音響則、防音則の整理、解釈(その2)
音響則、防音則の整理、解釈(その2)
音響複素変数の解釈
長らく頭の整理がつかなかったことがある.複素固有角振動数って何だろう,その場合のモードは実数か複素数か,強制振動の加振角振動数は実数しか無いのか,強制振動の場合のモードは実数か,複素数か,等々ずっと疑問に感じていた.
密度と体積弾性率を複素数として,吸音材を充填した両端閉の音響管を例題に取ると,少しは頭の整理ができる.密度と体積弾性率が複素数なので音速 は複素数となる.振動数方程式から固有角振動数 は複素数で,その複素固有角振動数における波数と波長は実数となる.粒子速度の固有関数も実数となる.
初期変位に固有関数形状を与えて自由振動させると,固有関数の形を保ったまま減衰振動する.初期変位が任意波形の場合も教科書通りに固有関数の線形和で表した上で,それぞれの固有振動モードの減衰自由振動を求めて,その和で表すことができる.
強制振動の場合も同じようにモード解析で表すことは可能である.しかし減衰が大きな状況の粒子速度分布や音圧分布を固有関数の線形和で表現することは,冗長になるだけでなく直観的な理解を阻害する.減衰が大きく反射波が小さくなる状況では,モード解析より進行波の表現の方が,距離減衰の現象を直観的に理解できる.この場合,加振角振動数は実数で,波数と波長は複素数となる.モード解析で使用した実数の波数や波長とは全くの別物となる.
Rayleigh減衰と同じことを連続体でやっているだけだが,吸音材を例題に取ると音速や波数,波長も含まれるので波動現象としては頭の整理がつきやすい.
拡散音場の式とモードひずみエネルギ法
拡散音場を前提に部材の吸音率と表面積から吸音力や室定数を定義し,球面波伝搬を仮定して閉空間の音圧を概算する式がある.
企業勤務時代は約20年間この式にたいへんお世話になった.境界要素法などを使って厳密な解析をすることも不可能ではないが,加振部の振動の詳細情報,音場空間の幾何形状データ,吸音部材の吸音特性を必要とし,計算には多大な手間を要する.計算して予測精度が高ければ良いが,入力データ次第であり,どの程度あっていると言えるか,はなはだ疑問であった.それなら3分程度の概算式を割り切って使うことも有用であり,20年間の企業勤務経験からは十分に見通しが得られる式と感じていた.ただし,波動方程式に準拠せず,エネルギの釣り合いを検討しただけの式には,すっきりしない違和感を感じていた.そこで部屋の体積を合わせれば,モードの個数はそれなりに対応するので,どのような形状の部屋でも直方体音場と見なし,非減衰の空気だけの場合の固有関数に対して,吸音材部分に上記の複素密度と複素体積弾性率を持たせて,散逸エネルギを評価するモードひずみエネルギ法を適用し,全空間を一様な吸音媒質に置き換えて計算した値と,上記拡散音場の式と実験値を比較した.一計算例に過ぎないので,普遍的に成立するとは言えないが,3者はそこそこ対応が取れており,少しは安心して拡散音場の式を使っても良いように感じている.