(一社)産業環境管理協会 (https://www.jemai.or.jp/polconman/examination/past.html) が実施する国家試験である公害防止管理者の令和3年度(2021年度)の「12.騒音・振動特論」 の問題が理解不能の対象です。問題文の詳細は以下のpdfファイルの13ページに記載された問18です。 https://www.jemai.or.jp/polconman/examination/dd4ht300000005fn-att/R03_12.pdf
抜粋すると
問18 弾性支持による振動対策に関する記述として,不適当なものはどれか。
⑴ 起動から定常回転数に達するまでの時間が長いと共振点通過時に変位振幅が 大きくなるため,共振時の振幅ができるだけ小さくなるように,減衰が大きい 減衰材料を選定する。
選択肢(2)-(5) 省略
当初の解答例は出版物正誤情報 https://www.e-jemai.jp/purchase/errata.html の騒音振動関係2023年6月21日の正誤表の旧側に公開されています。https://www.e-jemai.jp/purchase/pdf/hint_noise20230621.pdf
⑴ 共振時の変位振幅は系の減衰に関係し,減衰が大きいほど小さくなる。起動から定常回転 数に達するまでの時間は変位振幅に関係しな い。不適当。
選択肢1が不適当との「正解例」に納得できなかったことが発端です。
申し入れ後の修正が 2023年6月21日のpdfファイルの 正(新) に記述されており、いろいろ理由を書いてありますが、「選択肢(1) は不適当」 のままであり、「納得できない」が倍加された状況です。
公害防止管理者の騒音振動の部の関西地区の振動の講習会講師を2020年2月より依頼されて務めていました。
2022年5月に講習会講師用に前述の試験問題と解答例集が送られてきたおりに、即座に「問題がおかしい」と感じ、本部に申し入れていました。他の方の意見も伺うべく、たまたま来学された私より先輩の2名の方々に試験問題をお見せしたところ、私と同意見で「おかしいね」との返事をもらいました。
本部からは音沙汰がないまま1年が経過し、2023年5月に新版の問題と解答集が送られてきましたが、申し入れ個所は修正されていませんでした。念のため、現役の人にも聞くべきと思い、関西地区の重工系の総合研究所でかなり上級の機械振動研究者の方2名にも確認しましたが「やはりおかしいね」との回答でした。
その上で、再度、公害防止管理者の本部に正式に書面で申し入れたところ、2023年5月末に試験問題委員会で検討会議が開催され、その結果を受けて6月初旬に試験本部の高位職の人が来阪し、口頭で私には理解できない以下の回答をしてくれました。
本部の人の回答
理論はそうだが、むにゃむにゃ、公害振動はいろいろで理論通りにならないこともある、むにゃむにゃ、ごにょごにょ、適切か不適切かと言うことでは、「選択肢1」が最も不適切である。なので正解は 「選択肢1」で変更しない。
文書ではなく、口頭の回答であり、技術者ではない事務系の方だったので、技術的な論理は不明でした。私が聞いて理解できたキーワードが上の記載で、擬音語は私の記憶には残らなかった「なんらかの言葉」です。
念には念を入れて、日本機械学会の回転機械振動の専門家集団の方々(約10名)にご意見を伺ったところ「普通に考えれば宇津野先生の指摘が正しい.条件の記述が不十分・あいまいと思われ,資格の問題としては説明不足と言える」とのご意見でした。ただしその中で、 出題者の意図を推定したコメントもあり、出題者側にものすごく重心を移せば、その是非は置くとして、今回の判断も不可能ではないと思い至りました。
日本機械学会の回転機械振動の専門家集団の意見を再度試験本部に申し入れる前に、2023年6月21日に本部の正誤表が公開され、「選択肢1が不適切である」が公式な結論となっています。
問題と正誤表とも公開されているので、以下に示します。
宇津野が個人的に意見を聞いた機械全般の振動技術の専門家4名の意見「この問題はおかしいね」と、日本機械学会の回転機械振動の専門家集団(約10名)の意見「条件の記述が不十分・あいまいと思われ,資格の問題としては説明不足と言える」が全てと思います。回転機械の振動を知っている技術者は、ほぼ全てがこの正解例に違和感を感じると思います。
さて、以下は出題者と機械振動の技術者でなぜこのような意見の食い違いが生じてしまったかの推測です。回転機械の専門家集団のコメントの中に、出題者の意図を推測した意見がありました。私なりに整理すると
「1自由度系の弾性支持で、共振周波数より高い定格回転数で機械を運転する場合には、地盤に伝わる振動伝達力は減衰が小さい方が伝達力が小さくなる」が出題意図と推定されます。
回転機械振動を知っている機械技術者は、「回転数上昇時に共振周波数通過付近で振動が問題にならなければ、定格回転数では減衰が小さい方が伝達力が小さくなる」と前提条件付きで、定格回転数の振動を考えます。選択肢1の記述は「起動から定常回転数に達するまでの時間が長いと共振点通過時に変位振幅が 大きくなるため,共振時の振幅ができるだけ小さくなるように,減衰が大きい 減衰材料を選定する。」とあります。
瞬時に回転数が上昇する小型機械の場合は共振点通過時の振動は十分には成長しないので、問題視されることはありません。大型の回転機械で回転数を徐々にしか上げられない場合、共振点通過時の振動は「死活問題」です。振動が大きくなると機械を緊急停止したり、最悪大事故に繋がります。なので「回転数上昇時に共振周波数通過付近で振動が問題にならなければ」は定格回転数を論じる以前の必須条件です。で、選択肢1の記述は、まさしく大型回転機械で共振点通過時に振動が問題となった場合の対策方法を記述しています。前提条件を無視または軽視して、選択肢1を不適切としてしまうことは、回転機械振動を知っている技術者は「あきれる」ほかなくなります。
再度問題文を確認しますが「弾性支持による振動対策に関する記述として,不適当なものはどれか」であり、定格回転数に限定した問題ではありません。共振点通過時の振動対策としては、選択肢1の記述は的を得た振動対策です。
当初の解答例とヒントを読んだとき「起動から定常回転数に達するまでの時間は変位振幅に関係しない」と記述されており、この出題者は振動を知らないのではないかと疑念を抱きました。2023年6月21日の正誤表ではさすがにこの記述は削除されていますが、定格回転数の振動に偏った記述であり、回転機械振動の知識はあまり無いのではとの疑念は続きます。
機械学会の技術者倫理規定の観点から、この出題と解答を、私は到底容認することは出来ないので、私のホームページや講演などで積極的に公開することにします。
機械学会の技術者倫理規定 https://www.jsme.or.jp/about/ethical-consideration/
1.技術者としての社会的責任
製品,技術および知的生産物に関して,その品質,信頼性... に対する責任を有する.
3.公正な活動
科学技術に関わる問題に対して,特定の権威・組織・利益によらない中立的・客観的な立場から討議し,
責任をもって結論を導き,実行する.
6.情報の公開
中立性,客観性を保ち,自己の良心と信念に従って情報を公開する
12.教育と啓発
将来を担う技術者・研究者の指導・育成に努める.また得られた知的成果を,解説,講演,書籍などを通じて公開
に努め,人々の啓発活動に貢献する.
なお、 7.利益相反の回避 の観点から、新たな講習会の講師は辞退しています。
私の技術的見解を受けて、試験問題委員の技術者の人も、技術者倫理の視点を持って頂けることを期待します。
経緯のところで以下のように記述しました。
公害防止管理者の本部に正式に書面で申し入れたところ、2023年5月末に試験問題委員会で検討会議が開催され、その結果を受けて6月初旬に試験本部の高位職の人が来阪し、口頭で私には理解できない以下の回答をしてくれた。
本部の人の回答
理論はそうだが、むにゃむにゃ、公害振動はいろいろで理論通りにならないこともある、むにゃむにゃ、ごにょごにょ、適切か不適切かと言うことでは、「選択肢1」が最も不適切である。なので正解は 「選択肢1」で変更しない。
試験問題委員会の検討会議の内容が文書化されているかどうかは分からない。少なくとも試験本部の高位職の人の私への説明は論理的な意味を成さないものであった。このことを組織のリスク管理の視点から考えてみる。
・試験本部の高位職の人は、検討会議の内容を論理的に納得できていたのだろうか?
事務系の人に技術や理論を全て理解しろとは言わないが、私の指摘事項に対する試験問題委員会の回答を本当に納得できていたのだろうか?文官の能力は、論理の理解と論理の展開能力と思っていたが、私への口頭説明は意味を成さないものであり、非論理的であった。私が今回記述した技術的見解は、式や理論は何もなく、ただ論理だけで書いてある。この論理は理解できるのであろうか?
・試験問題委員会の検討会議の内容をリスクヘッジしなかったのであろうか?
自部門の専門家である試験問題委員会の見解を疑わずに是認したように感じる。その見解が論理的に納得できる内容であれば救いがあるのだが、私への説明は非論理的と断ぜざるを得ない。もし納得できなければ、自部門の過去の試験問題作成委員への意見聴取なども可能な高位職である。また私の2023年5月時点の正式な申し入れ書には、日本機械学会には回転機械振動のプロ集団もいますよと、助言もしておいたのだが、結局リスクヘッジは何もしなかったのであろう。
・来阪時の私への説明で全て決着が付くと思ったのであろうか?
意味不明な回答を聞いても、私はそれほど感情的にはならなかったはずである。それでも「この回答は、お恥ずかしい内容ですよ」と2,3度声高に繰り返した記憶はある。対面すれば、相手がどの程度の覚悟か分かると思うのだが、私の本気度は伝わらなかったようである。
で、今回のホームページ掲載となっている。国家資格の試験問題を運営する組織としてリスク管理マネジメントは全くなされていないようである。