入浴施設の環境水における
レジオネラ迅速検査ガイドライン

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目次

1. はじめに

  迅速検査は、入浴施設における浴槽水などの水検体から、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法、PALSAR法などで直接、菌の核酸(DNA、RNA)を定性的あるいは定量的に検出する方法である。現在、さまざまなレジオネラ属菌特異的な遺伝子の検出試薬キットが市販されており、それらの利用が精度管理上からも便利である(別表)。迅速検査を実施する場合は、「公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について」(令和元年9月19日薬生衛発0919第1号厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長通知)にも記載されているとおり、以下の点に十分留意する必要がある。以下に、市販の検出試薬キットを用いた環境水における各種迅速検査法の概要と、浴槽水、湯口水、採暖槽水、シャワー水、カラン水、プール水を対象とした実検体における平板培養法との相関を示した。また、迅速検査法の活用例も記載した。


2. 留意する点

  1. 迅速検査法は反応系によりそれぞれ特性があるので、検出試薬キットの説明書をよく読み理解して用いる。各種迅速検査法における結果の判定は、添付の取扱説明書に従う。

  2. 迅速検査法によっては、生菌のみならず死菌DNAやVNC (viable but non culturable)状態の菌も検出する。

  3. 器具類はすべてディスポーザブル又は滅菌済みのものを使用する。コンタミネーション防止のために、ピペットチップはフィルター付きの製品を使用する。

  4. コンタミネーション防止のために、 1. 反応試薬の調製、分注を行うエリア(検水 及び核酸を持ち込まない)、 2. 検水の濃縮、核酸調製を行うエリア(検水を扱うため安全キャビネットが設置されていなければならない)、3. 陽性対照の調製、添加を行うエリア、の3つに作業環境を分けることが望ましい。ピペット等もエリアごとに別のものを使う。

  5. 温泉水などに含まれるフミン質などの遺伝子増幅反応の阻害物質が含まれている場合、迅速検査法によっては結果が偽陰性となることがある。したがって、インターナルコントロールを用いるなど、偽陰性確認が可能な検出試薬キットの使用が望ましい。

  6. 常に陽性対照と陰性対照を用意し、反応が正常に進行していることを確認する。

  7. 試料中の核酸が分解酵素により分解されることを防ぐため、使用する試薬は、市販の調整済み試薬や、DNA分解酵素、RNA分解酵素を含まない分子生物学グレードのものとする。なお、試薬の保存は取扱説明書の条件に従う。

  8. 核酸抽出した後、直ちに反応を行わない場合は、試料を凍結保存(-20℃以下)する。



3. 各種迅速検査法の概要

(1)qPCR法およびEMA-qPCR法

① 試薬および操作

  検出試薬キットは、タカラバイオ株式会社から市販されている。Viable Legionella Selection Kit for PCR Ver. 2.0の取扱説明書に従い、検水の2,000倍濃縮液40μLを作製し、使用する。DNA抽出はLysis Buffer for Legionella、qPCR反応はCycleave PCR Legionella (16S rRNA) Detection Kitを用いる。反応液にインターナルコントロールが添加されており、反応阻害確認が1本のチューブで可能である。また、EMA-qPCR法は、DNA抽出前にViable Legionella Selection Kit for PCR Ver. 2.0およびLED Crosslinker 12を用いて、EMA処理を1回実施する。


② 平板培養法との相関1)


(2)LC EMA-qPCR法

① 試薬および操作

  検出試薬キットは、タカラバイオ株式会社から市販されており、各種試薬の取扱説明書に従い実施する。作製した検水の1,000倍濃縮液0.1 mLを5分間酸処理し、Legionella LC Medium base、レジオネラBCYEα発育サプリメント(関東化学)およびレジオネラMWY 選択サプリメント(関東化学)を用いて作製したMWY液体培地を添加後、36℃で18時間培養する。増菌液0.1 mLを分取し、Viable Legionella Selection Kit for LC EMA-qPCRおよびLED Crosslinker 12を用いてEMA処理を実施する。その後、qPCR法と同様にDNAを抽出後、qPCR反応を実施する。


② 平板培養法との相関1)


(3)LAMP法

① 試薬および操作

  検出試薬キットは、栄研化学株式会社から市販されている。検水の100倍濃縮液2 mLを使用する。Loopampレジオネラ検出試薬キットEを用いて、取扱説明書に従い、添付の試薬を用いてDNAを抽出後、LAMP反応を実施する。本試薬には、インターナルコントロールは添付されていない。ただし、以下の方法で、試料中の反応阻害物質の有無を確認することが可能である2) 。1検体につき2本チューブを用意し、1本目のチューブには試料水のDNA抽出液5μLとLAMP法試薬20μLを加えて反応液とし、2本目のチューブには1本目のチューブと同様の反応液に陽性コントロール2μLをインターナルコントロールとして添加する。冷凍保存したDNA抽出液を用いてLAMP反応を実施する場合、95℃で5 分間加熱し、氷上で急冷後(加熱変性)、LAMP反応に用いる。


② 平板培養法との相関1)



(4)PALSAR法

① 試薬および操作

  検出試薬キットは、株式会社ファスマックから市販されている。本試薬には、インターナルコントロールは添付されていない。浴槽水、湯口水および採暖槽水を対象とする場合は、検水の100倍濃縮液4 mLを遠心後、上清を除去し、レジオネラ属菌迅速検出キットを用いて取扱説明書に従い実施する。ただし、溶菌条件は70℃で5分間とする。

  シャワー水およびカラン水を対象とする場合は、上述の条件では平板培養法に対する感度が37.5%と低く、一晩培養液で測定することで改善した3)。具体的には、検水の100倍濃縮液4 mLを遠心後、上清を除去し、MWY培地の組成から活性炭を抜いた培地1 mLに懸濁する。36℃で18時間培養後、遠心して上清を除去し、レジオネラ属菌迅速検出キットを用いて取扱説明書に従い実施する。ただし、溶菌条件は70℃で5分間とする。


② 平板培養法との相関1, 3)


4. 迅速検査の活用例

  迅速検査法は、上記のとおり、様々な用途で利用できると考えられる。ただし、各施設において迅速検査法を導入する際は、それぞれの方法の特性を理解した上で自施設の平板培養法の結果と比較し、どのように利用するかを検討することが望ましい。

(1)清掃・消毒管理された検水におけるレジオネラ属菌の陰性を確認する場合

  日常的に清掃・消毒管理している入浴施設等において、定期的な平板培養検査の結果、レジオネラ属菌が陰性であることを確認している検水において、迅速検査法を用いて、レジオネラ属菌の有無を判定する。この場合の迅速検査は、自治体の条例で定められた水質基準に係る検査ではなく、自主的な検査として実施し、衛生管理状態の確認のための参考値として活用する。qPCR法、EMA-qPCR法、LC EMA-qPCR法、LAMP法、PALSAR法(浴槽水、湯口水および採暖槽水についてのみ)が市販されている。

(2)平板培養法と併用したスクリーニング検査として利用する場合

  レジオネラ属菌が検出され、営業を停止している施設・浴槽において、浴槽・配管等の洗浄実施後、迅速な営業再開のために、洗浄効果の確認に利用する4)。平板培養法と同時に迅速検査法を実施し、迅速検査が陰性であることをもって、一旦営業を再開する。ただし、最終的な陰性の判断は、平板培養法の結果により判定する。平板培養法からレジオネラ属菌が検出された場合は、直ちに営業を停止し、必要な措置を講じる。この場合、患者発生リスクが高まる気泡発生装置の使用は控えるのが望ましい。qPCR法、EMA-qPCR法、LC EMA-qPCR法、LAMP法、PALSAR法(浴槽水・湯口水、採暖槽水についてのみ)が市販されている。

(3)公衆浴場の水質基準に係る検査として、平板培養法に置き換えて実施する場合

  平板培養法との整合性の観点から、迅速検査法のみで水質基準に適合しているか否かを判断する場合は、生菌の遺伝子を定量的に検出する方法(LC EMA-qPCR法)を用いることが望ましい。ただし、検査法は、各自治体の条例等で規定されている場合があるため、事前に確認する必要がある。過去の検討結果5)から、LC EMA-qPCR法はカットオフ値を1 CFU/100 mL相当とした場合に、平板培養法に対する感度を約9割に保ったまま8割以上の一致率を示したため、カットオフ値1 CFU/100 mL相当で判定する。

(4)レジオネラ症患者発生時における感染源追究のための検査の場合

  レジオネラ症患者の感染源として疑われる検水の検査においては、患者検体から菌が分離された場合、遺伝子型別(PFGE法、SBT法、MLVA法など)により分子疫学的な調査も必要となることから、平板培養法により菌を分離する必要がある。ただし、同時に迅速検査法を実施することで、汚染されている検水を推定することが可能となり、コロニーの選別の際、有用な情報となる。


5. 参考文献

  1. 金谷潤一,磯部順子,山口友美,武藤千恵子,淀谷雄亮,飯髙順子,佐々木麻里,田栗利紹,蔡国喜,川野みどり,倉文明,前川純子:環境水を用いた各種レジオネラ属菌迅速検査法の有用性の評価.日本防菌防黴学会誌.48:515−522, 2020.

  2. 枝川亜希子,土井 均,木村明生,田中榮次,肥塚利江,渡辺 功:LAMP法を用いた浴槽水からのレジオネラ属菌検出時における反応阻害確認の必要性. 日本防菌防黴学会誌,37:3−8, 2009.

  3. 金谷潤一,磯部順子,山口友美,武藤千恵子,淀谷雄亮,中筋愛,吉崎美和,塩崎晋啓,水谷幸仁,村尾拓哉,森中りえか,小澤賢介:レジオネラ症の感染源調査のための迅速・簡便な検査法の開発.厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場におけるレジオネラ症対策に資する検査・消毒方法等の衛生管理手法の開発のための研究」令和2年度総括・分担研究報告書, 2021(印刷中).

  4. 浅野陽子:核酸増幅法を用いた公衆浴場等におけるレジオネラ属菌検出時の指導について, 生活と環境, 52, 89–91, 2007.

  5. 磯部順子,烏谷竜哉,佐々木麻里,八木田健司,山口友美,武藤千恵子,飯髙順子,淀谷雄亮,金谷潤一,浦山みどり,田栗利紹,緒方喜久代,原口浩幸,森中りえか,泉山信司:レジオネラ属菌迅速検査法の評価.厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「レジオネラ検査の標準化及び消毒等に係る公衆浴場等における衛生管理手法に関する研究」平成25~27年度総合研究報告書, 53–60, 2016.



6. 本ページの説明、謝辞

  本ページは、研究班の成果を紹介し、広く一般に情報還元することを目的に開設したものです。所属機関、評価委員会、補助金や行政の考えを代表するものではありません。ご質問・ご意見等があれば、お名前と所属を明記して、Gmail(legionella.resgr@gmail.com)までお送り下さい。公表が有益と考えられれば、質疑を本Webページにおいて紹介したり、本ページの内容を補足修正することがあるかもしれません。個別のお返事はしませんので、ご承知おきください。

  本研究は、厚生労働科学研究費補助金 健康安全・危機管理対策総合研究事業「公衆浴場におけるレジオネラ症対策に資する検査・消毒方法等の衛生管理手法の開発のための研究(研究代表者:前川純子、令和元年~)」の一部として実施しました。入浴施設や研究協力者ら多数の関係者からご協力頂きました。

最終更新日、2021/10/11