今後予測される地球温暖化は、作物生産に様々な影響を及ぼすと考えられています。ダイズは生育期間中の気温が上昇すると収量が低下することが報告されており、高温適応性の高いダイズ品種が求められています。
本研究室では、温度勾配制御型温室(Temperature Gradient Chamber)を用いて温室内に外気温±0~+3℃の温度勾配を作り出し、栽培したダイズの光合成速度や子実の形成過程を調査しています。これらを通し、ダイズの高温適応性にとって重要な形質を明らかにすることを目指しています。
日本のダイズのほとんどは水田転換畑で栽培されています。しかし、転換畑土壌は排水能力が低く、梅雨期には土壌湛水が原因で、葉面積展開や乾物生産などダイズの初期生育が著しく阻害される問題が生じています。本研究室では湛水がダイズの生育に及ぼす影響について調査し、湿害対策として必要不可欠である生育初期における湿害被害の定量化を目指しています。
実際の栽培現場では、実験圃場と比べて様々な環境条件の変動が大きく、規模が大きいため栽培管理が行き届かないなどの理由により安定した生産を実現できない場合が往々にしてあります。本研究室は実際の農家圃場での収量制限要因の解明、栽培管理の適切化を目指して研究に取り組んでいます。現在は、ダイズ重要伝染病であるダイズ茎疫病の栽培技術による被害抑制を目的として、京都周辺の慣行栽培および複数の長期無施肥栽培のダイズ圃場における同病害の実態調査を行っているほか、周辺農家よりも低収量である福井県の稲作農家において効果的かつ持続的な生産管理の確立を目的とし、水稲生育モデルを用いた収量制限要因の調査を行っています。
ダイズは通常、収穫期に植物体が落葉し枯れ上がります。しかし、生育環境によってはそれが起こらず、植物体が緑色の葉をつけたまま収穫期を迎えてしまう場合があります。この現象は青立ちと呼ばれ、収穫効率や商業的価値の低下につながり問題となっています。ダイズの青立ち発生には、同化産物の供給量(ソース)とその植物体内での受容量(シンク)のバランスが影響しているとされていますが、具体的なメカニズムに関する情報は不足しています。本研究室では、ダイズの青立ち発生のメカニズムをタンパク質動態など生理学的視点から突き止めるとともに、発生の早期予測手法を構築することを目標とした研究を行っています。
近年、中国において登熟後も穂が垂れないイネ直立穂品種(Erect Panicle, EP)の多収性が注目されています。EP品種では太陽光が穂によって遮られず、群落下部でも光合成が比較的活発に行われることが多収要因の1つであると考えられています。
本研究室では中国の瀋陽農業大学と共同して、EP品種の群落構造および生産性についての調査を行っています。またEP品種と非直立穂品種の交雑後代系統を使用し、高光合成系統の選抜や、光合成能に関する各種要因についての解析を行っています。以上の研究を通じて、私たちは直立穂品種の形態的、および光合成生理的な利点を明確化することを目標としています。
光合成能力は物質生産の基本です。しかし圃場条件においては、その活性は気温や日射などの環境要因の影響を常に受けています。そのため光合成活性は常に最大の能力が発揮されているわけではありません。中でも、光の強さが急に変化した時にいかに素早く光合成が応答できるかが、ダイズやイネの物質生産に重要であることがわかってきました。そこで本研究では、さまざまな品種のダイズやイネを対象として、光強度の変化に対する光合成系の応答速度の違いを調べています。将来的には、光合成の応答性の面から作物の物質生産性を向上させることを目指しています。
光合成測定は作物の物質生産を把握するうえで重要なプロセスです。しかし、従来型の光合成測定装置では測定に多大な時間、労力、コストがかかります。本研究室が開発した簡易型光合成測定装置 'MIC-100' は、比較的安価で、かつ迅速に光合成速度を測定することのできる装置です。これにより、光合成速度の測定効率が10倍以上向上しました。
現在はこの装置を用いて、ダイズの高光合成系統の探索や、ダイズ群落内における光合成速度の変異の把握等の研究を行っています。
お米を手に取ってよく見てみると、半透明なお米の中に白濁したお米が混ざっていることがあります。この白いお米は白未熟粒と呼ばれ、砕けやすく、炊飯条件が変化するために食味が悪くなります。また多発すると取引価格が下がり農家の経営悪化につながります。近年、夏期の異常高温、減肥栽培や早期栽培の普及により白未熟粒の発生が助長されており、対策技術の開発が望まれています。しかし、白未熟化のメカニズムがよくわかっておらず、根本的な解決策はまだ得られていません。私たちの研究室では、白未熟粒の発生に関わる遺伝子やタンパク質の同定と、その知見を応用した白未熟粒対策技術の確立を目指しています。
ソバは、日本のみならず世界中で食されている作物です。近年欧米ではグルテンフリー食材として需要が増えていますし、日本には熱烈な蕎麦ファンがいます。お米や小麦で不足する必須アミノ酸リシンを多く含み、毛細血管を強くする働きのあるルチンや抗酸化物質も豊富に含まれます。また、その栽培にはあまり手間がかからず、病害虫や雑草に強いという特徴があります。従って、健康・グルメ志向が強く少子高齢化の進む現代の日本では、特に注目すべき作物の一つです。その一方で、ソバは深刻なアレルギー反応を引き起こす場合があります。私たちの研究室では、主要なアレルゲンタンパク質の特徴を明らかとするとともに、自然集団がもつ遺伝的多様性に着目して、低アレルゲンソバの開発を目指しています。
ダイズは、古来より日本で栽培され豆腐、納豆、味噌など貴重なタンパク質源として利用されてきました。現代では、食用油や飼料用大豆粕としての需要も多くあります。しかし、その多くを輸入に頼っていることから、国内生産の増加が望まれています。近年、莢が成熟期を迎える時期になっても、茎葉が緑色・水分を保ち、機械収穫の効率を著しく低下させる青立ちと呼ばれる現象が起こるようになり、問題となっています。青立ちしたダイズを機械収穫すると、種子を汚損し品質が下がります。その発生メカニズムは十分わかっていないことに加え、青立ちの早期診断は容易ではありませんでした。私たちの研究室では、青立ち個体の葉に多く蓄積する傾向にあるVSP (vegetative storage protein)を生体マーカーとして捉え、青立ちの早期診断技術の確立と発生メカニズムの解明を試みています。