研究室では,河川や農業水路において分断された水系ネットワークの再接続を通じて,魚類の遡上を促進し,生態系の保全と農業との調和を目指した研究を行っています.特に,軽量かつ簡便に設置可能な「可搬魚道(portable fishway)」に着目し,その設置効果や有効な配置方法を実験と数値解析の両面から明らかにしています.研究室で対象とする可搬魚道は,共同研究者の高橋直己博士(香川高等専門学校)が開発したものです.
近年,農業排水路や砂防堰堤などの構造物によって,魚類の移動経路が分断されることが各地で問題となっています.恒久的な魚道は高コストかつ設計・施工に高度な専門性を要する一方で,可搬魚道は,低コストで設置・撤去が容易であり,地域住民や農業者による維持管理が可能な点が大きな利点です.本研究では,この可搬魚道を,流況や魚類の遡上行動に適した位置へ適切に設置するための支援手法を開発しています.
実際の河川や農業水路においては,現地観測・室内実験・数値シミュレーション(2次元Nays2DHや3次元OpenFOAM)を組み合わせて,魚道周辺の流速・水深場を精緻に把握し,魚類の遡上に適した水理環境の創出に向けた検討を進めています.たとえば,茨城県(関連業績)および北海道の現地実験(動画1)では,実際に可搬魚道を設置し,遡上する魚種(ヨシノボリ,カラフトマス,サクラマスなど)の挙動を記録し,魚道の有効性を実証しました.
また,数値解析により,魚道の設置位置(河川幅方向の配置)によって,流れの蛇行や魚道内の水理条件が変化し,魚類の遡上行動に影響を与えることが明らかになっています.この知見に基づき,最適な設置位置を科学的に導出する手法を提案しています(図1).
北海道のシマトツカリ川にて2023年9月7日撮影.この水域で水理観測し,流れの3次元モデル化にも取り組んでいます.
OpenFOAMで現地の流れをシミュレーションしました.(根岸太輔,2024年度卒業研究)
これらの研究成果は,魚類の種多様性の保全や回遊経路の復元だけでなく,地域水産資源の持続的利用にもつながるものであり,農業・漁業・環境保全が調和する地域づくりに貢献することが期待されます.今後は,実装可能な魚道設計支援ツールの開発や,地域住民との協働による社会実装も視野に入れて研究を展開していきます.
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