スイス・フランスの国境に跨る周長27kmの大型加速器Large Hadron Collider (LHC)。世界最高の重心系エネルギー13.6TeVで陽子の束を毎秒4000万回衝突させることで高エネルギー状態を作り出し、重い粒子を生成したり、素粒子の高エネルギー散乱過程を発生させます。素粒子物理の目的は、物の最小単位とその間に働く突き止め、この世の成り立ちを理解し、万物の根源を説明する究極の理論を構築することにありますが、高エネルギー衝突器実験ではその直接的なヒントとなるような発見と、新理論の検証を目指しています。
LHC上で衝突点は4箇所あり、それぞれ別の実験が衝突点を取り囲むように検出器を置いて衝突データの取得を行っています。京都大学高エネルギー研究室が参加するATLAS実験は、CMS実験と並んで汎用検出器を用いて高エネルギー現象全般の研究を行っている実験です。素粒子標準理論の精密測定、それを超える新物理の探索、はたまた量子力学基礎論の検証にいたるまで広く多様な物理プログラムに取り組み、どんなテーマでも思いついたらすぐ解析して答えを出せるような最強の万能データを日々生成しています。
京都ATLASグループでは物理解析とミューオン検出器の開発・運転という、ソフトウェア・ハードウェアの2つの軸で研究を進めています。
物理解析はテーマに縛られず、自身が最も重要だと思うものに各々取り組んでいます。最近は超対称性粒子探索を中心にやっていますが、他にもベルの不等式の検証やヒッグス対生成の探索だったり、過去にはヒッグス粒子精密測定などの標準模型の物理、電弱ボソン共鳴やクォーク励起状態といったエキゾチックな新物理探索もやっていました。また解析手法自体の開発にも精力的に取り組んでいて、低運動量粒子の再構成や、教師なし機械学習を使った信号事象の抽出、長寿命粒子ソフトウェアトリガーなど多くの新手法を開発し、ATLAS実験全体のパフォーマンスの向上にも貢献しています。
ミューオントリガー検出器では現行の運転期 (Run3) におけるデータ取得と、2029年開始予定の次の運転期 (HL-LHC) に向けたデータ取得回路のアップグレードに取り組んでいます。前者では博士課程の学生がCERNに常駐し、エキスパートとして検出器の較正からトラブル対応まで現場で大活躍しています。後者は回路ボードのFPGAに走らせるアルゴリズムの研究やファームウェアへの実装研究が中心で、京都グループは主に後段のSector Logic回路を担当し、修士の学生が主力となって取り組んでいます。
「この世の仕組みをこの手で突き止めたい」「究極理論に向かう営みに実験から貢献したい」こういった純粋なロマンや夢を持つ方にATLASはうってつけの実験です。実際にやってみると意外と泥臭かったり、想像していたほど壮大なことは現実にはできないといったこともありますが、それでもここが人類の叡智のフロンティアの一つであることは間違いありません。この最前線を地に足つけて一緒にじりじりと推し進めく仲間を募集しています(ひらめき1つでがっつり進むこともたまにはあります)。
修士課程でミューオントリガーの研究を通じて実験研究者としての基礎を身につけ、博士課程からCERNに長期滞在し、検出器運転の現場で活躍しながら物理解析をやって卒業するというのが典型的なパスになります。6000人が参加する世界最大規模の国際的共同実験の最前線で、個人プレーでは到底手が届かない研究を世界の物理学者たちと協働して切磋琢磨しながらやっていくのが醍醐味です。興味があったら是非連絡ください (→Contact)。
LHCで超対称性粒子を生成して、その崩壊から痕跡を探します。最近はHiggsinoとStauといったダークマターと絡むシナリオから予言される粒子の探索や、ジェットがいっぱい出る超対称性粒子信号をまとめてとっちめる新手法の探索を主にやっています。
ATLASの最外層にある巨大ミューオン検出器・TGCを日本グループは担当しています。京都では現行のLHC Run3における運転と、HL-LHCに向けたPhase IIアップグレードに精力的に取り組んでいます。
この世は量子力学じゃないと記述できないのか?光子では既に決着がついたと考えられているこの問題を、ドブロイ波長が短くより古典性の強い重い粒子の系で迫ります。
LHCでは毎秒4000万回起こる陽子衝突の全てを保存できないので、記録するべき衝突なのかを瞬時に判定して一部だけを保存する「トリガー」と呼ばれるシステムが大事です。京都では最近長生きする怪しい新粒子の存在を即時に判定するトリガーの開発をやっています。