だ。……行くぞ」
号令をかけるのは、リーダーであるリケラだ。一行は思うままにそれにこたえた。
***
「そうですよ、まだ生きています。三人とも死んでいません」
***
「もったいないですね……」「この場所こそ、観光名所でしょうに」
「そうだね」「きっと見たことないものが、たくさんあるだろうなー」
隣を歩くケテは、でも、とヨノメを見上げた。
「一度来たんだ。もう一度は、きっとどうにかなるよ」「生きていれば、ね」
「……本当に。生きていれば、ですね」
果たして、冒険者たちは水面に咲く白い彼岸花の花畑を見た。
その向こうの、大きな一つの舟影も。
***
シギが声をあげる。あれを見ろ、と。
リケラが指さされた方をよくよく眺めてみれば、魔界門に立ち向かうように帆船が現れていた。
「最高に頭が悪いな!」
それが何であるかは、もうわかっていた。
「よし、賭けるか。あの船に向けて走るぞ」
「ああ」「行きましょうか」「了解」
***
「本当に、一時はどうなるかとひやひやした」
「ふふ、ごめんなさい。今回も、ありがとうございます。一緒にいてくれて」
「何てことはないよ。ヨノメがそこにいてくれるならね」
「……?」
「……長生きしてね」
「寂しくはありませんよ。今日は絶好の冒険日和ですし、いろんなことがありましたから」
「消えゆく神話も、絶えることがない熱気も、秋に人恋しく鳴く鹿も」
「全ては過ぎゆくもので、だけど、積み重なるものです。何一つ、無駄じゃない」
「だから、あたしたちも過ぎ去って行きましょう。次の冒険のために」
「楽しいことは待ってくれませんからね!」
「風のレゾナンス」 /吹雪様
……ハールトン、全員
「地味でぱっとしない生活をしていた修道女と冒険者が"聖痕"の力で命を救われ、神の奇跡をこの街に示した――」
「そうなると、地味な一般人も、少しはやる気になるってものではありませんか」
「地味でぱっとしないって、仮にも自分と仲間の職業を……お前というやつは……」
リケラの絵を表してケテ曰く、
「なにそれリケラ、世界を滅ぼす大魔王かなんか?」
「何が大魔王だ!?」
わあわあ言っている二人を横目に、ヨノメはハールトンの描く絵を覗き込んだ。
「ハールトンはこういうの描かせると才能を見せますね……」
「絵を描ける人がいないと意外と困りますよ。悪い人の似顔絵を描いたりとか」
「局所的だなあ」
視線も遣らず、シギが呟いた。
そういえば、数日前に、野営の食事当番をサイコロで決めたのだった――
夜が更けても焚火に小枝をくべながら、誰からともなく色々な話をした。
宿の亭主や、娘さんのこと。旅をした国、街のこと――
初めての依頼を受けた時のこと。依頼に失敗した時のこと。
死線をさまよった時のこと。出会い、別れた数多くの人々のこと――
心に秘めた夢……たとえば財宝を手に入れ、富を築くことを。
リケラたちはいつしか気づいていた。
冒険で得た全ての財宝と同じくらい――あるいは、もっと。
自分たちは、価値のある記憶を共有しているのだ、と。
「私たちはさ」
「今……掛け値なしで最高のパーティーだ、そう思ってる」
「シギとかに聞かれたら、複雑な顔をしそうですね」
「はは、見えるようだな」「……そりゃ、実力で上回るやつはいるだろうが」
「なんだかんだ、悪くないバランスのパーティーですしね」
ここまで同じパーティーで依頼を受けることになるとは思わなかった、と。
ハールトンたちが考えるように、きっと、シギたちも言うだろう。
「あの娘は」
「私にとっての、リケラみたいな存在に出会えなかったのかもしれないと」
「公国に帰ったとしても、守ってくれる人も、弱音を吐ける人も、いないのかもしれないと」
「だからでしょうか。心が揺れた」「助けたいと、思ったのかもしれない」
「おかしな話ですよね」「(リケラのことを、置いてはいけないというのに)」
「(このパーティなら、或いは、とも思ったのでしょうか)」
***
「ハールトンはね、あれですごく面倒見がいいから」
「全力で助けると思うよ。安心して」
「……ヨルラさんって、たぶんリケラにちょっと似てるんだろうな……」
「うん。ハールトンにはないものを持ってて。無理したり、頑張りすぎちゃったりさ」
***
「冒険者は……お前が思っているような誰かに従っていればいい仕事じゃないッ……」
「犬だって、狼だって。仲間のために全力を尽くす。狩りの成果だけ手に入れて満足している人にはわからないよ!」
「誰かのために、痛みに耐えて戦ってる人を、道具扱いする人間なんて!」
「絶対に、いい死に方しない……!」
「ハールトンは、ノルテカの帆羽に帰ってくるよ」
「帰る場所は、そこなんだから」
「でも、騎士にならなくても。ハールトンはお前と戦う」
「ヨルラさんのために」
***
仲間と出会った日も、ヨルラを助けた日も、風が強かったな……と、
ひとり思った。
「やるのか?」
「そうでなければ、こんなところまで来ませんよ」
「まあ、同感だが」「随分と思い切ったな」
「それはあなたも同じでしょう?」
「そうでなければ、冒険者になってないからな」
「ええ、本当に」「(冒険者でなければ、こんなこと出来ませんからね)」
歴史の闇は、多くの人々を飲み込んできたが
これもそんな類の――結末だ。
「世界が善くあるために――邪な者には、ここで、消えてもらう」
炎のような目を向けて、それは言った。
「……行こう。もうすぐ夜が明ける」
闇へと駆け出す仲間の背を追いながら――
ハールトンの命を救った風。
ヨルラの旅立ちに吹いていた風。
物語の全てを見ていたのは冒険者の背を押す――
この風だけなのかも、しれなかった。
「アルクレンクは惜別の果て」 /mahipipa様
……ヨノメ、全員
「荷物を後にして観光でも悪くありませんね……」
「こらこらヨノメ! すっぽかしたひとがいる以上、遊び呆けるのはまずいでしょ」
「……という建前をもって、チーム編成に当たろう」
いつになくケテが真面目なことを言っていたので、ヨノメは微笑んだ。
「そうですね……観光は荷物を届けながらでもできますし」「配達はやっていきましょう」
「じゃあ、荷物を届けるためにチーム分けをしよう」
リケラが手を叩く。ヨノメが真っ先に手をあげた。
「まずハリガラ村。……ここはあたしがやります。もう一人、来てくれませんか?」
「そうしたらオレ行く!」
そしてお決まりのように、ケテがはいはい、と主張した。
「次にアルクレンク市街。こちらは量が多いので三人くらい割きましょうか」
「あと一人は?」
「宿の手続きとあたしたちの荷物運びです」
「地味に大変だし遊びに行けないやつじゃん」
「では僕はシギと行きます」
シスがシギの腕をとんとんとし、己の希望を述べる。
勝手に決めるな、とシギがぼやいたが、シスは気にせずシギの腕を撫でやっていた。
「……となると、俺たちは自動的に市街か」
諦めたようにシギが視線を投げかけると、リケラが腕を組んでいる。
「まあお前たちを野放しにしておけないからな……」
どうやら、この三人が市街で決定ということらしい。
余ったハールトンは、その様子を見てため息をついた。
「では、そういうことですね」
「正直ハールトンは適任でしょ」
「よろしくお願いします」
「いいですよ。それぞれしっかり仕事をしてきてくださいね」
***
「冒険してると忘れがちだけど、たまにこういう景色を見ると最初の頃を思い出すよ」
「あたしたちにも、右往左往していた時期があったんですよね……」
「付き合ってくれますか、ケテ」
「心配しないで。これも含めて織り込み済だよ」「好きにやりなよ」
「そう言ってくれる相手がいると、だいぶ荷が軽くなりますね。いつもありがとうございます」
「でしょ?」
じゃあ、出発しよう。
***
気付けば、負けっぱなしの吟遊詩人どもから楽器を奪い取っていた、
そう表現するほかはなかったのだろう。
ハールトンは、指先が覚える旋律を慣れぬ楽器にのせて、女の舞踏に合わせ始めた。
演奏の合間にも策謀は続く。視線を巡らせて、ぼけっと突っ立っている観客たちを睨みつける。
やがて、一人、また一人と手拍子が増え始める。
一人で勝てないのなら全員で。冒険者は観客たちを扇動する。
このいけ好かないやつの鼻を明かしてやろう。そう思ったのかもしれない。
だが、演奏させられているのはこちらのほうだった。
女はしばらく勝ち誇ったように制圧されきった酒場を踊っていたが、
いよいよ曲も終わりと察したのだろう。
そうして、宿いっぱいの大歓声は二人を包んでいた。
***
燃える景色を背に、はがねの翼で火を吹いて、
眼下の異形の存在をことごとく焼き払う――そんな人物が描かれた壁画だった。
例え見覚えがなくとも、その景色はケテに言い知れぬ寂寞を思い起こさせた。
***
「気取られると面倒だな。死角に回り込みながら進もう」
「ガーゴイルは曲がっていきますね。だとしたら……」
「空飛んでるくらいでいい気になるなよ……!」
「このまま、真っ直ぐ! 後はそれだけでいい!」
***
「どうする? 大人しく馬鹿になっておくか?」
「まさか。強化を、して……」「対策をとりましょう」
「だよな」「反撃するにしろ、適当に逃げるにしろ」
自分の意思で決めたいよな。
「ヨノメ! 身体が、光ってるよ」
「ケテ! あなたも光ってますよ」
※ここちょっとほっこりしてすき
思い出して。きみたちの足取りを。
歩んできた物語は嘘をつかない。
冒険を。経験を。失敗も成功も。
一回の理不尽じゃ、覆らない! もう知ってるはずだ!
あなたは、ゆかねばならない。少なくとも、今は。
状況はこちらに向いた、順当に反撃といこう。
***
仲間たちが注意を引き付けているうちに、死角から忍び寄り、ナイフを突き刺した――
だが、背中からやられていたのはシギの方だった。
他ならぬ、ハールトンの攻撃の手によって。
彼が構えた銃口から、煙が出ている。先は、迷いなくシギに向けられたまま。
幸い、パーティの生命線であるシギだ。背後の異変に気付いて咄嗟に身を躱し、致命傷までは免れたようだった。
だが、銃弾は腹に刺さったまま、だらしなく血を流し続けている。
「……っ!!」
ハールトンは察した。これは、仕組まれたのだと。
それと同時に、シギがその場に倒れ込む。彼の名を呼び、傍に駆け寄るシス。
「急いで、手当を……!」
リケラがそのほうへ呼びかけるが、ヨノメは、未だ目前にいるそれを睨んでいた。
***
あたしはそれでも、色鮮やかな世界に生きて、
ナムリリトを討つ。ともだちを助けに……
放ってはおけないのです。だから
「迎えに行きましょう、皆で。」「あの不運な冒険者を」
「そして、世界一杯の幸せがどういうものか、教えてあげようじゃないですか」
ヨノメの意思に、ケテは、力強く頷いた。
そんな不幸な人生、一回くらい幸せがあってもいいんじゃないでしょうか?
不幸になるため生まれてきた……そんなのは、ナシでいきましょう。
「冒険できるものは幸せである。そうあれかし!」
***
ため息をつくハールトン。多かれ少なかれ、身内を撃ったことを気にしているのだろう。
正直、シギにとっては"そのこと自体は"可能性として想定をしたことのある事態ではあった。
だから――確かに死にかけたかもしれないが、どっちにしろ致命傷は避けられたのだし――気にしていないのだが。
シギが息を吐きながら、一度目を閉じる。暫し、逡巡。
「だが、誰も欠けていない。……このパーティは」
「やりようは、ある」
言い放ち、次に開かれた目は、すでに仕事をするときのものに変わっていた。
かつてのシギなら、こんな大人数の命について、生存の勘定に入れることもなかったのだろう。
シギからそう言うことは、つまり、自ら進んでその役を受け持つ、ということを意味していた。
「こっちで出立前に銀貨は交換しておく」
シギの言に、ああ、と頷いてリケラ。
「次はないってことを、思い知らせてやろう」
向けられたその言葉たちは、彼らなりの、ハールトンへの気遣いだった。
***
やるべきことは暴力装置さ。
いつも通り、全てを薙ぎ払おう。
***
円形のシャンデリアを、シスはその頭上に見出す。
ああ、これは人間たちだ。
***
どんな嵐が吹き荒れる時も、
あなたの物語が開かれて在りますように!
***
「これが終わったらもう一致団結はしないな」
「色が多いってそういうことだろう?」
「六人でもまとまらないのに、集落がまとまるわけないでしょう」
「あれくらいでないとやってられませんよ、主人なんて」
***
「命も資源も全て賭けなさい!」
いつかの銀貨を幻視し、ヨノメはそのまなうらにはためかせた。
***
ここまで来てかっこ悪く負けないでよね!
ああ、仲間からか、自分のこころからか。
祈りが宿ったのを感じる。
***
「おいで、」
名前を呼ぶ、
「冒険者は、たのしいですよ!」
ヨノメはいつものように、笑って、手を伸ばした。
***
朗らかに笑いながら、
「まずは自分が一番、そこから着いていけばいい」
やや悩むそぶりを見せて、真っ直ぐに
「戦い。胸躍る戦いだよ。君はそれをもたらしてくれる?」
手を挙げたのち、口許に手を遣り
「秘されたものをつまびらかにする。それも、冒険者の努めですから」
咳払いひとつ
「怒りや憎しみを糧とするのも時には必要だ。飲み干すのが辛いなら、言え」
呟くように
「生存欲を高めろ。己の命が全てだから、全てを賭けられる」
隣人にかたりかけるように、
「いっしょに探しましょう。冒険の路、知らないなにかを!」
各々が掴むために、手を伸ばした。
***
「これだから冒険者は、って、まとめられるのは腹が立つときもあるが……」
「これだから冒険者は、が許しになることもある」
だろう? とリケラはヨノメに目で問いかける。
「そうですね。すべては去りゆくよそもの。それなら」
ヨノメはうたうように言葉を紡ぐ。
「自由な風に乗って去りましょう。そうして、好きに生きましょう」
それが冒険者暮らしのいいところですよ、と。
「怪盗『 』と翡翠の石」 /満月丸様
……シギ、全員
------------------------------------------------------------
※ノルテカ結成以前、時間軸としては、「25時94分」の前のこと。
とある都市の食事の席にて。
「ある貴族が所蔵する美術品を盗み出してほしい」
これを、その当の貴族が依頼してきたのだ。
貴族の娘が誕生日に、怪盗という存在を所望したのだという。
即興怪盗を仕立て上げ、自身の美術品を娘の前で盗み出してほしい、という訳である。
シギは冒険者であったが、この頃パーティを組んでいない。
ひとりで旅をしながら稼ぎ、町を転々としていた。所属している宿はあったが、最近帰っていない。
相手は身元をろくに確かめもせず、破格の依頼料を提示してきたのだ。
昌かに警戒心が足りなさすぎる、し。
当時のシギも、割のいい仕事だということで安易にもそれを引き受けてしまった。
……簡単にはいかなかった。
いざ盗みに入ったはいいものの、どういうわけか警備は厳重、
しかも相手は本気でこちらを捕まえに来る。
おそらく貴族の面子の関係で、外部の者である警備には事情を話していなかったのだろう。
あろうことか、なんとか所蔵場所へ来たはいいものの、誤って美術品を壊してしまう。
……依頼人を怒らせた。
結果、警備の者たちに追われ、手負いの状態でよく知りもしない都市の路地裏を彷徨う羽目になったのである。
あの貴族は、きっと依頼のことなど話さないだろう。そんな醜聞、認めるわけがない。
下手をすれば、美術品の弁償代までこっちに押し付けられてしまう。
借金まみれになる気はなく、依頼料も得られないまま、
こんなお尋ね者まがいな姿で彷徨っているというのが、現状だ。
顔と名前は割れているが、宿の名前まで出さなかったことは賢明であったと考える。
この都市を抜け出せれば、追っ手は外までは来ないだろう。当面、この地方へ足を伸ばすことは出来なくなるだろうが。
考えている合間にも、ぐらりと意識が傾く。痛みが酷く、思考が鈍る感触がした。
……
一般人に助けられた。長い金髪、翡翠の瞳をした女性だ。
こちらの手を握り、夜の路地を駆け始める。
家に招き入れられる。そこには旦那と、眠る息子がいた。
「だって怪盗ですよ?」「私、子供の頃の絵本で怪盗の話が一番好きでしたの」
「だから、反射的に匿まっちゃいました」
「というわけで、怪盗さん。よろしければ、一休みしてはどうかな?」
……なんとも、お人好し夫婦だった。無償で怪盗を匿うなんて、どこかズレている二人だな、と思う。
なし崩し的に、夫婦から怪我の治療を受け、夜食を頂いてしまう。
こんなによくしてもらっていいのだろうか、無意識に呟きが洩れる。
鈴を転がすように、女性が笑う。
「もし怪盗さんが、これを恩に感じたならば」
「この先、あなたの前で困っている人が居たら、その人を助けてあげてください。」
「それが、私への恩返し」
謝礼は必要ないと?と問えば、怪盗は弱い人の味方でしょう?と返される。
「怪盗が弱っている時は、弱い者が助けなきゃ、ね」
……彼女の振る舞ったスープの味を、今も覚えている。
結局、朝まで匿ってもらい
宿に置いた荷物は追っ手のことを考えて取りに行かずに、着の身着のまま、街を脱出した。
その際、商人であるという旦那から、路銀の足しにでも、といくつか値打ち物を贈ってくれた。
ますます、「掛け値なしのお人好し夫妻だな」、と呆れ半分
なんとも言えない気持ちをもう半分ほど抱きながら、街から脱出することに成功した。
そうしてリューンで、クロモシスと出会ったのだ。
------------------------------------------------------------
※それから今 GC「アイディールの大泥棒」と同時期
貴族のこどものお守りを一週間受け持つことになった一行。
しかし、当のこども……ルーロ少年は、想像していたよりもずっと子供らしくない様子だった。
冒険者たちは小声で話し合う。
「(どうする、どうみても心を閉ざしてるんだが)」
「(ふむ、引き取られる前の家庭で問題でもあったのでしょうか)」
「(それよりどうするのさ? この空気。凄まじく居心地が悪いんだけど)」
「(もう帰るか?)」
「(いえ、ここで一つ反応を引き出しておきたいです。そうですね……)」
シスはハールトンを見やって
「(では人生経験豊富なハールトン、そのお守りの技量でなんとか仲良くなってください)」
「(む、無茶ぶりを)」
……
「(作戦参謀殿! 仲良し作戦は初っ端から暗礁に乗り上げました!)」
「(ありゃ駄目だな、完全に座礁してるぞ)」
「(仕方ないですね。ハールトンの拳が暴発する前に撤退せよ)」
「(あなたたち。あのですね)」
***
「はいはい、それでは夜なべして考えてきた問題でも披露しましょうかね」
ヨノメが水平思考ゲームを持ち出す。
昨夜打ち合わせをした際にこれを発案したのは、ヨノメだった。
なんでも、ヨノメとケテが二人で受けた依頼の道すがら
ヨノメがケテに、暇つぶしにでもとこうした遊びをしたことがあったのだ。
ケテもそれがどういうものかわかっているため、じゃあ、それでいこうということに。
シギとルーロがタッグを組んで言葉を交わし、その問題を解いていく。
「次の出題は……シスですね」
「それでは、少し難しめの話にしましょうか」
確かにやや難しい問題となり、二人は唸りながらもそれにこたえる。
最後はケテだった。
「はっはっは、任せて。とっておきの問題を考えてきたからね」
「あれ、なんだろう。急に不安感が……」
「え、なに、小説のあらすじか何か?」
「しかし唐突に挟まれるジョン、何をしているんですか、ジョン」
「あーもうほら、完全にルーロが戸惑ってますよ」
「(……ん? 帝国、皇帝……)」「(あ、)」
シスは静かにケテの意図を察し、シギに話しかける。
「なにはともあれ、質問してみてください、シギ。」「ちゃんとした答えが出てくるかもしれませんので」
「えー……」
ケテはにやにやとしている。
「ここ最近で一番ひどい謎解きを聞きましたよ」
***
「開かない扉、立ち塞がる暗号、気づけば小一時間は謎の前で頭を抱えて座り込んでいる日々……」
「時には追跡者に追われたり、時間制限のある中で謎を解かなきゃならないケースも……」
「思い出したら気が滅入ってきました」
「謎一つが命の分かれ目だったりするもんだから、この世界は理不尽なんだよなあ……」
「あまり古代文明の遺跡には一番乗りしたくはない」
「だが悲しいかな、一番乗りじゃなきゃ、金目のものは根こそぎ奪われるのさ」
***
「ほー」「それじゃ、ルーロにはみっちり我がパーティーの冒険譚を教えなきゃならんようだな」
「お、ナイスアイディア」
「冒険者たるもの、不意な要望にも焦らず適切に行える器用さが必要なのですよ」
「未開の地で冒険するのなら、食糧調達も臨機応変に」
「釣りも狩りも虫食も何でもござれ、なのさ!」
「まあ、普段は商人の護衛や近隣の妖魔退治ばかりですね」
「とはいえ、さすがにこういった話は珍しい部類だ。たまに起こるアクシデントだから、早々に経験することもない」
「(というか、あまり遭遇したくないな……)」
冒険者の話を色々とした。
知らぬ間に、こんなにも経験をつんでいたのかと、
本人たちもびっくりするほどだったのかもしれない。
***
「というわけで今日はちょっと外まで遠出をしよう」
「更になんと、ルーロは特別に……」
「シギの背に乗る権利を与えましょう」
ええ、と目を瞬かせるルーロ。
「大丈夫だ、乗り心地は悪くないぞ」
「……本当に大丈夫なのか?」
「安心しろ、スピードを出しすぎて振り落とすことなんてしないからさ」
「ご注文があれば馬車レースの飛び入り参加も受け付けますよ。もちろん馬はシギで」
「馬に蹴られるのは勘弁だぞ」
シスの冗談を、いつもの調子でいなす。
「場所も変えたから、少し趣向も変えてポーカーダイスなんてどう?」
「ほらシギ、ダイス十個とカップ」
「凄い、素人相手に負けてるぞ!」
「カモにするつもりがカモられている小悪党みたいな図だね」
「うるさいぞ外野」
「シギに勝つとは。意外とルーロは賭博師の才能でもあるんじゃないですか?」
シギが手加減している可能性もありますが。
***
「怪盗って、いると思うか?」
「居るかどうかって……」
「この広い世界なら、必ずどこかに居るさ」「それに冒険をしていた時に出会ったこともあったかな」
「やっぱり怪盗はいるんだな!?」
「やけに勢い込んできますけど、まさ怪盗に会いたいのですか?」
「できれば、な」
でも、とルーロは続ける。
「やっぱり会うなんて無理だよな。俺なんかに会いに来るなんて……」
「……」
互いに目を見合わせる一行。
それから、意を決したようにシギが口火を切った。
「会えるとしたら、何を話したいんだ?」「伝言くらいならどこかで出会った際に伝えられるかもしれないだろ?」
「まあ、こっちは冒険者だし。そのうちに会うこともあるでしょ」
「確約は出来ませんけどね」
「……」「うん、そっか……」
それじゃあ、とルーロは、首に掛けていたペンダントを外して、
それをシギへ差し出した。
「それを渡してほしいんだ。それと引き換えに頼み事をしたいって伝えてほしい」
「頼み事?」
「それは内緒。怪盗にしか言わないぞ」
悪戯げに笑う少年に、一行は目を見合わせる。
「見たところ、あまり値打ち物には見えないようだが」
「(デリカシーゼロ!?)」
***
「子供が無理をするのは不健全だ。だから、ここは大人を頼ってもいい」
「そうそう、ここにはいい大人がこれだけ雁首を揃えているのですから」
「まあ子供もいるんだけどね!」
「愚痴や相談くらいなら乗る。だから、依頼が終わるまで好きなだけ愚痴ればいい」
「こっちも仕事なんだから、金払いの分だけ吐き出してくれればいいさ」
シギなりの気遣いの言葉に、ルーロはしばし黙していたが……
やがて、大きく笑って
「……ありがとな、みんな」
優し気に、翡翠の瞳を細めたのであった。
***
「おそらくこの道具に愛のメッセージでも込めて贈ったんじゃないですか? ラブレターみたいに」
「へえ、告白にも使えるのですか」
「ゴブリンを誘き出す囮としても使えそうですけどね」
「愛の欠片も無い発想」
「冒険者の発想が物騒なのは職業病だ、諦めろ」
***
「今さ、凄く悪いことを考えてないか?」
「さて?」
くつくつと笑うシギ。
「……もしもだぞ?」「暇な冒険者の屯するリューンで、怪盗が出没したら……」
「みんな大騒ぎで捕まえに来るだろうなあ」
「馬鹿騒ぎが好きな連中ばっかりですし」
意図するところを察し、シスが問う。
「……本気ですか?」「例え捕まっても初犯ですし、事情を説明すればまあ多少の温情はあるでしょうが」
伯爵を怒らせることになると、シスは続ける。
「下手すれば数年、最悪の場合は死罪すらあり得ます。まったく割には合わない仕事ですよ」
それでもやるのですか? とシギを見た。
それを見ながら、悪くないと思うぞ、とリケラが言い放つ。
「絵本の中の義賊になりきってルーロを励ますんだろう?」「少なくとも、純粋な悪事ではないからな」
「このまま見ているだけというのも、なんだか後味が悪い」
「正直に言うと法規を超えるようなことはあまり推奨しないんだけどな……」
「出来ることは可能な限りやりたいって気持ちは理解できる」
「でも、最悪の状況をちゃんと想定しておいてくれよ。転ばぬ先の杖って言うし、準備は欠かさずにな」
いいですね、とハールトン。
「なかなかやりがいのありそうな仕事です。子供を救えるのなら悪くない話だと思いますし」
「ただ、窃盗に騒乱、軽度とは言え犯罪的行為に加担するのです。ヘマをすればこちらも首が飛ぶかもしれません」
「とはいえ、子供を放ってはおけないのは同感です、使える手段があるのなら、できるだけ協力したいとは思いますね」
「慎重に慎重を重ねて準備をするべきだと思います。万が一もないようにしっかりと計画しようじゃないですか」
「正義のヒーローが困っている子供を救い出す、実にいい!」
「正義の為ならなんでもやります。全力でフォローしましょう」
んー、とケテ。
「いや、まあ賛成ではあるけど……無茶をするのはオススメしないよ」
「まあヘマをして逮捕されても、シギなら普通に脱出できそうだし。そこまで心配はしてないよ」
「出来る限りは手伝うさ。いい暇つぶしにはなりそうだしね」
うんうん、とヨノメが頷く。
「暇を持て余した我がパーティが、少しばかりの善行と引き換えに少々の悪事を働いても、まあ問題はないでしょうね」
「ただ、捕まらないように。そこだけが問題です」
周りを見て、シスはふむ、と
「僕の意見は先ほども言いましたが……」
「ただ、楽しそうな催しには思えるから、やるというなら手は貸しますよ」
「リューンを混乱の渦中に陥れる、と考えるとわくわくしますし」
「(そこか?)」
「パーティー単位としてはやや気は乗りませんかね。」「まあ、そちらに任せますよ」
「(昔やった怪盗ごっこの焼き増しをここでやることになるとはな)」
まあ、あの時は依頼主も加担していたが。
自分らしくない行動だとも思う。どちらかというと、サンタより袋を持った強盗寄りなのだと自嘲する。
でも彼女の言葉は今もいつかの冬の夜の底に、かたちをもってのこっている。
知ってか知らずか、シスはシギを見つめていた。
「パーティー上のリスクか……」
「じゃあ、仲違いした俺が独断で行った自棄ってのはどうだ?」
「それならノルテカの帆羽、という点では迷惑はかからないだろ」
「……こっちの評判に傷は付きそうだけどな」
リケラのため息に、シスの瞳は変わらずシギを見ているままだった。
「何故そこまで肩入れを?」
あなたらしくもないでしょう、と続ける。
この依頼で会っただけの子供相手に、無茶をする道理がどこにあるのかと。
「……ルーロの母親には以前、命を救われたことがあってな」
これはシスにも話していないが、と付け加えて。
「彼女が居なければ、俺はここにはいなかった」
「それに報いるためにも、きっと」「ここでやらなきゃいけない」
はっきりと言い放ったシギに、一行はしばし黙してから、目を見合わせた。
「わがままにつき合わせてすまないな。シス、みんな」
「本当にね……」「しかし、あなたがそこまで言うのも珍しい」
「言っておくが、捕まったらこっちは他人のふりをするからな」
パーティの損得上、共倒れは出来ない、とリケラが言い放つので、シギは安堵した。
「構わないさ。けど、見くびってもらっちゃ困る。逃げ足には自信があるんだ」
「ふふ……」
目を細めて、シスは彼の姿を眺めていた。
暫し後、空気を切り替えるように手を打つ。
「さて、断る流れじゃないようですし。ここは前向きに、亡き彼女の願いを効果的に伝える為にも作戦を立てるとしましょう」
「せいぜい、頑張って駆けずり回ってください」
シスの言葉に、みんなは頷くやら呆れて首を振るやら。
だが、暇人冒険者共の中で席を立つ者は誰も居なかった。
みんながみんな、どこかお祭りを見たときのような、わくわくとした高揚感を抱いていたのだ。
「演劇ごっこで新米怪盗の名をリューン中に広めるのも悪くはないかもな」
「ともあれ頼んだぞ、みんな」
その悪巧みの開始宣言に、一行は同じく、悪戯げに笑い合ったのだ。
「それでは、計画の準備をしましょう」
そのまま、テーブルで顔をつきあわせ、計画を練ることとなる。
「さっき決めた通り、決行は明日の夜。向かうのは」
シスの言葉に、俺だな、とシギ。シスは頷いた。
「肝の部分です。抜かりなくやってください」
「初仕事だからな。ヘマはしないように気を付けるよ」
それに、と付け加える。
「今のリューンに俺たちに逼迫するほどの腕を持つ連中は不在だ」
名のある冒険者パーティーはほとんどが長期依頼でリューンを空けていたはずだ。
千の旅鳥亭の看板冒険者パーティーであるグラスクレインも、ここ数週間ほど遠征に出たきりである。
彼ら以外に、個々の実力で上回る冒険者はそうそういない。
勝算はあるだろう、と見解だ。ノルテカの帆羽のメンバーは、そういった自負が少なからずあった。
「では、シギは衣装と予告状を準備してください」
「俺がやるのか?」
「当たり前でしょう」
できあがり次第、明日の夕刻にスラムのストリートチルドレンに小銭を握らせて届けさせるということだ。
シスはそのまま、シギに一枚の紙を手渡す。
「見取り図か」
「さすが、準備のよろしいことで」
シギが図面を睨み、ヨノメが横から覗き込んだ。つられてケテも見せて、と強請る。
「今、ざっと書いた物です。明日までに叩き込んでください」
とは言うものの、使用人のおおよその動きまで簡単に書き込まれている。
あらかじめ内部に入れていたことが大きいだろう。
ざっと眺めて、シギは頷いた。
「おそらく侵入は簡単ですが、問題は盗んでから、ですかね」
しばし、作戦内容を整理しながら、シスが視線をよこした。
「……一応、もう一回聞いておきますが」
「うん?」
「本当に伯爵の前でやるのですか?」
「ああ……」
そりゃあな、とシギは返す。
「見せつけなきゃ、意味がないからな」
「はいはい。普段ならリスクを得ることに賛同はしかねますが。苦労するのはそっちだけなので」
まあ頑張ってください、と放つシスに、ケテが声をあげた。
「捕まったら何年ぶちこまれるかな?」
「ケテ、脱獄の手配は頼んだぞ」
「夜逃げの準備もね」
「その時はあたしたちも怪盗になりましょうね」
「おいおい、怪盗が飽和するぞ」
各々冗談を交わす中、シスは今一度全員の顔を見やった。
「それはその時。あとの面子で必要な人員を配置しましょう」
「逃走時の攪乱とかね」
「あとライバルとか? 絵本に出てくるんでしょ?」
「ライバルって……」
「これじゃまるで本当に演劇の脚本を作っている気分ですね」
一時、笑い声やら呆れ息が洩れる。
「でも、たった一人の子供を騙すためにこれだけのことをするんですから。間違ってはないですね」
「まあ、ルーロにヒーローのような怪盗が居ると信じさせることも目的ですから、有りと言えば有りですが」
ヨノメの言葉に、シスが重ねるように返すのを眺め、ハールトンは微笑む。
「心因性で足が動かないからヒーローを信じ込ませて治すとか、なかなかの暴論ですね」
「希望と信仰は人を救うんだよ、良くも悪くもね」
というわけで、とケテが手をあげる。
「オレやりたい! ライバル! 悪のヒーロー!」
「ライバルって言ってるじゃないか」
「まあ、でもケテでしょうね。頼みましたよ」
「ふっふーん。任せて!」
それに、と得意げなままケテがシギを見る。
「整えられた舞台上とはいえシギと戦うなんて、なんだか腕がなるね!」
「お手柔らかに頼むぞ」
「ケテが本気を出すとシギの骨が折れそうですね」
「そこまで柔じゃないんだが」
「……と、目的地へのルートですね」
次の話題へ切り替える。ルートについては実質二択だった。
さまざまな条件を鑑みた上で、路地裏の経路をとる。
「こちらは周囲の冒険者や騎士団に挟撃される可能性が高いです。できれば攪乱が欲しいところです」
「じゃあ、私だ」
「リケラ、頼みました」
任せろ、とこたえる。そのまま、攪乱方法について話し合いをするが、
「どちらも変装するんだろ」「じゃあ私も怪盗になろう」
「あなたもですか」
「シギとケテがやるなら、ついでに私もやっていいんじゃないか?」
真面目な顔でリケラは主張したのであった。
「リケラ、やりたかったんですかね……」「そうかも」
ヨノメとケテがこそこそと話していた。
そのまま、次の難所の大通りについての話し合いを進める。
「人の多い場所を狙った方が逆に安全です」
「まあ厄介な連中とかもいますものね、うちの宿にも」
ラーヴルとか興味津々で来そうですし……とヨノメ。
「混戦状態だとどんな実力者でも苦戦するからな」
「味方の雑兵が足を引っ張るってやつ」
「チームワークのない有象無象の方が厄介ってのは皮肉だね」
「どこもそんなものですよ。で、ここの攪乱ですが……」
シスの言に、ハールトンが罠とかどうです? と声をあげる。
「設置型で発動する感じのやつとか、あるいは投げ入れたりとか」
「では、罠の方はハールトンに任せましょう。その後は冒険者に紛れて背後から邪魔をしてください」
「了解、後頭部に石でも投げておきます」
「それ一般人にしないでくださいね」
わかっていますよ、と笑われるが、ハールトンの冗談は冗談ではないことがあるので、怪しい。
それを懸念したのかシギが待った、と挟む。
「罠って話だが、殺傷力のある代物はよくない。仮にも子供の前だ、殺傷沙汰はトラウマになる」
それじゃ意味がない、と。ふむ、とハールトンは暫し考え、
「それじゃあ、煙幕の罠でも作りますか」
こちらで用意しておきますとも付け加えたので、頼んだ、とシギは頷いた。
それから、ヨノメが最後に梯子をかけるだとか、
シスが依頼人の元へ出向いて怪しまれないようにする、だとかを決めていく。
シギがそうだ、と声をあげる。
「俺が捕まった際の万が一の誤魔化しも兼ねて喧嘩でもしておくか。あと別行動でも怪しまれないようにな」
「じゃあお相手はこちらで」
「フリで頼む、あんたに殴られたら痛い」
リケラはやる気満々だ。ハールトンが横から、
「論争内容は目玉焼きにかける理想の調味料について、でよろしく」
と横やりを入れた。
塩と醤油の戦いがはじまる――(『目玉焼き』をやるんだ!)
***
月が見下ろす時刻、
翡翠色の足枷を頂きに参上する。
怪盗『シーラ』より
そこには音もなく、閉めたはずの窓が開いていて、
月光の元に、黒い影が窓際に座っていた。
「やあ、少年」
その黒影は、まるで道端で挨拶をするかのように、気さくな声をかけてきた。
あまりに唐突で現実離れしたそれに、ルーロは思わず間の抜けた顔をした。
しかし、その人影はなにも気にした素振りのないままに、天を仰いで両手を広げる。
「今日はとても、よい月夜だ。そうは思わないか?」
「あ、あんたは……?」
「俺? 俺は……」
と、急に階下がざわざわと騒がしくなった。
何事か、とルーロが思う間もなく、人影はするりと窓から立ち上がり、
ルーロの前へ歩み寄ってから、片膝をついて手を延べる。
「俺はシーラ」「あんたを、盗みに来た」
***
仕込み杖を手に取り、不敵に笑う。
そのまま、容赦の欠片もないままに、向かってくる相手を全て地面に叩き伏せる。
「悪いな、ちょいと振り回すから我慢してくれ」
指一本たりともルーロに触れさせず、怪盗はその路地を踏破して見せた。
***
冒険者にまぎれるハールトン「いくぞぉ~!懸賞金はこっちのもの!怪盗を捕らえるんだー!」
※おもしろすぎるんだが似合うので無理だ
「完全に烏合の衆って感じですねえ、……よっと」
全力で投擲!※わかる
***
「おっと、そこまでだ」
それは毒々しい衣装を纏い、仮面で顔を隠し、そして細剣を怪盗へと向けてきたのだ。
※シギとケテのバトルか……
「だが忘れるな! 次こそはこの私が貴様に引導を与えてやろう!」
はっはっはー!と高らかに笑いながら、悪役はマントを翻して去っていった。
※似合う
***
「世の中、完璧でないことの方がとても多い」
「真に完全な存在など、神でしかあり得ない」
「けれども」
シスは壁際に飾ってあった、ひび割れたカップを手に取って、
それを回しながら続ける。
「不完全な形もまた、ある種の趣があると思いませんか?」
「量産品よりも個人の手作りの方がその人にとって貴重かもしれない。それと同じこと」
「あなたはもっと、自分を認めてあげるべきでしょうね」
「不完全な、自分を」
(これをシスが言うのがすごいな……)
***
「かつて、俺はこれを見たことがあった」
「仕事中に怪我を負って、身動きが取れないでいた時のことだ」
「その女性は無償で俺を助けてくれた。薄汚い泥棒風情に、何の得もないだろうに」
「彼女は言っていた」
もしあなたが恩に感じるのならば、あなたと同じように苦しんでいるひとを助けてやってほしい、と。
「美しいひとだったよ。あんたと同じ……美しい、翡翠の瞳をしていた」
***
「このメッセージは、あんたたちへ遺された最後の願い」
「彼女が伝えたかった、本当の祈り」
「俺は、埋没するはずだった願いを救い取り、あんたたちへ渡しに来た」
バッドエンドなど、俺の前では無意味な物。
形無き物ですら盗んでみせる、それこそが大怪盗の腕前。
「そして、ルーロ。この丘まで歩ける、強い足はあんたの物さ」
怪盗は、恭しく頭をたれながら、こう言った。
「あんたたちの足枷、確かに頂いた」
月夜に映えるマントを翻し、怪盗は悠々と去って行った。
「トリップトロック」 /ソイヤ様
……全員
以前ケテが見た"現代日本"での出来事の夢が縁を引き起こしたのかどうかはわからないが、
ある依頼を受けた一行は、【現代日本世界】にとばされてしまう。
言語は偶然にもわかるものの、ある影響によりしばらく意思疎通もとれないまま、とある一家、門谷家に保護される。
話に伝え聞いていたことはあったが、実際に過ごしてみると価値観の違いなどに苦労するものだった。
知っていること:
・現代日本の基本生活
・スマホ/テレビ/パソコン/カメラ/写真/車/メール/インターネット
・カップ麺/タピオカ/たこ焼き(タコパ)/焼き肉/コンビニのおでん
・漫画/オタ芸/サイリウム/ドラマ/ドキュメンタリー/映画/ヒーローショー
・楽器(ギター/ベース/ドラム/キーボード)
・スーパー/スーパー銭湯/銀行/カラオケ/音楽スタジオ/学校(存在のみ)
・"カードワース"
バンドも組んだ。
ギター(ソロパートあり):リケラ
ギター:ケテ
ベース:シス
ドラム:ハールトン
キーボード:ヨノメ
マネージャー:シギ
……ケテ、全員
これは、とある冒険者パーティーのとある日常だ。
いつものように依頼を終えた一行。討伐の証拠である黒い羽を持って、帰路をゆく。
その帰り道、ケテは見知らぬ少女に、一冊の日記を渡される。
「その日記にね、あなたの仲間達のことをいっぱいに書くの。1日も欠かさずにね」
「そうすると幸せが訪れるのよ。約束するわ」
なら、やってみよっか、と。
それに、妙な胸騒ぎもあった。
この日から、ケテは仲間のことについて絵日記を描き始める。
***
「オレを迎えに来たのがシギなのは、なんでだったのかなと思って」
「それは公平に決めた結果です」とヨノメ。
「コイントスで負けました……」
「あのシギはビックリするほど弱かったよな」
「ああもう!」
リケラの言葉に、これ以上言うんじゃねえとシギ。
へえ、とケテが相槌をうった。
「そうなんだ。オレがぶつかりそうになった時は見事な身のこなしだったけど」
朝のことを思い返しながら呟けば、当然だ!とシギ。
「あれもかわせないとなったらもう立ち直れねえぞ」
なるほど、とシスが頷いて。「いつの間にかケテに救われていたんですね」
「良かったですね。ケテが寝坊してくれて」
「ケテが寝坊しなければコイントスに負けることもなかったんだぞ!」
「え、あ、ごめん……」
***
「このままどんどん運に見放されそうで心配です……」
「ヨノメにしてはずいぶんと悲観的だな」
「寝坊していなかったら、まだ日の高いうちに着いたでしょうに」
「このペースですと……日の落ちた時間ですが、到着は」
「夕飯時か、丁度良いじゃん」
「よくもまあ、うまい返しが出てくるものです」
シスが感心したようにケテを見やった。
***
「食べ物の話で思い出した。帰ってからの夕飯、親父さんにリクエストしてたんだ」
「いつの間にそんなことをしていたんですか」
「ずるいぞ。なんでケテだけ」
「リクエスト受けた時にその場にいたのがオレだけだったんだもん」
「何をリクエストしたんですか?」
「えーとね……無難なポトフ」
「ああ、優しい……」
「親父さんのポトフと揚げじゃがは心の故郷ですよ」
「こりゃもう、早く帰らねえと」
「早く帰ったところで、夕方にならないと夕飯は出てこないんですよ」
「確かに……」
「待っててくださいよ、無難なポトフ!」
「もう夕飯しか目に入っていないな……」
***
らしくないとか、そんなことを書くことがこんなに多いものかな?
オレは、仲間たちのことを本当に理解してるのかな?
理解してると思ってるだけで、本当は何もわかってないのかな?
***
全員が同じ夢を見ていることがわかる。
誰かが水晶の中にとらわれている夢だ。
……いつかの硝子の夢を思い出す。
あの時は、ヨノメだけが無事で、みんなを助けてくれたのだ。
***
「……寝よう。明日は依頼を受けるんだ、この話は後回し」
「いやでも、ここまでくるといよいよですよ?」
調べておきたいのですが、と進言するシスに、シギも頷く。
「シスの言う通りだ。調べた方がいいって」
「……じゃあ二人が抜けて、残り四人であの依頼を片付けるか?」
リケラの物言いに、あからさまにため息をつくシギ。
「依頼なんか受けてる場合じゃない、と言ってんだが」
「ええ、もし手遅れなんかになったら」
リケラは眉をひそめた。話は続き、結果、
依頼をはやく片づけた上で、その後調べものをしよう、というリーダーの言でまとまった。
なんだか、シギたちは難しく考えすぎなんだよね。
みんなみんな、同じ夢を見ている。
ただそれだけだ。
何かの暗示なのかもしれないけど、それならその時。
「(返り討ちにしてあげるよ。ノルテカの帆羽はそんなに弱くない)」
***
「部屋から出たら他の部屋の扉も開くんだからな。笑うだろ、あれは」
「起きてから少し間をとったつもりだけどな」
「同じく」
「同じくかい」
シスの言葉にシギは笑った。
***
「呪術がかかっているですって!? この僕が!?」
「精霊の呪術ってなにさ」
「なんで私は濡れているんだ?」「しょっぱい」
「ああーリケラーよかったー!」
「大分面白かったですがもうあんなリケラ見たくないですね……」
「そういえば、解読作業に夢中で中身の意味よく見ていなかったんだよな」
どれどれ……と覗き込むリケラを、ケテとシスが制止する。
「頼むから黙って片づけてください」
「お願い」
「はあ……」「(何も覚えていないが、何があったんだろうな)」
***
「これ、日記なんですか」
「オレの日記ね。……中身は見ないでね?」
しかしシスは手に取った日記をそのままぱらぱらと捲っている。
「中身は見ないでね!?」
「ふうん、絵日記ですか」
ただ流し見しているだけのようだが、相手はシスだ。
「ふふ、なんとも味わいのある絵なことで」
「悪かったね!」
この日記はマジックアイテムだ。処分すれば夢は見なくなることは間違いない。
そう説明した上で、シスはケテを見て目をほそめた。
「僕、思うんです。あの夢は続いていて、いつかは終わりがやってくるって」
それがハッピーエンドだとは到底思えないけれど。
だから、ケテが選んでいい。
あなたがはじめた物語は、あなたが選択するものだからと。
「……日記は、まだ書き続けるよ。夢の続きを見届けたいんだ」
その言葉をきいて、シスは満足そうに笑った。
***
みんながケテの部屋になだれ込んでくる。
「渡された時に言われたんだって! 仲間のことを書き続ければ、幸せが訪れるって!」
「もうケテったら、深く考えずすぐに信じてしまうんですから」
ハールトンが微笑ましげに笑った。
「俺、思ってたんだ。あの夢は悪い夢じゃないって」
むしろ、誰かが助けを求めてるように見えていたとシギが呟けば、シスが反応する。
「警告夢、みたいなものですか」
「そうそう、その類」
「なんだか、夢に怯えるんじゃなくて夢を暴いてやるんだって思ったら、俄然やる気が出てきたね」
***
なんだかんだ、ハールトンっていつもみんなのことを見てくれてるよね。
ハールトンなら、親父さんの夢に出てきたっていう、仲間に化ける妖魔も見破れるんだろうな。
オレは、どうだろう。
仲間の偽物が現れた時に、オレは……本物と見分けがつくかな?
夢見についてあまり混乱しないのも、リケラがまとめてくれたからかも。
あの状況で夢を探ろうっていう指示が出せるのは、さすがだと思う。
ノルテカの帆羽に、シスがいてくれてよかった。
この日記帳がマジックアイテムだったなんてね。
そうと気づかずに書き続けてたら、どうなってたんだろう。
……気づきながら書き続けても同じ、か。
***
「声色こそは違うけど、誰かの喋り方に似てたんだよ」
「ええ? あんな堅苦しい喋り方の人、知り合いにいるんですか?」
「俺もケテと同意見だ。喋り方っていうより、言葉のチョイスなんじゃないか?」
「あー、言葉のチョイス……」
「……いや。言葉のチョイスってのもなんだか違うわ」
「どっちですか」
***
「友達が危ないんだろう」「お前がしっかりしないと助けられないぞ!」
「う、うん……。ぼ、ぼくがんばるよ」
「よしよし、偉いぞ。いっしょに頑張ろうな」
「(流石はリーダー。泣きわめく子もしっかりなだめるとは)」
***
「仕方がないな。ハールトン、その子の保護を頼む」
「了解です」
「今は宿に連れ返す時間も惜しい。この先も注意して進むぞ」
***
妖魔を倒し、落ちたのは、黒い羽。
「誰かと、相談したい」
そうして、真っ先に思い浮かんだのはリーダーだった。
……こんなこと、ヨノメに言えるわけがない。
「ケテ、どうしたんだ? こんな時間に」
「ちょっと、話をしに来た」
リケラ、と名を呼んで。
「最近、様子がおかしいと思わない?」
そう問えば、リケラはああ、と合点したように頷いて
「ヨノメのことか?」
とケテを見つめた。おもわずケテから安堵のため息が漏れる。
「よかった。オレだけじゃなかったんだね、そう思っていたのは……」
そうだ、ここ数日ヨノメはずっと調子が悪い。
回復の力も弱く、いつもならもっと前向きなはずが、後ろ向きだったり。
誠実であるはずの彼女が、ひとに対して素っ気ない態度を取り続けているように思える。
……常、ヨノメの存在は、このノルテカの帆羽にとってやや異質ともいえるものであった。
しかし、彼女がいるからこそ、一度、彼らの命は救われている。
ノルテカの帆羽は、ヨノメの結んだ縁により繋がっており、
そうして各々の目的をこえた、未知なる冒険へと踏み出せる。
「ケテも、気づいているんだな」
「何が、」
「構わない。みなまで言わなくても……」
どうせ、皆気づいているんだ。
「どうにか、しないといけないよね。」
「……もう戻るのか?」
「うん。ありがとう、おかげでいい夢見れそう」
「それはよかった。……おやすみ、ケテ」
「おやすみなさい、リケラ」
***
仲間に化けて、俺たちの中に紛れ込んだ妖魔。
親父さんも、あのこどもも、見破ることができたんだ。
オレにも、見破ることはできるのかな。
「(だけど、大丈夫だよ。)」
「(オレには、これがある。)」
絵日記を、仲間たちのことを描いた想い出を胸に抱いて。
***
『さあ、食事の時間だ』
「……駄目!」
飛び起き、ケテは大きく叫んだ。
「ダメ、駄目! 喰わないで!」
そのままベッドから飛び降りて、外へいく支度を整えつつ。
「だめ、そんな、恐れる時間なんてない!」「早く助けないと……どうしたらいい?」
あの場所に行かないと。でもどうしたら。
考えながら部屋をうろつくケテの視界に、日記がうつる。
「……。オレを、導いてくれるの?」
それを抱きかかえ、頷く。
「行こう」
そうして、ケテは自室の扉を開け放つ。
「ハールトン! 起きてちょうだい!」
「ヨノメも! 急いで」
「朝早すぎるだって? リケラ、そんなことわかってるよ!」
「シスも起きて。みんなが揃ってないと意味がないんだよ!」
「シギ、君もだよ!」
全員をたたき起こし、宿の一階へ呼び集める。
***
「ケテ」
「ん?」
「ケテに、任せてもいいんですね?」
「うん、任せてちょうだい。」
「なら、信じていますよ」
日記よ……オレたちのことを導いて。
***
「みんなも、気づいているんでしょ?」
「オレたちの中に、昨日倒したのと同じ妖魔が紛れ込んでるって」
「その妖魔は、オレたちの仲間を捕らえていて、今にも喰おうとしてることを」
ケテ、まさか。
「ここなら、周りを気にせず全力で妖魔と戦えるからね」
「……みんな! ヨノメを取り押さえて!」
「なっ、違う! あたしではありません……!?」
「これが、日記に導き出された答えか!」「ならそれに着いていくまで!」
「信じていますよ、ケテ」「やってしまいなさい!」
「正体を現せ!」
***
屈するものか。――ヨノメを奪った、この妖魔なんかに!
「何故見破れた、かって? そんなことすらわからないんだ」
ケテは眼前の相手にも臆せず、発破をかける。
「皮を被ったところで中身は偽物。見破れないわけがないでしょ」
ノルテカの帆羽の絆、なめないでちょうだい!
***
ケテが出会った少女が、日記より現れる。
「これであなたに力を貸すことができるわ」
どうすればいい、と問えば。
「歌うの」
「歌……?」
「みんなで歌って! 旅の思い出を、仲間への気持ちを、歌に乗せて響かせるのよ!」
少女の言葉に、一行はやや戸惑いを見せる。
「こんな時に歌なんて。そもそも何を歌えば……」
しかし、次に脳裏に翻るのはひとつの旋律。
いつか口遊んだ口笛のような、我々を鼓舞するような音色。
そのうたと共に、我々は風にのって征くのだ。
***
「夢で見ていた、あの空間なのかもしれませんね」
「恐ろしい……光もなければ影もない」
空っぽの空間ではありませんか、とハールトンが呟く。
「飲まれないように気をしっかり持てよ」
そのまま偵察を兼ねてシギが先行する。
「行くよ、みんな。ヨノメを取り戻すために」
ケテの言葉に、全員が頷いた。
こんなところにずっと、何日も閉じ込められてたなんて。
オレたちがとらわれていた硝子の胎よりもおそらく、ずっと、さみしいところだ。
この数日間、オレの隣にいたのは、ヨノメじゃなくて妖魔だったんだね。
何食わぬ顔で居座って、オレたちの思い出を喰らい続けて。
「(……許せない)」
気付かずに、ずっといっしょに居続けたオレが、許せない……!
絶対に取り戻して見せる。
ヨノメのことを、食われた思い出を、
ヨノメといっしょに過ごすはずだった時間を。
***
ヨノメの瞳に、仲間の姿が映る。
「(……ああ、今度は)」
「(みんなが助けに来てくれたんですね……)」
運命は、巡り廻るものだ。
いつか彼女がひとりで助けた縁は、
絆となって、ひとりの彼女を引っ張りあげるのだ。
……ヨノメ、ケテ、全員
現代日本・異界からの来訪者。
歓迎、冒険者、ゴブリンの洞窟。
魔力の乱れ、ドラゴンの影。
春の訪れ。
……リケラ、全員
交易をしながら護衛依頼を受ける。
リケラの家系が商家ということもあり、やや郷愁を感じる場面も。
……全員
辿る物語。
「LIVING DEAD CARNIVAL 2024」 /*** ※CW枠外
……ケテ、シス、全員
巨大な術式が組まれているような空間?
異界との交差点、夢の集う場所、戦いの音。
解くには精密、ならば果てまで。
「竜の子育て」 /ぽてと様
……全員
依頼先で受け取った卵から孵ってしまった小竜の出生について知った一行は
なんだかんだで面倒を見ることとなる――
元の名前はメルヴェリュコ、がやや省略され、メルヴェリコ、メルヴェとなっている。
リケラを親代わりとはいったものの、ノルテカのメンバーのことは基本的に家族と思っているようだ。
知識関係はシスから学んでいることが多い。
ひとからきいた物語、逸話、伝説……そういったものに興味を惹かれて、
色んなひとたち、場所、文化などから蒐集するべく、日々精進している。