今年の防災先進地研修は、兵庫県淡路島にある「北淡震災記念公園」へ行きました。
ここは30年前の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)で出現した野島断層をありのままに保存し、地震のすさまじさと脅威を感じていただき、地震に備えることの大切さを伝える場所です。
また、当時の震災を直接ご経験された「語り部」さんからじかに体験をお話いただきました。
いただいた資料と語り部さんのお話を下記に記述いたしますので、是非最後までお読みください。
以下、震災の語り部ボランティア「桂 孝弘」さんの講演(地震発生当時は民生委員)
◆旧北淡町の記録(配布された資料より抜粋)
・人口 11,214人
・世帯数 3,700世帯
・被害状況 全壊1057、半壊1220、一部損壊 1030軒
死者39名、重傷者59名、軽傷者811名
・救出作業 約300名が生き埋めになったが、当日の昼過ぎには全員を救出した。近所の人たちは誰がどの部屋で寝ているかまで知っていた。
・避難生活 避難所数は最大19ケ所、3650人が避難
◆桂孝弘さんのお話
私は淡路島と兵庫県垂水を結ぶフェリーの船員だった。
地震発生時も垂水に向けて航行中だった。
地震により垂水港にフェリーが接岸できなくなり、淡路へUターンした。
地域に戻ってみると、役場や診療所には遺体やけが人が多くいた。
自治会の避難先として、全員が学校へ集まった。体育館も満員となった。
私の自治会では270軒が倒壊したが、幸いに死者は出なかった。
人が多く、年配者や障がい者を区別する余裕は無かった。
避難した学校は4階建てだが、トイレが子供用3ケ所、先生・職員用1ケ所しかなかった。
そのトイレも水が無いので3日目で使用できなくなった。
トイレのフロアに汚物があふれた。校長先生と相談し、シャクとスコップで汚物を取り除き、校庭に埋めた。
地域では全員が避難しているので、空き家を狙った「火事場泥棒」が多発した。
1/17~3/17の間学校で避難生活を送った。
3/18に仮設住宅ができた。
仮設住宅は500戸必要だが、来たのは450戸だった。
不足分は知り合いとかを中心に他人が同居してもらった。
ただ、知り合いとはいえ、高ストレス状態の中で一緒に生活するのは1週間が限度だった。
普段親しくしているひとでも、歯磨きの音さえ気に入らなくなってくる。
仮設住宅自体も現在とは違い、30年前はボロかった。
ボランティアの人には、そういった被災者のグチを聞いてもらったりもした。
支援物資も届き始めたが、当時は古着が多かった。着られないと返却してくる人も多く、夜中に内緒で焼却するしかなかった。
時が経つにつれ、仮設住宅入居者も親戚の家へ移転したりして、だんだん減っていき、最後は10人位になった。
残された人は希望をなくし、心もやんで、死にたいと言うようになった。
ボランティアの方たちに落ち込んでいる被災者の話を聞いてもらった。
震災後5~7年位は、自治会で避難訓練を実施しても、人が集まってくれた。
しかし、30年たった今、「喉元すぎれば熱さ忘れる」というやつで、参加者は減る一方だ。人も入れ替わるし、地域の人集めは大変だ。
我々の町づくり協議会は資金のない組織なので、行政とトイレ掃除の契約をして、資金を捻出している。今年は30名の参加があった。
以上
◆研修を通じて感じたこと
昨年は能登地震で被災された地域の自治会長さんに体験談をお聞きしました。そして、今年は阪神淡路大震災で被災された語り部さん(当時は民生委員)のお話をお聞きすることができました。
お二人のお話で共通した箇所がありますので、記載いたします。
①避難所における最大の課題はトイレ問題である。
どちらの避難所でもグラウンドをトイレがわりに使うしかなかった。もし、こほく地協エリアで災害がおきたら・・・校庭等に仮設のトイレを置くしかないのでしょうか。もちろん被災者自身がダンボールで作って、グラウンドにスコップで穴を掘って・・・全部自分でするしかありません。想像するだけで大変です。食べなくても我慢できますが、トイレはそうはいきません。
②火事場泥棒が横行する。
大変な災害の最中に、避難している被災者宅に忍び込み盗みをはたらくなんて、考えられません。あまり報道もされません。しかし、どちらの被災者も同様に泥棒が来たとおっしゃっていました。これが実態です。
③ボランティアはありがたい。
自分たちでするには、あまりにもやることが多すぎる。そんな時にボランティアは本当に助かった。被災者メンタルケアまでしてくれたとのことでした。
④住民の生活状況を事前に把握しておく。
もし家屋が倒壊、生き埋めになった人を救出する場合、いつもどの部屋で就寝しているのかを把握していると、救出が迅速に行えます。倒壊した家屋全体を掘り起こすのは不可能です。各自のプライバシーにも配慮しつつ、何らかのデータベース化ができないものでしょうか。お互いが知恵を出し合いましょう。
平成7年7月
文責 こほく地域づくり協議会
事務局 中川