研究プロジェクト例の紹介(神経

神経細胞中の道しるべ

軸索と樹状突起は構造や機能が異なるため、輸送される分子が違います。どのようにして識別がなされているのでしょうか?

例えば、高速道路のインターチェンジでは、道路上の標識を見ながら目的地に向かって正しく進むことができます。これまでの研究から細胞内輸送のレールとして機能する微小管にもこのような標識となる分子が存在し、輸送を担うモーター分子であるキネシンがそれを認識することで、軸索と樹状突起それぞれに必要な分子を運ぶことが分かってきました。

私たちは、同じ軸索の枝でも微小管の違いがあり、キネシンが不均一に輸送されることを発見しました。さらに、輸送が多い枝ほど退縮せず安定的に維持されることが明らかになりました。

このような細胞内のシステムによって維持される枝と除かれる枝の差が生じ、枝の形状の変化が調節されていると考えられます。

福井インター(左)と軸索と樹状突起の標識による細胞内輸送の制御(右)。標識(チロシン化)の低下によりキネシンのモーター領域(K5H)が軸索(青)と樹状突起(赤)の両方に輸送される。(Konishi and Setou, Nat Neurosci 2009より改変)

また、神経細胞は1本の軸索が分岐して枝を伸ばすことで複数の細胞に信号を送ります。必要な軸索の枝は残しながら枝の形を変化させることが、正しい脳の回路を作ることや、記憶することに重要だと考えられます。

神経細胞は残す枝と取り除く枝をどのように区別して軸索の形を調節しているのでしょうか?

軸索内のキネシンのモーター領域(K5H)の分布と枝の退縮との関連 (Seno et al., JCS 2016より改変)

私たちは、同じ軸索の枝でも微小管の違いがあり、キネシンが不均一に輸送されることを発見しました。さらに、輸送が多い枝ほど退縮せず安定的に維持されることが明らかになりました。

このような細胞内のシステムによって維持される枝と除かれる枝の差が生じ、枝の形状の変化が調節されていると考えられます。

軸索の枝の形態を制御する細胞内システムのモデル (Ikeno and Konishi, Commun Integr Biol 2017より改変

軸索内のミトコンドリア配置

神経細胞の種類により、軸索は1mほどの長さになったり、複雑に分岐したりすることがあります。軸索の維持には広い範囲にエネルギーの供給が必要ですが、どのようにして効率よく行うのでしょうか?

例えば、道路沿いには一定間隔でガソリンスタンドがあり、効率よく給油することができます。

軸索内では所々に停止したミトコンドリアがあり、これらが局所的に必要とされるエネルギー分子 (ATP)を供給していることが知られています。

福井インター付近のガソリンスタンドの配置(左)と軸索内でのミトコンドリアの停止(右)。停止型ミトコンドリアが散在することで軸索の維持に必要なATPを供給する。

神経細胞は停止するミトコンドリアの位置をどのように決めているのでしょうか?軸索に沿ったミトコンドリアの位置を計測し、数理的に解析した結果、ランダムに配置されているのではなく、一様の分布になるように調節されていることが分かってきました。さらに興味深いことに、ミトコンドリア同士の相互作用によりそれぞれの位置が決定されていることが明らかになりました。このようなシステムが神経回路の制御にどのように関わるのかについて研究を進めています。

軸索内のミトコンドリアの分布(上段)。ミトコンドリアの分布解析および分布制御のモデル(下段)。 ミトコンドリアからのATPが軸索内の一様な分布を制御すると考えられる。(Matsumoto et al., MCN2022より改変)

所在地

福井大学


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