・比抵抗・電気伝導度

地下を非破壊で探査できる「物理探査手法」の一種である「電磁探査法」に注目してきました。電磁探査法は,地下の比抵抗構造を推定します。ここで比抵抗とは,電気の流れにくさを表す物性値であり,比抵抗が高いほど物質は電気を通しにくいということを示します。比抵抗の逆数である電気伝導度として表されることもあります。比抵抗の単位はΩmで,電気伝導度はS/mです。これらの物性値は変換可能なため,どちらを使うかは慣習や何を示したいかによります。下の図に簡単な岩石の種類による比抵抗・電気伝導度を示します。金属鉱物の比抵抗は,電気を通しやすいため火成岩に比べて遥かに小さいです。一方,水に注目すると海水は淡水に比べて比抵抗が小さいです。このような岩石や水の種類の違いによる比抵抗の違いから,地下比抵抗構造がわかると地下地質構造を推定可能です。それ故,地下比抵抗構造を推定できる電磁探査は,金属鉱床・地下水探査に有効です。

岩石や水の種類の違いによる比抵抗・電気伝導度

・電磁探査

電磁探査法は,電磁誘導を利用して地下の比抵抗構造を推定できます。比抵抗については上の記述を参照ください。電磁探査では,人工的にまたは自然に発生した電磁波を利用します。発生した電磁波は地下に浸透し,電磁波は地下比抵抗構造によって変化します。つまり,電磁波を地表,空中または地下で計測すれば,地下の比抵抗構造の情報を取得できます。地下で電磁場を計測することは難しいので,通常は地表や空中で電磁場を計測します。電磁探査は, 電磁波を発生させる送信源および受信システムの違いによって大まかに分別されます。人工的に地下に電流を流す電磁探査手法をCSEM法といい,自然に発生する電磁波を利用する手法をMT法といいます。陸上で電磁探査を行う場合と海中で電磁探査を行う場合で探査仕様は大きく異なります。

CSEM法:Controlled source electromagnetic法の略語であり,通常CSEM法と呼ばれます。CSEM法では,人工電流源から地下に電気を流し,その電磁気応答を受信機で観測します。この電磁気応答データを解析することで,地下10kmまでの地下比抵抗構造を推定できます。陸で行うCSEM法では,地表に長さ数kmの電線を張って,こちらから電流を地下に流します。流す電流値は,接地抵抗にもよりますが,数から数10Aになります。この人工電流ソースの電線の長さ×電流値(ダイポールモーメント)が大きければ大きいほど,取得するデータのノイズの影響を小さくできます。そのため,人工電流ソースのダイポールモーメントを適切に設定することで,ノイズが多い地域でも探査探査が可能にできます。この点は,自然信号を用いるMT法に対するCSEM法のメリットです。CSEM法の探査深度は,1)送受信ペアの距離と2) 電磁場の周波数で決まります。送受信ペアの距離が大きければ大きいほど深部探査が可能です。また,低周波の電磁波を用いるほど深部探査が可能です・多方,送受信ペアの距離が小さいデータや高周波のデータは浅部探査に有効です。そのため,浅部〜深部まで探査を行うためには,様々な送受信ペアの距離のデータ,様々な周波数のデータが必要です。このようなデータが取得できるように探査レイアウトを設定します。探査地域のアクセスが悪い場合は,空中電磁探査が有効です。一方,空中電磁探査は,地表に受信機を設置するCSEM法に比べて探査深度は浅いです。

MT法Magnetotellurics法の略語であり,通常MT法と呼ばれます。MT法では,磁気嵐や雷などによる自然に発生する電磁場変動を利用します。この電磁場変動は,地下に誘導電流を発生させます。MT法は,この誘導電流によって生じる電磁場を地表で観測することで,地下比抵抗構造を推定します。MT法の探査深度は,使用する周波数に依存しますが,低周波数データを使用することで地下100km程度の深部構造も探査可能です。そのため,地殻からマントルまで探査範囲が及びます。ただし,低周波数データを取得するためには,長時間の観測を行う必要があります。MT法とCSEM法の大きな違いは,MT法は自然信号を用いるため,CSEM法と違って電流送信源が必要ありません。一方,自然信号を用いるためソースの大きさをコントロールできないという弱点もあります。MT法の主要な適用先の一つとして挙げられるのは,地熱資源探査です。地熱発電にとって重要な熱水貯留層の空間分布の推定に役立てられております。

電磁探査法の模式図