千の旅鳥亭の看板格となっている
ベテラン冒険者パーティ。
英雄とよばれることもしばしばある。
或いは酔狂者たちともいう。
GC、と仮でつけていた名称を
改めてグラスクレインとした。
Grass(草原)+Crane(鶴)/Cry(叫ぶ)-ing
元は、どこにも行き場のない者たちが集まって
パーティとなったのがはじまりである。
メンバー間の信頼が厚く、
リーダーを中心に、つよい結束力がある。
――いつか淘汰された戦場のうえ、
俺たちはここにいるぞと叫んでいる。
■メンバー紹介
♂/若者/勇将型
_お人好し
夢:自由と冒険
『狩人の王』
『全てを喪い、消えない疵を負った元貴族』
ルグトルメナス・クロアティケ。
グラスクレインのリーダー。
元貴族、料理が上手い。また、悪運がつよい。
ひとをまとめる才があり、頼りのリーダー。
気さくで親しみやすいため、交友も広い。
お人好しをこじらせて色々面倒をかけている。
「さあ、全員で生きて帰るぞ」
♂/若者/策士型
_冷静沈着
心の闇:臆病と孤独
局外者
『平穏より遠く離れ、夜の闇を彷徨う吸血鬼』
アルフレート・メルキュリア。
グラスクレインの参謀。
元人間の吸血鬼。冒険者歴は一番長い。
基本的に冷静だが、情緒不安定な瞬間がある。
リーダーを守ることが第一優先。
どこか達観としていながら、物事を見ている。
「いいでしょう、あなたの意向に従います」
▼グルメン/more
ミルストゥールの街の貴族「クロアティケ」家の次男坊。兄と妹がいた。
評判としては、比較的良心的な態度をとる優良な貴族一家。
父の病気、兄の家出のタイミングが重なり、数年ほど、
彼自身が執務を受け持っていた。能力もさることながら、その人柄で
一定の信頼は保っていた傍ら、彼を疎む派閥もあったようだ。
そんな中、一家が火災に巻き込まれる。
家は全焼、彼と、家出をしていた兄以外の家族は焼死、財産をほぼ失う。
何とか生き延びた彼であったが、それに付け込んだ他派閥の貴族――
なけなしの財産を狙う者たちが、クロアティケ家の搾取をはじめたのだ。
すべてをうしない、うまく思考の回らなくなった彼にとって、
この一連に対処できるような余力は残っていなかった。
彼は生粋のお人好しであり、手を差し伸べる者である。
自分を脅す貴族に、騙されてかけていた旅人を助けたことがある。
それが、アルとニイである。
違法者とつるんでいたことを口実にその夜、彼は例の貴族から襲われる。
そして今度は、アルとニイに助けられた。
この街の貴族制度はすでに形だけのものになっている、とアルが言う。
家出をしたまま帰らない兄について、知らないかと話せば、
少し考えたのち、アルはリューンの話を聞かせるだろう。
兄を追いかけるためにも。三人でリューンへ向かうことに。
この時はまだ、彼らが冒険者パーティーを組むとは知らなかっただろう。
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▼アル/more
孤児であり、実親を知らない。
かつて魔術師学連に勤めていたメルキュリア老夫婦に拾われ、
彼自身も学問に囲まれた環境で育つ。
そうして、老夫婦が老衰で亡くなるまで穏やかな日々を過ごしていたが、
ある日、老夫婦の知人という男が来客として訪れる。
長い旅から帰ってきて、挨拶をしにきたそうだ。
老夫婦が亡くなっていたのは残念だが、これも何かの縁だと
しばらくここで過ごさせてくれないかとのこと。
育て親の友人であるなら、と彼は了承した。
しかしこの時アルは気づかなかった。
彼が指名手配をされている大犯罪者の魔術師――エダであることを。
彼とはよく、知恵勝負をさせられた。
家に巧妙に張られた結界を、日々の積み重ねで解除したり、
突然拘束魔術にあてられ、さらに上書きする形で無理やり解いたり。
傍からみるとくだらないが、彼らの応酬はその大半が高等魔術によるもの
いうなれば互いに、天才であった。
そうしてついに、力量が互角になったところで――
指名手配犯である魔術師は、ようやく縄についた。
天才魔術師の最期を、彼はその目で確認していない。
その前に、発ってしまったから。冒険者になるために。
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♀/子供/万能型
道の始め:生を望む孤児
Wolf's Night
大脱走
『冷たき手をとり、彼の為に駆け回る少女』
本名は忘れた。ニイ。
グラスクレインの盗賊・探索役。
戦災孤児。アルに拾われて冒険者となった。
手先が器用で、道具の修繕などもしている。
身内優先。アルと共にリーダーを支える。
仕事には冷静に徹するが、子供らしい一面も。
「はいはい、いつものやつね」
♂/若者/標準型
_厚き信仰
母子家庭
落日の鎮魂歌
『神に祈りながらも、鬼の傍へ寄った聖職者』
ノアエルシード。
グラスクレインのメンバー・会計係。
もともとは神官職をしていたが
依頼中のアルに巻き込まれ、そのまま同行。
第一印象としては頼りなく、押しに弱い。
ただし根はおそらく豪胆。
「こうなればとことん付き合ってやりますよ」
▼ニイ/more
小さな田舎町ニーリアで育った少女。
両親と三人暮らしだったが、ある時町一帯が戦火に巻き込まれた。
生き残りはほとんどおらず、瓦礫の上でひとりとなる。
生き延びるために、廃墟となった町の残骸から
様々なものを集めて過ごしていた。
アルと出会い、彼と共に行動することとなる。
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▼ノアエル/more
片親であり、母が聖北教徒。その為、彼もまた聖北に触れる。
家庭環境や彼の表面上の性格によって、よく虐められていたが
あまり事を大きくせず、耐えるように生きていた。
ある日の夕暮れ、教会に一人だけ残っていたことで、
彼の人生は大きく変化する。
夕陽が差し込む教会。彼がいつものように祈りを捧げていると、
祭壇の後ろに何かがいることに気づく。
そこにいたのは手負いの、フードの男だった。
ノアエルはとっさに、その男を助けるために近づき、手当をする。
そうして、何度か会話を交わした後——ノアエルは、その男に襲われる。
彼こそが吸血鬼——後にアルという名であることを知る——だったのだ。
アルはノアエルを完全に殺すことはしなかった。
他言無用。そう言葉を残し、そのまま行方をくらます。
その時の彼の様子がどこか忘れられず、また、偶然にも
教会より通達があり、マリリエルという町に異動することになった。
身体の弱い母を連れていくことは出来ず、単身で町へ出ることに。
たまに母へ手紙などを送りながら、それなりに過ごしてきた彼だったが、
再び教会にて、今度は冒険者としてのアルと対峙する。
アルはとある依頼のためにマリリエルへ訪れていたが、
どうやらその依頼に、この町の教会の汚職が関係しているようだ。
アルは身の上を明かした上で、協力してくれないか、と
交渉を持ちかける。
自分が従事している組織への落胆もあり、ノアエルはそれを了承とする。
こうして依頼を遂行、マリリエルの町の教会を更生させることに成功。
しかし、どういう形であれ吸血鬼と共に行動していた
ノアエルの立場は危ういものとなるだろう。
果たして、冒険者という職を知ったノアエルは、半ばアルに
押し切られるような形で冒険者に引き込まれることになったのだった。
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♀/若者/標準型
_献身的
_ハルピュイアとの契約
エメカナール村の結晶
『壊され、逃げ、なおも平和を祈る精霊術師』
エルテミート・メルジィール。
グラスクレインのメンバー。
オルの双子の妹、精霊使いの才がある。
独特な感性の持ち主で、突飛な発想を生む。
グルメンと恋人にちかい関係性。
一見ふわふわとしているが、芯は強い。
「それでもあなたは、こう言うのよね」
♂/若者/知将型
_下賤の出
心の闇:逃れえぬ嫉妬
日の出に逆らう術師
『壊され、逃げ、はてのみちに佇む死霊術師』
オルフリード・メルジィール。
グラスクレインのメンバー・先鋒になりがち。
エルテの双子の兄、死霊使いの才がある。
常に霊を見聞きしていたせいなのか
無自覚的だが、孤独耐性に欠ける。
人当たりは良いが、周囲が見えてない時も。
「うん? 聞いてたよ。大丈夫だって」
▼エルテ/more
ストールトゥスという国の、貧民街にて、親から捨てられて育った子。
物心はついており、捨てられたことを理解している。
幼い頃からオルと共に過ごしており、
身寄りもなく、路地裏で寝て過ごしていた。
その時の環境やら苦悩からか、彼女はいつのまにか精霊を見たり、
声を聞くことが出来るようになっていた。
元々備わっていた能力もあるのだろうが。
貧民街には、数は少ないが精霊の類がさまよっているみたいだ。
海が近いことも影響しているのかもしれない。
時折同じ孤児たちと協力したりして日々生き抜いてきた。
貧民街のひとびとへ慰めや相談役、治癒を行うことが多かった。
兄のような力強さはないため、かげで支えられるように。
危ないことはしなくていいから、自分たちは
穏やかに過ごせるようにあってほしいと願っていた。
誰かが死んでしまうことがあったとしても、
せめて安らかでいてほしいと。
そのやさしさに、彼女は愛されたし、
同時に酷い仕打ちも受けたことがあっただろう。
ある日、人身売買商人に誘拐されかけた。
精霊の声でいちはやく気付き、オルに伝えたのだ。
オルの機転で、きょうだいともにさらわれることはなかったが、
どことなく不安はぬぐえずにいた。
ある朝起きると、オルが異端審問官に追い詰められていた。
分かっていた、彼が扱う術が異端であると。
だからといって、ここで黙って見過ごすわけにはいかないの、と
異端審問官たちの不意をついて、オルを救出する。
そのまま、街から逃亡。その途中、オルとはぐれてしまう。
オルと共に街から逃げ出したが、オルとはぐれて一人に。
精霊たちと何とか協力しつつ、また、運がいいのもあり、
さまざまな場所でお世話になりながら、どうにか生き延びてきた。
多少でも旅の経験をしたためか、妙にたくましくはなった。
時折お世話になったひとの手伝いをしたりして過ごしていたが
兄を探すために、ひとどころには長く滞在しなかった。
各地を転々とし、その過程で野党に襲われていたのを、
グルメンに助けられた。
そのままグルメンに誘われ冒険者・パーティ入りすることに。
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▼オル/more
ストールトゥスという国の、貧民街にて、親から捨てられて育った子。
物心はついており、捨てられたことを理解している。
幼い頃からエルテと共に過ごしており、
身寄りもなく、路地裏で寝て過ごしていた。
その時の環境やら苦悩からか、彼はいつのまにか死霊を見たり、
声を聞くことが出来るようになっていた。
元々備わっていた能力もあるのだろうが。
貧民街には、実に多くの死霊が渦巻いているようだ。
運がわるければ、自分たちもそうであったように。
時折同じ孤児たちと協力したりして日々生き抜いてきた。
貧民街の子供らのリーダーに立つことが多かった。
彼自身はあまり目立つことは嫌がるのだが、
それでも自分しかいないとなると
どうしても立たなければと思うのだろう。
昨日まで話していた仲間の子供が、
翌朝死んでいる、ということはよくあった。
しかしオルには死霊が見える。見えて、聞きすぎてしまう。
彼の周りは、常に賑やかだった。
ある朝目覚めると、周りが静かになっていた。
子供たちが姿を消していたのだ。
のこっていた死霊が教えてくれた。人身売買商人のせいだと。
死霊たちも仲間たちを守るために抵抗したようだが、
逆に返り討ちにあった者もいたらしく
その数をいくつか減らしていた。
この場所には、人間も霊も、ひとしく権利がない。
そう気づいたオルは、姿をひそめ、
次に現れた商人を待ち伏せし、死霊術にて追い返す。
それから数日後、街の異端審問官に囲まれる。
なんでも、聖北にとっては死霊術というものは、
忌み嫌われた異端の術であると。
仲間である死霊たちは討伐され、彼自身も連行される寸前、
息をひそめていたエルテが、異端審問官の不意をつき、包囲を突破。
そのまま引っ張られ、街から逃亡することに。
その途中、エルテとはぐれてしまう。
一人で逃亡劇を果たし、行く先々で様々な知識と実力をつけてきた。
ある程度近接戦闘も出来てしまうのは、この時期の経験がつよい。
一人でいることが耐えられないのか(おそらく無意識なのだろうが)、
常に死霊と行程を共にしていた。
エルテを探しつつ、異端審問官に気を付けつつ。
そうしてリューンに立ち寄った際、
エルテとグルメンが共にいるのを見た彼は
敵だと勘違いし、思わずグルメンに襲いかかる。
その後、エルテの言葉で誤解が解け、
紆余曲折ありつつ、冒険者・パーティ加入。
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♀/若者/標準型
_リビングデッド
聖北教徒
泥になりそこねた女
『その波音はいまもあおく揺らめいている』
メレネアと呼ばれた女。
グラスクレインのメンバーとなっている。
動死体の類。聖北の祈りを持つ。
自我があり、ある程度の自立行動が可能。
オルに使役される形で生きながらえている。
感情の波が独特であり、普段は表に出ない。
「……今はそう呼ばれているの」
6人パーティであるはずが
なんとなく7人で行動するようになっている。
或いはオル・メレネアの2人で
別行動をとることも最近増えてきているかも。
基本的にパーティを分散しないで
同一の仕事をしがちであるグラスクレインだが
各々が安定してきたこともあるのか、
最近は少数精鋭で仕事を受けることも増えた。
メンバー間の連携が高精度で行われている。
全員で生き延びることを念頭においており、
全員が揃っている状態ではかなり堅牢。
特に、リーダー・参謀・盗賊は
ただでは転ばない。
全員の信頼の上で、ある程度の汚れ仕事は
参謀と盗賊で片づけてしまうことがある。
リーダーの精神が折れない限りは
どこまで劣勢でもどうにか立て直せる印象。
なるべく現状を崩したくない。
■要特記経過 ※メンバーの根幹に関わりそうな出来事のピックアップ・シナリオバレ有 未整理状態/リプレイに近くなっているものも有
「局外者」 /時雨屋様
……アル ※GC結成以前
その昔、今のリーダーとグラスクレインを結成する前。
僕は別のパーティーで冒険者をやっていた。
そもそも、冒険者をはじめたきっかけは、あまり強い動機ではなく、
単に、"第二の育て親"が僕の前から姿を消して、手持ち無沙汰になったから、というのが大きかった。
彼が死んだかどうかさえもよくわからない。捜しに行こうとしたのかもしれない。
……情などないはずだった。
はじめの育て親に比べて、僕に対する扱いはまともではなく、最悪の親だったというのに。
リューンに行き着き、当時、駆け出しだった冒険者パーティーに混ぜてもらったのがはじまりだった。
名は「グレイフォルナGray-for-Luna」。ヘイリオスをリーダーとし、
参謀であるシルミ 、盗賊のジョルダ 、戦士のマグレス 、聖職者のセイラと、僕で。
それなりに経験を積み、中堅に上り詰めた頃だ。
これは、その仲間たちと共に、とある討伐依頼に赴いた時の出来事である。
別段、とりたてて難しい依頼でもなかった。
廃虚の中に住み着いてしまった妖魔を退治するだけの、ごくごく簡単な依頼だったのだから。
古びた洋館の一部屋で、少し休もう、と言う算段になって。
仲間の一人を見張りに立たせ、ドアの鍵を閉め、一眠りして。
次に、目覚めたときには。
仲間は全員、物言わぬ屍となっていた。
何が起きたかわからなかった。
誰かが叫んだ声も、暴れるような音も。なにひとつわからなかった。
なんとか動揺を抑え、仲間であった者らを観察する。
首に妙な噛み跡がある。それ以外に目立った外傷はない。
……死体はまだ温かい。
マグレスが持っていた大斧が、放りだされていた。何かと交戦しようとした?
セイラの手に、聖水瓶が収まっていた。亡霊に襲われそうになった?
……わからない。
洋館の中を、彷徨う。
***
『稚き頃の記憶が、
恐怖と悲哀のみしか
もたらさぬ物こそ、
不幸なるかな』
***
向こう側の部屋には、化け物が居た。
口から真赤な血液を滴らせ、
肌は見るからに不健康、
むしろ死人のように青白い。
仲間の首筋には人間の歯形のような
噛み痕があったということを思い出す。
仲間を食い殺したのは、
きっとこの化け物に違いない。
だが『そいつ』も、血のように赤い瞳をらんらんと輝かせ、
こちらを驚愕の目で見ていた。
手が、触れた。
――それは鏡だ。
これまでに起こったことを知った。
仲間達を食い殺したのが誰であるかを知った。
蝙蝠たちが何に怯え、部屋から出て行ったのかを知った。
自分の口から滴り落ちる赤いものが、何であるかを知った。
***
ここから、どう過ごしていたのだろう。
しばらく、行方をくらまし、宿にも戻らず、どこへともなく彷徨ったことは記憶している。
足取りを覚えていない。
どこへいって、なにをみて、存在していたのか。
……どこかの村で、聖職者に会った気がする。
***
次に、鮮明な記憶は、煙の臭い。
数日前に戦に巻き込まれた、ニーリアという村跡。
その残骸でひとり、薄汚れた少女と出会ったことだった。
ふたりで旅をするようになった。
どこへ行くかもわからないふたりで。
***
ミルストゥールの街にて、グルメンと出会った。
手をとり、彼の望みをかなえることにした。
だからこうして、再び僕は冒険者となったのだ。
***
もう人間ではない。
このことは、あの鏡の中の自分へ手を差し伸べたとき以来、十分に承知している。
差し伸べた私の指先が、冷たく、硬く、光沢のある
ガラスの表面に触れた、その時から。
「オヤジの宝の地図」 /春秋村道の駅様
……全員
駆け出しの頃に、どんな依頼を受けていいかわからないでいた一行に
親父さんが、宝さがしにいかないかと持ち掛けてきた。
「戦おう」「何のためにここまで来たんだ」
「安全ばかり見てたら、これから先、何にもやれないだろ?」
「無謀なことをやろうって言うんじゃない」
「俺たちだったら、出来るさ」
そう言って、リーダーと呼ばれた者は笑った。
「行くぞ、宝をとりに!」
「やった!」「やれば出来るじゃん」「みんながいたからな」
宝箱には、一冊の本。
「あ。この名前、同じ宿の先輩冒険者だ」
ここに名前を刻んだのだ。辿り着いた証として、パーティ全員の名前を。
「深き淵から」 /cobalt様
……全員、グルメン
リーダーを取り戻す話
「桃源郷の恋人」 /cobalt様
……全員
パーティの結束の話
「新月の塔」 /机庭球様
……グルメン、全員
リーダーががんばる
過去のメモを持ち出してきているんですが、
リーダーがかなり血気あるなという印象。中堅時代……
***
仲間に手を出されて思わず剣を抜き出してしまうリーダーであった。
オセロ
「……考え過ぎて頭痛くなってきた」
「あー……アルだったら絶対これ瞬殺だよな……くっそー……適当に置いてやる……」
「やった出来た! 運が良い!」
「おいアル、大丈夫か!? こんなに酷い怪我を……」
「……僕が人間だったら死んでましたね」
「……とにかく、手当てを」
「早く鎖を壊してください」
「あっはい」
「……これくらい……!」
「お前は後ろに下がってろ!!」 ※ペナルティスキル【怒り狂う】
「あなたが落ち着いてください!!」
「これで呪いも解除出来たし、先に行くぞ」
「グルメン」
「何だ?」
「……ありがとうございます」
「当然だろ」
***
「何かあるような……ないような……」
「大丈夫か? お前酷く消耗してるんだろうから無理すんなよ」
「……(この奇妙な感覚…… 何かおかしい……?)」
「お前ふざけるなよ!!!」※【怒り狂う】2連続
「だからあなたが落ち着いてください!!!」
***
「……まああいつなら」
「まあオルなら」
「少し苦戦しても大丈夫だな」
「ちょっと皆さん!」
「いや、お前助けないとここから出られないし」
「うわあ! リーダー可愛くないこと言うね!?」
***
「黒魔術を研究してるあんたなら知ってると思ったんだけど。意外と無知なんだねえ 」
「…………」
「あれ、もういいの?」
「俺たちの目的はそこじゃないだろ」
「うーん、確かにこんなものサンプルにもならないしなあ」
「泥になった女」 /シルクロ様
……オル(・メレネア)
夜のはざま
***
第一印象は、不安定な波だった。
あまりにも自然に宿に足を踏み入れ、堂々と話し出すものだったから、
それが動死体であることに気付くのに、少し遅れた。
自分がこうなのだから、周りにはもっと気づかれないだろう。
それでも、ちかくを漂うその感覚は、どこかおぼろげでもあったので
あまり安定した術ではないのか、或いは。
結局、二人で夜の海の道を歩いた。
くらい海は、いつか逃げ出した故郷の匂いがする。
女の背影を眺めている。
彼女が冒険者パーティーでさいごに、受けた依頼の話をぼんやりと聞く。
「二度死ねと、言われたわ」
そう言って、彼女はこちらを振り向いた。
彼女を縛り付けているのは、同胞による呪いのようだった。
おそらく、少し探れば、解くことが出来るかもしれない。
朝日から逃げられるかもしれない。
彼女は笑っていた。
海を見るためにここまで来たのだから、と。
……。
きっかけは、気まぐれだったのかもしれない。
意識の外で、苛立っていたのかもしれない。
もしくは、知りたかったのかもしれない。
それとも。
呟いて、波に乗せて、術を編む。
徴がみえる、くずしてかぶせて、かきかえる。
彼女が哭くのがみえる。ああ、そんな声も涙も出るじゃないかとおもう。
波が大きく揺れた。激流のなか、もえていた。
聖水を投げてよこした。それだけ叫ぶことが出来るのなら、
あとは自分で決められるとおもった。
曇天のなか、波間のあわいから日が昇る。
***
メレネア、海の名前。
いつかその日がくるなら、その名が海へと導いてくれるとおもうから。
「エメカナール村の結晶」 /葛雅様
……グルメン・エルテ、全員
「……すぐ戻る、はずだったんだけどなあ」
小一時間で宿に帰る予定だった俺は、
しかし何故か今こうして、
見慣れない街を一人で歩く羽目になっている。
「……判断を誤ったか?」
元々は、近場への手紙の依頼であった。
千の旅鳥亭の近所に住む老人が持ち込んだ。
かなりの急ぎだということで、
……速達は、労力の割には高報酬になる。
その時たまたま居合わせた俺は、二つ返事で請け負ってすぐさま出掛けた。
——そう、ここまでは良かったのだ。
あんなに困った顔されちゃあな、断るわけにもいかないだろう。
***
「……それにしても、グルメンが帰って来ないな」
「そうね」
「そもそもグルメン、何処に行ったんです?」
「ベンさんの依頼で、手紙を届けに行ったんだが……おかしいな、いくらなんでも遅い」
「ついでに寄り道でもしてるんじゃないのー? いつものことだよ」
「まあそれもそうなんだが。エルテ、お前何か聞いてないか?」
「さあ……出かける時には、すぐ戻るって言ってたんだけど……」
「うーむ。そうか」
「ニイも単独で長期の依頼を受けてるみたいですし。どこかで偶発的に何かあったんじゃないですか」
「だからこうして私がいるわけなんだけど」
「…………(うーん。)」
***
手紙の届け主より急ぎ護衛依頼発生
期間往復で一週間程度だが長引くかも
よろしく
グルメン
「…………。……ええと」
「……。"急ぎ"って書かんでも急いでいるのが分かる筆跡だな」
「当たりですか。……そもそもそれ、何処から出した手紙なんです?」
「印は……スプエッカ、ね」
「何がどうなってそうなったんだか……どうせまたお人好し発動したんだろーけど」
「うむ、まあ、無事だったようで何よりだ! じゃあほらお前らも、負けずに別の依頼に行って来い」
「まあ、そうだね。んー、貼り紙あさりかー……メレネア、」
「……」
***
千の旅鳥亭。
そのテーブルには自分しかいない。仲間はまだ皆寝ているようだ。
親父さんも、まだ起きて来ない。
これは珍しいことだが、娘さんの話によると、昨晩は遅くまで何かしていたらしい。
カップの中にはホットコーヒー。
これは娘さんに淹れてもらったものだが、本人はその後、用事があると出掛けて行った。
「……ふう。温かいわ」
そこで、足音。
誰か起きて来たのかしら、と視線をやれば、やってきたのはオルだった。
「あら、オル。おはよう」
「ん、おはよー。随分早起きだね、エルテ」
オルはエルテの隣に座り、辺りを見渡す。
「親父さんは?」
「まだ寝てるわ。昨日遅かったみたいね」
「あれ? でもコーヒー……」
「ああ、娘さんが淹れてくれたの。でも本人はさっき出かけたから、欲しいならセルフサービスよ」
「ちぇー。……でかけたって、こんな早くに?」
「何でも、友人と遠出の依頼があるとか」
「そうなの。まー、たまには自分で淹れよっか」
そうしてオルは厨房に入っていく。
……オルがコーヒーを淹れている音がする。
それから、戻ってきて再びエルテの隣に座った。
「……で?」
席につくなり、続きを促すかのように切り出した。
が、特に話の途中だった覚えはない。
「……は?」
「"は?"じゃないでしょ。グルメンは? まだ帰って来てないわけ?」
オルはコーヒーを一口飲む。
「あ、そのこと……。ええ、まだだけど」
「すぐ戻るって言って出掛けて、もうあれから何日経ったと思ってるのさ?」
「えっと……今日で15日目ね。でも、スプエッカからの手紙に長引くかもしれないってあったし」
それを聞いて、オルは呆れたようにため息をついた。
「あのね、心配なら心配って言いなよ」
そして、さらっと、言うのだった。
「え? いや別に心配するほどの事態でもないと……。グルメンの実力は、オルだって知ってるでしょ?」
「…………はー」
二度目のため息。
「……何よそのわざとらしいため息は」
「あのねー。こんな朝っぱらから目が冴えてる時点で既に、心配してるのは丸わかりだよ?」
「……昨日はいつもよりかなり早く寝たから。その所為みたいね」
オルはやれやれと手をひらひらさせた。つれないなあ、と漏らしつつ。
「……まあ。そう言うなら、そういうことにしておくけどさ」
「…………。それはどうも」
「……どういたしまして」
「まあ、無傷で帰ってくるように、神さまに祈りでも捧げておくわ」
そんなことを呟くと、オルはいつもの調子に戻ってこんなことを言う。
「どーだか。グルメンはあまり信心深いほうじゃないからねえ。僕よりはありそうだけど」
「ふふ。それは確かにね」
「……むしろ神の愛より、エルテの愛の方を有り難そうだよね、うん」
「な、何言ってるのよオル……」
そんなつもりもないのだけれど、
オルに気を使わせるくらい冴えない表情でもしていたのだろうか。
……だとしても。
こうしてそれを気にしてくれる仲間がいるのは、私にとってもグルメンにとってもきっと喜ばしいことだろう。
……朝っぱらから、か。そういえば、グルメンは、いつも私より早く起きてくる。
見習って今度は、もう少し早く起きるようにしようかしら、と心の隅で思う。
「ねえオル。あなた今日の予定は?」
「特にないんだよね、散歩とかどっか行こっかなー」
なんて、オルはいつものように笑っている。
「なになにエルテ、君は予定でもあるの?」
何でもないように問われ、咄嗟に、口は動いていた。
「あー……私はその……スプエッカに行ってみようかと」
「…………。思いっきり心配してるんじゃん」
「……あなたがそう言うから心配になってきたんでしょ。それに、どうせ暇だしね」
そんな話をしているうちに、メレネアも下りてくる。
「あら、二人とも早いわね」
メレネアの声に、オルは振り返り、いつも通りの調子でこんな事を言う。
「あ、丁度良いところに。メレネア、今日はスプエッカに行くからよろしく」
「ま、待ってよ、全員で行くなんて言ってないわ」
「別にいいでしょ、多分今日は全員暇だしさ」
オルは相変わらず、のらくらとしている。
「暇なら暇で、鍛錬とか買い物とか、色々予定があるかもしれないし!」
エルテがわあわあ言っていると、メレネアが静かに口を開く。
「……勝手に暇にされてるけど、本当に暇だから付き合うわよ」
どうせオルに付き合うことになるんだし、とも付け加え。
それを聞いて、にっこりとオルは椅子から立ち上がる。
「よし、そうと決まれば残りの二人も起こしてくるよ」
そのまま、上へ走って行った。
「もう……オルったら……」
「……ところでまったく話についていけないのだけど」
と、メレネアがオルのいた席に座って言うのだった。
***
「……ねえ、エルテ」
オルが小さく声をかける。
「先回って言っておくと、別に、無理なんてしてないからね」
「……先回らないでよね。無理はしてないって、……行方不明なんだよ?」
「行方不明。……そうね。でも、何故かしら、不思議と分かるのよ」
「分かるって、何がさ?」
「グルメンが、無事でいるってことが、ね」
「……それは、あれ? 神とか精霊のお告げってやつ?」
「……何でしょうね。ただ、何となく……そう感じるの」
「ふ~ん?」
「あ、馬車に乗る前に何か買っておくものはある?」
「オル、何故あなたが仕切っているのですか」
「んー。リーダー代理ってことで」
「あ、じゃあおにぎり欲しいわ」
「わかった。さくっと買ってくるよ」
***
「……そうだ、入る前に探索係を決めておきましょう」
「ニイもグルメンもいないしー……」
「……」「うーん」
「メレネアやってみる?」?
「いいけれど」?
「じゃあよろしく、メレネア」
「(大丈夫ですか?)」
***
「……駄目ね、開かないわ」
開かない扉を前にメレネアが言う。
「とりあえず攻撃すれば、扉ごと吹っ飛ばせるでしょ!」
「待ちなさいよ、何でそうなるの」
扉の中がどうなってるかも分からないのよ、とメレネア。
「扉の向こうには空間があるものと相場が決まってるからね」
「(暴論)」
「まあ、試しにやってみよう」
「ちょ、待——」
ノアエルが制止する前に、オルはすでに杖鎌の柄の部分で扉をど突いていた。
……びくともしない。
「頑丈な扉だね」
「……。そうですね」
「といっても、解錠は主にニイの役ですからね」
「鍵を開ける技術はないわよ」
真剣に考えるメレネアの隣で、何となくオルがノブに手をかける。
「……あれ?」
「何、どうしたの」
オルが少し力を入れると、扉は開いた。
「…………うん、それがさっきので、扉は壊れなかったけど、鍵だけは壊れてたみたいなんだよ」
「えっ」
「結果オーライ?」
「……。まあ、そうね……」
***
「四人で一度外に出て、修理道具を揃えられる?」
「……言うと思ったよ。エルテ、一人で奥に進むつもりなの?」
「渡る手段が出来たらすぐに戻ってきて? 私はグルメンと合流して一緒に待ってるから」
「……わかった。でも無茶はしないで。これ以上迷子を増やすわけにはいかないんだよ。いいね?」
「わかってるわよ」
オルたちが戻るのに、それほど時間はかからないだろうけれど。
……待ってはいられない。
グルメンは無事だ。
確信を持ってそう言った気持ちは、今も変わっていない。……でも、
同時に、このままではじわじわと、それは沈んでいくものに思えた。
……早く見つけないと。グルメンを……
私が。
***
「……ねえ、グルメン」
エルテも、おもむろに立ち上がる。
そしてそのままゆっくりと
グルメンの首の後ろに手を回し、
そっと、優しく抱きしめた。
「! エルテ……」
「……グルメン、あなた、夢と現実が混ざっているのよ。……疲れているのね。ごめんなさい、話に付き合わせて」
その手はとても優しく、振りほどくことはできない。
「予定は全部中止して、今日はもうこのまま一緒に部屋で休みましょ」
行きましょう、グルメン。耳元でそう囁かれて、
反射的に頷きそうになる。
「……ち、違……そうじゃない……」
「何が、違うって言うの」
「ま……待て。待ってくれ。別に俺は眠くないし、それに、何か、何かが……」
「……だから、疲れてるのよ。ほら、休みましょ。そうすれば混乱も治るから」
エルテの手が、諭すように首の後ろを撫でている。
だ、めだ、ここで流されては、何かが、何が、
これは、何が……?
「…………。…………それとも」
「え……?」
「そんなに眠りたくないの?」
声の調子はそのままに、しかし、明確な違和。
「……グルメン」
先程まで優しく自分を抱きしめていた手。
その手が、強く、強く首を絞め上げている。
「ッ——!?」
両足はもはや床を離れ、グルメンはエルテに、
吊り下げられる状態になっている。
「……あなたが、好きなの。愛してるわ、グルメン」
***
「……グルメン?」
「……エルテ。俺が言うべきことじゃないんだが……」
グルメンは、剣を構える。
「怪我は知っている。でも……戦えるか?」
エルテは、黙ったまま。
「……。エルテ?」
「……よいしょ」
エルテはグルメンから身を離し、体勢を整える。
「……エルテ、」
「心配してくれてありがとう。でも、もう大丈夫よ……」
ゆっくりと、立ち上がるエルテ。
その瞳は、先程までのものとは違う。
——冒険者の、闘う者の瞳だ。
「足を引っ張ったりしないわ、……あなたの恋人を信じて」
その言葉を聞いて、グルメンは踏み込んだ。
「……信じた」
「行きましょう」
グルメンが前に立ち、エルテが詠唱のために手を組む。
「……ああ! 行こう!」
二人の冒険者が、目の前の虹色の液体と対峙する。
***
「……っとぉ!」
だが、飛んできた針は、背後から飛んできた別の何かに叩き落された!
「なっ……!」
「この声っ……!」
エルテが思わず後ろを振り向く。
そこには、飄々と佇むオルの姿があった。
「オルっ!」
「助太刀、参上! ……ってところかな?」
オルはにたり、と笑みを浮かべる。……僅かだが、死霊の気配を感じる。
「オル! 久しぶり……元気そうだし……相変わらずだな」
「あはは! 対する君は全然元気そうじゃないけどね? ……今他のみんなも来ると思うよ」
***
「……エルテ?」
「何よ」
「……お前が怒ってる理由は、何となくわかる……けどな」
「でも立場が逆だったら。お前もきっと、同じことをする」
だろう?とグルメン。
「……立場が逆だったらとか、そういう話をしてるんじゃないの」
ため息ひとつ、それから。
「ないけど……もういいわ。……今回のことは許してあげる」
ずっと仏頂面だったエルテが、ようやく笑顔を見せてくれた。
……笑顔とは言っても、苦笑であったが。
***
「あなたは! ……あなたがいない間、私がどんな気持ちだったかわからないって言うの!」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ何で安静にしてくれないの!」
私が! どれだけあなたを! 心配したと思ってるのよ!
「……エルテ……」
エルテは勢いで叫んだ後、床に視線を落としてしまった。
また、沈黙が訪れる。
「……あの」
「……水」
「えっ」
「水、替えてくるわ。タオル用の。……ちゃんと額にのせておいて」
「あ……ああ、わかった……」
エルテは、俯いたまま部屋を出て行った。
……。
すぐにノックの音が聞こえる。
「エルテ? 随分早かっ」
入ってきたのはオルだった。
入ってくるなり、エルテの声を真似してこんな事を言う。
「私が! どれだけあなたを! 心配したと思ってるのよ! このバカ! もう! 好き!」
「……ってとこかな。いやー、エルテはやっぱりかーわいいねえー」
…………。
「……おい。おい待て。オルお前いつから聞いてやがった」
「たった今来たところだよ、"暴走機関車さん"?」
そう言って、オルはにやにやと笑っている。
「ばっちり聞いてるじゃないか!」
「まあそれはそれとして」
オルはへらへらと笑いながら、ベッド脇の丸椅子に腰かけた。
「目が覚めて良かったよ。一時は本気でこのまま還らぬ人になるかと思ったし」
「そんなに柔じゃないって……」
そんな事を言うと、オルは大げさにため息をひとつ。
「君さー。そういうこと言うから、エルテに怒られるんだよ。自分だってわかってるでしょ?」
「ぐ……」
「……まったく。君がいない間のエルテの顔を見せてあげたかったね」
オルは手をひらひらさせて窓を眺めている。
「……どんな顔だったんだ?」
「表向きでは何でもないように振舞っちゃいたけどね」
「少なくとも僕には、強がってるのが丸わかりだったよ。エルテって、昔っからそういう子だからさ」
「……」
オルは依然として窓の外を眺めながら続ける。
「ってかまあ、僕以外にも丸わかりだったけどねえ。いつもの面子は、それなりにフォローしてたよ」
「……その……ごめん……」
「あと親父さんもねー。さり気なく彼女の好物を作ったりなんかしちゃって」
「親父……」
「という気配りに免じて、君が居なかった間の食事代は全て君個人のツケに回ってるからよろしくね」
オルが満面の笑みでこちらを振り返った。
「おい!?」
「ごちゃごちゃ言わないでよ」
「言うわ!!」
「もー、細かいことは気にしない!」
「はあ……それで。一体何しに来たんだお前?」
「えぇー、野暮なんだからもー。怪我をした仲間のお見舞いに来るのに理由が必要なの?」
「オル…………」
「用事があって来ました」
満面の笑み。
「だろうな!! ……何だよ、用事って」
***
「…………5日、」
「え?」
「5日後なら、もう安静にしてなくていいんだろ。何処か……行こうか。遊びに」
「……。ちゃんと、全部治ってればね」
「……俺の、行きたいところでいいか?」
「ええ。何処でも付き合うわ」
「……泊まりがけでも?」
「当たり前でしょ」
「Mimic」 /柚子様
……アル、全員
流れで引き受けてしまった依頼
「とりあえず、荷物をおろしますか」
ノアエルがそう言ったので、各々背負っていた荷物を床に下ろしはじめた。
「あとは宿を出るだけだったのに。つくづく、依頼って、続くときは続くものだね」
「そして、ないときは全然ない。ここ一か月は酷いものだったよね」
とニイとオル。
「毎日グルメンに模擬戦闘に付き合わされて、依頼に出てる時よりきつかったですよ」
アルがふう、と息を吐いたので、隣でグルメンが小突いた。
「退屈は冒険者の敵だぞ」
「はいはい」
にしても、とグルメンが話題を変える。
「最近、厄介事が向こうから飛び込んで来るようになったような気がするよな……」
「大体の原因はグルメンだけどね」
オルが笑った。
「けれど、こういう案件、冒険者に依頼するものかな」
オルは少し訝しげだ。それに対してアルが口を開く。
「僕たちがこの街の教会の依頼をこなしたことと、リューンでそれなりに名が知れたパーティだから信用したってところでしょう」
なるほど、とエルテ。
***
「……。失礼ですが……。あなたとは友人になりたくないですね……」
「そう。寂しいですね」
咎めるような青年の視線を、アルは何食わぬ顔で受け止めている。
どこからともなく、ため息が洩れた気がした。
「”友人になりたくない”と言われる仲間がいるパーティか……」
とノアエルがぼそりと呟いた。
それを、アルは笑い飛ばす。
「幸せでしょう? ”参謀が優秀なパーティだ”って言われているんですよ」
「いい風に言わないの」
エルテがやんわりと指摘した。
不安げなノアエルをよそに、アルは宿を出ていく。
「あ、……おい、勝手に行動するなって言うのに」
「アルってば、少しわくわくしてるんだよ、きっと」
グルメンが呆れる隣で、ニイが苦笑した。
***
ふたつの墓標が並べられるその前に立って。
ノアエルは思わず、顔をしかめる。
「アル……まさかとは思いますけど」
「そのまさかですよ。……うん、あったあった」
そうしてアルは、手近なスコップを手に取った。
それだから、ノアエルは必死に引き止めようとする。
「待ってください。詩人はともかく、娘のほうは、家族が健在です……許可を取ったほうがいいと思うんですが」
「駄目って言われたらどうするんです?」
アルの速攻の返答に、う、とノアエルは押し黙る。
「許可があろうとなかろうと、やるのは変わりませんよ。なぜなら……そうすることが、」
二人の真の弔いになると僕は信じてますからね、と続ける。
「……」
ノアエルは思った。……絶対そんなこと、思ってない。
しかし、こうしていても、何も進まないのも事実。ノアエルは折れたように首を振り、大きくため息をついた。
そのやり取りを見て、グルメンもまた、苦笑いする。
「お前の思い切りの良さには、時々舌を巻くよ。やるか」
「ええ。お願いします」
アルはごく自然な仕草でスコップをグルメンに向かって差し出している。
「いや待て、何で当たり前のようにこっちに渡そうとするんだよ。お前が言い出したことだろ」
「今回の僕は頭脳労働担当。余計なことで消耗したくないので。依頼を完遂させたかったら協力してください」
適材適所、っていうでしょう? とアルは笑う。
「口の減らないやつだな……」
知ってたけど、とグルメンは苦笑しながら墓を暴き始める。
ノアエルは依然として落ち着かない。
「死霊がいるってわけでもなさそう」
辺りを見ていたオルが、ひとりごちる。
「そうなの?」
「うん。二人の死霊がタイミングよく見つかれば、話は早いかなーって思ったんだけど」
この街には、そもそも死霊が感じられないんだよね、と続けた。
「寒いからなのかなあ」
エルテやニイまでそれに加わり、ノアエルはますます居心地が悪くなる。
***
その紅い瞳の、静かな色。
***
もう見張る者とてない鐘楼に辿りつき、アルは螺旋階段を駆け上がり始めた。
少し遅れてグルメンたちが追う。
「百年以上を眠って過ごし、ある夜少年に目覚めさせられた」
「少年の意識に繰り返し死のイメージを滴らせ、幻想という種を蒔き、狂気が育つ土壌とした」
「祖国から持ち出されたことを呪っている? それとも……」
開けた頂上には昨晩と変わらず、鳴らす者のいなくなった大鐘があった。
アルはその鐘をまっすぐ見据え、
得物を突き付けて言い放つ。
「己の持ち主だった大公を思う気持ちが、あなたにはあったんでしょうか?」
グルメンたちが、追いつく。
息を整えながら、オルが言う。
「剣……? 大公が東の国を侵略したときに持ち出したという?」
「構えて。来ますよ」
そうしてアルは、その先を睨みつける。
***
戦いの最後の火花が弾けたとき、冒険者たちの前には、物言わぬ一振りの剣があった。
それはもはや禍々しい光は発していない。
***
「ねえ、アル……それ、どうするの」
剣は、アルの手にあった。
こうして陽光の元にあれば、細工は美しいが、何の変哲もない普通の長剣と見える。
まだ考えていない、と前置いてから
「その辺に放り出してきていいものでもないでしょう。ホーに置いておくのは危険なようにも思いますしね」
「……その剣に、魅入られてるんじゃないよね?」
アルはすぐには答えなかった。
ぱちぱちと目を瞬かせてニイを見つめ返し、その唇が弓なりに笑んだ。
「そうだったらどうします? 僕が狂ったら当然止めてくれますよね?」
「勘弁してよ。アルなんか敵に回したくない」
「なんか、って」
そうして、ニイもおかしく笑う。
「さ、リューンに帰ろう。いい加減あの暖かさが恋しいよ」
グルメンがそう言うことで再び、歩き出す。
「Wolf's Night」 /カリン様
……全員
ワイバーン討伐から一週間かけて帰ってきた一行に、
狼男の討伐依頼がくる。
「帰って来たと思ったらまた指名依頼か。宿としちゃうれしいが、『英雄』っていうのも大変だな」
「駆け出しの頃は成長すれば余裕ができるものだと思ってたんだけどな……現実は全く逆だった」
「まあ、あまり無理するなよ。自分たちの体調と相談して慎重に決めるといい」
「そうだな……」
「一時的な感情で動くべきではありません。相手は何者かもわからない『狼男』ですからね」
そこでアルはいつものようにグルメンをみた。
「あなたが色々なものを天秤に乗せ、それでも行くというのなら――僕たちはあなたに従います」
どうしますか、グルメン。
その問いに、グルメンはしばらく天井を見つめ……やがて、答えた。
「……行こう」
***
「みんなが情報収集をするなら、俺は現場や関係者を洗ってみるか」
グルメンがそう言うと、アルはちょっと待ってください、とグルメンの腕をつかんでいた。
「どうした」
「その分担に異議はありませんが、現場に一人で行くのは少々危険です」
そうして、グルメンの目を見る。
「グルメン。あなたが行動するとき、必ず誰か仲間を一人連れていってください」
「……アルってば心配性なんだから」
そんなアルを、ニイが笑う。
「『狼男』が何者なのかもまだわかっていません。用心し過ぎるくらいがちょうどいいです」
アルの言葉に、みんなが頷いている。
構わないよとか、いつでも声をかけて、とか。そういった声が聞こえる。
「そうか……。みんながいいなら、そうするか」
***
そのやり取りを見て、アルはため息交じりにグルメンへと忠告していた。
「……あまり気楽に署名するのは止めてください。相手が邪悪な魔術師だったらどうするんです?」
「う、」
「まあ、この人は大丈夫でしょう。何度も言っているでしょう、簡単に名乗るなと」
気を付けて。と咎めれば、ごめん。と謝る声があった。
***
「――おお、なんと美しい人だ! まるで光輝く花のよう……よろしければご一緒にお食事でも……」
「い、今忙しいです! ごめんなさい!」
「そうですか……」
「……リーダー……」
「……(ノアエル助けて)」
「リーダーをナンパしたことより……この人が男性なのか女性なのかが気になりますね……」
「(やめてくれ)」
「……あんなことを言って大丈夫なのか?」
グルメンの問いに、大丈夫ですよ、とノアエル。
「何日も自警団の事務所にいたらそれなりに人間関係も出来ます」
後で事情を説明しておきますよ、と付け加えた。
「さすがというか……ノアエルだな……こういうことには向いてる……」
***
暗がりから、話しかけられた。
「……キミの肌、健康的で素敵だねえ。おいしそうな血が脈動しているのが分かるよ」
「……!」
「ねえ、少しちょうだい?」
その言葉と同時に、横にいたアルから殺気を感じる――
「……すこしもやりませんよ」
低い声で、囁いたのがきこえた。
***
「よし、手始めにこいつを血祭りに上げてやるか! その次はこいつの仲間だ……!」
「こいつの仲間ってんだからどうせ臆病者だろ」
その言葉に、グルメンの表情が少し変わる。
「英雄って呼ばれて舞い上がってるだけのな……」
「そんな自惚れのカスどもは俺たち勇者が殺ってやるぜ!」
「…………ま……」
下卑た笑い声を上げる男共に、グルメンは、きわめて静かに、
しかし普段とは明らかに苛立った声色で呟いた。
「は?」
「――黙れ!!」
一喝し、グルメンは得物に手をかけた。
「……!?」
「俺のことだけならともかく……俺の仲間まで侮辱して……」
「あんなにいい仲間はいない。それを臆病者だの何だの……覚悟しろ!」
そして威勢よくグルメンは剣を抜いた。
明らかに、怒っている。
***
扉を出たグルメンを、微笑んだアルが出迎えた。
「……アル」
「お帰りなさい、リーダー」
「……聞こえていたか?」
「……」
アルは答えなかったが、やはりおだやかに微笑んでいる。
***
「……誰もいないな」
「ニイ、暗殺者ギルドとはこういうのが普通なのですか?」
「まさか。……なんで誰もいないんだろ」
「全員で慰安旅行でもしてるんじゃない?」
「とにかく、もう少し進んでみよう」
「……無視はひどくない?」
***
待ちな、と。
背後から、何者かが語りかける。
「へへ……待ってたぜ。グラスクレインだな?」
「……きみたちは?」
「『鈍色の暗殺者ギルド』所属員……つったらわかるか?」
ニイが問うと、影は答えた。
「最近、この界隈を探っている冒険者がいると聞いて来てみたら……なんたる僥倖」
「あんたらの首には、一人200000spの賞金がかかってるからな……!」
「英雄サマとなるとどこで恨みを買ってるか分からんな……」
「そのようだな。……金額は100000spだと思っていたが」
グルメンの言葉に、ケラケラと笑う所属員たち。
「レイド・クラウンを倒したことで跳ね上がったんですよ……!」
「つまり、今あなたたちを殺せば400000spが手に入るのです……」
「へっ、グラスクレインは六人と聞いていたが……今は二人じゃねえか、都合がいいぜ」
そう言って、彼らは各々の得物を構える。
「そっちは二人……こっちは四人……万事休すだなあ、英雄さんよ?」
彼らが構えるのを見、グルメンはひとつため息。
「ニイ。準備は出来ているか?」
「もちろんだよ。あんなのが百人来ても負ける気はしないね」
言葉を交わしながら、こちらも戦闘態勢をとった。
「なっ……なななんだと!? てめぇら、やっちまえ!!」
ニイは、敵全体をざっと一瞥する。
「脅威ゼロ。畳みかけるよ」
***
「……ん? あれは……」
「待ってて、私が見てみる」
WANTED
グラスクレイン
1人殺害毎 200000sp
「……(暗殺ギルドの張り紙だね)」
「ニイ? それ、何だったんだ?」
「え? ああ……ただのくだらないチラシだよ」
「そうか。それならもう良いな。行こうぜ」
歩き出そうとするグルメンに、ニイが声をかける。
「……リーダー。これ、あげるよ」
そうしてひとつ、アクセサリーを差し出した。
「……これは?」
「化狐の首飾り。マジックアイテムだから、売るなり身に着けるなりして使ってよ」
「……どうしてだ? ニイが自分で使えばいいんじゃないか?」
「……これをきみに渡すのは、この事件を解決するという私の決意みたいなものなんだ」
「そうか……?」
グルメンは怪訝そうにしたが、それなら貰っておく、と受け取った。
***
道すがら、オルがぽつりとこぼした。
「……なんて言うか……英雄って言うのも考えものだよね」
「賞金をかけられたことか? それとも賞金をかけられたことをきっかけにキメラが作られたこと?」
「……どちらもだよ」
オルが吐き捨てるようにつぶやいた。
「……人々が僕たちを英雄と呼ぶのは、そういう存在を求めているから」
「賞金をかけられるのは、英雄という存在が疎ましいから。どちらも人の欲から派生した副産物みたいなものです」
僕たちには何の関係もありません、とアル。
それに同意して、ニイも頷いた。
「周りには勝手に言わせておけばいいよ。私はただ、自分の思う通りに生きるだけだよ」
「いいですね、その割り切り方」
ニイの言葉に、アルはくすりと微笑む。
「グルメン」
ふと、アルが隣でささやいた。
「周りが変わっても、あなたは変わらないでいてください」
そうすれば、僕たちもまた変わらずにいられますから。
「……それ、どうやればいいんだ?」
「簡単です。自分の判断を信じて迷わず進んで行くこと」
何年も前、駆け出しだった頃と同じように。
「……ああ」
グルメンは、その言葉にしっかりと頷いてみせた。
俺たちは、自分の選択でここまで来た。
このおぞましいキメラがなぜ作られたのかも――関係ない。
俺たちはリューンを救う英雄なんかじゃなく――
自由な冒険者なんだからな。
***
それにしても。アルは先ほどと同じ穏やかな表情で、ニイを見つめる。
「一人でよくここまでしたものです。感心しましたよ」
「……別に……」
ニイは、そんなアルに縋るように、こう続けた。
「許せなかっただけだよ」
アルはわざと首を傾げて、その続きを促す。
「お金なんかのために、私の仲間を殺そうとした彼らを……ね。間違ったことをしたつもりはない」
けどね、とニイはアルを見上げる。
「グルメンたちを巻き込みたくもなかったんだ。そんなことをすればパーティ全体が変わってしまうような気がして……」
今にも泣き出しそうなニイ。
そんなニイをなだめるように、アルはもっとも優しい声色で、ニイに語り掛けた。
「……大丈夫ですよ。グルメンなら、あなたが何を考えて行動したか、理解し、受け入れてくれると思いますよ。そして……」
リーダーが何も変わらない限り、僕たちもまた変わらないでいられるでしょう、と。
「そんなのはアルの願望だよ。世の中に、変わらないものなんて、無いんだから」
ニイはおもむろにアルに正面からしがみついた。
「……」
「引退、死亡、老化……いつかはパーティを解散する日がやって来る」
「私や……私たちに出来るのは、その日を、少しでも、少しでも、先延ばしにすることくらい……だよ」
半分ほど嗚咽の混じったニイの言葉。アルの身体に顔をうずめているため、その表情は見えない。
「……。……そうですね」
「僕たちはずいぶんと、遠くまで来てしまった……あとは留まれるよう努力するだけ……」
そう言って、アルはニイを優しくなでるのだった。
***
アルは何事か呟く。
ニイは、不思議そうにアルを見上げている。
その吸血鬼は、先ほどの優しい微笑みを崩さぬまま、小さく呟いた。
「手伝いますよ」
――新しい『狼男』の犯行を。
「蒼硝子と紅い咎」 /ふゆこ様
……全員
「生きるためにね」「お前は?」
「目が覚めたら。……仲間を殺していた。僕にとってのはじめての"食事"でした」
「なあ。……私たちは、呪われている?」
「呪われているって、何にからですか」
「神……あるいは、それに似たもの」
「リーダーが……!? どうして行かせたんですか!」
「ちょっと、アル」
「なんで行かせたんですか!?」
「すこし落ち着いて、」「大丈夫?」「どうしたの。アル、少しおかしいよ……」
幻覚喰らってる参謀(この世の何もかもが酷く見える狂気の呪い)と人質として受け入れるリーダーと盗賊と……
「今そっちは脱獄してるんだから……」
誘拐される参謀――
仲間に危険が及んだから怒ってるんだろうな、リーダー(脅迫不慣れで手が震えている)
「リーダーは優しいから君に"質問"をした」
「きっとアルなら、これは"尋問"になるんだろうね」
人助けだとか、戦いに生きるだとか、
そういった矜持を全て打ち砕き、本能的に恐怖するレベルの未知が降臨していた。
――まともに生きているものなど誰もいない。
だが、これをここで逃したら
きっと――何もかもが消えてしまうと、
――あがく。ひっしに手を伸ばす。
届いてほしい。さもなければ。
もう、ここで
「おわりたくはない!!」
……何かが、確かに触れた。
不思議な感覚だった。懐かしいような、包み込まれるような。
暖かく柔らかいもので包まれた感覚。
じわりと安心感が広がる。
まるで母親の腕の中にいるようだ。
遠くから、近くから聞こえる声。
鮮明に聞こえる中でも慈愛に満ちた『女性』の声。
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
抗える力があるならば、こんな末路は受け入れないと。
力を授けましょう。運命に抗う力を。
例えそれが、永遠に地獄を味わうものでも。
リーダーのみが朧気に覚えている。
------------------------------------------------------------
「証拠も根拠もないのに……何だかしっくりきたんです」
「忘れてたことを思い出したような……変だよね」
「わからないことが多い。いったん部屋に戻りましょう」
「……待ってくれ。ダメなんだ」「ここでまた曖昧にしたら、同じことの繰り返しだ……」
「え? 今、なんて……?」
「とにかく! ちょっと情報を整理させてくれないか」
大爆笑するアルって大体こわいんだよな……
アルに考えさせるとつよいことをリーダーはよく理解しているからこその行動でもある。
「……それを捨てるも、公開するも隠すもあなたの自由です。この問題は僕たちの問題じゃない」
「なんとなく、あなたなら最善の選択を考えてしてくれる気がしましてね」
「……というのが、三割の理由です。残りの七割……僕たちは部外者で信頼がありませんから」
「どこまでもヒントをくれるのに、どこまでも道を示してくれるのに」「最後の決断だけは己で」
「……あなたが参謀であるのがなんとなくわかった気がします」
「性格が悪いってことですか?」
「いえ……そうではないですよ。人の傍で補佐する、というのが」
「僕は……そうですね。選択はリーダーに全てかかっている」
「戦士は剣を振り、盗賊は道を開き。僕は……どんな助言もします」
「けれど、最終的に決めるのはあの人であり、」「そして今回はミルネ。あなたです」
「はい!」「……ありがとうございます」「この記録、命に代えてでも守ってみせましょう」
吸血鬼と吸血鬼……
「俺は、」「単に断ち切りたいだけだ」
「リーダー……?」
「変えてみせるといったからな。もう逃げないし、負けもしない」
「(いや……過去に一度成功している)」
「悪いが……悪役の思い通りにはなりたくないんでね」
「そのままの意味だ。……行く場所なんてないんだろ」
「なんというかな……」
「あんたと妙な縁が出来た。だから、来る分には構わない」
「都市の輪郭」 /柚子様
……全員
「グルメン」「ここから見るリューンは不思議な感じがしますね」
「あれほど堂々と構えているのに、どこかおぼろげで……」
「あれは神話の都市です」
「僕たちは、リューンの内側にいながら、あの都市のことをきっと半分も知らないんですよ」
遠方で依頼をこなした帰り、黒煙のくすぶる村に行き当たった。
村はすでに略奪を尽くされたあとで、人の肉の焼ける匂いが立ちこめ、
すすり泣きが地面をはいずっていた。
兵の会話を聞き盗む。東の訛りの強い言葉。あの紋章は……辺境国家ニムストゥームの。
いったん隠れて、荷台を引きずる兵たちを見送ったあと、
生き残りの村人から情報を得るに至った。
いわく、道すがら略奪を繰り返し、西を目指している
彼らの目的は、交易都市リューンだと。
彼ら都市国家ニムストゥームにまつわる、昨今の不穏な情勢については一行も聞きかじっていた。
リューンで、戦争が起きるよ。
深刻そうな顔をして溢したのは、ニイだった。
話し合い、悟られぬようにニムストゥームの進軍を追いかけ、
頃合いを見計らってその末端に――金で雇われた傭兵部隊に潜り込んだ。
この派手な進軍なら、ほどなくリューンに襲撃の報せは届くだろう。
であればしばしの間、軍内部に忍び込み、補給の状況やその作戦を把握しようと考えた。
もとが寄せ集めの傭兵隊にあって、彼らは特に疑われることもなく
このもくろみは成功したかに思えたのだが――
リューンまであと一山の距離というところで、突然、軍は二分されたのだった。
まっすぐリューンに向かう大部隊と、大きく迂回して森へ分け入る小部隊とに。
グルメンたちがいる傭兵隊は、小部隊の方に含まれていた。
なぜ軍が二分されたのか説明を受けたのは、森深くのこの砦に到着した後のことだった。
つまり、大部隊こそが囮だった。守備の手薄なリューン西門を、この小部隊が奇襲するのだと。
「(彼らには俺や、……アルや、みんなが、リューンを守るために命を賭す理由なんて理解できないだろう)」
考えていても仕方がない。今は行くしかない。
なんとしても、夜明けまでにリューンに辿り着き、危機を知らせなければ。
一行は侵軍前夜に抜け出し、
リューンの古代都市の一部であっただろう地下水路――その横道を下り、霧のたちこめる遺跡を探索する。
***
一行はリューンに潜り込むことに成功、情報はうまく伝達され
町人たちの協力もあり、西門はかなりの痛手を受け、兵士の死傷者も出たものの
一般市民の死傷者はゼロにおさえることが出来た。
騎士団への入隊も勧められたが丁重にアルが断ったりした。
リューンは居場所だ。俺にとって。
「羊と麦の視座」/「幻想を遠く離れて」 /柚子様
……アル/オル
「悪夢の地」 /Tank様
……全員
砦防衛戦だ!!!!!!!!
別行動:グルメン・ニイ
「アルカナの遺跡」/「ヘイト・アシュベリー」 /火星人様
……全員
かつての誰かたちと、記憶を遡る話。
もしかしたら自分たちも、こうなるのかもしれない。
「毒を喰らわば、」 /サンガツ様
……グルメン、アル
グルメンを人質にかけられ、毒を喰らうアル。
「狩人は二度眠らない」 /サンガツ様
……グルメン・アル・ニイ、全員
とある殺人の嫌疑をかけられたリーダーと、その裏での思惑に足を踏み入れる参謀・盗賊の話。
***
「アル……」
「ええ、分かっていますよ」
売られた喧嘩は、高く買い取ってやりましょう。
英雄、かあ。
やたらと敵意を向けられるのも困っちゃうけど、
その逆もまた、って感じかなあ、なんて。夜闇に紛れながら、ニイは思う。
……冗談のような話だが、時々いるのだ。
こちらの一挙一動に、全て意味があると思い込み、無条件に信頼してくる相手が。
それはもちろん、パーティーが長い時間をかけて培ってきた信頼があってのことだが。
やりにくさを感じるのも、致し方ない。
***
「ニイが"夜遊び"に行っている間、僕の方で自警団に直接問い合わせましたね、」
「それはまたダイタンだね。怒られなかったの?」
「団長さんには、両手では数えきれないほどの貸しがありますから。……それで、」
これを貸してくださいましたよ、と。アルは厳重に布で包まれていたナイフを差し出した。
「へえ、私の知らないところで、随分と仲良しになったんだね」
に、と笑いながら、ニイはナイフを手で弄んだ。
普通に考えて、証拠となる凶器を容疑者の仲間になど渡したりしない。
アルは一体、どんな手を使ったのだろうか。
「どうです? 面白くなってきたでしょう」
「まったく、こんな時でもアルはいつもと変わらないんだから……」
「そういえば、このことはグルメンには知られてないよね?」
「もちろんですよ。彼のことです、話せばきっと自分から飛び出して調査しようとするでしょうから」
……と、語るアルだが、その目には信頼が滲んでいる。
だが不確定情報が多い中、不用意に情報を開示するつもりはないのだろう。
「結局徹夜になっちゃったね」
「慣れたものでしょう? さ、その眠そうな顔でも洗ってきてください」
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「何を言っているんだ。困った奴がいたら、どんな理由であれ助けたいと思うだろう?」
竜に郷を襲われた民も、大事なものを無くして困っている人も、
できる限り分け隔てなく手を差し伸べてやりたい。……そう語ったのだ。
そんなグルメンに、ふふ、と微笑むアル。
「あなたのそういうところはずっと変わらないですね。グルメン」
「うんうん。君のそういうところは誇っていいと思うんだ」
「な、なんだよ急に」
「二人が揃ってグルメンを褒めるなんて、珍しいですねえ」
「明日は大雨が降るかもしれないね!」
「え? そんなにですか?」
***
「(この方……! グルメンを何もわかっていないくせに……)」
アルは、相手を睨みつけた。
そんなアルを制するように前へ出るグルメン。
その筋で名が売れてしまったグラスクレインは、方々から士官の誘いや引き抜きの案内があった。
それこそ、一般人からすれば、目がくらんでしまうような金が積まれていた。
そんな誘いを蹴り続けるグラスクレインは、酔狂者の集まりと揶揄されることもある。
***
「……でもさ、」
一人で乗り込もうとした件はおいておくとして、と前置いて。
ニイは続ける。
「君そんな普段のままの恰好で行こうとしたの?」
グルメンの恰好は、いつも通りのままだった。
流石に目に見える武器類はおいてきたようだが、
「冒険者」が貴族のパーティー会場へ乗り込めば、悪目立ちするだけだろう。
「何も考えてなかった。行けばどうにかならないか?」
「どうにかなるようなら警備員は不要では?」
グルメン:白タキシード
「おや、お似合いじゃないですか」
「おー」
「なんだか新鮮ですね、今のうちにたくさん見ておきますか」
「見世物じゃないぞ! まったく……」
「まあまあ。見慣れないのは確かだけど、うん。かっこいいよ」
アル:黒タキシード
「へえ、結構似合うじゃない」
ニイがじっくり眺めて感想を言う。
「これから行く場所が、普通のダンスパーティーだったら気楽に出来たんだけどなあ」
「まったく、遊びに行くんじゃないんですよ。あなたもきっちりドレスコードをして、役目を果たしてくださいね」
「はいはい、わかってるよ。せいぜい頑張ろうかな」
ニイ:凝った衣装のドレス
「おや、似合うじゃないですか。……うん、寸法もぴったりですね」
「すごく動きづらかったらどうしようかと思ったけど、案外快適なんだ」
これなら戦えそうだよ、と企み顔をするニイ。
「それはそれは。お転婆なお姫様ですこと」
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「(あーあー。まあ騙されるほうが悪いってことで)」
ニイはアルの手際に、内心ため息をついた。
「決まってるだろ? 俺たちもギャンブルに乗ろう」
「言うと思いました。賭金は?」
「俺」
いたく真面目に答えるグルメンに、困ったような、あるいは面白そうな顔を向ける二人がいた。
「なるほど。正面から文句を言ってやろうという魂胆ですね」「さすが我らがリーダー。豪胆なのか命知らずなのか……」
「勿論それもあるさ。でも……」
この機会を逃したら、面倒なことになりそうだと俺の勘が言っている。それに、
「俺の悪運とやらがどこまで強いのか。試してみたくなったんだ」
にやり、と悪戯っ子のように微笑むグルメン。
その心のうちにあるのは、恐れよりも果てのない好奇心のようだ。
それを受け、ニイがあははと笑う。隣でアルも微笑んでいた。
「君ならそう言うと思ったよ」
「フォローはお任せあれ。ま、何とかなるでしょう」
いつも通り、ね。
今回の得物は「剣」ではない。
冒険者の矜持と好奇心を賭けて、乗り込んでやるとしよう。
かくして、三人は堂々と相手の舞台へ躍り出た。
「(……ニイ、)」
「(うん、分かってる。何とかしてみせるよ)」
元より「まともに」ギャンブルをするつもりはない。
グルメンもそれをわかっているからこそ、相手の舞台に躍り出たのだ。
「それは難しいんじゃない? なにせグルメンだし」
「どういう意味だ」
***
焦るニイに対し、グルメンはいつも通りの表情だった。
「……何でそんなに落ち着いているの?」
とりわけ落ち着かない様子なのは、ニイだった。
……いつも通りのグルメンが気になるらしい。
「いや、こう見えても驚いているし、多少慌てているぞ?」
だが、とグルメンは言葉を続ける。
「俺がそういう様子を見せたら、二人とも動揺するだろ?」
落ち着いてくれ。何とかなるから、な?と
グルメンはにんまり笑って見せた。
ゲームを開始する前と変わらない、人を落ち着かせる笑みだった。
「そうですよ、ニイ。あなたらしくもない」
アルはニイに、水の入ったコップを勧めた。
落ち着け、と暗に言っているのだろう。
***
「ふふ、助けが必要かしら?」
「エルテ!? それにオルとノアエルも……」
「そりゃあ三人も一気に居なくなったら心配するでしょ」
すっっごい探し回ったんだよー!?とオル。
「後でご褒美ちょうだい」
「あ、外の見張りなら眠ってもらっているわよ」
鎧を借りたから代わりに見張り役をするわね、とエルテが悪戯っぽく笑った。
軽い調子でそんなことを言ってのけるも、
グルメンにはそれがどれだけ大変なことかわかる。
「グラスクレイン集合、ですね」
様子をみていたアルが満足そうに言葉を発する。
「さて、では早速働いて頂きましょう」
「ええ……せめてお茶を飲んだ後にしない?」
そこにあるやつおいしそうだもん、ともらすオルに、ニイがやれやれと嘆息した。
「諦めたほうがいいよ」
時間がないんだ。ニイの言葉に続くようにしてグルメンは、手短にここにいる理由を話した。
向こうも昨日の事件が気になっていて、少し捜索していたようだ。話はスムーズに伝わった。
一同は顔を見合わせ、無言で頷く。
……ここからは冒険者のやり方で、相手の舞台を攻めてやろう。
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「ええ……やはりウチのリーダーは化け物なのでは……」
「は?」
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「勝負は、最後までやらなければ分からないぞ。冒険者は、諦めるのは性に合わないんだ」
対するグルメンは、微塵も絶望を滲ませていない。
誰しも無理だろうと諦めているなか、グルメンとその仲間だけは、違った。
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「そうだな。ああ、そこは否定しないさ」
グルメンは、あっけらかんと笑ってみせた。
***
――さて、とグルメンが口を開く。
「よし、では帰りの路銀を稼ぐぞ! バタバタしていて、無一文で来てしまったからな!」
「ええっ!? 銀貨一枚も無いの!?」
エルテが驚いた声で問うが、ない!とグルメンは笑って返した。
「ま、偶には知らない場所でイチから『信頼』を築くのも悪くないんじゃないか?」
そう続け、グルメンはアルとニイの方へ振り向く。
「……な、ふたりとも?」
そうして悪戯っ子のような笑みを浮かべて、いつもどおり、二人に無茶振りをするのだった。
アルがため息をつくのがわかった。
「……まったく。グルメンのそういうところ、変わらないですね」
「ま、付き合ってあげるよ。後で奢ってよね」
ねえアル。
「あの勝負に負けていたら、どうするつもりだったの?」
ニイがアルを見上げて問う。
「結構ギリギリだったでしょ、アレ」
そうですね、と少し言葉をさがし、こう返した。
「ま、どこにいたって上手くやれますよ」
僕とあなたがいるなら、ね。
「アイディールの大泥棒」 /満月丸様
……全員
とある殺人の嫌疑をかけられた一行と、影を追う話。