2025.7.1
辻川吉明氏がATLAS Outstanding Achievement Award (AOAA) 2025 edition を受賞しました
「論文の著者数千人」という謳い文句に代表される巨大コラボレーションならではのクールさはありつつも、個人的な活躍が見えづらいATLAS実験ですが、AOAAはその中で特に抜きん出た貢献をした個人を讃えるという趣旨の賞です。
今回は2024年が対象となりましたが、ミューオントリガー界隈ではRun3で新たに導入された検出器 (New Small Wheel: NSW) と従来の検出器 (TGC Big Wheel) の同期が全領域で達成され、トリガーシステムへの組み込みが完了するという大きなマイルストーンが達成された年でありました。
ミューオントリガー、特にエンドキャップ部は、真のミューオンによるトリガーは非常に少なく、ビーム粒子などがミューオンと誤判定されて発行されるものの寄与がほとんどです。そのため新たな検出器を内側に置いて、外側との同期でミューオン候補が衝突点から来ていることを要求することで、この偽ミューオンによるトリガー発行を大幅に減らすことが可能となります。
レートの抑制はトリガー運用における命です。無駄なトリガーを削減することでデータ伝送の逼迫を緩和したり、より低い運動量の真ミューオンをトリガーする余地が生まれたりします。このPhase-Iと呼ばれる一連の大規模アップグレードでは、主にRun2-Run3間のLHC運転停止期間に新検出器NSWのインストール・TGCとの同期回路の開発が行われ、Run3における検証や修正を経て、2024年に全領域でついに機能するようになりました。これによりエンドキャップ部のミューオントリガーレートは70%という驚異的な削減に成功しました。
当研究室の辻川吉明氏はこの同期回路のTGC Big Wheel側の筆頭開発者として活躍し、Run3開始後も現場でフル回転しシステムを機能するところまで持っていった貢献が評価され、東大ICEPPの齋藤智之さん・KEKの青木雅人さん・他New Small Wheel側の5名ともに受賞しました。京都ATLASからは救仁郷 (2015)・隅田 (2021) に続き3人目の受賞者となります。
辻川のコメント:「日々の議論を重ねながら研究を共に進めてくださった研究者の方々、的確なコメントとご指導をいただいたスタッフの皆様、そして実験グループに関わる全ての方々のご協力の賜物であり、心より感謝申し上げます。回路の開発から実験への実装、運転時の性能評価に至るまで、実験の最前線で貴重な経験を積ませていただいたこと、そしてこれほど大規模な実験において目に見える形で貢献できたことは、非常に幸運であり、またこの上ない喜びです。今後も高エネルギー物理の研究に真摯に取り組み、さらに貢献していけるよう努めてまいります。」
Nomination: "For the deployment of the complete Phase-I L1 Muon Endcap Trigger, including the NSW triggers, enabling ATLAS to run at higher pileup and gather more data in 2024".
発表記事リンク