脈波を利用した動脈硬化診断
脈波を利用した動脈硬化診断
脈波を用いた動脈硬化の診断
動脈硬化は文字通り動脈が硬くなる病気だが、波動現象に知見を有する技術者としてその診断に取り組んだ。指で手首の血管を抑えると脈を感じるが、これが脈波であり伝搬速度を有している。液体の圧力脈動伝搬においては、その伝搬速度は液体の体積弾性率Kとその密度ρの比の平方根である。ここで体積弾性率がばねの役割を果たす。弾性管路の中の液体に圧力脈動が伝わる場合は、液体の体積弾性率と管路のヤング率の両者がばねに相当する。血管のように管路壁が柔らかい場合は、血管壁のヤング率がばねを役割を受け持つ。脈波の伝搬速度は健常者で10m/s程度であり、水の圧力脈動の伝搬速度1500m/sと比較して、いかに管路壁が柔らかいかが分かる。この伝搬速度が14m/sとか20m/sに上昇すると動脈硬化と診断される。ヤング率で表すと健常者の2倍または4倍の硬さとなる。
末梢血管の反射率の測定
手首と足首の2点で同時に脈波を測定し、その時間差から脈波伝搬速度を測定する手法があるが、2つの非相似な時間波形から時間差を読むことに課題があった。時間波形ではなく、2点の脈波の周波数伝達関数の位相線図を描くと、スロープ状の特性を示す。この特性は抹消で脈波の反射が少ないことを意味している。確認のため2点マイク法を模して無理やり腕の2点で脈波を測定し、その脈波から反射率を実験同定し、抹消部の解析モデルと比較した。反射率は0.4程度で両者はそれなりに一致している。Abolioの全身モデルに、この抹消血管を組み込んだ全身の動脈モデルを構築したうえで、ヤング率を一様に変化させて位相線図の傾きを測定値に合うようにすることで、ヤング率を診断することができた。
ただし、時間波形の時間差から動脈硬化を診断する装置は市販されており、位相線図を使ってもその性能を圧倒的に上回るわけでもないので、商品化には至らず、研究に留まった。