論文解説
論文解説
・Ishizu et al. (2025) Geophysics
Ishizu, K. et al. (2025). Inversion algorithm determining sharp boundaries in electrical resistivity tomography. Geophysics, 90(3), 1-46.
ポイント1:先験情報に依存しすぎないデータドリブンなシャープ境界再現可能な逆解析アルゴリズム開発
シャープな比抵抗境界を正確に描出できる新しいインバージョンアルゴリズムを開発しました。このデータ駆動型のアプローチは、境界の位置に関する事前の仮定への依存を最小限に抑えることで、大きな進歩をもたらしました。鋭い比抵抗境界を正確に描出することは、資源探査、特に金属鉱床の探査の精度を向上させるために極めて重要です。本手法は、既存の逆解析コードにABIC探索を組み込むことで実装可能であり、今後多くのコードで利用されることを願っております。
図は、Ishizu et al. (2025) Geophysicsより改変。提案手法では 、シャープ境界を正しく再現できている。
Ishizu, K. et al. (2025). Controlled-source electromagnetic survey in a volcanic area: relationship between stacking time and signal-to-noise ratio and comparison with magnetotelluric data. Geophysical Journal International, 240(2), 1107-1121.
ポイント1:電磁アクロスによりS/N比の大幅な向上を達成
ポイント2:従来法のMT探査では検出できなかった蒸気層電磁アクロスで発見
従来、火山体などの構造調査やモニタリングには自然電磁場信号を用いるmagnetotelluric(MT)法が主に用いられていましたが、信号源の不安定性と人工ノイズの混入によりS/N比(シグナル/ノイズ)が低下し、その適用に限界がありました。本論文では、電磁アクロス法という高精度な人工制御信号源を用い長時間計測することによって、S/N比の大幅な向上が可能なことを示しました。この結果は、これまでノイズレベルのためMT法では、調査が難しかった地域でも高いS/N比の電磁探査データが取得できることを示唆しました。加えて、MT法では、水平方向の電場が卓越するため、薄い高比抵抗の検出が困難でしたが、人工信号源を用いることによって鉛直方向の電流を励起できます。このことによって、水蒸気噴火の原因となる蒸気層(薄い高比抵抗体)を検出することが可能となりました。本研究は、電磁気探査に新しい観測方法を提案し研究分野にブレークスルーをもたらしました。
図は、Ishizu et al. (2025) GJIより改変。
・Ishizu et al. (2024) Scientific Reports
Ishizu, K. et al. (2024). Electrical resistivity tomography combined with seismic data estimates heterogeneous distribution of near-seafloor concentrated gas hydrates within gas chimneys. Scientific Reports, 14(1), 15045.
ポイント1:電気探査と地震探査データによりガスハイドレートの分布を推定
ポイント2:ガスハイドレートは、ガスチムニー内で偏在して存在することを発見
この研究は、電気探査と地震データを組み合わせることで、日本海側に存在する表層型ガスハイドレートの分布を推定することに成功しました。表層型ガスハイドレートは、深部からガスの供給が多いガスチムニー内に存在します。本研究では、ガスハイドレートはガスチムニー内に均一にハイドレートは存在せず、空間的に不均質に存在することを発見しました。将来的な資源開発や環境保護に関して評価する場合は、このような不均質分布も考慮する必要があることを示唆しています。
図は、Ishizu et al. (2024) Scientific Reportsより改変。
・Ishizu et al. (2024) Geophysics
Ishizu, K. Kasaya, T., Goto, T. N., Koike, K., Siripunvaraporn, W., Iwamoto, H., ... & Ishibashi, J. I. (2024). A marine controlled-source electromagnetic application using towed and seafloor-based receivers capable of mapping seafloor and embedded massive sulfides. Geophysics, 89(3), E87-E99.
ポイント1:埋没熱水鉱床の3D地下分布情報の取得に成功
従来、深海金属鉱床探査における電磁探査法では、調査船からケーブルを曳航し、ケーブルに送信電流ダイポールと受信ダイポールを配置する方式が取られていました。この場合、海底面上の塊状の鉱床(海底熱水鉱床)をマッピングすることはできましたが、海底下に埋もれた異常体(埋没型熱水鉱床)は困難でした。本論文では、上記の曳航式のシステムに加えて、海底面に海底電場磁場受信機を複数配置することによって、海底下に埋もれた異常体(埋没型熱水鉱床)を同時に探査することができるシステムを開発し、その有効性を数値計算および実データによって実証しました。埋没型熱水鉱床が資源として大いに期待されているにも関わらず、この鉱床タイプの探査方法が確立されていなかったため、この手法の開発は、深海金属鉱床探査にブレークスルーをもたらしました。将来的に本手法を様々な深海熱水鉱床域に適用することで、資源量の正しい評価に繋がる可能性があります。
図は、Ishizu et al. (2024) Geophysicsより改変。
低比抵抗層CD1は掘削データより埋没型鉱床と推定されるが、提案手法ではその埋没型鉱床を再現できている。
・Ishizu et al. (2022) Geophysics
Ishizu, K. Siripunvaraporn, W., Goto, T. N., Koike, K., Kasaya, T., & Iwamoto, H. (2022). A cost-effective three-dimensional marine controlled-source electromagnetic survey: exploring seafloor massive sulfides. Geophysics, 87(4), 1-75. https://library.seg.org/doi/abs/10.1190/geo2021-0328.1
ポイント1:海底熱水鉱床の3D地下分布情報の取得に成功
ポイント2 (最重要ポイント):受信機を減らし調査コストを抑えつつも,海底熱水鉱床の3D地下分布情報を従来法と同等の性能で探査できる新たな3D海底電磁探査技術の提案
海底熱水鉱床の3D地下分布情報の推定には海底電磁探査法が有効です。しかし,既存の海底電磁探査法は海底熱水鉱床の3D地下分布情報を得るために,多数の受信機が必要で調査コストが高いという問題点がありました。そこで,本論文では受信機を減らし調査コストを抑えつつも,海底熱水鉱床の3D地下分布情報を従来法と同等の性能で探査できる新たな3D海底電磁探査技術を提案しました。提案手法は,非常にシンプルなのもので,調査測線の真ん中に一列の受信機ラインを設置するものです。論文ではまず仮想モデル・データを使用して提案手法の有効性を実証しました。提案手法を用いて沖縄トラフのイエヤマ熱水域を探査し,海底熱水鉱床の3D地下分布情報の推定しました。その結果,鉱床体と考えられる領域を推定することができました。
図は、Ishizu et al. (2022) Geophysicsより改変。
・Ishizu et al. (2022) Journal of Geophysical Research: Solid Earth
Ishizu, K. Ogawa, Y., Nunohara, K., Tsuchiya, N., Ichiki, M., Hase, H., et al. (2022). Estimation of spatial distribution and fluid fraction of a potential supercritical geothermal reservoir by magnetotelluric data: A case study from Yuzawa geothermal field, NE Japan. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 127, e2021JB022911. https://doi.org/10.1029/2021JB022911
ポイント1:超臨界地熱貯留層を可視化に成功
ポイント2 (最重要ポイント):超臨界地熱貯留層の上部にシリカ遮水層が存在し,この遮水層が超臨界地熱貯留層の形成に寄与していることを発見
本研究内容は,二酸化炭素排出量の増加に貢献できる新たなテクノロジーに関連します。超臨界地熱貯留層を地熱発電に用いると,350℃以下の熱水貯留層に比べて大出力発電が可能と期待されています。しかし,超臨界地熱貯留層の発達メカニズムやどの程度の空間分布で存在するかはこれまで未解明でした。本研究では,電磁探査を用いて超臨界地熱貯留層の空間分布を可視化し,掘削による温度情報を組み合わせて超臨界地熱貯留層の発達メカニズムを解明しました。本メカニズムでは,超臨界地熱貯留層の直下に存在するマグマが固まる際に自ら含んでいた流体を吐き出すことでその上部に超臨界地熱流体を提供します。この超臨界地熱流体はシリカ遮水層によってさらなる上部への移動が制限され、その結果、シリカ遮水層下で超臨界地熱流体が蓄えられ、超臨界地熱貯留層が発達したというものです。シリカ遮水層と物理探査から示唆される超臨界地熱貯留層の関係をシリカ溶解度計算を用いて定量的に明らかにしたのは本研究が初めてだと考えております。
プレスリリース記事は,こちらで読むことができます。https://www.titech.ac.jp/news/2022/063247
日経新聞や電気新聞などに取り上げられました。
*日経新聞オンラインでの記事 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1198L0R10C22A3000000/
*日刊工業新聞での記事 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/629848
図は、Ishizu et al., (2022) JGRより改変。
図は、Ishizu et al., (2022) JGRより改変。
・Ishizu et al. (2019) Geophysical Research Letters
Ishizu, K. Goto, T., Ohta, Y., Kasaya, T., Iwamoto, H., Vachiratienchai, C., Siripunvaraporn, W., Tsuji, T., Kumagai H. and Koike K. (2019). Internal structure of a seafloor massive sulfide deposit by electrical resistivity tomography, Okinawa Trough. Geophysical Research Letters, 46(20), 11025-11034. https://doi.org/10.1029/2019GL083749
ポイント1:海底熱水鉱床の2階建て分布(上部鉱床と下部鉱床)を可視化に成功
ポイント2 (最重要ポイント):下部鉱床の発達メカニズムを新たに解明
海底熱水鉱床は,レアメタルや貴金属を含む次世代型の金属資源です。本鉱床は海底での熱水循環活動が起こる地域で存在が確認されております。日本においては,沖縄トラフ域や伊豆・小笠原海域で海底熱水鉱床の存在が発見されております。しかし,これまで海底熱水鉱床の地下での分布が明らかになっておりませんでした。また,海底熱水鉱床の地下での詳細分布が明らかになっておりませんでしたので,海底熱水鉱床の海底下での発達メカニズムも不明でした。この論文は送信機および受信機が両方ケーブル上で曳航される海底電気探査システムを用いて沖縄トラフの伊平屋熱水域の海底熱水鉱床の分布を詳細に可視化いたしました。海底電気探査は,海底下に電気を流して,海底下の電気の流れやすい場所(すなわち金属鉱床の存在域)を推定できるダウジングマシンのようなものです。もっと簡単に言えば,お宝探しマシンのようなものです。ですので,海底下を掘削することなく,海底下の情報を取得できます。
今回用いた海底電気探査装置は,ケーブルに電気データを計測できる受信機を10 個つけることによりデータ量を格段に増やしました。従来の海底電気探査装置では,5個以下の受信機をケーブルに設置しております。このようにデータ量を増やすことにより,海底下60m程度までの地下情報の詳細化に成功しました。この詳細地下構造マップから,海底熱水鉱床が海底面(上部鉱床)だけではなく,海底下30m程度の深度に存在する(下部鉱床)ということを明らかにしました。この点は,新規性が高いです。この詳細地下構造マップと掘削データなどとを統合して解釈することにより,下部鉱床は,熱水がキャップ層下で冷やされることにより,熱水中の金属成分が沈殿して海底下キャップ層下にできるという発達メカニズムを新たに提案しました。この点は本論文で最も新規性が高いポイントです。
プレスリリース記事は,こちらで読むことができます。https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-11-01-0
日経新聞や財形新聞などに取り上げられました。
*財形新聞での記事 https://www.zaikei.co.jp/article/20191030/537135.html
図は、Ishizu et al., (2019) GRLより改変。